3 お誘い
伊那ダンを後にした俺たちは、迷宮入口近くの換金所へと直行した。このエリアには迷宮社を含むいくつかのギルドや商会が店を構えており、冒険者たちが手に入れた素材やアイテムを効率的に売却できるようになっていた。
「次、横嶋さんです」
「ああ」
換金所のカウンターには、今日三度目となる俺たちの姿があった。最初はアースベア以外の雑魚モンスターの素材、二度目がスキル本の売却、そして今回はアースベア本体の素材と、ガチャで入手した不要な装備品の数々だ。
「えーと……毛皮、爪、牙……はい。そしてこちらの鋼の小手、革のブーツ……すべて合わせて……」
店員の女性がそろばんをはじく。その額が表示されると、後ろで待っていた明日香が息を呑んだ。
「150万……円?」
「今日だけで、合計300万近くになるな」
俺も内心では驚いていた。たった一日のダンジョン攻略で、一般サラリーマンの月収の十倍近くを稼ぎ出したのだ。LUCK3000の経済効果は、戦闘面以上に凄まじいものがあった。
「お兄ちゃん……これが『幸運特化』の……本当の力?」
「ああ……どうやら、な」
しかし、この巨額の富が、単なる「幸運」だけによるものではないことも理解していた。アースベア戦では、明日香の正確無比な魔法と、俺の機動力がなければ倒せなかった。そして何より、《マイチェック》が弱点を看破したからこそ、勝利を掴むことができた。
「LUCKは……確かに強大だ。だが、それだけではダメな時もある。お前がいたからこそ、だ」
俺はそう言って、明日香の頭を軽くポンと叩いた。彼女は少し照れくさそうに、「えへへ……」と笑った。
「でも、これだけのお金が手に入ったんだし、今日は贅沢しよっ!あの高級肉料理のお店、行ってみたいなって前から思ってたんだ!」
「……いいだろう。今日はおごってやる」
そんな会話をしながら換金所を出ようとした時、だ。
「おいおい、随分と美味しい汁を吸ってるじゃねーか、ガキ共が」
威圧的な声が背後から響いた。振り向くと、五人組の冒険者たちが立ち塞がっている。皆、がっしりとした体格で、LVは40前後か。いわゆる「ならず者」と呼ばれる連中だ。
「今日だけで三回も換金しやがって……しかもアースベアの素材まで持ってくるなんてな。どうやら、いい『ネタ』を仕入れたみてえだ」
リーダー格の男がニヤリと不気味な笑みを浮かべる。その男のステータスが《マイチェック》に浮かび上がった。
ゴトウ(LV42)
STR:380
VIT:350
AGI:180
INT:110
DEX:200
LUCK:15
……なるほど、筋力特化の前衛型か。LUCKが異常に低い。こいつらは、俺たちの「幸運」を嗅ぎつけたのか。
「で、どうすんだよ?お前らがそんなに金持ってるってわかっちまっても、もう遅ぇんだよ。素直に『寄越す』か、それとも『病院送り』になるか、選べよ」
男が大きく握り拳を作る。周囲の人間たちも、事態を察して距離を取る。換金所の警備員も、相手の人数とレベルを見て、手が出せないでいる。
(まずい……五人全員か。さすがに正面からは無理だ)
俺のAGI210なら、明日香を連れて逃げることは可能かもしれない。しかし、この街で今後も活動する以上、いつまでも逃げ回るわけにはいかない。
(どうする……?)
その時、だ。
「やれやれ、賑やかなことだな」
軽い口調とともに、人影が一つ、俺たちとならず者の間に滑り込むようにして立った。
「カゲト……!」
「お前さんたち、せっかくの食事の約束を台無しにされる所だったな」
カゲトは相変わらずの飄々とした態度だ。彼はならず者たちを一瞥し、ため息をつく。
「おいおい、ゴトウ。またやってるのかよ。俺の知り合いにまで手を出すなんて、度が過ぎるんじゃねーか?」
「くっ……黒鉄カゲト……!?てめぇ、関係ねぇだろ、引っ込んでろ!」
「残念ながら、大いに関係あるんだよな」
カゲトの口調が、一瞬で鋭い刃のように変わる。
「この二人は、今、俺がスカウトをかけている有望株だ。そこへ喧嘩売られちゃあ、スカウト側としても無視できねぇ」
その瞬間、カゲトのステータスが《マイチェック》に映った。
黒鉄 カゲト(LV??)
