第8話 大地ノ角撃
ボス攻略後。
蓮はゴロを連れ、学園の素材管理室へ立ち寄っていた。
攻略した“角獣ノ森”の素材を換金するためだ。
受付カウンターへ素材を並べる。
角犀主の魔石。
角獣たちの牙や皮。
受付嬢は慣れた手付きで査定を進めていく。
「F級攻略、お疲れ様でした」
笑顔でそう言った。
「ありがとうございます」
蓮も笑顔で答える。
前回の“牙爪ノ森”とは違う。
今回はF級ダンジョン。
探索者なら誰もが攻略する迷宮だ。
驚かれるほどではない。
受付嬢も査定結果を伝えるだけだった。
「こちらが買取金額になります」
「ありがとうございます。
あれ?思ったより高いですね」
「はい。
角犀主の質が良かったので、買取金額に少しプラスさせていただきました」
「そうだったんですね。
それは良かったです」
蓮は報酬を受け取る。
学園はいつも通り。
依頼を探す学生。
雑談するパーティ。
受付で相談する新人。
誰も蓮へ注目していない。
当然だ。
誰も知らない。
ついさっき。
ゴロが新たなスキルを手に入れたことを。
「……」
蓮はそっと召喚紋を見る。
≪大地ノ角撃≫。
昨日まで存在しなかったスキル。
もし本当に、迷宮を浄化するたび新たなスキルを得られるなら。
ゴロは、今まで誰も辿り着けなかった召喚獣になれるかもしれない。
その考えに。
蓮の胸は少しだけ高鳴った。
◇
その日の夜。
ベッドへ横になった蓮は、ぼんやり天井を眺めていた。
「……待てよ」
ふと。
嫌な考えが頭をよぎる。
「もし迷宮浄化で……」
迷宮そのものが消えていたら?
蓮は勢いよく起き上がった。
「やばい……!」
迷宮は現代社会の基盤だ。
魔石。
魔道具。
都市のエネルギー。
召喚獣の育成。
資源採取。
人々の生活は迷宮に支えられている。
もし。
自分が迷宮を消してしまっていたら。
国家規模の大事件だ。
「いやいやいや……」
蓮は頭を抱える。
あの時はスキル獲得に夢中だった。
そこまで考えていなかった。
「明日確認しよう……」
その日は落ち着かないまま眠りについた。
◇
翌日。
蓮は再び角獣ノ森へ足を運んでいた。
入口。
探索者や学園生たちが普段通り出入りしている。
「……ある」
思わず呟く。
恐る恐る中へ入る。
第一階層。
角兎が飛び出してきた。
「魔物もいる……」
他の探索者も普通に戦っている。
昨日と何も変わらない。
蓮は大きく息を吐いた。
「よかったぁ……」
ゴロも安心したように胸を叩く。
──どんっ。
蓮は苦笑した。
「もし消えてたら、本当にどうしようかと思ったぞ」
ゴロも何度も頷いていた。
◇
「せっかくだし」
蓮は笑う。
「本当は訓練棟で試すところだけど、ここでやっちゃうか。
相手はF級だし、危険も少ないだろ」
ゴロはこくりと頷き。
近くにいた角兎へ向かって構える。
「≪大地ノ角撃≫!」
次の瞬間。
ゴロの額へ一本の土の角が形成された。
同時に。
ゴロが地面を強く蹴る。
「速い……!」
普段のゴロにはない、瞬間的な加速。
──ドゴォッ!!
角が角兎へ激突した。
角兎は吹き飛び。
そのまま光となって消えた。
「強い……!」
蓮は目を見開く。
威力も高い。
それ以上に──速い!
ゴロ最大の弱点だった機動力。
それを補える可能性のある性能だった。
「これは強いな……!」
ゴロも嬉しそうに飛び跳ねる。
──どんっ。
──どんっ。
かなり得意げだった。
その後も何度か試してみる。
二回。
三回。
四回。
威力は安定している。
だが、欠点もいくつか判明した。
まず操作性。
「曲がるのは苦手なようだな」
動き出すと真っ直ぐしか進めない。
素早い相手に当てるには使うタイミングを考える必要がある。
次に魔力。
「結構減ったな」
ゴロは頷いた。
≪大地ノ拳≫より魔力の消耗は多い。
そして負荷。
「連続で使うと脚部の土が崩れる」
瞬間的な加速。
その反動を、土の身体で受け止めている。
連発できないほどではない。
だが、考えなしに使い続けるのは危険そうだった。
「強いが、相応にリスクもあるな」
ゴロも納得したように頷いた。
◇
帰宅後。
蓮はスマホを操作する。
迷宮データベースへアクセス。
条件を絞って検索する。
“F級”。
そして、“日帰り可能な迷宮”。
条件に引っかかった幾つかの迷宮が一覧で表示される。
蓮は一つずつ目を通していく。
「ふむ……。お!」
F級無属性迷宮“甲獣平原”。
甲殻を持つ獣系の魔物たちが生息する迷宮。
蓮の視線が、その名前で止まった。
「角獣ノ森で、角だった」
蓮は≪大地ノ角撃≫を思い出す。
なら。
「甲獣平原なら……甲殻か?」
ゴロも興味深そうにスマホを覗き込む。
「次はここだな」
ゴロが嬉しそうに──どんっ。
と胸を叩いた。




