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023-062 好青年との再会

 私が目を覚ますと、薄らと保健室の香りがした。

 体を起こそうとして ―― 色んなモノに遮られる。


 両腕も、両足も、そして胴体にも拘束具が取り付けられていた。

 きっと何も見えないのは目隠しされているためだろう。


 私を見張っていただろう人物が焦って出て行った気配がする。

 そんな雰囲気から現状を察した。


 私は、本来なら死んでいなくてはならない存在。

 それを死神様やお父さんが永らえさせている。

 だから生きていることが出来た。


 きっと、担架で運ばれた私を治療しようとした者が私の正体に気付いてしまったのだろう。


 私は拘束具をオーラで断ち切ろうとした。

 が、魔力が戻っていない現状では、やはり難しかった。


 周囲の魔力を拝借しようとしたものの、何故か気配は1つしかない。

 それも、この気配を私は良く知っていた。


『白狐様?』


 里を遠方から監視する、国連の犬の名称を言ってみた。

 特徴的な面は、ここからでは見えない。


 ただ、白くてフワフワの毛が頬を掠ったかと思えば、四肢を拘束していたベルトが一気に外される。


 目隠しを外して起き上がれば、確かにそこに白狐の気配が残っていた。


 しかし、既に姿はない。

 その代わり、白衣の保健医らしき数名が床に寝転がっている姿が見えた。


「(白狐様がウチを助けた? でも、何で助けてくれた??

 うぅーん …… 解らない! 解らない、けどっ!!)」


 私は保健室を逃げ出した。


 保健室の外は本当の外側で、生垣の奥に中央校舎の壁も見える。

 ということは、闘技場の入り口の裏側あたりだろうか。


 一応、周囲に誰も居ないことを確認してから早足で歩く。


「(黄が大怪我でもしたら、多分次はない。白狐様だってそこまでは助けてくれるはずもない …… というか、何で助けてくれたのか解らない。でも、どちらにしても私達は調査の対象になってしまう。だから黄に会わないと。会って、怪我しないように言わないと!!)」


 生垣に沿って角を曲がる。

 が、目視して確認しなかったが為に何か柔らかいモノにぶつかっていた。


 その何かから気配を薄らと感じ取った途端、私は自然と後方に退いて身構えてしまう。


「おや。あの時のお嬢さんでしたか」


 一声ですぐに理解し、顔を上げた。

 そこに居たのはあの時の好青年で。


「慌てている様子でしたが、お怪我はございませんか?」


 好青年が私に手を伸ばしてくれた。


 何故かは、解らない。


 自然とその手を掴んでしまっていた。


「班長! 先程の選手ですが ――」


 言いかけた相手が私に気付いて固まった。


 自身に迫った危機から咄嗟に好青年の手を退けようとする。

 でも、好青年はしっかりと私の手を握り返してくれた。


「彼女がどうかしましたか?」


 好青年が相手に言った。

 相手が口を開く。


「え。そ、その、」

「彼女は私の知人です。なので何も問題ありませんよ」


 途端、相手がその場に力なく倒れた。

 その体勢から、先程の保健室の中の保健医を思い出す。


「これだから人間の超能力者は苦手です」


 答えた好青年は私を振り返ることも、事情を説明することもなく歩き出す。




 結局、好青年にエスコートされたまま会場の入り口まで戻って来てしまった。

 しかし、そのお陰で外側を警備していただろう結界師が道を譲ってくれている。


 ただ、警戒というよりは好奇心による注目はされていた。


 私の背中を前へと押した好青年を振り返る。


「此度は仲間が失礼を致しました」


 好青年は私に深々とお辞儀をした。

 なので私もお辞儀で返してしまう。治療はしてもらったし。


 にしても、この好青年。一体何者なのだろうか。

 班長ということは、こういう類の結界師をまとめる者なのだろうか。

 でも、そう考えれば怪盗ホーリーの予告状の現場に居たことにも納得が出来る。


「私は警備会社『ひゃくが』、師班長の天津と申します」


 まるで私の気持ちを読んだかのように好青年こと、天津は答えた。

 もっとも、警備会社の名前を言われても詳しくはないので有名か無名かも解らないが。


「我々はこの会場を警備し、選手を保護する為に参りました。選手の体質や能力を秘匿する義務もございます。ですが、一部の者が誤認して拘束してしまいました。紛れもない事実です。申し訳ございませんでした」


