6 帰還後
今日は2話投稿します。
6時と18時に投稿します。
第四層からの帰還後、迷宮社本部の分析室にて。
カゲトが机の上に置かれた七色の結晶を、興味深そうに見つめている。彼女の鋭い瞳が、結晶の内部に渦巻く微かな光の粒を追っていた。
「ふむ……これは確かに、記録にないものだな」
彼女は特殊なルーペのような道具を取り出し、結晶を詳しく観察し始める。
「社のデータベースにも、主要な学術論文にも、このような特性を持つ鉱物や魔石の記録はない。お前の《マイチェック》ですら解析不能とは……興味深い」
「どうします? 破棄した方が?」
「バカ者」
カゲトは一喝した。
「未知こそが財産だ。特に、あの異常な階層で、しかも健太の『幸運』が引き寄せたものだ。軽率に扱えるわけがない」
彼女は結晶を慎重にケースに収め、密封した。
「これは上層部の分析班に回す。ただし……」
カゲトは俺をまっすぐ見据える。
「お前のLUCKが強く関与している以上、お前の手元に留めておく方が良い可能性もある。分析結果を待ち、それから判断しよう」
「了解です」
「それより、そちらの報告の方が気になるな」
カゲトは書類を手に取る。俺たちが提出した、アースゴーレムとの戦闘報告書だ。
「『雷龍』と化した魔法……か。明日香、あの時の感覚を、もう一度詳しく話してくれないか」
「はい……」
明日香は少し緊張した面持ちで、あの瞬間を振り返る。
「ただ……魔力を最大限に解放して、二重詠唱しただけなんです。でも、魔法を放った後、なんだか……お兄ちゃんの方から、すごく温かくて……強い何かが流れ込んでくるのを感じて。それで、無意識にもっと魔力を注ぎ込んでしまいました」
「なるほど。健太、お前は?」
「俺は……『確率保存』を解放しただけです。LUCKを一時的に爆発させた」
カゲトは腕を組み、深く考え込む。
「LUCKが、魔法そのものに干渉する……あるいは、『現象』そのものを書き換える……そんな可能性があるのか」
彼女の目が輝く。それは、新たな可能性を見出した研究者の瞳だった。
「面白い。非常に面白い。この現象は、『幸運特化』という概念そのものを塗り替えるかもしれない」
その時、分析室のドアがノックされ、紫子と聖子が入ってきた。
「カゲト様、お呼びでしょうか」
「ああ、ちょうど良かった。今回の任務、よくやった。特に、紫子の前線での防御、聖子の迅速な支援は、パーティーを支える要だった」
「恐縮です」
「お役に立てたなら、何よりです」
紫子は凛とした表情で、聖子は優しい微笑みを浮かべた。
「今回の任務の功績で、お前たち全員の評価が上がった。特に健太と明日香のコンビネーションは、上層部も注目している」
カゲトはデスクから四枚のIDカードを取り出す。
「これからは、より高度な装備と施設へのアクセスが許可される。訓練施設の上層エリア、魔導工房の利用権、そして……装備のカスタマイズ許可だ」
「! これは……」
「やっと本格的な装備が手に入るんですね!」
紫子の目が輝いた。彼女はかねてから、現在の盾と鎧の重量バランスに不満を漏らしていた。
「そういうことだ。ただし──」
カゲトの口調が厳しくなる。
「次なる任務は、より危険を伴う。第四層のより深部、『静寂の森』の中心部への偵察だ。今回は、単なる偵察ではなく、特定の『目標』がある」
スクリーンが再び点灯し、新しいマップが表示される。そこには、森の中心にぽつりと、古代遺跡のような建物のマークがついている。
「この『古代観測所』と呼ばれる施設の内部調査が、次の任務だ。目的は、内部に残されていると思われる、古代の魔導技術の回収」
「古代……?」
「そんなものが、第四層に?」
「ああ。これまでの偵察隊が、外部からその存在を確認していた。しかし、強力な結界と、周囲に巣くう強大な魔物のために、これまで誰も中に入ることはできなかった」
カゲトは俺を見る。
「そこで、再びお前の『幸運』に期待している。結界の弱点を見つけ、魔物をかわし、中へ侵入する──それが可能なのは、今のところお前のパーティーだけだろう」
胸が高鳴る。古代の魔導技術……それは、俺の「幸運」の謎を解く鍵になるかもしれない。
「了解しました。いつ出発ですか?」
「一週間後だ。それまでに、新しい装備に慣れ、チームの連携を完璧なものにしておけ」
そう言ってカゲトは、それぞれに新しい装備のカタログのような端末を渡した。
「好きなものを選べ。予算は……まあ、今回の功績を考えれば、たっぷりとつけておく」
◆◇◆◇◆◇
寮に戻り、早速新しい装備を選び始める。
紫子は、より軽量かつ高い防御力を誇るミスリル合金の鎧と、衝撃を吸収する新型の盾に目を輝かせている。
