第四話∶友達
【望月咲子/モチヅキサキコ】
小さい頃は幸せだった。
何をしても許されてた。
わたしは無敵のアイドルだった。
わたしが笑うと花が咲いたみたいにみんなも笑う。
だからわたしの名前は咲子なんだって。
でも段々と意地悪する人が増えてきた。
公園、保育園、小学校。
大人は可愛がってくれるのに、子供はわたしを大事にしてくれない。
わたしが泣いてたってへっちゃらな顔してる。
順番もおもちゃも取っていっちゃう。
子供はわたしを除け者にする。
中学二年生になって、みんなに嫌われてる先生が担任になった。
すぐに大きな声出すからちょっと怖かったけど、わたしはこれまで通り大人の近くで過ごした。
他の先生よりは仲良くしてくれない人だったけど、それでもわたしが笑えば一緒に笑ってくれるようになった。
そしたら子供たちがわたしのことを「手先」って呼び始めて、物を投げてきたりするようになった。
でもわたしが絶望したのはそれじゃなくて、先生までわたしを除け者にしてくるようになったこと。
「クラスのみんなと仲良くしなさい。先生のところに来ちゃダメだ。」
わたしの居場所はどこにもなくなった。
誰も守ってくれない。
わたしは学校に行けなくなった。
でも、そんなわたしを迎えに来てくれた天使がいたの。
クラスメイトの日菜子ちゃん。
日菜子ちゃん、大好き。
いつだってわたしの話を聞いてくれる。
いつだってわたしのこと大事にしてくれる。
わたしのこと好きでいてくれる。
【石山日菜子/イシヤマヒナコ】
うちのお父さんとお母さんは時々ケンカをして、どっちかが暫く帰ってこなくなる。
それはわたしにとって一番怖くて嫌なことで、それでいつも大泣きしていた。
ごめんねってお父さんとお母さんは言うけれど、やっぱり時々、どちらかが家を出ていく。
うちの近くには幼馴染みの咲子ちゃんて子がいる。
だけどあまりよく知らない。
いつもどこかへ行っちゃうから。
咲子ちゃんと仲良くなりたいのに。
わたしたちじゃなくて、いつも先生やお母さんのところで笑ってる。
可愛くてステキな笑顔は、わたしたちには向けてくれない。
咲子ちゃんが寄ってこないから、呼びに行こうよって友達に言ったら、みんなは変な顔をした。
「あの子と一緒に遊びたくない。遊ぶなら二人で遊んでよ。ここには呼ばないで。」
わたしは咲子ちゃんと仲良くなるのを諦めた。
本当はみんなで仲良くしたい。
でも、一人にされてしまうかも知れないことの方が怖かったから。
中二で担任が後藤になった、最悪。
ゴッチャンて呼ばれてて、大声で叱ってくる先生。
生徒に手をあげて問題になったこともあるらしい。
驚いたのは、そんなゴッチャン相手でも咲子はニコニコ寄っていけちゃうこと。
ゴッチャン本人も戸惑ってたみたいだけど、咲子が屈託なく笑うから悪い気はしなかったみたい。
でもそのうち「アイツ、チクるよ」って、周りの子たちが咲子を除け者にするだけじゃなく、近寄るなって攻撃的になった。
わたしは何も言えないまま何日か経って、咲子は学校に来なくなった。
ある日、ゴッチャンがホームルームで「誰か咲子を迎えに行ってくれ」って言い出して教室が凍りついた。
ちょっと迷ったけど、それに手をあげてみた。
家も近いし、わたしが行くのが一番「妥当」だと思ったから。
⋯⋯そう、妥当。
難しい言葉だけど、きっと正しいって意味だよね。
「いいか。咲子が来たら、みんな仲良くするんだぞー!!」
ゴッチャンは良かれと思って言ったのかも知れないけど、圧にしかなってない。
みんなに悪い意味で咲子を意識させただけ。
やっぱり、こいつ最悪。
その日の帰りに咲子の家を訪ねた。
考えてみれば、うちの本当にすぐ近くなのに足を運んだのは初めてだった。
優しそうな咲子のお母さんが出てきて、何回もお礼を言われながら咲子の部屋まで案内された。
