022-053/057 能力大会・昼食と後半戦
「…… おねーちゃん、おねーちゃん」
聞き慣れない単語と、揺さぶられる感覚で目が覚める。
と、目の前には黄が居た。
千尋の次の試合も、その次の試合も。
5ポイントをさっさととって、黄よりも先に試合を終えて。
黄の居るだろう大聖堂の舞台裏、控室の前まで迎えに来たことは、薄らと記憶に残っている。
「いつでもどこでも眠れるっていう体質、いい加減、どうにかしてよ。恥ずかしくってしょうがない」
『ということにした方が良いでしょう?』
黄に言われて周囲を見れば、心配そうな顔や、ケタケタと笑う顔などがあった。
どうやら妙な場所で眠ってしまっていたらしい。
黄曰く、試合が終わったのはつい数分前。
だが、女子校側では最後の試合だったらしく、会場の1ヶ所だった校庭にも、闘技場周辺にも既に観客は1人も居なかった。
その観客が流れ込んだのは、私達も向かっている食堂であることは目に見えていた。
案の定、食堂はほぼ満席。
空いているのも組と組の間の1席という現状で、トレーを持ったまま1階を2周する。
それでも見つからなかったので2階に上がったら、私の視界の先に居た音神と目が合ってしまった。
自然と向かおうとする私。
だが、それを真っ先に引き留めたのは黄だった。
そういえば、黄は頑なに音神を嫌っていた気がする。
それも、死神様が命じる前から、私にも音神とは接しないようにと再三注意を促していた。
なので、とりあえず蛇行して手前側で空席が無いか確認する。
既に食べ終えて、少ししたら空きそうな席はいくつかあった。
でも、このままでは私のラーメンが伸びてしまう。
なので、黄には諦めてもらうことにした。
「ご一緒しても良い?」
「どうぞ」
現状を察してか、それとも解っていたのか。
音神は即答してくれた。
食事をちょうど終えたくらいに、校内放送で指示があり、選手は先にエレベーターで中央の闘技場へと向かうことになった。
やっと花菜子と会話が出来たことと、和気あいあいとした時間があっという間に過ぎてしまったことを残念に感じながらも立ち上がる。
『妹さんとの試合では、本気は出さない方が良いわよ』
不意に音神が私に言ってきた。
驚いた私は思わず音神を見てしまう。
しかし、音神は私を向いてなどいなかった。
始終無言のまま、私、花菜子、香穂里、黄の4人を乗せたエレベーターはゆっくりと下っていく。
外の景色を一望しながらも、私はずっと、音神の言葉を考えていた。
本気を出しても、恐らく黄が死ぬことはない。
でも、音神は本気を出すべきじゃないと言った。
音神の予言は必ず的中するという噂は知っている。
だとすれば、他に考えられることはただ1つ ―― 黄が魔力暴走する、ということ。
黄は魔力暴走を引き起こしやすい体質、とは聞いている。
そして、実際に何度か黄が魔力暴走をした場面に立ち会っている。
2回目の時はすぐ近くに居て見ていたので対処方法も解ってはいる。
結局、一言も交わすことも無く香穂里と黄と別れ、控室に入った。
先程よりは広めでも、その分、結界師の数が多かったので居心地は悪い。
「咲九に何ぞ言われたんか?」
急に花菜子が訊ねて来た。
心配してくれたことが嬉しくて、つい、悩みを打ち明けてしまう。
もっとも、黄のことは妹として通したが、花菜子は特に気にしていないようだった。
「咲九がそう言うたってことは、何か事件が起こるから紫が本気を出したら対処が出来なくなる、っちゅうことやと思う」
悩みながらも答えた花菜子は首を傾げる。
「もし妹はんが魔力暴走を起こすと予知したんやったら、妹はんの方に直接、言うと思うで?」
「そう …… なの?」
「長年一緒におるからなぁ。咲九は遠回しな言い方をしおるけど、人伝にはしーひんよ」
と、その発言を聞いたところで結界師の1人が近付いて来る。
「会場の準備が整いましたので5分後に第一試合を開始したいと思います。第一試合は羽生 紫さんが出場となります。ご準備ができ次第、会場を自由にご覧頂いて構いません。試合が終了するまで控室には戻れませんが、ご準備は宜しいでしょうか?」
準備も何も、本気を出すなと忠告された試合。
下手に準備していく方が返って危ない気がする。
「大丈夫ですが、あと3分くらい、こっちに居ても良いですか?」
「解りました。時間になったらお声がけしますね」
こんな会話をしている間に花菜子がお手洗いに立ってしまう。
本当はもっと話がしたかったのに。
仕方なく、呆然と時間になるまで待つことにした。
結局。
黄との試合は、あんまり覚えていない。
本気が出せない以上、勝つことは全く考えていなかった、はずだった。
それに、会場の結界師の張る結界の外側には音神の結界が二重に張られていた。
つまりは三重の結界。
そこまでする理由は、これから起こる事件がそれだけ甚大な被害を齎すということなのだろうと思う。
黄の固有の能力は周囲に居る能力者の魔力を属性ごと奪う能力。
その混濁した属性の魔弾が炸裂する。
黄とは長年手合わせをしていた仲だけに、その手を使うことは何となく予期していた。
だから、私の固有の能力、周囲に居る能力者から魔力を拝借する能力を少しだけ発動させて、その魔弾を相殺する魔弾を作り上げた。
でも、これは見せかけだけの偽物。
魔弾の中身は嵐のように渦巻く空気。
手合わせの時の様に黄の魔弾を風圧で収束させるのが狙いだったが、方向を誤ったが為に炸裂した一部を腹部にもろに受けてしまった。
表面の傷はすぐに治せても、内面まで響く傷は流石にすぐ、という訳にはいかない。
まして、私の固有の能力には欠点があって、拝借した魔力を使い切ってしまうと返済するまで魔力が完全に使えなくなってしまう。
それが例え少量でも、最短でも5分は停止してしまうのだからどうしようもない。
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『固有能力を使ったということは本気だったということ』
桜色の髪が言う。
『こうなると、解っていたから忠告したのよ?』
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