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第十八話∶君の妥当-③

【遠藤康介】


頑張れよって言ってもらって嬉しかったんだ。

だから前に進もうって気になれた。


ただ、そしたら余裕がちょっと出来たのか、鉄太君の違和感に気付いたんだ。




それがどうしても気になって、俺は松葉杖ついて鉄太君に会いに来た。


「ねぇ、何か隠してることない?そのまま一人で何かしようとしてない?」


「別に。隠し事って、そもそもお前に言わなきゃいけない話なんてあるのかよ。気持ちわりーこと言ってんなよ。」


「いや、ダメだ。昔から時々その感じになるのは自暴自棄になってる時だ。何かあったんでしょ?誰も言える相手いなくて俺のとこ来たんじゃない?」


「キモっ。」


「誤魔化すなよ。人に頑張れって言って、自分は捨て鉢かよ。」


「別にそんなんじゃねーよ。ちゃんと考えた結果なんだ。頑張って考えた結論なんだよ。」


「じゃあそれを聞かせて。考えたことを。でなきゃ納得できない。」


鉄太君はめんどくさそーな顔をした。

観念したっぽい。




「ちょっと前に高校生の刃傷事件あったろ。あれの犯人、俺。その高校生、ちょっとヤバいことやってる先輩でさ、巻き込まれそうになって断ったらナイフ突き付けられて、咄嗟に。」


「はぁっ!?」


「その先輩は知らねーやつに襲われたって話にしとくから逃げろって言ってくれたんだけどよ、やっぱ自首しようと思って。」


正直、予想以上だった。

ていうか、予想の右斜め上を来やがった。


俺もバカだけど、コイツはコイツでバカ過ぎる。

何やってんだよ⋯!


「それが筋だろ?」


「鉄太君、自分の将来考えたことある?先輩は逃がしてくれたんだろ?取り返しがつかなくなるよ!?」


「どのみち俺に輝かしい将来なんてねーよ。」


「鉄太君、陸上やらない?」


「はぁ?」


「思いつきじゃないんだ!昔からそう思ってた。俺はいつも自転車に乗った君を走って追いかけてた。なのに体育の時間になると俺と同じくらいのタイム出してただろ?普段何もしてないのに。それに、一緒にやってくれれば俺も復帰するの頑張れると思うんだ。」


「やらねーよ、お前なんかと一緒に。」


「ダメだ、よく考えてよ!!」


「よく考えたっつーの。」




「あのー⋯。」


揉み合う俺たちの後ろから声がした。


まただ。

こんな時に限って突然現れるコイツ、何なんだ!?


そこにいたのはクラスメイトの花太郎だった。








【歩上花太郎】


日菜子に病室を追い出されて、僕は混乱していた。


たしかに日菜子の言い分は解る。

でも本当にそれでいいのか?

それとも落書き消しの手伝いはもっと別の意味があるのか??


何回か車にクラクション鳴らされてびっくりしながら家に帰る途中、揉み合いながら言い争ってる二人を見かけた。

一人は松葉杖をついてて、あれ??康介?

⋯⋯ていうか、もう一人は下野??


下野はともかく、康介には大きな借りがある。

見て見ぬふりってわけには出来ない。




「あのー⋯⋯。」


僕はノープランだったけど、取り敢えず声をかけてみた。

二人とも僕を見て、目を丸くして固まった。


あれ?

この場合はどうしたらいいんだろう??