 誤認といえど、正体がバレてしまったことには変わりない。


 それに、この天津という人物がどうにも恐ろしい。

 師班長という立場上、危機管理能力が高いのかもしれない。


 しかし、今は天津に構っている場合ではないと感じた。

 このことは、黄だけではなく死神様にも報告するべきだ、と。


 天津と別れた後も、何となく鬼の面を出す気はしなかった。

 廊下に立つ結界師の視線があった所為かもしれない。


 例えお手洗いの個室で鬼の面を出しても天津が目前に立っているような気がして怖かった。



 だからか、足は自然と黄の控室に向かっていた。


 でも、控室の前は無人で扉が閉じられている。

 扉には結界が張られていて触れても開くことはなかった。


「黄さん探し?」


 急に声がして、気配を感じて飛び上がった。

 が、振り返れば、その相手が紗穂里だと解った。


 紗穂里は私の動きに驚いてしまったらしい。


「あぁ、びっくりしたぁ ……」

「驚かすつもりはなかったのだが …… すまない」


 紗穂里は答えつつも、私を全身、舐めるように見る。


「傷は平気なの? かなり血を流していたような気がしたが ……」


 そこまで酷かったのだろうか。

 確認していないだけに、思わず腹部を擦る。


 でも、今はもう大丈夫だった。違和感はない。


「うん、傷は大丈夫。高度な治療班が来ているみたいでね。滅多に居ない治療の術を持った看護師のお陰で、もうすっかり元気にはなったよ~」


 と言いながらも軽く運動してみせる。

 まぁ、強ち間違ってはないだろう。


「その時に、黄が付き添ってくれていたみたいで。一言、お礼を~と思ったんだけど」


 こちらも間違ってはいないと思う。

 担架に乗せられた時、近くに黄の気配を感じたから。


「まぁ、次出番だし、無理じゃない?」


 紗穂里の一言に素直に驚く。


「およよ? ってことは、もう香穂里と花菜子の試合、終わっちゃっていたのかー」

「うん。次の試合まで20分間の休憩中デショ」

「じゃぁ、しょうがないね」


 誰も居ないのは準備に追われている為だろうか。

 それとも、香穂里と花菜子が会場の壁でも壊したからだろうか。あの2人ならやりそうだ。


 どちらにしても、控室の扉が開かないことには黄と会い様がない。

 となれば、観客席からテレパシーが使える距離に来ることを祈ることしか出来ないのか。


「妹さん、一緒に住んでいる訳ではないのデショ?」


 紗穂里が首を傾げて訊ねた。


「うん。まぁ、色々と深ぁい事情があって、ね」


 確かに、お礼を言うだけなら里の方で十分だった。

 これは本音を言わなかった私のミス。


 しかし、紗穂里は何を思ったのか私に頭を下げた。

 その意図が解らなくて悩んでしまう。


「言わなくて良いデショ。ごめん、変なこと聞いて」


 どうやら深い事情の方で悩んでいると勘違いされたらしい。

 しかし、このことは対して気にしていなかったので、


「別に気にしてないよ。もう、慣れっこだもん」


 と答えてあげた。


 実際、黄は義理の妹。

 血が繋がっていないからか、愛着がある訳でもない。


 ただ、死なれたら困る。

 過去の任務上とはいえ、家主との誓いを違えることはしたくなかった。


 あの家主だったら、音神と同じように他人に忠告をするかもしれない。


「黄に会いたかったのは、単純に次の試合 …… 嫌な予感がするんだよね」


 もし、香穂里が最終試合に挑むとしたら。

 紗穂里が少し目を丸くする。


「あの子も香穂里と同じ。ウチと出会う前に魔力暴走を起こしたことがあるって言っていたから不安で。何も無ければ良いのだけど」

「…… それは、紫の感?」


 紗穂里は冷静に聞き返す。

 紗穂里が感や予測を嫌うことは知ってはいる。でも、危険に関する予測は聞き入れてくれることが多かった。


 だから頷き返した。

 沈黙が少し辛い。


「解った。じゃぁ、ボクがこっちに居るよ」


 紗穂里の言葉を理解するのに時間がかかった。

 そして、理解した私は逆に首を傾げる。


「黄さん、ないしこの控室から誰か出てきたら伝言を頼めば良いんデショ?」

「う、うん。でも、それだと次の試合、」

「ボクは見れなくても良いよ。さっきの試合で満足したから。それに紫の感が間違っていないなら少しでも香穂里の傍に居たいし、さ」


 先手を打って答えられてしまったら、私には返す言葉なんかなくて。


 普段はツンデレの紗穂里は、時折、こうして素直な優しさを見せてくれることがあった。

 ただ、私を遠ざけようとしているだけかもしれないが。


 それでも、今はその好意に甘えることにした。


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