025-065 逃げ続けても
白狐と別れて、私も結界の中へと足を踏み入れた。
炸裂した魔弾の影響か、気配で位置を探ることは不可能だったので目視で進む。
だけど、白狐の言う通り、数回程魔弾が飛んできた。被弾しなかったのは透明の空気が道を作っていたから見えただけ。
しかし、そのお陰で方向を掴むことも出来た。
もっとも、香穂里も移動していることは解っている。
でも、ヒントが全くないよりはマシ。
『2人で強くおなり。そんでウチらを助けて欲しい』
不意に声が聴こえた、気がした。
聞き慣れた声の方向へと進めば、そこには花菜子が立っていた。
花菜子は私に気付き、目線で下を指す。
そこに居たのは香穂里と、その上に覆い被さる紗穂里の姿だった。
『最初の原因はこっちやろ?』
花菜子の問いかけに頷いて答えた。花菜子は失笑する。
『せやろな。黄からは何も感じひんかったし』
『花菜子は ――』
言いかけて、悩んで、飲み込んだ。
花菜子は逃げている。逃げ場を求めつつ、逃げ場を守る為に何かと戦っている。
その救いの鍵になるのが香穂里と紗穂里、ということなのだろうか。
聞きたかったけど、聞いたらいけない気がした。
『…… せやで』
花菜子は静かに呟いた。
『ウチは逃げとる。逃げ続けて、今の場所にようやっと辿り着いた。
せやけどな? そこも敵の手の中やった。それでも指先の、本当に隅の方。せやからまだ居れんねん。でも長居は出来ん』
『敵は、誰なの?』
私は唾を呑み込んだ。
花菜子の言い方だと、敵はあの御方になる。
しかし、花菜子は寂しそうに失笑した。
『そんなん、ウチとは違う誰か、やで。せやからウチは自分しか信じへん。せやけど、それでええ。どうせ死ぬ時は皆孤独なんやし。それよりも、黄の方に行かんでええん?』
指摘されたものの、花菜子の隠し事が気になった。もっとも、これ以上は花菜子も答えてはくれないと思う。
でも、どうしても言っておきたいことはあった。
『花菜子』
『ん?』
『ウチのことも、信じて欲しい』
それは、花菜子にとっては衝撃的だったのかもしれない。
目を真ん丸にさせた花菜子のオーラが大きく揺らいでいた。
2人のことを花菜子に任せて、私は1人、黄の居るだろう方角を目指す。
黄を発見した時、黄は既に蹲って身動き1つしなかった。
真っ黒のオーラで結界を作って閉じ籠っている様にも見える。
過去にも、こんな風になった黄を見たことがあった。
解除方法は、確か ――
思い出す度に頭に激痛が走る。
でも、黄を救いたい一心で作業をしながらも思い出し続けた。
しばらくして、黄の結界が解除される。
同時に気色悪い真っ黒のオーラが放出されたものの、予期していた私は自らの結界を生み出して黄の体に触れる。そして固有の能力で黄のオーラを吸収した。
真っ黒のオーラは私に付き纏う。体内にも入って来てグルグルと渦を作る感覚があった。
気持ち悪い、と思った。
******************************
『何かが、おかしい。これは私が知っている物語ではない』
誰かが私に話しかけて来た。私は答える。
『この力は、きっと完璧じゃないんだよ』
『それなら、完璧にしなければならない』
誰かが笑った途端、私には断片が見えていた。
桜色の髪の少女を、桜色の髪の化物が絞め殺している一枚。
しかし、激痛と共に、激しい吐き気に襲われた。
これは、私の知る記憶じゃない。
これは、私の体じゃない。
『私は、誰?』
******************************




