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024-063 白狐様×2

 紗穂里が座っていた、という辺りを探せば、千尋の長い髪が視界に入って来た。


 紗穂里曰く、隣席の相手と言い争って戻りにくいのだという。

 なるほど、と何となく理解して千尋の隣の空席に手をかける。


 千尋は私を二度見した。


「えっと ……」

「喧嘩でもしたの?」


 来る前に購入したポップコーンを口に運びながらも、解り切っていることをわざと訊ねた。


 といっても、別に聞き出そうとしている訳じゃない。

 紗穂里から席を聞いた旨を匂わせたかっただけで。


「喧嘩というか …… 考え方が合わなかっただけ」


 多分、気付かなかったのだろう。千尋は真面目に答えていた。

 このままでは続けられてしまうと思ったので話を変える。


「そう言えば、如月さんは?」

「え? あぁ、用事があるって言って席を立ったままだよ。咲九はいつも通りだからともかく、永瀬さんの置いて行っちゃった荷物もあるから、下手に席から立てなくて」


 私に忠告したくらいの相手。

 まぁ、最終試合で何か起こると予知して既に動いていると考えた方が良いかもしれない。

 だから千尋にも聞いておく。


「お手洗いくらい行って来ても良いよ?」

「終わるまでは平気。でも喉渇いたから、ちょっと買って来ても良い?」


 千尋が腰を浮かした時点で手を振っていた。

 が、次に口に運んだポップコーンが予想外にしょっぱかったので千尋を引き止める。


「ついでに缶のコーラ」


 そしてワンコイン渡した。


 ちなみに、お金は死神様ではなく女神様から報酬で頂いたモノ。

 貴重なモノとはいえ、ポップコーン含め、お腹が空いてしまったのだから仕方ない。




 千尋が席に戻ってからすぐに試合は始まった。

 MCによれば、準備に時間がかかっていたのは私達姉妹の固有能力が会場に残っていた所為らしい(ごめんなさい……)。


 対峙する香穂里と黄。

 遠距離から炎の魔弾を放つ香穂里に対して、近距離で肉体戦に持ち込みたい黄という構図。


 恐らく、黄も第一試合で魔力を消耗してしまったのかもしれない。消費の激しい魔弾などの遠距離技を使っていなかった。

 しかし、香穂里の立ち回りはかなり上手で距離を保たれてしまう。


 勝利への執着か、黄のオーラがどんどん黒みを帯びて怪しくなっていく。

 ポイントは両者、互角で獲得していっている。


「(でも、そのままだと試合の20分間、持たないよ? 黄 ……!)」


 願うような気持ちで両手に力が入った。

 が、そんな私の視界に千尋の顔が邪魔をした。


「紫、その目 ……」


 我に返った私は目を擦った。


 息むあまり、金色の目になってしまっていたらしい。

 金色の目は意外に魔力を消耗する。

 つまり、私は無駄に力を使っていたことになる。


 思わず失笑した。


「今の、黙っといてくれる? 円にも言ってないから」

「黙っといてって …… え、じゃぁ紫も ……?」

「何のかはウチにも解らんけど、そうみたい」


 見られてしまった以上、隠しようがない。

 でも、千尋だったら黙っていてくれる気がした。


 そんな背後から凄い歓声が沸き上がる。


 嫌な戦慄を覚えた私は千尋と一緒に試合を注視した。


 しかし、その視界に入って来たのは先程よりも巨大な魔弾。

 それも、どちらも真っ黒のオーラを纏っている。


「ああ! やっぱりあかん!!」 「何? この変なオーラはっ?!」


 魔弾はぶつかり合うことなくその場で炸裂し、溜まっていた黒いオーラが瞬時に1階を覆いつくした。

 そんな中でも薄らと見えた2人は真っ黒の煙のようなオーラで覆われてしまっている。


「黄はな。花菜子と同じで、悪の属性を扱えるらしいんよ。その自分の悪の属性を制御出来んから、その為に家を出て修業をしとるんだって。せやから、ウチの実の妹という訳やない」