STR:???
VIT:???
AGI:???
INT:???
DEX:???
LUCK:???
スキル:???
(……全てが「?」……!?)
俺は思わず息を飲んだ。これはレベル差による隠蔽効果か、それとも何らかのスキルの効果か。いずれにせよ、彼の実力が俺たちとは次元が違うことを物語っていた。
「ち……っ!知らねぇよ!でもよ、カゲト、てめぇ一人で俺たち五人に勝てるつもりかよ!?」
「五人?ふん……?」
カゲトの口元が歪む。それは、捕食者が獲物を見るような、冷徹な笑みだった。
「百まで数えてみろ。お前たちが立ってられるかどうか、賭けてもいいぜ?」
空気が張り詰める。ならず者たちの額に脂汗がにじむ。圧だ。黒鉄カゲトという男の放つ、言葉以上の圧力が、周囲全体を支配している。
「くっ……!今日は引き上げる!だが覚えてろよ、ガキ共!次に会った時は、ただじゃ済まさねぇからな!」
ゴトウが捨て台詞を吐くと、五人組は踵を返して逃げ去っていった。
「……助かったよ、カゲト」
「礼には及ばねぇ。ついでだった」
カゲトはすぐに飄々とした態度に戻り、肩をすくめる。
「で、どうだ?答えは決まったか?あのクソガキ共が今後もお前たちを狙うのは確実だ。迷宮社の看板を背負っていれば、ああいう雑魚はまず手を出せねぇ」
俺は明日香を見た。彼女は少し不安そうな表情を浮かべている。
「迷宮社に入ったら……どんなことをするんだ?」
「ふむ、良い質問だな」
カゲトはコートのポケットからタバコのようなものを取り出し、くわえた。
「まずは基礎訓練だ。お前たちの能力を最大限に引き出すためのトレーニング。その後、俺の率いる『第一探索隊』の一員として、第四層、そしてその先の未開拓階層の調査にあたってもらう」
「未開拓……」
「ああ。現在、第四層の手前で大きく足止めを食らっている。なぜなら……『トラップ』と『パズル』が異常に多いからだ」
カゲトは少し嫌そうな顔をする。
「力押しではどうにもならない仕掛けが、そこかしこに仕掛けられている。そこで、お前の『幸運』が必要だと踏んだわけだ」
「幸運が……トラップやパズルに?」
「そうだ。例えば、三つのレバーがあって、一つだけが正解の時、お前なら『勘』で正解を引けるかもしれない。宝箱の罠も、お前の前では発動しないかもしれない。あるいは……《ラッキーパンチ》が、物理的な障壁を破壊する『弱点』を、偶然見つけ出すかもしれない」
……なるほど。確かに、LUCKの力は戦闘やドロップだけにとどまらない。探索そのものにも、絶大な効果を発揮する可能性がある。
「給料は?」
「基本給月50万。加えて、発見した資源やアイテムによる歩合。今日お前たちが稼いだ額を考えれば、大した額じゃないかもしれねぇがな」
「迷宮社の設備は使えるのか?」
「当然だ。トレーニングルーム、鑑定機(無料)、最新の装備や消耗品の割引……迷宮社の名は、日本のみならず世界でも通用する」
条件は……悪くない。むしろ、良い。しかし、一番の懸念は──
「明日香は……?」
「ああ、妹さんの方か。彼女のINTとスキル構成も、我々にとっては貴重だ。もちろん、正式な隊員として迎えたい」
カゲトは明日香をまっすぐ見る。
「並列思考と思考加速……しかもレベル30でINT450は、かなりのものだ。彼女がいることで、お前の『幸運』をより効果的に活かせる戦術が組める」
「お兄ちゃん……」
明日香が俺の袖を引く。その目は、「やってみたい」という意思で輝いていた。
「……わかった。やってみるよ」
「おっと、了解した」
カゲトが満足そうに笑う。
「明日の朝9時、迷宮社本社のロビーに来い。身軽な格好でな。最初のトレーニングが、地獄のようにキツイからよ」
そう言い残すと、カゲトは再びコートを翻し、人混みに消えていった。
「……さてと」
「お兄ちゃん……大丈夫かな?私たちでやっていけるのかな……」
明日香が不安げに呟く。
