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020-000 円と紫

 花菜子と仲直りが出来ないまま、無駄に時間だけは過ぎていった。



 今日は、本当に何の予定もない日だった。


 何もないと、それだけ色々と考え過ぎてしまうことがある。

 だから、休みはそこまで好きではなかった。



 それを、目の前で美味しそうに抹茶パフェを食す円が埋めてくれた。


「急でごめんなさいね」


 口に入れたモノを苦そうな香りのするコーヒーで流し込んだ円が言った。


「マネージャーが休暇申請していたことを、あろうことか私、すっかり忘れていたの。瞳も今日は仕事だと言っていましたし、今日のお仕事の内容を考えたら、どう考えても荷物持ちが必要で ……」

「ウチは大丈夫。むしろ、何もないと悩んじゃうから丁度良かったというか」


 私は答えてあげながらも、奢ってくれたプリンパフェを頂く。


 円のマネージャーは現在妊娠中。

 それでも、まだ動けるからと仕事を続けていた。


 その間の、代理のマネージャーは決まっている。

 だけど、それは瞳のマネージャーだったので、瞳が仕事の時は近場ではない限り、円に付き添うことは不可能。


 更に、今日に限って円のお兄さんも仕事だったらしい。


「紫の予定が空いていて助かったわ。こういうことは、例え仲が良くても、他のご友人には頼めませんもの」

「良いよ、そこまで言わなくても。それに、ウチも助かったし」

「それは山田さんとのことかしら?」


 失笑していた私は思わず固まった。

 円はふぅと溜め息をつく。


「紫は、ご自分では解っていないとは思っていましたけど。山田さんとの間に何かあったってことは、お二人の態度から誰もが気付いていますわよ?」

「そう、なんだ?」


 私は思わず目線を円から反らした。


 窓の外ではカップルが手を繋いで歩いている。

 多くの人間が急ぎ足で過ぎてゆく。


 少し前に、花菜子と喫茶店に入ったことを思い出す。


 その時も、窓の外にはこんな光景が広がっていた。

 喫茶店の中だけは時間が止まっているように感じられる。


「花菜子に、聞いたらマズイことを聞いちゃったんだ。解っていたはずなのに …… つい、口が滑って。すぐに軽く謝ったけど、それから気まずくって」

「謝った時、山田さんは何て?」

「悲しそうな、寂しそうな顔をして。でも、黙ってた。答えてくれなかった」

「そうねぇ」


 呟いた円はコーヒーを一口飲んでから続ける。


「紫が何を聞いてしまったのかは解らないけど、そのことで信頼していた気持ちを裏切ってしまったのですわね」

「多分そう」

「でも謝ってから、全く無視されていた訳ではなく、少しはお話しもされたのでしょう? ……それなら大丈夫ですわ」


 頷き返した私に円が笑顔になる。


「紫が普段通りに接すれば、後は時間が解決してくれますわ」


 そういうものなのか、と内心で思いながらも、急に円が溜め息をついたので不安になった。

 だが、それは円の方の悩みが原因だったらしい。


「お話を変えてしまうようで申し訳ないのですが。私、修学旅行中の後半の記憶が曖昧なのですわ」


 円の悩みに私はギョッとして目を丸くした。


 4日目の記憶は私も無い。


 そもそも、旅行の最後の記憶は、円が刀を飲み込んでいた姿。

 円がどうやって生還したのかも、私には見当もつかない。


 それに、と思いながらも返答しようとして口を開きかけた瞬間、テーブルに置いていた円の携帯が鳴った。


「あら。もうそんな時間ですの?」


 円が呟き、携帯を止める。


「今のアラームは、このお店で支払いを終えなければならない、10分前のアラームですわ」

「何でそんなアラームを ……?」

「お互い、まだ食べ終えていないでしょう?」


 円がパフェを見つめた。


 なるほど。話に夢中になってしまうことを円は解っていたらしい。


 確かに、かなり残っているパフェを食べ終えなければ勿体ないことをしてしまう。

 理解した私は、気持ちを切り替えて食事に専念することにした。




