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才能EXの落ちこぼれ召喚士〜成長の鍵は地脈だった!?〜  作者: SN


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第27話 闇骨墓地


翌日。

火曜日。


朝。


ホテルを出た蓮とゴロは、予定通り“闇骨墓地”へ向かった。


街を離れ、人気の少ない道を進んでいく。

しばらくして、岩壁の奥に黒ずんだ石造りの門が見えてきた。


F級闇属性迷宮──“闇骨墓地”。


左右の門柱には、剣を持つ骸骨人や、牙を剥く骸骨犬の彫刻。

その上部には、大きく口を開いた髑髏が刻まれていた。


彫刻の隙間には、闇を思わせる黒い紋様が絡みつくように走っている。


門の中央では、紫黒い光がゆらゆらと揺れていた。


「ここが闇骨墓地か」


蓮が小さく呟く。


門の周囲には枯れた木々が立ち並び、朝だというのにどこか薄暗い。

入口から漏れ出す空気も、他の迷宮よりひんやりとしていた。


蓮は門の前で一度立ち止まる。


「いよいよ最後だな」


こくり。


肩に乗っていたゴロが飛び降りる。

戦闘時の大きさへ戻ると、力強く胸を叩いた。


──どんっ。


蓮も小さく笑う。


「行こう」


こくり。


二人は門を潜った。


◇


迷宮へ一歩足を踏み入れた瞬間、ひんやりとした空気が肌を撫でた。


目の前に広がっていたのは、薄暗い石造りの地下墓地。


壁際には幾つもの石棺。

長い年月を経た墓碑が、ところどころ崩れ落ちている。


天井や壁からは紫色の燐光がぼんやりと浮かび、迷宮全体を不気味に照らしていた。


静かだ。

静かすぎる。


だが、その静寂の奥には確かに闇属性の魔力が満ちている。


蓮は周囲を見回す。


「まずは昨日の予定通り、水晶を試そう」


こくり。


「ゴロ。≪水晶ノ体≫!」


白い光。

土色の身体が透き通った水晶へ変わり、内部に淡い光が灯る。


「昨日は訓練施設だったからな。実戦でも少し試しておこう」


こくり。


二人はそのまま第一階層へ進んだ。


◇


第一階層。


現れたのは、小型の骸骨系魔物──“骸骨蜥蜴”。


ゴロが腕を向ける。


──パシュッ!


水晶針が飛び、動く魔物の身体へ正確に突き刺さった。

骨が砕け、魔物がその場へ崩れ落ちる。


「精度も火力も問題なし」


訓練施設で確認した性能は、実戦でも大きく変わらない。


続く第二階層。


今度は犬型の骸骨──“骸骨犬”。


先ほどより素早い魔物が相手だった。

それでも、距離を取りながら水晶針を撃ち込み、大きく近付かせることなく倒す。


「機動力も十分だな」


そして第三階層。


現れたのは、錆び付いた剣を持った人型の骸骨──“骸骨人”。


ここで初めて、闇属性を纏った攻撃を受けた。


──ガキンッ!


攻撃そのものは、水晶の表面を滑って大きな傷にはならない。

だが、内部を流れる光が僅かに弱まった。


ゴロの動きも鈍る。

続けて放った水晶針も、弾速と威力が少し落ちていた。


「やっぱり、実戦でも同じか」


昨日確認した通り。


闇属性を受けると、移動、攻撃、防御。

≪水晶ノ体≫の身体性能そのものが低下する。


ただし、時間が経てば内部の光は少しずつ戻っていく。


「ここも訓練通りだな」


こくり。


蓮は倒れた魔物へ目を向ける。


そして。


「……ん?」


少しだけ眉を寄せた。


先ほどの水晶針。


弱点を狙ったわけではない。

それでも、闇属性の魔物は動かなくなっている。


本来、闇属性の魔物は弱点となる部位を破壊しなければ簡単には倒れない。

だが、思い返せば一階層から同じことが何度か起きている。


「もしかして……」


蓮がゴロを見る。

≪水晶ノ体≫の内部を流れる淡い光。


「光属性だから、闇属性そのものに効いてるのか?」


こくり、とも。

首を傾げるともつかず。


ゴロも自分の身体を見る。


まだ断定はできない。

だが、少なくとも可能性は高い。


「攻撃側では、やっぱり相性が良さそうだな」


蓮は小さく頷く。


実戦で知りたかったことは、だいたい確認できた。


「ここまででいい。土ノ体に戻そう」


こくり。

白い光が消え、ゴロの身体が土へ戻った。


◇


四階層以降。


二人は土ノ体で迷宮を進んだ。


現れるのは、形の異なる骸骨系魔物たち。


単体なら拳。

数体で現れれば、動きを見ながら一体ずつ砕く。


小さな群れが押し寄せてきた時だけ。


「≪大地ノ衝撃≫!」


──ドォォンッ!!