「大丈夫だ。お前の魔法と、俺の幸運があれば、なんとかなるさ」
そう言いながら、心の隅では一抹の不安がよぎった。迷宮社……あの巨大組織の内部は、きっと単純ではない。派閥争いや妬み……今日のならず者のように、俺たちの力を狙う者も現れるだろう。
しかし──
(ここで怯んでたら、あの男に笑われるな)
カゲトのあの飄々とした笑顔が、なぜか妙に頭から離れなかった。
◆◇◆◇◆◇
翌朝、8時50分。迷宮社本社のロビーには、俺と明日香の姿があった。
迷宮社本社は、伊那ダンの正面に聳え立つ、現代的なガラス張りの高層ビルだった。一見すると、どこにでもあるオフィスビルだが、厳重なセキュリティゲートと、警備員たちの鋭い眼光が、この建物の非凡さを物語っている。
「おはよう、お兄ちゃん」
「ああ。緊張するな」
「すごく……でも、ワクワクもする」
ロビーには、他にも数組の人間がいた。皆、冒険者風の格好で、恐らくは新規スカウト組だろう。レベルは30から40前後。みんな、一様に緊張した面持ちだ。
9時ちょうど、エレベーターが開き、黒いコートをまとった男が現れた。
「おはよう、新入り共」
「カゲトさん……!」
カゲトは俺たちの前まで歩み寄ると、ざっと新規スカウトたちを見渡した。
「お前たちは全員、迷宮社がその潜在能力を認めた者たちだ。しかし、ここから先は『なまじ』の能力ではやっていけねぇ。今日から一週間、お前たちに課される『地獄の基礎訓練』を耐え抜いた者だけが、正式な隊員として認められる」
彼の言葉に、一同の緊張が一気に高まる。
「まず最初に、お前たち全員に言っておく。ここでの訓練は、外での戦闘とは次元が違う。己の限界を超えろ。さもなくば……死ぬ」
「「「はっ……!」」」
「では、行くぞ。全員、俺について来い」
カゲトの率いる一行は、エレベーターで地下へと降りていった。地下には、想像以上に広大なトレーニング施設が広がっていた。最新式のトレーニングマシン、魔法の詠唱練習場、そして──いくつものダミーや障害物が設置された広大な実戦エリア。
「まずは基本能力の測定だ。お前たちの現在の限界値を教えてやる」
最初の測定は、純粋なSTRとVITのテストだった。重いバーベルを持ち上げ、打撃に対する耐久力を測る。俺のSTR230とVIT210は、この中では平均よりやや低めだった。
次はAGIとDEX。障害物コースと、的当てのテストだ。ここでは俺のAGI210とDEX210がやや光り、特に機動力では上位に入った。
そしてINTと魔法適性。明日香の出番だ。魔法力の測定機に向かって、彼女は《基礎魔法》・ファイアボルトを放つ。
「パーン!」
機械の表示盤が、一気に数値を跳ね上げた。
「INT450……!?レベル30で!?これは……!」
「並列思考と思考加速も持ってます」
「まさに天才……!」
測定員が驚愕の声を上げる。明日香は照れくさそうにうつむいた。俺は内心、胸を張りたくなった。さすがは俺の妹だ。
そして最後に──LUCKの測定。
「LUCKは……通常、数値化が難しい」
「では、どうする?」
「簡単だ。この装置を見ろ」
カゲトが指し示したのは、無数のパイプと出口が複雑に絡み合った、巨大な装置だった。
「千個の玉の中に、一個だけ金色の玉が混じっている。装置はランダムに玉を一つ選び出す。お前がLUCKの高い者なら……金色の玉を引き当てられるはずだ」
「なるほど……」
順番待ちをしている他のスカウトたちからは、失笑すら聞こえてきた。
「はっ、あの幸運バカの出番だぞ」「運なんてものは所詮、まやかしだ」「こんなので測定できるわけない」
俺はその声を無視し、装置の前に立った。心の中で《マイチェック》を起動する。LUCK3000……その力が、今、試される。
「行くぞ」
カゲトがスイッチを入れる。無数の玉がパイプの中を駆け巡る。カラカラ、ガラガラ……と騒々しい音が響く。
(金色の玉……来い!)