「今頃は香穂里さんも演技を頑張っていらっしゃるはずですもの。私も負けてはいられませんわ!」


 私にそう意気込んだ円が戦隊モノの撮影に挑んでいる間、私はずっと、現場の壁に寄りかかっているサングラスの男性と少年の2人が気にかかっていた。


 円と同じ出演者であれば、休憩用の椅子は準備されていてもおかしくはない。

 だとすれば、あの2人はどうして寄りかかって舞台を見つめているのか。


 しばらくして、スタッフの1人がそんな2人に近付いて行った。


「こちらの撮影が長引いていて、申し訳ございません」

「いや、問題ないよ」


 答えた男性はスタッフをチラリと見たものの、すぐに視線を戻したらしい。


「戦隊モノは今でもテレビで放映されていれば見てしまう番組の1つ。それが現場で見られる機会なんて滅多にないですから。私のことは気にしないで下さい」

「そう言って頂けると有難いです。その …… もし宜しければ、次回作のゲストとして、出演依頼して頂けないでしょうか?」

「・・・」


 男性はスタッフを見た。

 スタッフはきっと冷汗を掻いているのだろう。拭いながらも続ける。


「リュウ様が出演となれば、こちらとしても話題性も出ますし、…… このくらい、出させて頂きます」


 スタッフはポケットから出した電卓を男性に見せていた。

 しかし、男性は電卓ではなく撮影を見つめる。


「演じることに興味ないですよ。そもそも、男である私が出演するよりも、敵役で元ヒロインの彼女が出演する方が面白そうですし」


 男性の一言にスタッフは諦めていたようだった。


 だが、男性がリュウ様と呼ばれていた時点で私は警戒してしまっていた。


 里でも正体不明のまま、死神様には決して近寄るなと言われている凄腕の超能力者。

 それが、すぐ近くに居る。

 しかも、撮影のヒロイン役は円。


 撮影が終わった後、円がリュウ様だと気付いて近付くことを懸念した。




 撮影は延長2時間で何とか終わった。

 しかし、編集があるからと隅の方に出演者やスタッフが集っている。


 舞台では、新たな顔のスタッフが次の準備に取り掛かっていた。


 そしてとうとう、リュウ様と少年がサングラスを外す。

 少年はリュウ様からサングラスを受け取っていた。


「(あれ? あの子、どこかで見たような ……)」


 そんな思考が、私の懸念の邪魔をした。


 だから、円がリュウ様に向かって歩き出していることに気付けなかった。


「やっとお会い出来ましたわ!!」


 円の、リュウ様への第一声で我に返った。


 だが、円は既にリュウ様と対面してしまっている。

 ここから下手に向かえば私まで巻き込まれかねない現状に身動きが取れなかった。


「私は ――」

「撮影の邪魔だから退いてくれる?」


 リュウ様の第一声は円にとって最悪だったと思う。


 しかし、リュウ様の言葉は間違っていない。

 リュウ様の撮影は時間が押している以上、急ピッチで舞台を作っている最中とはいえ、出演者であるリュウ様も急いで準備する必要があったのだと思う。


 しかし、流石に円も状況から察したらしい。

 申し訳ないという表情をしながらも、円の出した名刺はリュウ様もきちんと受け取っている様子だった。



******************************


『また来たの? ここは貴方の居場所ではないのに』


 それでも、森が好きだった。

 でも、ここも逃げ場ではないと思った。


『貴方は何から逃げているの?』


 全てのことから、逃げたかった。

 誰も居ない、自分1人の場所に行きたかった。


 でも、1人は寂しいと、初めて感じてしまった。


 だから、自分のことが、解らなくなった。


 だから、教えてほしくて、ここに来た。


『私って、何?』

『それは、ここでは解らない』


 答えた桜色の髪が少し頭を傾ける。


『知りたいなら、もっと外を見て回るべきよ』


 嗚呼、確かにそうかもしれない。


******************************


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