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第二話∶僕の妥当-②

【歩上花太郎】


僕の世界は新しくなったけど、そんなことはお構いなしに、いつもと同じ朝が来た。

普通に起きて、トイレに行って、朝ごはんを食べて、制服に着替えて、通学路を歩いた。


そんな朝、登校途中で下野が僕を待っていた。




「イジメで自殺したやつのニュース見たか?お前は死ぬなよ?」


お前『は』だって!?

僕らを何だと思ってやがる!!

コイツは勘違いをしてやがる。


「大丈夫、死んだりしないよ。」


そう言い終わるより早く、下野がホッとした顔をした。

僕が彼みたいに遺書でも残して自殺したら面倒くさいもんな。

人をゴミ扱いしといて、必死なのは自分の保身か!


「自分を殺すくらいならお前を先に殺すから。だから僕が死ぬ心配はしなくていい。」


僕は自制が効かなくなっていた。


「はぁっ??!⋯っ⋯⋯俺はお前を心配してだなぁ⋯」


下野はそう言いかけてどこかへ行ってしまった。




良かった。

殴りかかってくるかと覚悟していた。

もしそうなってたら、僕は実行していただろう。


僕だって別に殺したい訳じゃない。

命を奪った責任は背負わなくちゃいけないから。

でも、それじゃ自殺と変わらない。


僕は生きて楽しみたいんだ。




ただ何にしたって今の僕は、未来を消費してでもこの追い詰められた状況を抜け出さなくちゃいけない。


そんな僕にとっての「妥当」とは何だろう?

そうだ、脚の腱を切ってやるなんてちょうど良いんじゃないか。

こっちが天秤に死を乗せてるくらいなんだから、向こうにも障害が残るくらいでなきゃ合わない。


そんなことを考えながら校内をウロウロ歩き回っていて、ふと


「僕はどうなりたいんだろう」


と思った。

空は曇っていた。




ある日、よそのクラスで自由奔放に振る舞う女子を見かけた。

彼女は好きなようにクラスメイトの輪に飛び入り、話したいことを話して屈託なく笑い、また別のグループに移っていった。


羨ましかった。

僕にはとても出来ないことだから。


彼女の名前はサキコというらしい。

その無敵の笑顔に僕は憧れた。


それから時間を見つけては彼女を見に行くようになった。




僕はまだ、自分の醜さに気付いてなかった。








【下野鉄太/シモノテッタ】


俺の名前は鉄のように強く在れ、図太く生きろって意味らしい。

まぁそれはそれで、中学二年の俺は正直パッとしていない。




朝のホームルーム、俺は口の中の傷口を舌で撫でながら窓の外を眺めてた。


昨日は散々だった。

先輩にいつものチョコドーンって菓子をパシらされた時に気を利かせて季節限定のやつにしたのがマズかった。


「いつものフツーのやつがいいんだよ!勝手なことしてんじゃねーぞ!!」


って殴られちまった。

だって新しいもの好きだって言ってたじゃんよ。


なんか最近トラブってるらしーけど、あんな機嫌悪くちゃ堪ったもんじゃねーわ。

急にのし上がったスゲー人らしいし、やり方は誰より詳しいとか知らねーけど、そもそもカツアゲなんてろくでもねーことやらせてるからおかしなことになるんだ。


まぁ、殴られちまったのはそれとは別で、俺が上手くやれねーからなんだけど。


ヘマしたら殴られる。

ムカついたら殴る。

俺の世界はそんな感じだ。


なんにしても、そんなろくでもねーことやらされるよりはパシらされて時々殴られる方がだいぶマシか。




さっさと家に帰ってコンソメパンチ食いながら、やりかけのドリクエでもやろうと思ったのに、ジョイステは兄貴が使ってた。

しかも、パッと見であんま機嫌が良さそうじゃない。


案の定、ダメもとで「いつ終わる?」って聞いたら「うるっせんだよ!」って殴られた。

負けて怒るくらいならゲームしないでくれよ。




やることなくてスマホいじってたら「西緒市で中学生男子自殺。遺書にイジメの訴え」ってニュースを見つけた。


マジかよ、隣の町じゃん。

どうもカツアゲとイビリで首吊ったらしい。

あれ、これってもしかして⋯⋯。


いや、めんどくせーことに首突っ込んでもろくなことになんねー。




てか、自分で自分殺すとか俺できねーわ。

そんなことやっちゃうやつもいるんだなー。


そんなこと考えてたら、何となく花太郎の顔が浮かんだ。


俺には関係ねーけど、花太郎がトロいにしたってクラスのやつらやり過ぎてる気もすんだよなー。

なんか段々不安になってきた。




翌朝、俺はちょっと早起きして花太郎を待つことにした。

ちょっと声かけてやろうと思って。


そしたら、その日の花太郎はなんか違った。

目がパキってるっていうか、堂々としてた。


心配してやったのに「殺す」とか言われて傷付いたのかキレそうになったのかよくわかんねーけど、とにかくその日のアイツに軽い気持ちで手を出したらトコトンまでやってきそうな気がしたんだ。

自分でも変だと思うけど、なんか退いた方が「妥当」だって気がしてた。


「妥当」?

メンドクセーってことだろ。

堅苦しいフレーズだな。


何にしてもアイツだいぶキてんじゃねぇの?

まぁでも関係ねーか。

てか、なんかダリーし。

今日は耳鳴りがしやがる。


ケータイ見たらいつの間にか「ハマさん」って表示が残ってた。

やっべ、先輩からメッセージ来てんじゃん。


「チョコドーン買って来い。違うの買ってきたら殺す。」

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