俺は目を閉じ、心の中で念じた。LUCKの力は、時に「願い」に呼応する……そんな気がしていた。
音が止む。装置の出口から、一つだけ玉が落ちてきた。
それは──紛れもない、金色の輝きを放っていた。
「「「な……っ!?」」」
周囲から驚愕の声が上がる。カゲトも、満足そうに頷いている。
「ふん……やはりな。では、次だ」
今度は、百個の玉の中に金色が一個。さらに難易度が上がる。
再び装置が動く。玉が選ばれる。
金色だ。
「まさか……二連続!?」
「偶然じゃない……!」
次は、一万個に一個。
装置が動く。複雑な音が響き渡る。時間がかかる。周囲の者たちも、息を飲んで見守っている。
(来い……!)
出口から玉が──金色だ!
「「「おおおおっ!!?」」」
騒然とする周囲。測定員も呆然と記録を取る。
「信じられない……確率0.01%を三連続で……!」
「これが……LUCK3000……!」
カゲトは大きく笑った。
「はははっ!面白い!どうやら、俺の目に狂いはなかったようだな!」
彼は俺の肩を強く叩く。
「お前の『幸運』は、本物だ。これから、それを存分に発揮してもらおう」
基礎測定を終えた後、一行は実戦訓練場に移動した。そこには、迷宮の魔物を模したダミーや、実際のトラップを再現した装置が数多く設置されている。
「ここからが本番だ。お前たちには、この訓練場を攻略してもらう。制限時間は30分。ただし──」
カゲトの目が鋭く光る。
「ここでのダメージは、『擬似痛覚』として実際に感じることになる。気を抜けば、失神もあり得る。本気で挑め」
チーム分けが行われ、俺と明日香は同じチームとなった。他に二人、スカウトが加わった。一人は重装備の戦士、もう一人は回復魔法を使う僧侶風の女性だ。
「よろしくお願いします、健太さん、明日香さん」
「ああ、こっちこそ」
「では、行くぞ」
訓練場のゲートが開く。中は薄暗い洞窟のような造りだ。早速、前方からゴブリンのダミーが数体、襲ってくる。
「《ラッキーパンチ》!」
俺の一撃で、一體が粉々に。しかし、ダミーは消えず、そのまま動き続ける。
「どうやら、耐久力は本物より高いようだな!」
「なら……これで!《基礎魔法》・ファイアボルト!」
明日香の魔法が二発、別のゴブリンを直撃する。しかし、ダミーはびくともしない。
「効かない!?INT450でも!?」
「訓練用だから、防御力が極端に高いんだ!注意しろ!」
重装備の戦士が盾で前方を防ぎ、僧侶が防御魔法をかける。しかし、ゴブリンの棍棒が戦士の盾を叩き、その衝撃で戦士がよろめく。
「くっ……!」
「まずいな……」
その時、俺の《マイチェック》が、ゴブリンダミーの足元を捉えた。
弱点:足首の関節
「明日香!あいつの足首を狙え!」
「え?わ、わかった!《基礎魔法》・アイスランス!」
氷の槍がゴブリンの足首を貫く。すると、ダミーはガクリと不自然な動きをし、動作が著しく鈍くなった。
「効いた!」
「よし、今のうちに!」
俺たちは一斉に攻撃を仕掛け、ゴブリンダミーを無力化する。
「凄い……弱点を見抜くなんて」
「いや……これは……」
俺は言葉を濁した。本当のところ、これがLUCKの効果なのか、それとも《マイチェック》自体の能力なのか、判然としなかった。
さらに奥へ進む。今度は通路が三つに分かれている。
「どれが正解かな……」
「俺が選ぶぞ」
ほとんど直感で、真ん中の通路を選んだ。すると──
「おおっ!?宝箱だ!」
「でも、罠があるかもしれない……」
僧侶が警戒する。俺はためらいなく宝箱に近づき、開けた。
「大丈夫だ」
「え?でも……」
「お前のLUCKが、罠の作動を抑制した……ということか」
カゲトの声が、訓練場内に響き渡る。どうやら、彼はどこからか俺たちの行動を監視しているようだ。
宝箱の中には、回復薬と、訓練用の一時強化アイテムが入っていた。
「これを使おう」
「うん!」
さらに進むと、今度は巨大な落とし穴のトラップが現れた。幅は10メートルはある。
「飛び越えるのは無理だな……」
「どこかに仕掛けがあるはず……」
皆が周囲を探る中、俺はほぼ無意識に、壁の特定の石を押した。
ガラガラ……と音がし、落とし穴の上に橋が現れた。
「まさか……!?そんなの、どうやってわかったの!?」
「……勘、だ」
これも……LUCKのなせる業なのか?