衝撃でまとめて吹き飛ばす。

骨系魔物には、土ノ体の打撃で十分だった。


別の肉体を維持する必要もない。


予定通り魔力を温存したまま、二人は順調に階層を降りていった。


そして、最深部へ続く巨大な門の前へ辿り着いた。


◇


巨大な門を前に、蓮は一度足を止めた。


「ここからが本番だ」


こくり。


昨日確認した情報を思い返す。


闇弾。

衰弱。


人魂。

恐怖と硬直。


そして、空中から降りてこない飛行型。


「まずは土ノ体で様子を見る」


こくり。


「分からない攻撃は無理に受けない。特に人魂は避けるぞ」


ゴロが力強く頷いた。


蓮は門へ手を掛ける。


「行こう」


◇


最深部。


門を抜けた先に広がっていたのは、巨大な地下霊廟だった。


高い天井。

無数に並ぶ石柱。


空気は道中よりさらに冷たい。


部屋の中央には巨大な黒い祭壇。

その上には、山のように積み上げられた骨が静かに眠っている。


物音一つない。


蓮は祭壇を見据える。


「……来るぞ」


こくり。

ゴロが拳を構えた。


──カタッ。


骨が動く。


一つ。

また一つ。


祭壇に積まれていた骨が宙へ浮かび、黒い霧を纏いながら集まり始めた。


巨大な頭蓋。

顎。

牙。


最後に。


──ゴォォォッ!


紫黒い炎が眼窩へ灯る。

巨大な髑髏が宙へ浮かび上がった。


髑髏型魔物──“巨髑髏主”。


「カタタタタッ!」


耳障りな音が霊廟へ響く。


だが、まだ終わらない。

霊廟全体の闇属性魔力が渦巻き、巨髑髏主へ吸い込まれていく。


「迷宮強化……!」


巨髑髏主の頭蓋が一回り大きくなる。

さらに頭部から二本の骨が伸び、角のような形へ変わった。


昨日見た情報にはない姿。


「やっぱり、普通の攻略情報通りにはいかないか」


蓮の表情が引き締まる。


「気を付けろ」


こくり。


次の瞬間、巨髑髏主が口を開いた。

黒い光が集まる。


「闇弾!」


──ドドドドドッ!!


黒い弾丸が次々と撃ち出された。


「多い!」


資料で見た数より明らかに多い。


ゴロが左右へ動く。

次々と闇弾をかわしていく。


だが、一発が肩を掠めた。


──ドゴッ!


土が僅かに抉れる。

蓮はすぐにゴロを見る。


「動きは?」


ゴロが腕を回す。

続けて走る。


大きな変化はない。


「衰弱はほとんど効いてないな」


闇弾が持つ衰弱は、体力や活力を奪うことで動きを鈍らせる状態異常。

だが、ゴロはゴーレム。

生物のように体力を奪われて疲労するわけではない。


「これは助かる」


昨日の予想通り。

衰弱効果そのものは、ほとんど通っていなかった。


だが、攻撃そのものは別だ。

巨髑髏主は高い位置を旋回しながら、こちらへ近付いてこない。


「やっぱり降りてこないか」


蓮が眉をひそめる。

このままでは、こちらだけが一方的に攻撃を受ける。


「近付くぞ!」


こくり。

ゴロが床を蹴る。


その瞬間。


巨髑髏主の口から、今度は青白い光が浮かび上がった。


三つ。

ゆらゆらと揺れる人魂。


「来た!」


蓮の声が鋭くなる。


「触れるな!」


こくり。


人魂がゆっくりとゴロを追う。


一つ目。

横へ跳んで避ける。


二つ目。

身体を捻る。

かわした。


だが、その先へ三つ目が回り込む。


同時に。


──ドドッ!


闇弾。


「っ!」


闇弾を避ける。

その直後。


──ボゥッ。


青白い人魂がゴロの肩へ触れた。

次の瞬間、ゴロの身体が止まった。


「ゴロ!?」


拳を構えたまま動かない。


脚も。

腕も。


完全に固まっている。


「っ……!」


効く可能性は考えていた。

だからこそ、避けるつもりだった。


だが。


「ここまで強く出るのか……!」


ゴロは自我を持っている。


意思がある。

感情がある。


普通のゴーレムとは違う。

だからこそ、恐怖も通る。


「カタタタッ!」


巨髑髏主が動いた。

一気に高度を下げ、大きな口を開く。


「ゴロ!」


──ガギィィンッ!!