状況整理レースを制していち早く動いたのは康介だった。


「いや、今は良いところに来てくれた!松葉杖じゃコイツを抑えきれない。手伝ってくれ!!」


「え?!僕が下野を押さえつけるの?」


「なんだテメー!ぶん殴んぞ!!」


「ヒッ!」


「頼む、花太郎!!早く!!」


他ならぬ康介の頼みを無視するわけにはいかず、僕はわけも分からないまま下野の背中に飛びついて、必死にしがみついた。

怖いし、めちゃくちゃ暴れるから振り落とされないように本当に必死だった。


「痛ってー!!!」


揉み合ってるうちに康介が倒れて叫んだ。


「うわっ、マジかよ。何やってんだよ、いつも余計なことしかしねーな、テメーは!!⋯⋯⋯ちょっと待ってろ。近所から湿布かなんかもらってきてやる。」


「え?」


「効くかどうかわかんねーけど、あるに越したことねーだろ。ちゃんと説明すれば意外と分けてくれるんだよ、こーゆーの。」


そう言って下野は走っていった。

僕はその背中を眺めてたけど、我に返って康介に駆け寄った。


「悪い、ちょっと松葉杖拾って。さっきはびっくりしたけど、落ち着いてきたよ。」


取り敢えず康介を道の脇に動かしてから、その隣に座ってみた。


「⋯⋯⋯ねぇ、何があったの?」


「あー、うん。えっとな。ごめん、ちょっと言えないんだわ。」


「⋯⋯そっか。」


「うん。悪い。」


「なんかさ、似てるね。こんなこと言っていいのかわからないけど。」


「何が?」


「救急車呼んだ時、康介は必死で止めるなってなってて。でも、結局僕は止めてしまった。」


「⋯⋯⋯たしかに。俺はあの時と逆の立ち位置だな。今ならあの時のお前の気持ちも分かるよ。今回も、これがアイツ自身のためなんだ。」


「そうなんだ。」


「あぁ。改めて礼を言うよ。あの時も。ありがとう。」


そうこうしてたら下野が湿布持って戻ってきた。

あれ、なんか早くない?








【下野鉄太】


「ほれ、ロキソニン入りだってよ。」


もらってきた湿布を花太郎に渡して、じゃ!ってジェスチャーしたら康介が慌てて立ち上がろうとし始めた。


「鉄太君、行かせないからな!俺、脚を怪我してるからな!無理して怪我悪化させたくないからな、俺は!」


「いや、おま、それズリーだろ!!あー、めんどくせー!なんなんだよ!!何回も言ってるけど、ちゃんと考えた結論なんだよ!」


「だから!それ説明しろよ!!どーせ考えてないんだろ!!」


「考えてんだよ!考えたから自首すんだ!!」


「自首ぅ!?」


花太郎が目をひん剥いた。

あー、またメンドクセーやつが一人増えた気がする。


「先輩の腕を刺したんだ。だから自首すんだよ。真っ当な話だろが。」


「でも、先輩は庇って逃がしてくれたんだろ!?知らないやつに襲われたって嘘の証言までして。」


「あ!もしかして高校生の刃傷事件!?あれのこと?!」


「しょーがねーだろが!殺すぞってナイフ突き付けられて咄嗟だったんだ。」


「⋯⋯⋯え?!」


あれ?

なんか花太郎が衝撃受けて固まってるぞ??


「なんだ?お前、ハマさんと知り合いとかかなんかか?」


「え?!あ、いや、そんな人全然知らないけど。⋯あ⋯なんでもないよ。」


なんだコイツ。

まぁ、いいや。

問題はコイツじゃなくて康介だ。


あー!クソっ!!




俺は「異議あり!」の勢いで康介を真っ直ぐ指差した。


「お前が!!俺に自首を決めさせたんだ!!!」


「はあぁぁあ!?」


「俺が自転車に乗って!お前は走ってついてきてたんだ!お前はいつも俺が持ってる物を羨ましそうにしてた!!」


康介は鳩が豆鉄砲喰らったような顔してやがる。

ムカつく。

やっぱ無自覚か。


「でもいつの間にかお前は俺を追い抜いた!それだけじゃない、お前の方が楽しそうな毎日を送っていた!俺がお前を羨ましくなっちまった!!」


「だったら一緒に陸上やろうよ!!」


「誰がお前なんかと一緒にやるかっつーの!!お前の土俵なんかに上がってたまるかよ!!」


「それで自首して逃げようっていうのか!?」


「ちげーわ、ボケ!!俺だって自分の道を進んでやるっつーの!だから、お前に頑張れって言った後に俺も頑張らなきゃと思ったのに、こんな後ろめたさ抱えたままじゃ腹が決まらねーって思ったんだよ!!勘違いすんなよ、陸上はやらねーぞ!!」


康介は黙ったままだ。


「僕が口挟んで良いのか判らないけど」


花太郎が喋りだした。


「良くねーから黙ってろよ。」


「下野が自分で前に進むために決めたんだよね?」


言うのかよ。


「あー、そーだよ。後ろめたいまま進むなんざ、ろくでもねーに決まってるだろが。そんなアホなことするやついたら顔見てーわ。」


「じゃあ」


康介が口を開いた。


「脚を怪我したくせに大会で走ろうとした俺より、よっぽど真っ当か⋯。」


おい、康介テメー、でかい溜め息つきやがったけど、そりゃ俺の方だぞ。


「やっと解ったかよ。じゃあ、行くからな。邪魔すんなよ。落ち着いたら、気が向いたら陸上もちょびっとだけお試ししてやるからよ。」




それで、やっと俺は解放された。

と思って少し歩いたら、後ろから康介にまた呼び止められた。


「なんだよ!!まだなんか言いてーのかよ!?」


「またね。」


「⋯⋯おう。」




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