咲子はわたしに驚いて椅子から転がり落ちてしまった。
思わず笑っちゃって、しまったと思ったけど咲子も笑ってた。
お互い笑ってるて判ったら余計に笑いが込み上げてきて、二人で大笑いした。
本当はずっと前からこうなれてたら良かった。
わたしは長い間胸につかえてたものがやっと無くなったのを感じた。
「ねぇ、こんなに近くに住んでるのに、わたし咲子のこと殆ど知らないんだ。もっと咲子のこと知りたい。」
「え!?嬉しい!!何から話したらいい!?」
「慌てなくていいよ。ゆっくりがいい。これから毎日迎えに来るからさ。」
「えー!本当??!嬉しい!!本当!!?嬉しい!!!」
咲子は枕を抱きしめてベッドを転がった。
気が付いたら外が暗くなってたから、また明日ねって約束して帰ることにした。
咲子はちゃんと話してみたら、本当によく笑う明るくて素敵な子だった。
その夜、またお父さんとお母さんが喧嘩して、今日はお母さんが出ていった。
こんなのはいつものこと。
大丈夫、また少し経ったら戻ってくる。
そう解ってても眠れなくなった。
翌朝、キッチンに行くとお母さんがケロッとした顔で朝ごはんを作っていた。
わたしは複雑な気持ちで朝ごはんを食べて、咲子の家に向かった。
屈託のない笑顔で出てきた咲子に手紙を手渡された。
それには好きなものというタイトルで箇条書きがされていて、最後にわたしの名前があった。
自己紹介のつもりらしい。
「友達に手紙渡すの、やってみたかったの!」
翌日、一応わたしも返事を用意した。
自己紹介ってことで、同じようにわたしの好きなものを羅列したんだけど、最後に咲子と書き返すのは恥ずかしかったから「友達」とだけ書いた。
それを読んだ咲子は
「わたし、友達?」
って聞くから
「そうだね。」
って答えたら、飛び跳ねて喜んだ咲子は満面の笑顔でわたしの腕にくっついた。
「明日も手紙書くね!」
「え?毎日?」
「うん、毎日!だって早く日菜子ちゃんに伝えたいこといっぱいあるんだもん!」
放課後は咲子のリクエストでハンバーガーショップで暗くなるまで話した。
「いつも迎えに来てもらうのも悪いから、明日はわたしが日菜子ちゃんの家に迎えに行っていい?」
「うん、ありがと。」
「やったー!じゃあ六時に迎えに行くね。」
「え。早すぎだよ、まだ寝てるって。」
「えー!?じゃあ朝ごはんにお弁当作ってくるからー!」
「そーゆー問題じゃないー。」
「でも、うちのお母さんのたまごサンド凄く美味しいんだよ?わたし頑張って作り方教えてもらうからー。」
「あ、それは美味しそう!えー、ちょっと迷うー。」
「じゃあ六時十分で!」
「てか咲子は何時に起きるつもりなのー?」
なんで咲子が嫌われてたのか知らないけど、この子は人に渇いている。
わたしと同じ。
この子にもっと幸せになって欲しい。
「咲子、明るいし笑顔が最高だよ!それで話しかけたら絶対みんな仲良くしてくれるって!」
本当に心の底からそう思って伝えた。
咲子は目を細めて微笑んでいる。
この笑顔がわたしを笑顔にしてくれる。
と、思っていたのに一週間した頃にはキツくなっていた。
「ねぇ、咲子んちの親ってさ⋯⋯」
「あー!そうだ!昨日ね、すっごく面白いことがあったの!!」
咲子はマイペースというか、自分の話しかしない。
こっちが何をしててもお構いなし。
自分が面白いと思う話は誰でも笑うと疑わず、それを全部聞いて欲しがる。
多分だけど、わたしと話したいんじゃなくて、わたしに喜んで欲しいだけ。
幼く独善的に。
咲子の言う友達はわたしの考える友達とは違う。
今日も隣から「聞いて聞いて!」と削られる。
「わたしは子守じゃない!」
そう言いたかったけど、なんかそれも出来なくて、わたしは次第に咲子を無視するようになった。




