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第五話∶落花

【歩上花太郎】


咲子は僕にとって憧れの存在だった。

誰とでも上手くやれて、しかも自分のやりたいことをやっている。


それは自分を楽しんで生きているってことだと思う。

あんな風に僕もなれたら。




そう思っていたけど、段々と違和感に気付き始めた。

どうも咲子は歓迎されていない気がする。


みんな笑顔を取り繕って迎えはするけど、周りの口数が明らかに減っている。

咲子は場の空気が続かなくなると別のグループに移動しているだけなんじゃないか?

楽しく盛り上がってるところに自分の都合で割って入って、台無しにして、次へ行く。


まるでイナゴみたいだ。




数日後、咲子はクラスにイジメられていると告発したらしい。

誰も自分と仲良くしようとしないって。


それは卑怯だ。




いつだったか、小学生の僕はクラスでみんなに昨日あったおもしろトークを披露していた。

僕は笑えて息が出来なくなりながら必死に話して、僕以外の教室は静かだった。


それでハッキリ言う系の子に言われたんだ。


「本当に悪いんだけどさ、お前が話すといつも面白くなくなっちゃうんだよね。それ、多分普通に面白い話じゃん。勿体ないから一緒にいたマサヒロから聞きたかったな。」


存在を丸ごと否定された気がして僕は言い返そうとした。

でも残酷なことに彼の言ったことは一言一句正しかった。


他にも、早く喜んで欲しくて誕生日のサプライズを出会い頭にバラしたり、サッカーをすればオウンゴールをしたり、僕がポンコツだからみんなと上手くやれなかった。




そう、自業自得なんだ。


それなのに、咲子は求めるばかりで自分が奪っていることに目を向けていない。

わきまえてなきゃいけないことなのに、それができていないから、みんなに余計拒まれる。


もしかして弱い立場からワガママを言えば逆らえないとでも高を括っているのか。

自分でなんとかする気もなく、自分を変えることもなく、他人になんとかしてもらうつもりしかない。

自業自得の外に居ようとする我儘にすら気付いていない。


そんなの間違っている。


みんな生まれる前から平等じゃないのに、無理やり平等にしようとするから妥当じゃなくなるんだ。




『自業自得がみんなに平等であるべきなんだ。』


そう思った時、またキン!と頭の奥から音が鳴って、世界が鮮明に見えた。


まるで世界の真理に触れて、神様に近付けたかのような万能感に僕は酔いしれた。

腹の中が躍って、高まって、飛び出していく感じだ。




それから、誰かが決めたみたいに咲子への、みんなの接し方が変わった。

無視もしないし避けたりもしない。


ただ「迷惑」とだけキッパリ伝えるようになった。


僕もそれが正しいと思った。




そしてこの頃、僕は気付いたら自然と笑顔になってるくらい浮かれていた。

だって、やっとみんなと同じものを見ることができた気がしたから。

それはずっと憧れながら眺めていることしかできなかった、みんなと同じ船に乗れたってことだ。








それから1か月が経った頃、僕は穏やかに過ごしていた。


そう言えば最近、下野を見かけていない。

他のやつらも何故か下野の話題にすら触れないようにしているみたいだ。

それどころか、どこか怯えているようにも見える。


何にせよ、僕への攻撃は止まった。

なんだか知らないけど未来を犠牲にすることなく上手いことなったのだから、僕にとっては願ったり叶ったりだ。


誰とも関わらない、要は孤立ではあったんだけど、僕は充実感に満ちた日々を送っていた。

弾かれない久しぶりの時間、僕が世の中で成り立っていると思えたから。




最近のお気に入りは、グラウンドの隅にある芝生で本を読みながら昼休みを過ごすことだ。

日当たりが良くて風も程よく感じられて、何より意外に人が来ない穴場なんだ。








ドサッ。




何かが落ちた音がして振り返ると、うちの制服っぽい何かがあった。




赤いものがゆっくり


僕の意識と

周りの音を

吸い取りながら


広がっていく。




その「何か」の動かない目と、目が合った。




それは咲子だったんだけど

咲子に見えたんだけど


それが咲子なのか

僕なのか

何なのか


理解ができなかった。




僕が叫んだから他の生徒や先生も集まって来たらしい。

狼狽えて囲む人々の中心に、物言わない咲子と喚いている僕がいた。




警察が来て、咲子の机から遺書を見つけた。


「生きているだけで迷惑だって、全部奪われた。みんなと楽しくしたかったけど、わたしには出来ない。」


そう書かれていたらしい。




眠れない日が続いた。


なんでこんなことになってしまったのか、事実に向き合うのが怖くて、僕は理屈を考えることに逃げ込んだ。




そして気付いたんだ。


死に方を探したあの晩、僕は怒った。

理不尽だと気付いたから。

のうのうと笑ってる奴らがいて、なんで僕らだけが苦しまなくてはならないのか。


そう、苦しかったんだ。

あの時、僕は死を選んでしまいそうになるほど苦しかった。




きっと咲子もあそこにいたんだ。


でも咲子はそんな思いをさせられるほどの酷いことを誰かにしたのか?




そんなことに僕は今の今まで気付けていなかった。

それどころか、知らないうちに咲子を都合良く踏み台にして、そこからの眺めでいい気分になっていた。


誰も咲子を救わなかった。








『相手に非があるからって、妥当の分別を見失ってはいけないんだ。』


頭の奥でまた


キン!


と音が鳴って、世界が鮮明に見えた。

誰かを守れるような気がしたけど、すぐに気のせいだと思った。


こんな大事なことをみんなに伝えなくちゃと思ったのに、僕にはその術がない。

できたことは鞄に入れていたハンマーを工具箱に戻すことだけだった。








それから暫く経った。

あれから日に日に学校の空気は不穏になっていく。


うちのクラスも二人不登校になっている。

その二人を町中で見かけたって噂も聞いた。




ある日、女子が僕を訪ねてうちのクラスにやって来た。


日菜子だった。

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