第十九話∶ねぇ、どんな僕になろう
【歩上花太郎】
下野が先輩を刺したっていうのは、多分僕の影響だ。
だけど、下野は既に前に進んでいる。
そんな彼に自分のせいだったと名乗り出たところで、それで惑わせるだけじゃないのか?
かと言って、何も出来ない、仕方ないって終わらせて良いんだろうか。
家に帰ると、父さんから
「晩飯済んだらこっち来てくれって、じいちゃんからだ。」
って伝えられた。
ちょうど良い。
行くと、じいちゃんがワクワクした顔して待ってた。
一緒に来た父さんはなんだか面倒臭そうな顔をしている。
このパターンはじいちゃんが何か思いついて、父さんがそれに付き合わされる時のやつだ。
「その前に、いいかな。僕からも二人に相談したいことがあるんだ。」
「あ?なんだよ、相談って。どんな話?簡単にな。」
早速自分の話から進めたかったであろうじいちゃんだけど、流石に今日の今日で僕からの相談ってのは発言権が強い。
「あの後、日菜子と会って能力の話をしたんだ。そしたら、あれはわたしの感じたことで、わたしの経験なんだから償いとか求めてない。週末に家にされた落書き消すの手伝ってくれたらチャラだ、って。それだけじゃない。多分だけど、僕の最初のシンクロの影響を受けて先輩を刺したクラスメイトがいて、これから自首しに行くって言ってた。」
「⋯⋯そうか。」
「二人とも、自分の決めたことだからって晴れ晴れとしてた。ねぇ、僕はこのまま何もしなくて良いのかな。出来ることないのかな。」
「まぁ、何かするのが今じゃないって話じゃね?」
「あとはお前がその子たちのことを考えて、何をしたいか決めたらいい。自分の為じゃなくその子たちの為をよく考えてだ。」
「⋯⋯⋯うん。わかった。これでお仕舞いにせずに考え続けてみる。」
父さんがコーヒーを淹れて僕の前に置いてくれた。
じいちゃんは何だか感慨深そうにコーヒーを飲み干そうとしてヤケドして、小さくキレた後に気を取り直して僕らに向き合った。
ゴホン!
咳払いして、いくぞ!って合図だ。
「あのさ、思いついたんだけど、世界を変えちゃおうぜ!」
「はぁ?!」
それは病院で僕が心に誓ったことだけど、いざそう言われると何を言い出すんだとビックリする。
でも父さんは何か思い当たる節がある顔をしていた。
「今日、病院でやったやつをさ、院内放送じゃなくてインターネットでやるんだ。世慈がそこのパソコンと繋いでよ。」
じいちゃんは子供みたいに目をキラキラさせている。
世界を変えるとかをこんなウキウキでやろうとするなんて、やっぱりとんでもない変人だ。
「世の中にはろくでもないやつらが多すぎる。俺は散々振り回されて来て、心の底からウンザリしてきた。それに対して花太郎。お前はとんでもなく成長した。孫の贔屓目じゃねーぞ。お前がこれまでに積み重ねてきた理屈はかなりイイ線いってる。それをやり抜く覚悟も持ってる。だから必ず凄いやつになる。」
あれ?
なんか急に褒められ始めて、僕、どうしたらいいんだろう。
「だからお前が学んだ集大成を世界中に届けるんだ!」
えーっ!?
ちょっと待ってよ!!?
そもそも僕はこれまで自分の能力の責任に振り回され続けてきた。
だから能力は厄介なものとしか思っていない。
そんなものを世界に向けようなんて、とても正気の沙汰と思えない。
でも本来は、父さんみたいに上手く使って状況を良くするためのものなのかも知れない。
「自信を持て。何を飛ばしたら良いか決めてみろ。」
父さんまで乗っかって来た!
そうなの?
これ正解なの??