そうして困難を乗り越え、俺たちのチームは見事、訓練場の最深部にたどり着いた。そこには、アースベアを模した巨大なダミーが待ち構えていた。
「またあいつか……!」
「前と同じく、弱点は腹部か?」
しかし、《マイチェック》が表示する弱点は、前とは違っていた。
|弱点:雷属性、背面の黒い痣《 》
「明日香!背面の黒い痣だ!サンダーボルトを!」
「わかった!でも、正面からは当たらないよ!」
「なら……お前が囮になれ」
カゲトの声が再び響く。
「健太。お前のAGI210なら、可能だろう。ダミーを引きつけ、背後を見せろ。明日香、その隙を逃すな」
「了解!」
「うん!」
俺は全力でダミーの周囲を走り、挑発する。ダミーは俺を追い、背後を明日香に向ける。
「今だ!」
「《並列思考》……ダブル・サンダーボルト!!」
二発の雷撃が、ダミーの背面の痣を正確に捉える。
「ガオオオオオオッ!!!」
ダミーは大きく痙攣し、そのまま停止した。
『──訓練クリア。タイム:28分47秒。評価:Sランク──』
場内にアナウンスが流れる。
「やった……!」
「す、すごい……私たち、Sランクだって!」
チームメイトが歓声を上げる。明日香も、安堵の笑顔を見せた。
「ふん……悪くない」
カゲトが訓練場に入ってきた。
「お前たちのチームは、今日の最速タイムだ。特に……健太と明日香のコンビネーションは、期待以上だな」
彼は俺たちをじっと見つめる。
「明日からの訓練も、この調子で行け。ただし、今日のはまだ序の口だ。これからが、本当の地獄の始まりだからな」
そう言ってカゲトが去ろうとした時、俺は彼を呼び止めた。
「カゲト……一つ、聞いていいか?」
「なんだ?」
「お前……いや、あなたは、なぜ俺たちをスカウトした?LUCKの高い者なら、他にもいるだろうに」
カゲトは一瞬、目を細め、そして口元に笑みを浮かべた。
“ふん……良い質問だ。答えは簡単だよ、健太”
“お前は、『幸運』に全てを賭けるバカでありながら、同時に『仲間』を大切にするという、二律背反的な性質を持っている”
“そして明日香は、お前という『矛』を最大限に活かす『盾』となり得る”
“本当の強さとは、単独の力ではない。絆が生み出す相乗効果……そこにこそ、未開の地を切り開く真の力があると、俺は信じている”
そう言うと、彼は本当に去っていった。
俺と明日香は顔を見合わせた。
「お兄ちゃん……」
「ああ……どうやら、面白いことになりそうだな、明日香」
迷宮社での生活は、確かに地獄のようにキツイかもしれない。しかし、それ以上に、この先に待つ冒険が、とても楽しみでならないのだった。
LUCK3000の力が、これからどんな未来を切り開くのか──その答えは、まだ誰も知らない。




