第23話 寝相が悪い
魔石を回収し、街へ戻る二人。水気を含んだ歩きにくい地面の状態とは裏腹に、アシアラの歩きは軽やかだ。わずかな高さではあるが、空中を歩くことで泥が跳ねる事への対策としている。
今までは小型の妖魔ばかり、それもアルバの指示の下で倒していたという中で、自分の考えで行動して止めを刺せた。
あまり浮かれている姿を見せるのは恥ずかしく思いこらえているのだが、ついつい表情ににじむ。
そんな二つの意味で地に足がついていないアシアラの姿を見ていて、思ったよりも色々と便利な能力なようだなと思っていたアルバだった。
それでも時折地面に降りたり、何もない場所で大きく回り込んだりしているアシアラの姿を見て、そう簡単なものでもないのだと感じた。
それでもアルバの能力に比べて、使いやすそうではある。それは羨ましいと思った。
並んで歩いている二人であったが、アルバは時折顎に手を当てて何かを考え込むことがあった。
悩んでいる訳ではない。あの時のアシアラの咄嗟の判断に対して感心していたのだ。もう少し近づいたところで、小声で指示を与えるつもりだった。そこで伝える内容も、アシアラがとった行動と同じものだっただろう。
アルバが想定していたよりも早く、アシアラはそれに対応した。剣を覚えて間もないというのに、自らの頭で判断し、見事討伐したのだ。
「よくあのタイミングで跳べたな」
もしもアルバが指示してから動いたのであれば、相手に気づかれるリスクは格段に跳ね上がっていただろう。あの時のアシアラの判断は、後から思い返しても完璧だった。
「アルバがナイフじゃなくて鈴を出していたのが見えたもの。どう考えても囮になるつもりだったでしょう? あれだけ妖魔の姿勢が低いのだから、頭上を取れたら隙をつけると思って」
それに、と言いながら剣に手を当てる。
「アルバの剣でも大きな傷をつけられていなかった。それにアルバもいつもと違う構えというか、前のめりな構えになっていたから、きっと固いんだろうなって。しっかり体重を乗せないと、私の力じゃきっとどうにもならないと思ったの」
アルバも考えていたことを、つらつらと言葉にするアシアラ。剣を交えて初めて分かった妖魔の情報に対して、それをアルバの動きを見て全て察していたのだ。
アルバは驚くと同時に、もう一度深く感心した。アシアラの戦いに対するそれは、アルバの才を大きく凌駕するだろう。
「そこまで考えていたのか。よくやったな」
「当然じゃない! 私を誰だと思っているのよ!」
「へいへい、さっさと帰るぞ」
素直に褒められて、胸を張るアシアラ。その立ち振る舞いから、かなりの実力と自信を身に着けてきている事が分かる。
「すぐにアルバより強くなるんだから」
それは虚仮でも虚勢でもない。アシアラは決心を言葉にした。アルバに剣を教わったときには、自分の身を自分で守れればと言ったが、今は違う。
肩を並べて戦う。背中を任せてもらえる存在になる。それが今のアシアラの目指すものだった。
街に着いたころには、辺りはすっかり暗くなっていた。宿に戻ると、アシアラはすぐにベッドに横になってしまった。
小さな寝息と、豪快な寝相を横目に見ながら、アルバはテーブル脇のランプに灯をともす。
鰐型の妖魔についての報告書を書きながら、アルバは思う事があった。アシアラの強さは、アルバが感じているよりもずっと成長しているのかもしれない。
「明日、組手に誘ってみるか」
断られることはないだろう提案。そういえば、この街へ向かうと決めてからは、一度も組手をしていない。もう半月になる。
何かもやもやした気持ちがアルバを支配していた。その理由をはっきりさせる為にも、戦いたい。アルバの予想が正しければ、きっと剣を交えることでわかる。
そんなことを考えていると、ベッドの上がもぞりと動いた。先ほど寝静まったときは、頭は向こう側にあったはずだというのに、いつの間にか半回転している。そろそろベッドから落ちるのではないだろうか。
報告書も一段落したところで、アルバは立ち上がると大きく伸びをした。ベッドから落とされてしまったタオルケットを拾うと、お腹が出ているアシアラにそっとかぶせた。
翌朝、宿の主人お願いし、裏庭を貸してもらった。肩を回し、背中を伸ばし、屈伸をする。それを真似するように、アシアラも同様に体を動かす準備をしていた。
「随分久しぶりに感じるわ。楽しみ」
「最近は実践ばかりだったからな。さて、どれくらい強くなったか見てやるよ」
「そろそろアルバより強くなったんじゃないかしら」
「デカい口叩くじゃないか。その調子で挑んで来い」
右手に木剣を構え、左手で手招きをするアルバ。その挑発を真正面から受ける形で、アシアラは大地を強くけった。
アルバに倣い、低い姿勢のまま鋭く剣を振るう。狙いは足。小柄な二人にとっては、特に狙いやすい場所である。もちろんアルバもそれを読んで、小さい踏み込みから剣を振り上げる。
木の剣通しがぶつかる鈍い音が響く。振りぬいたアルバはその場で素早く一回転して態勢を戻した。弾かれたアシアラは大きく後退しながらも、剣はその手に握りしめている。
お互いに少しずつ間合いを詰める。次に踏み出したのはアルバだった。




