第13話 初めての依頼
案内人達が働くその場所は『協会』とだけ呼ばれていた。正式な名前もあったはずだが、そこを利用する人間は一人としてそれを呼ぶことは無い。
街の中央に位置する場所にあり、多くの傭兵たちが引っ切り無しに出入りしていた。そこで働く人々はいつも忙しそうにしている。集まる依頼は千差万別な上に訪れる傭兵達も様々であり、それらの仲介人として立ち回らなければならないからである。
「よう、忙しそうだな」
アルバもまた、協会に入り浸る客の一人である。そんなアルバの姿を見て、トゥールは露骨に嫌な顔をした。このアルバという男は、ここと現場と宿屋をひたすらグルグル回っているだけではないかと思えるほどによく見かける。
今はこの街の宿屋に巣を構えたアルバだが、以前は色々な街を渡り鳥のようにふらふらと移動していたらしい。トゥールが初めて出会って四年ほどたつが、今ほどに顔を合わせる事は無かった。
そんなアルバを変えた原因が、その背中からひょっこりと顔を出した。
「おや、珍しいですね。その子はあの時の可愛いお嬢さんでしょう」
不意に可愛いと褒められ、アシアラはニシシと照れ笑いを浮かべる。それにしても、これまでは一度もアシアラは連れてきたことは無かったというのに、今日はどういう訳だろうか。
トゥールが疑問に思っていると、アルバはアシアラの肩に手をポンと置き、聞いてもいない質問に答えた。
「今回の妖魔狩りは、こいつも戦わせるつもりだ」
「おや、もうそんなに強くなったんですか? 訓練を始めて半月ちょっとでしょう?」
「そう! アルバに勝ったんだから! ほら、これがそのお祝い!」
アシアラは嬉しそうに、昨日買った剣を見せびらかせた。アルバに勝ったなどと誇大広告も甚だしいが、その笑顔のせいで信じそうになってしまう。
「素敵な剣ですね。派手なようで落ち着いたデザイン、僕は好きですよ。自分で選んだんですか?」
「アルバがいくつか選んでくれて、その中でこれが一番気に入ったの」
「少し小さいですが、アルバの剣に随分と似た形ですねぇ」
「まあ、戦い方が俺の真似だからな、剣も似ている方が使いやすいだろう。それにしても、俺が選んだ剣を褒めてくれて嬉しいぜ」
「なんか損した気分ですよ……」
皮肉を言うアルバと、呆れるトゥール。そんな二人の間で、アシアラはただニコニコしていた。
「って、そうですよ、依頼を受けに来たんでしょう?」
「すまないな、アシアラは昨日剣を買ってからずっとこんな調子でな」
「それで妖魔狩りに出かけて大丈夫なんですか?」
「問題ないだろう。ただ、報酬が安くても簡単なものがいい」
トゥールはひとつ頷くと、手元の紙をぺらぺらとめくり始めた。そして、一枚の紙で手を止める。
「すこし前にあった猪型妖魔の討伐依頼を憶えていますか?」
「憶えているが、それがどうかしたか」
「あの村にまた同型の妖魔が出現しているらしいんですよ。こんなに短い間に再度出没するというのはあんまりないんですけどね」
「その調査もかねてという訳か、わかった受けよう」
トゥールが差し出した一枚の依頼書に、アルバはサインをする。契約の完了である。そして妖魔討伐の後、正式に報酬が支払われる。
「少し前ですけど、その村から少し離れたところで妖魔の集団発生があったらしいんで、気を付けてくださいね」
「集団発生? その割にはあまり噂になっていないようだが」
「そうなんですよね。時々そんな話を聞くんですけど、その割には落ち着いているというか、パニックにならないというか」
「よくわからんな」
「……少しだけ調べてみますね。今回の依頼の報告の時にでも、お伝えします」
そんなやり取りの横で、アシアラは契約書をまじまじと見つめている。アルバにとってはいつもの依頼であるが、アシアラにとっては自分が戦う初めての依頼なのだ。
先日猪型の妖魔を颯爽と倒したアルバの姿に自分を重ねる妄想がはかどる。その妄想の中で剣が妖魔へ届くその瞬間に、行くぞと声をかけられて現実に戻った。
すっきりとしない妄想の終わりに、少しだけ不機嫌そうにアルバの後を追う。それでも、明るい太陽に照らされる街を歩いているうちに、そんなもやもやは吹き飛んでしまった。明日に向けてのワクワクが胸いっぱいに広がる。
「明日は早いからな。ちゃんと寝ろよ」
「……分かってるわよ」
答えるアシアラの声は弾んでいた。それを聞いて、きっと寝付けないのだろうなとアルバは思った。アルバにとって新しい妖魔との闘いは心おどるものであったが、それは一体いつぶりの事だろうなと心の中でつぶやいた。
妖魔を倒すために、妖魔の知識が必要である。それを学ぶためには、実践に勝る場所はない。明日、そんな経験をするアシアラに対して、少しだけ羨ましいとアルバは思った。




