第十六話∶君の妥当
【望月咲子】
わたしはずっと友達が欲しかった。
いつもわたしの世界にはわたしを守って可愛がってくれる人、つまり「味方」か、わたしに興味がないか嫌いな人、つまり「敵」のどちらかしかいなかった。
味方はだいたい大人で、わたしが笑うと一緒に喜んだり可愛がったりしてくれる人たち。
わたしが一番好きだった時間。
わたしが生きていくのに必要だった人たち。
敵はだいたい子供で、わたしに興味がないか、攻撃してくる人たち。
わたしから奪っていく人たち。
それから、味方か敵かが入れ変わる人もいた。
お父さんとお母さんがそうで、昔はどちらかが敵になったら不思議ともう反対が味方でいてくれて、それが時々入れ替わったりするんだけど、最近は重なったりしてた。
そういえば、わたしは生まれつき変わってるんじゃないかって病院で検査してもらったこともあったけど、変なとこは見つからなかったらしい。
でもなんとなくだけど、自分でも変わってるのかもとは思う。
たまに家族でドラマや映画を見て、みんなが泣いたり感動したりしてても、わたしがそうなれたことがなかったから。
だからやっぱり、わたしはきっと出来損ない。
だからなのかな、「友達」っていうものが気になったのは。
「敵」でも「味方」でもない、よくわからないけど、もっと対等な人。
でも出来損ないのわたしを対等に扱ってくれる人なんているのかな。
ずっとそう思ってた。
それで学校が敵だらけになって行けなくなった頃、わたしも学校に行かなきゃいけないのは解ってたから困ってて、迎えに来てくれた日菜子ちゃんが天使に見えた。
わたしと同じ子供なのに助けてくれる初めての人。
あれ、もしかしてこれって友達??
わたしが手紙を渡した次の日、日菜子ちゃんも手紙を書いてきてくれた。
わたしは手紙の最後に日菜子ちゃんの名前を書いたけど、日菜子ちゃんは「友達」と書いていた。
ドキッとした。
わたしはそれなの?違うの?
不安と期待が入り混じった。
日菜子ちゃんはわたしを友達だと答えてくれた。
それはわたしの人生で一番嬉しかったこと。
でも、なんでか上手くいかなくなってしまった。
それは言ってみれば、いつも通りに。
いや、いつも通りじゃなかった。
いつもより頑張ったから。
頑張れたのは日菜子ちゃんがいたから。
だけど、その日菜子ちゃんに「迷惑」と言われてしまった。
そう言われて初めて気付いた。
わたしは迷惑をかけていたから、みんなと上手くやれなかったんだ。
ただ、どうしようもなかった。
わたしにはわからなかったから。
何をしたら迷惑で、何をしたら喜ばれるのか。
取り敢えず、これ以上に日菜子ちゃんから嫌われたくなくて、わたしは逃げた。
早く日菜子ちゃんに喜んでもらえる方法を見つけなきゃ。
そう焦れば焦るほど、頑張れば頑張るほど、上手くやれなくなっていった。
そうしてたら、段々と頼まれごとをされることが多くなった。
わたしが良かれと思ったことをやっても上手くいかないけど、頼まれたことをちゃんとやったら喜ばれるはず。
でも、そんな訓練のチャンスは無限にもらえるわけじゃない。
上手くやれない出来損ないのわたしは、みんなに見切りをつけられてしまった。
それでも捨てる神在れば拾う神在り。
わたしは新しい役割を渡された。
それは、これまでで一番簡単だったけど、一番苦しいものだった。
多分、それなりに上手くやれていたんだと思う。
「お前なんか生きてるだけで、存在してるだけで迷惑なんだからさー!」
上手くやれていたからだと思う。
だからその先が見えてきたんだ。
ただ、その先に共存が存在しないことが解った。
日菜子ちゃんに会いたくなった。
会っても嫌われるだけだと思う。
でも、どうしても会いたくて仕方なかった。
久しぶりに会った日菜子ちゃんは、とても困った顔をしていた。
案の定、わたしにはその理由が解らなかった。
怖い。
悲しい。
わたしなんかと関わって、迷惑かけて、悲しい思いをさせて
「ごめん。」
わたしは逃げ出した。
よくわからないけど、わたしはきっとまた日菜子ちゃんを悲しませた。
『存在してるだけで迷惑』
わたしはみんなのことが好き。
お父さん、お母さん大好き。
日菜子ちゃん、友達になってくれてありがとう。
本当に大好き。
わたしは今、屋上から自分が育った町を眺めている。
昼休みのグラウンドで男子がサッカーをしていて、楽しそうな声が聞こえる。
わたしもあんな風にみんなと楽しくやれたらな。
間違っていることは解ってる。
でもこれが最後だから。
ごめんなさい。




