第12話 アシアラの剣
店の中に入ると、本を読んでいた中年の店主が軽く目線だけよこしたが、特に声がかけられることは無かった。大通り沿いな上にあの不思議な店構えにも関わらず、随分と不愛想ではあったが、その品ぞろえを考えると些細な事でしかないように思えた。
そこはまさに『武器店』を名乗るのにふさわしい。外観と同じようにごちゃごちゃとしているが、それは所せましと置かれている武器たちのせいであり、そのあまりの品数にアシアラは感嘆の声を上げた。
「すごい……これ全部武器なの?」
さらに目の輝きが増していくが、それも無理からぬことだろう。壁が、棚が、テーブルが全て何かの武器で隠されている。むしろ、その向こうに本当に壁やテーブルがあるのかとも思える程であった。
「いつ見ても壮観だな。どうだ? 好きなものはありそうか?」
「これじゃ数が多すぎて良く分からないわよ……」
「そりゃそうだ。俺も剣選びを手伝うから、どんな剣がいいか言ってみな」
「……そうね、私もアルバと同じような細身に剣がいいわ。構えとかもアルバの真似をしているしね」
「俺と同じような剣か、とするとあの辺りだな……」
店主の座っている場所のすぐ脇に、樽が一つ置かれており、その中にはぎっしりと剣が差し詰め込まれていた。
「親父さん、何本か抜いてみてもいいか?」
そう尋ねてみても、軽くこちらを見たかと思ったら、すぐにまた本に目を落とした。それはオーケーの合図だったのかは分からないが、アルバはその樽の中から適当に数本取り出した。
「アルバの使っている剣って、なんていう種類の剣なの?」
「俺のはブロードソードっていうやつだ。まあ、そういう説明を受けただけで俺も良く分かっていないんだがな」
「そういうものなの?」
「俺が適当っていうだけだ。他の奴らはもっとしっかりしているさ」
話をしながらも、アルバはそれぞれの剣を見比べていた。軽さ、長さなどそれぞれ異なる為、話の適当さに反してその眼差しは真剣なものだった。
そんなアルバを横目に、アシアラは全く違う剣を見ていた。異常なまでに煌びやかで、主張の激しいその大剣は強く目を引いたのだ。
とはいえ、自分の肩くらいはありそうな剣である。どれ程の重さなのだろうか、一体誰が使うというのだろうか。
「おじさん、この剣を持ってみてもいいかしら」
「……そんなもん、使えねえぞ」
「本当に不愛想ね」
大剣を触ろうとしているアシアラに、店主が低い声で言う。それでも特に止めるようなそぶりは無かったので、アシアラはその剣を掴んでみる。
「あれ? 軽いわね」
その剣は大きさに比べて、とても軽いものだった。鍛えているとはいえ、アシアラの細腕でも片手で簡単に持ちあがる。
「それはハリボテだぞ。飾りだ、飾り」
いくつかの剣を選んだのか、アルバがアシアラへ手招きをした。急いでその金色の模造剣を元の場所へしまうと、アルバの元へ駆け寄った。
「これなんかどうだ?」
テーブルの上には三本の剣が置いてあった。そのうち一つを手に取るようにアルバが促す。それはアルバが使っている剣に比べていくらか小ぶりなもので、刀身こそ短かったが、金色のツバは一回り大きかった。そして、その黒い柄には小さな赤い宝石がいくつか埋め込まれていたのだった。
それを手に持つと、まるで吸い付くように手になじんだ。少し揺らすたびに、埋め込まれた宝石が淡く色を変える。
そして、その剣を収める鞘は全体が薄い赤に染められおり、殆ど真っ白な先端から、徐々に赤色が濃くなるっている。ところどころにある金の飾りが全体を引き締めていた。
鞘に剣を収めると、まるで朝日から始まって夕日を経て、赤い星を輝かせる夜を思わせるような、不思議なグラデーションが映し出された。悪趣味なデザインにも思えるそれは、絶妙なバランスの上で独特な美しさを醸し出していた。
「綺麗……うん、これはきっと私にぴったりだと思う。きっとそうよ、アルバ」
それはお世辞などではなく、純粋な喜びだった。この剣を振るって妖魔と戦う自分を妄想して、アシアラの頬は緩みっぱなしだった。
代金を支払う時も、店主は金額を告げただけでニコリともしない。梱包もただ黙々とこなしている。しかし二人は気にしてはいなかった。アシアラは剣をうっとりと眺めており、アルバはそんなアシアラを心配していたのだった。
アルバの心配は宿に着くまで続いた。アシアラは途中何度も梱包を剥いで取り出そうとしていた。
「物騒だから、しっかりしまっておけ」
アルバからそう何度か注意をされたのだが、アシアラの浮ついた気分はその日の夜に寝付くまでずっと続いていた。
「ああ、今日は良い日だったなぁ……」
努力が実を結び、さらに想定外のプレゼントまで貰った。こんなにも幸せな一日でいいのか、などと考えながらも、昼間の特訓の疲れからあっさりと眠りについた。