「それは、かなりヤバイよね」


 どうやら千尋にもやっと理解してもらえたらしい。

 だから溜め息をついた。


「さっき如月さんがどこにいるのか訊ねたのは、そのため」

「なるほど」

「黄だけならウチでもどうにか出来るかもしれんけど、流石に2人の相手は難しいと思って」


 会話をしながらも、誰も居ないはずの3階席に現れた気配に気を取られて振り返る。

 その気配が3階から私達2人を見つめていた。


『それには及ばない』


 やはり近くに居たか、なんて思いながらも雰囲気の異なる様に驚いて呟く。


「白狐様?」 「白雲運河……?」


 しかし、千尋が呟いた名は少し違っていた。

 私達は思わず互いに目線で会話をする。


『こうなることは十分に予想していた。だから、先に色々と仕込んである』

『その仕込みは3段階』


「ん??」


 思わず対面の2階席を振り返った。

 白狐と全く同じ気配がそちらからも感じ取れたため。


『この試合は即刻中止にして双方負けとする』

『悪に耐えられないとは、何と情けないことか』

『我々が登場したあたりで、神の者以外には記憶が残らないよう、被害が出ないよう、睡魔に誘う術を客席と控室にかけてあった』

『しかし何重に結界も施してある。問題はあの2人の体力だけ』


 こちらに居る白狐が3階席の手摺に乗る。


『もっとも、まさか私より先手で動いている者が居るとは思わなかったが』

『それは私の台詞だ。貴方が見に来ていると知っていたら動かなかったのに』

『しかしこの状況から察するに、逆に居てくれて助かったと思うべきだろうか?』

『同意する』


 どうやら意見の主張大会は協力という形で完結したらしい。


 現在進行形で、試合は最悪の結果を招き兼ねない状態。

 今は音神の結界と白狐の催眠でこちら側への影響は少ないものの、時間が経てば経つほど悪化することは目に見えていた。


『さて、問題はどうやって彼女達を封じたものか』


 腕を組んだ白狐に対して答える。


『手伝いましょうか?』

『対策でもあるのか?』

『黄のオーラを私が吸収することで止めることは出来ます。私の場合は耐性があるので問題にはなりません』


 そうは言っても限度はある。だから黄1人分ならば、という意味で答えた。

 白狐は静かに私を見つめる。


『…… 悪を浄化することは、出来ます』


 千尋は意を決した表情で白狐を見上げる。


『ただし、あれだけ濃いオーラを全て浄化出来るのか …… やったことは無いので解りません』

『還元なら私も出来る。助っ人が居るのなら会場に漂うモノを治めることは出来よう』


 近くに居る白狐は答え、2階席の私達の近くに舞い降りて来る。


『問題はもう1人だ』

『私が引き受けよう』


 即答した声はすぐ後ろだったので振り返る。

 いつの間にか、私達の真後ろに居たらしい。白い毛が目の前に存在していた。


 見上げれば、狐の面がしっかりと顔に張り付いていることが解る。

 ―― まるで鬼の面のように。


『安全な封印もろくに出来ない若造が何を言うかと思えば ……』


 鼻で笑った最初の白狐に対して傍の白狐も鼻で笑った。


『条件が整っている今なら、封印何て朝飯前だろう』

『気配はしないが …… まさか、どこかに相方が居るのか?』


 相方、という表現に首を傾げた。

 だが、傍の白狐が溜め息をつく。


『そんなことは後回しで良いでしょう? 今は彼女達を封じることが最優先。違うか?』

『いや、違いない』


 即答した最初の白狐が近寄って来る。


『では、水神』

「は、はいっ?!」


 驚愕のあまりに素で答えた千尋が赤面している。


『私と共に来てくれ。何、貴方も生徒の1人。私が守るべき対象者には変わりない』


 そう言った白狐は千尋を置いて、今も無意味な試合が続いているだろう1階へと舞い降りて行った。

 千尋は慌てて手摺によじ登り、覚悟を決めてから飛び降りる。


 それを見届けてから、隣で見ていた白狐が言った。


『貴方は一度、炎を操る生徒の方に向かって欲しい』


 何で、と尋ね返す前に白狐が手摺に上る。


『今回は彼女が発生元だから、先に彼女を落ち着かせない限り、もう1人も助けることは出来ない。それに、彼女は魔弾を使っていた。あの中で遠距離の攻撃を避けることは困難極まりない。そういう意味でも、まずは彼女を停止させる必要がある』

『貴方はどちらに向かうのですか?』

『どちらにも向かわない ―― では、答えにはならないか』


 私の表情から悟ったのか白狐が少し沈黙した。


『―― 簡単に説明するならば、この結界に穴を空けてオーラを排出させようと思っている。このオーラを全て生徒と同僚に任せるには、聊か量が多すぎると感じている。もっとも、同僚には怒られるかもしれないが』


 でも、それは即ち、2人にはまだ耐えられる余裕があるということ。

 もう1人の白狐がどのくらいの力量なのか定かではないものの、私よりも千尋の方が危険だということなのだろう。


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