そんな風に言われたって、僕が世界を良くできるなんて実感が湧かない。
でも、大丈夫だと言ってくれるのは他でもない最強の僕の父さんとじいちゃんだ。
戸惑いながらも何を世界と共有したらいいのか、僕は考え始めた。
今まで本当に沢山の失敗をしてきた。
そして一つずつ学んできた。
それを世界と共有したら、確かに少しはマシな方向に寄るかも知れない。
父さん、じいちゃん、咲子、日菜子、康介、下野。
みんなの顔が順に浮かぶ。
そして顔も名前もわからないけれど、僕に生きるきっかけをくれたニュースの彼。
失敗だらけの僕だけど、その全てに意味はある。
みんなから受け取った学びに誇りを込めて、形にしよう。
『相手の大事を大事にした上で、最大限に自分らしく、やりたいことやる!』
父さんとじいちゃんが顔を見合わせる。
「悪くないな。ちょっと長いけど。」
じいちゃんが茶化す。
「それが世界に届けば、人類は性善説で社会を構築できる。余計な監視も罰も要らなくなる。それに豊かさの過度な偏りも防ぐだろう。それは人類が幾度となく夢見て、それでも叶えられなかったことだ。」
父さんは僕が理解してなかったことまで補足してくれた。
人類が叶えられなかった世界とか、思ってたよりずっと凄い話になってしまった。
それはもう人類史に名を残す偉人レベルなんじゃないか?
ただ、なんであろうが僕の結論はもう決まっている。
だってこれは僕がみんなから受け取らせてもらった、必死で掴み取った大事な学びなんだ。
大丈夫、ちゃんと選ぼう。
「だから世界に飛ばすのは、やらない。」
僕は迷いなく言い切った。
「まぁ、そうなってしまうな。お前がそう決めたなら、それでいい。」
父さんは理解してくれたみたいだ。
でも、じいちゃんは止まらない。
「はぁ!?なんでだよ。お前もこれからの人生でクソみたいなやつらに散々振り回されることになるんだぞ、絶対だ!ウンザリするんだぞ。俺の人生で一番足を引っ張られたことが解決されるんだ。それだけじゃない、咲子って子みたいな人間は他にも沢山いる。そいつらだって救えるんだぞ!なのに!!それとも、このままでいいのか!?」
「良くないよ。でも、能力を飛ばさないのはそれよりもっと大事なことだと思えるんだ。歩くペースってみんな違うっていうか。自分で感じて、考えて、決めるってことが僕やみんなにとって凄く大事なことだった。僕の能力は背中を押すだけかも知れないけど、人は周りに委ねた方が楽だから、集団に向ければ計り知れない強さになって、みんなの大切なことを奪ってしまう。」
じいちゃんが言う通り、苦しまなくて済むようになる人は沢山いるだろう。
でもみんなに感謝しているからこそ、僕は拘りたい。
僕のすることが本当にその人にとっての助けなのか。
じいちゃんが僕の正面に立った。
「俺にとっての妥当は世界をマシにすることだ。蛆虫共にとってもその方が幸せなんじゃないのか?」
「それでも、僕は大事にしたいんだ。」
じいちゃんは今まで見せたことがない険しい表情で僕を睨みつける。
僕は絶対に譲らない。
奥歯を噛み締めて僕もじいちゃんを睨み返した。
「⋯⋯⋯無理強いしたって能力は発動しない。あ~、クソっ!つまんねぇ!!」
じいちゃんは怒り任せにバン!とドアを叩きつけた後で少し間をおいて振り返り
「俺に我儘通せるまで成長したことを嬉しく思う。」
と笑顔を見せた。
僕とじいちゃん、どちらが正解だったかなんて誰にもわからないはずだ。
そして誰でも自分の答えを持てているわけじゃない。
だから世界は迷い続け、間違えもする。
でも僕は僕を信じている。
だから『君がそう決めたのなら』僕はそう出来るようにしたい。
いつか能力なんて頼らなくてもみんなが互いを大事に考えられる時が来ることを、世界が今より上手くやれる時が来ることを僕は夢見る。
咲き、枯れ、芽吹く。
君を受け取って、僕を渡せるようでありたい。
澄み渡る空、その向こうにあるものを僕は見たい。




