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026-066 安堵してしまった感情

 それからは、良くは覚えていない。


 ただ、千尋が白狐と共にやってきて、白狐だけがどこかへ向かったので、残った私と千尋で黄を運び出した。

 先に運び出されていた香穂里と紗穂里と共に選手の控室のソファで寝かせていれば、白狐の2人が来て千尋に後を託して帰ってしまったものの、代わりに音神と遠音がやって来て。


 白狐は、外界では白雲運河と呼ばれているらしい。

 日本には3人居ると音神は言っていた。もしかしたら、常に里に居る白狐がその内の1人なのかもしれない。

 里の白狐の面は良く見ていないので解らないが、今回の2人の面にはそれぞれ葉っぱ柄と月柄が薄らとぼかしで入っていた気がした。


 ただし音神曰く、白狐の姿を真似できる違法のお菓子が存在しているらしい。つまり、偽者も存在しているらしい。これには驚きを隠せなかった。


 更に、音神は私の手を掴んで、私の体内に渦巻いていた気持ち悪さを一気に除去してみせた。

 私でも黄から真っ黒のオーラを借用するのにかなりの時間がかかったというのに、音神はものの数秒で取り除いてしまったことに、驚愕して口をあんぐりと開いてしまっていたと思う。


 すぐに気付いたので口は閉じたものの、一体どんな術を使ったのか。

 悩みかけて、しかし、音神に握られた手にチクリとした痛みを感じて我に返った。


「貴様っ!!」


 慌てて手を振り解いたが、音神は最初から離すつもりだったらしい。

 体内に残っていた音神のオーラが喉元に集中していたことから、何をしようとしたのか悟って怒鳴る。


「今! ウチの力を調べようとしたやろ?!」

「それがどうかしたの?」


 ケロッとした表情で答えた音神がニヤリと笑う。


「真実を知りたいと思っている割には、お姉さんは真実を知ろうとしていないように思えるけど」


 事実何て、知らなくていい。

 …… でも、本当にそれでいいのか?


「何を根拠に、」

「真実を知ることが怖いから、過去の事実を他人に知られることが怖いから、お姉さんは前に進もうとしていない。だから今、私が何の神なのか調べようとして拒否をした。違う?」


 音神は私のことを神だと肯定した。


 でも、私は神になりたくなかった。

 …… 神だと思いたくなかった。


「ほら、何も言えない」


 音神は笑うのを止めて悲しそうな表情をする。


「過去の事実を自分の中で許さない限り先には進めないわ。過去ばかり夢見ていても仕方ないの。私達は今、どこに居るの? 今という未来に居るのでしょう? 確かに過去が必要な人もいる。でもお姉さんの場合は未来が欲しいのでしょう? 違う?」


 人間が成長するのは、未来に希望を見出したから。

 前に誰かが言っていた気がする。


 そして、純は事実を知る為に成長しようと考えた。それは未来の自分を思い描けたから。


 純が未来に進むなら、私も未来に進まないとならない。


「違わない ……」


 未来が欲しいのであれば過去の事実を認めることが大切だと音神は語った。

 嫌だと駄々をこねても、生きている限り未来はやって来る。そして、刃のように過去の事実が突き付けられる。

 だったら、最初から過去の事実と向き合って、過去の自分を許しておいた方が、時間に余裕があるので楽になる。

 それが成長という言葉の意味らしい。


「まぁ、そんなことよりも。今は先に理事長に連絡するべきじゃない?」


 話し始めたのは音神だったのに、と内心で思っていたものの、千尋は慌てて携帯を取り出して控室の外へと向かっていた。


「それから、魔力暴走の後は必ず体を温めること」


 私に言ったらしい。


 しかし、確かに魔力暴走の後は体温が急激に下がるのか、思えば黄は風邪をひきやすかった。

 毛布や布団は保健室に沢山あったことを思い出して千尋を押し退ける。


「それと、恐らくどっかで花菜子が妖精の力を借りているだろうから、遠音はそこに行ってコレを渡して来て頂戴」


 花菜子という言葉に反応して振り返ると、音神が遠音に何かを手渡していた。


 小さな緑色の包みからは、凄く柔らかな真っ白のオーラが溢れ出ている。

 でも、そんな強力なモノを非能力者に渡すのは昏睡する危険がある。


 なのに、遠音はすんなりと受け取っていた。




 白狐によって観客も結界師も昏睡状態にされているのか、保健室までの道中、崩れ落ちた人間ばかりが視界に入って来た。


 だから、多分。

 あの修学旅行の最終日のように、花菜子は目覚めさせる為に会場のどこかで術を広げているのかもしれない。


 毛布を運んで控室に帰って来ると、音神だけが黄の脇で腰をかけていた。


「ねぇ。何で結界越しに客の魔力を黄に回収させたの?」


 ずっと不思議だった。

 音神の結界があったなら、観客から魔力を集めることは出来ないはず。


 私の質問に音神が溜め息をついた。


「お客さんの魔力の訳がないでしょう?」

「…… え?」

「あれは、私の結界から回収したのよ。だからお客さんの魔力には全く影響が出ていないはずよ?」


 音神の一言に納得しつつ、首を傾げる。


「じゃぁ、客は何で深い眠りに?」

「あれは花菜子の術だと思う。万が一、誰かが目を覚ましてパニックでも起こしたら連鎖して大事になるでしょう? それに、現状を見て超能力者相手にトラウマにでもなれば、その人は一生、外を1人で歩けなくなる。そうならないように、私が花菜子に頼んで眠らせてもらったの。もっとも、その術の詳細までは私も解らないのだけど」


 音神の説明に理解し、同時に安堵した。


 つまり今、記憶を残しているのは起きている私達だけ、ということ。

 そして、この控室にある気配は音神しかいないという事実。


 いや、実際には魔力暴走を引き起こして昏睡状態の3人は居るが。


「逆に聞くけど。貴方はどうして安堵しているの?」

「…… え?」

「貴方の主と私は敵対関係。本来なら私に対して警戒するでしょう? 私の発言だって嘘偽りかもしれないと思うのが普通でしょう? それなのに、貴方は安堵している。それは、どうして?」


 聞かれても、解らなかった。


 確かに、音神の言っていることは正しい。

 でも、先程までの発言は嘘には思えなかった。


 こういうのもおかしいかもしれないけど、嘘吐きを見抜くのは得意だった。

 だから解る、音神は嘘をついていないと。

 所謂、感というモノだろう。


 しかし、それを説明できなかった。


「それは貴方が神だから」


 音神はそんな私の内心を読んで答えた。


「貴方は "空神"。新参の者」


 その一言に私は目を丸くする。あの一瞬でそこまで調べ上げたというのか。


「核に刻まれた神名までは解らない。でも、風に似ているのに性質が異なる属性はただ1つ、空という属性以外にあり得ない」


 でも、空属性は先日発見されたばかりの属性。

 それ以前から、私は金色の目を持っていた。


 つまり、神だったといえる。


「でも、本来の貴方はここには居ない。貴方は複製の偽物。…… 私と同じ」


 音神が私に手を伸ばす。

 私も、惹きつけられるように自然と手を伸ばした。


 その手が、触れあう。

 指が混じる。


 体内の魔力が音神に奪われる感覚がした。

 でも、嫌じゃない。


 私は目をゆっくりと閉じた。


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