第35話 摸造の剣
その晩、アシアラは考え続けた。アルバが妖魔狩りをなりわいにしている以上、アシアラも剣を取って隣に居たい。その思いだけは強く胸にあった。
アルバは魔術師団を目指すと言っていた。フレイの使う魔法の凄まじさは、両の腕が証明している。アルバはあれに並ぼうと考えているのだ。
それが、楽な道ではない事はわかる。だからこそ少しでも力になりたい。ともに剣を振るいたい。だが、この腕で何ができるというのか。アイデアが浮かぶたびに腕が痛み、それを否定される気分になる。
拳を作り、その力を抜く。その動作すらも緩慢だ。何か軽い剣があれば。あの日アルバに買ってもらったものより軽いものであれば、両手が回復したときにきっと戦えるようになるはずだ。
素早く振りぬければどうだろう。紐か何かで手に巻き付けて、体重を乗せる様に突き刺せばどうだろうか。不格好でも、戦えるのではないか。
「……そんなの、アルバの足を引っ張るだけよね」
窓の外は真っ暗になり、アルバの寝息が聞こえてくる。アシアラの弱気なつぶやきは恐らく聞こえていないだろう。
そんな重い気持ちのせいか、ベッドに横にはなっているものの、アシアラの頭ははっきりしていた。
そろそろ脳みそまで煮詰まってしまうのではと思うほどに悩んでいると、ふとあることを思いついた。いや、正確には思い出したというべきだろう。
「あれなら、あの剣ならこの腕でも扱えるかもしれない、でも……」
ありえない、そう思いながらも、何か確信めいた気持ちがあった。
あの日武器店で見かけた一振り。今もあるだろうか。値段も何も覚えていないし、そもそも売り物だったのかも分からない。それでも、アシアラにとっては希望の糸だった。
あの剣があれば戦えるだろう。剣で相手を倒せなくてもやれることがあるはずだ。それにはまず、鍵となる剣の確認をしなくては。
変に興奮したアシアラは何度も寝がえりをうった。その内、少し落ち着いたころに、部屋の寝息が二つになった。
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翌日アシアラは、アルバが仕事へ出かけている間に街へ出ることにした。その足は真っすぐに『アルムの武器店』へ向かっていた。
少し遠目からでもわかる、あの落ち着いのない店構え。相変わらず金ピカでごちゃごちゃした趣味の悪い装飾品が、アシアラを歓迎する。そしてやはり、初老の店員は一瞬目線をよこすだけだ。
そんな雑多な店内にあって極端に目を引く一本の大剣が、アシアラのお目当てだった。柄から刀身まですべてが金色であり、あまりにも煌びやかなそれは、大量の剣が立ち並ぶこの店でも特に異質なものだ。
アシアラはその剣の柄を握ると、痛む腕に力を込めた。思わず目尻に涙がたまるほどの激痛がアシアラを襲う。しかし、その剣は持ちあがった。
ふらふらで、さらに涙を流しながら模造の大剣を持つアシアラを、店員が怪しむように眺めていた。武器屋だというのに、飾りの剣を持って喜ぶ客など今まで居なかっただろうから仕方がない。
「店員さん!」
アシアラはその摸造剣を元の位置に置くと、奥のレジへ向かった。
「あの剣、いくらですか?」
「……売りモンじゃないよ」
「お願いします! 私にはあの剣しかないんです!」
アシアラは感情が高ぶり、思わずレジ机に両手をついてしまった。不意な激痛に顔をしかめる。その不自然な動きに店員は気づいたようで、すこし考えるそぶりを見せた。
「腕、悪いのかい?」
その問いに、アシアラは言葉が出なかった。ここは武器屋である。やっとまともにスプーンを握れるようになった程度の者が訪れる場所ではない。それこそ、あのハリボテの剣を持ち上げるのがやっとである。
冷やかしなら帰ってくれるか。そんな言葉が頭をよぎった。怒鳴られても仕方がない。部屋に飾るインテリアを買うならば、通りにふさわしい店がいくらでもある。
「……そうかい」
答えに困るアシアラの様子から、店員は腕の事を察したようだ。あまりにバツが悪く、思わず目をぎゅっとつぶるアシアラの耳に、想像していない言葉が入ってきた。
「あんなガラクタでよけりゃ、タダで持っていきな。何に使うか知らないが、このとっ散らかった店の賑やかしより、少しはマシなことだろうよ」
「あ、ありがとうございます!」
アシアラの顔に満面の笑みが咲いた。それを見ていた仏頂面だった店員が、少しだけ笑った気がした。
その後店員は他の剣にそうするように、飾りの剣を丁寧に包装してくれた。
「こんな目立つもの持って店から出てくところ見られちまったら、この店がイロモノに診られちまうからな」
なんて憎まれ口を言いながら、思いのほか情に厚い人のようだ。
その包みを大事そうに両手で抱えながら、アシアラは武器屋を後にした。これを見て、アルバは何と言うだろう。驚くだろうか、怒るだろうか。
不思議な感情が湧いてくる。きっと力になれる。わくわくした気持ちに、宿に向かう足取りは軽かった。




