017-030 嘘か真か③
花菜子と共に班員と合流し、名物のアイスキャンディを食べたり、古い洋館を巡ったり、厳しい坂道に居座る野良猫を撫でたりした。
私にも、それは良い気分転換になってはいたと思う。
花菜子は先程までの事件は無かったかのように振舞う。
それが何となくモヤモヤしていた。
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『私は、何かを忘れているような気がする』
『でも、何を忘れているというの?』
『忘れるってことは、きっと都合の悪いこと。必要のないこと』
『でも、私は確かに、何かを忘れている気がする』
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モヤモヤを抱えたまま時間は経過して、あっという間に集合時刻になってしまった。
だけど、猪塚達の班が誰一人として戻って来ない。
疲れてウトウトし始めていた私は、ある事件を思い出しながら深い眠りに落ちる。
以前、円が魔法石を持ってきた時、猪塚はそれに触れることが出来なかった。
元々は非能力者だった円が持てていたことが悔しかったのか、猪塚は非能力者でも超能力者になれると噂されている死神教の信者になり、協力者となったのだろう。
でも、魔法石はダイヤモンドと同じくらい希少と言われている。そう簡単には入手できない。
しかし、唯一、その魔法石が無料で手に入る可能性がある場所がある。
それが自由行動の範囲を少し外れたあたりにある古い塔。
死神様からの任務で、数名が魔法石を持ち帰ったことがあるので、噂は真なのだと思う。
黒い面を持つ猪塚のことだから、きっとその噂を耳にして、自分を試す為に向かった可能性は高い。
「(それに、少し前にウチも発破かけちゃったし ……)」
ただ、その塔は鬼の面の8人が行って、帰って来たのはたった2人と聞いている。
いくら魔法石が希少とはいえ、死神様でさも割に合わないと考えたのか、塔への遠征はその一度きりだった。
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目の前に、あの好青年が立っていた。
『彼女達なら無事ですよ』
安堵したのも束の間、好青年が私に剣先を突き付ける。
『貴方は誰ですか?』
その質問に答えようとして口を開くも、答えることは出来なかった。
私は ――。
私の名前は ――。
でも、出て来ない。
いつもなら、瞬時に答えられるはずの名前が思い浮かばない。
そして気付けば、剣先が私の胸元に刺さっていた。
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悪夢から目覚めた私は、自然と自分の胸元に触れて確認していた。
でも、傷跡らしき凹みは無い。
つまり、夢だったのだと再確認して安堵の溜め息をついていた。
バスは何事も無かったように、私達を違う宿屋へと導いた。
ホテルのような外観でも、旅館のような内装。
男子側は2日間連続でこちらを使用していたと噂を耳にした。
個室は和室と洋室があるらしく、私達の部屋は洋室だったので、どことなく落ち着けなかった。
夕飯はクラス毎のバイキング。
1階は1組が、2階は2組が独占した。
もっとも、窓を開けると1階からは楽しそうな声が聴こえてくるのに対して、2階はまるでお通夜のように静か。
恐らくは、猪塚達の班が例の塔に向かったことが周知されたため。
「…… あんなとこで、咲九は何しとるんやろな?」
急に窓際の花菜子が呟いた。
その視線を追うように窓の外の中庭を覗けば、音神と紗穂里が花壇に囲まれたベンチでお喋りしている姿が目に入る。
花菜子は言っていた、情報が事実か見極めることが大切だと。
音神は、今回の出来事の真犯人 …… 円と瞳を脅迫した相手を探しているのだろう。
それは、私も知りたい。
出来れば2人の代わりに復讐したい。
でも、その真犯人が死神様なのではないか、と恐れる私がいた。
死神様を疑いたくはない。
でも、そんなことが出来るのは死神様しか思いつかない。
溜め息をついた花菜子が私を見る。
「言っとくけどな。多分、紫が恐れてることは、真実に比べたら大したことやないで」
「そんなこと、事実が解らないのに、解る訳がない」
「解るで。だって、咲九は紫を使うて間接的に報告させた。
つまり、主は知らへんかったっちゅうことや」
私は目を丸くした。
言われてみれば、確かに死神様は音神に協力せよ、というような内容だった気がする。
即ち、死神様が真犯人ではない、ということ。
「だったら、一体誰が ……?」
「それを、ああやって見せつけながら探ってるんとちゃう?」
花菜子は音神と紗穂里を見た。
もし、真犯人が1組や2組の生徒に居たら、あの光景を見て何かしら動く、ということだろうか。
「咲九のことや。視線から敵意を探してるんとちゃうかな。
数名に当たりを付けて監視する ―― 咲九がよう使う手の1つやね」
「…… ウチは、どうしたら良い?」
煮詰まった私は花菜子に訊ねた。
花菜子が目を丸くする。
「どうしたら、真犯人を知ることが出来る?」
「それ、ウチに聞かれても困るわ」
花菜子が困惑した表情をする。
「今回のこと、ウチは興味あらへんし。
強いて言えば、紫。自分の任務、忘れたらいけへんで?」
私の任務は純を守ること。
でも、言われてみれば純のことをすっかり忘れていた気がする。
そういえば、純は昨日の朝まで円と音神の2人と同じ班だった。
流石に純の前で円が音神にちょっかいを仕掛ける、なんてことはないと思うが、その時から音神が円の行動から異変を察知していてもおかしくはない。
嫌な予感がした。