「これなら、機動力を損なわずに前線を守れる」
「似合いそうですよ、紫子さん」
聖子は、より強力な治癒効果とMP回復力を持つ聖杖と、精霊の加護が込められたローブを選んでいた。
明日香は、魔法の詠唱速度と威力を上げるローブと、多数の魔法石を埋め込んだ杖を真剣な表情で比較している。
そして俺は……ひたすらガチャを回すことにした。
新しい装備もいいが、まずは基本となるステータスを上げなければならない。任務までの一週間、できるだけ多くの魔石を集め、ガチャを回し続けるのだ。
「よし、今夜もだ」
机の上には、任務の褒賞と、訓練で得た魔石極小が300個以上並んでいる。まずは『幸運の魔石』を使用。
「『魔石ガチャ』!」
消費魔石45個。光が収まると──今回はカプセルが四つも現れた。
「おっ、当たりか?」
「わあ、たくさん!」
一つ目は『幸運の魔石』。二つ目は『STR増加の魔石(小)』。三つ目は……初めて見る、銀色に輝く腕輪だ。
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機動の腕輪
装備者のAGIを微増させ、回避行動時の消費スタミナを軽減する。
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「これはいいな。俺がもらおう」
装備すると、足がさらに軽くなったような感覚がある。《マイチェック》で確認すると、AGIが220になっている。
四つ目のカプセルは、またしてもあの深い青色──スキル書の色だ。
「まさか……三冊目?」
「お兄ちゃん、すごいラッキー!」
手に取る。表紙には、前の二冊とはまた違う、流動的な確率を表すような模様が刻まれている。
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スキル書:運命の選択
稀有な確率変動スキル。
複数存在する未来の分岐点において、自身にとって最も有利な結果をもたらす「選択肢」を直感として知覚できる。
効果持続時間と感知精度はスキルレベルと使用者のLUCKに依存。
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「未来……の分岐……?」
「つまり……どっちを選べば良いか、わかるようになるの?」
俺は説明文を何度も読み返した。これは……単なる幸運以上のものだ。ほんのわずかな時間、未来を見通し、最良の道を選ぶ力を与えてくれる。
「これは……大きいな」
「え? どういうこと?」
「説明すると長くなるが……つまり、トラップの解除方法や、敵の弱点、あるいは宝箱のありか……そういった『正解』が直感でわかるようになるかもしれない」
明日香は息を呑んだ。
「それって……もう、なんでもありじゃないですか」
「ああ……だが、習得はさらに難しそうだ」
三冊目のスキル書。『確率干渉』『確率保存』『運命の選択』──これら三つのスキルを極めれば、俺の「幸運」は単なる数値の枠を超え、まったく新しい次元の力へと進化するかもしれない。
「まずは、この『運命の選択』の基礎を……」
精神を集中させる。未来を見通す……そんなことが本当に可能なのか? 俺は目を閉じ、ほんの数秒後の未来──明日香が次に何と言うかを「感じ取ろう」と試みる。
(……無理だ。何も見えない)
何度試みても、ただの暗闇が広がるだけだった。LUCK3000を持ってしても、このスキルの習得は容易ではなさそうだ。
「ダメだ。まだ早いな」
「焦らなくてもいいよ、お兄ちゃん。少しずつで」
そう言って明日香は、温かい紅茶を差し出してくれた。彼女の優しさに、少し肩の力が抜ける。
「ああ、ありがとう」
その夜、俺は300個の魔石をすべてガチャに費やした。その結果、様々な増加魔石でステータスはさらに向上し、STRは240、VITは225、AGIは225、INTは220、DEXは220まで上がっていた。
そして、いくつかの有用な装備も手に入れた。特に、『ドロップ率増加』のスキル効果を高める指輪は、明日香に渡した。
一週間後、新しい装備に身を包んだ俺たちは、再び第四層へと向かうことになる。
古代観測所──そこで何が待ち受けているのかは、まだ誰にもわからない。しかし、一つだけ確信していた。
俺の「幸運」は、確実に進化している。そして、その力が、仲間たちの絆と結びつく時、どんな困難も乗り越えられると信じていた。
(次こそは……『運命の選択』を会得してみせる)
その決意を胸に、俺は新たな技能の習得に没頭するのであった。
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