巨大な牙が土の身体へ食い込んだ。

幸い、損傷自体は大きくない。


だが、噛み付かれた場所から黒い靄がじわりと広がっていく。


硬直が解けたゴロが動こうとする。

だが、遅い。


「今度は……呪いか」


蓮の表情が険しくなる。


先ほどの衰弱とは違う。


体力を奪って動きを鈍らせるのではない。

身体そのものへ作用して、力や速度を直接落としている。


「こっちはゴロにも効くのか」


資料にはなかった攻撃。

巨髑髏主はすぐに牙を離し、再び空へ逃げた。


「近付いた時に殴り返せればと思ってたけど……」


蓮はゴロの身体に残る黒い靄を見る。


「何度もあれを受けるのはまずそうだ」


こくり。


しかも、巨髑髏主は近接戦に付き合ってくれない。


噛み付く。

すぐ逃げる。


また遠距離から攻撃。

このままでは少しずつ削られる。


なら。


「戦い方を変える」


ゴロが蓮を見る。


「ゴロ! ≪水晶ノ体≫!」


白い光。

土の身体が透明な水晶へ変化する。


「受ける側では相性が悪い。長引かせるな」


こくり。

手を構える。


「撃て!」


──パシュッ!


水晶針。

同時に、巨髑髏主の口から闇弾が放たれた。


正面からぶつかる。


──パキンッ!


闇弾が砕けた。

そして、水晶針は勢いを失わない。


──カッ!


巨髑髏主の頭蓋へ突き刺さった。


「……!」


蓮の目が見開かれる。


傷は小さい。

だが、明らかに通っている。


「もう一発!」


──パシュッ!


二本目。

再び闇弾を貫き、頭蓋へ命中。


「通る!」


昨日、訓練施設では確かめられなかった。

≪水晶ノ体≫から闇属性への攻撃相性。


「やっぱり、攻撃側なら相性がいい!」


ゴロも力強く頷く。

だが、巨髑髏主も黙ってはいない。


──ドドドドドッ!


六発の闇弾が一斉に押し寄せる。

ゴロも両腕を向ける。


──パシュッ!

──パシュッ!


二発を撃ち落とす。

だが、残りは止め切れない。


「避けろ!」


ゴロが身を翻す。

それでも。


──ドッ!


一発が胸へ直撃した。

その瞬間、身体の内側を流れる光が弱まった。


「やっぱり受ける側では不利か」


攻撃は通る。

だが、こちらも闇を受ければ弱くなる。


明確な相剋。


「なら、撃ち合いを長引かせなければいい」


蓮が巨髑髏主を見る。


「闇弾を全部消そうとするな。本体を削る!」


こくり。


水晶針。


──パシュッ!

──パシュッ!


頭蓋へ突き刺さる。


さらに。


「≪大地ノ砲拳≫!」


ゴロの右腕が砲身へ変わる。


淡い光。

大型の水晶弾。


──ドォンッ!!


一直線に飛ぶ。


──ドゴォォンッ!!


巨髑髏主の頭蓋が大きく揺れた。


「カタッ!?」


表面が大きく砕ける。

だが、黒い魔力が集まり、すぐさま壊れた頭蓋を修復していく。


「再生するのか」


蓮は目を細める。

だが、完全に元へ戻ったわけではない。


水晶弾が直撃した箇所。

そこから感じる闇の気配が、僅かに薄れている。


「……やっぱりだ」


道中でも同じだった。

弱点を破壊していないのに、≪水晶ノ体≫の攻撃を受けた闇属性魔物はそのまま倒れた。


「光属性が、闇の力そのものを削ってる」


さらに、壊れた身体を修復するたび、巨髑髏主は魔力も消耗する。


蓮の口元が上がる。


「なら、このまま削り続ける!」


水晶針。

砲拳。


闇弾。

人魂。


互いの遠距離攻撃が霊廟を飛び交う。


人魂は遅い。

数もまだ少ない。


警戒していれば、水晶針で撃ち落とせる。


少しずつ。

確実に。


巨髑髏主の頭蓋へ傷が増えていく。


その時。


──ゴゴゴゴゴ……。


床が震えた。

地面から闇属性魔素が立ち昇る。


「……何だ?」


次の瞬間。


──ガガガガガッ!!


石畳を突き破り、大量の骨が噴き出す。


頭蓋骨。

肋骨。

大腿骨。

脊椎。

無数の指骨。


形も大きさも異なる骨が黒い霧を纏い、巨髑髏主の左右へ集まっていく。


そして、それらが絡み合い、二本の巨大な手を形作った。


「第二形態か……!」


同時に、巨髑髏主の眼窩に灯る炎が一段大きく燃え上がった。


「来るぞ!」


骨の手が振り下ろされる。


──ブォンッ!


ゴロが床を強く蹴り、身体を横へずらす。


──ドゴォォン!!


直前までいた場所の床が大きく砕けた。


直後。


もう一方の手が横薙ぎに迫る。

ゴロは身体を低く沈める。

巨大な骨の手が、頭上すれすれを通過する。


さらに。


「っ!」


巨髑髏主の口へ黒い炎が集まった。


──ゴォォォッ!!


黒炎が広範囲へ噴き出す。


「避けろ!」


ゴロが再び床を蹴る。

だが、一気に攻撃範囲の外までは抜け切れない。


黒炎が水晶の身体を包んだ。


「ゴロ!」


熱そのものによる大きな損傷はない。

火属性への耐性は、訓練で確認した通りだった。


「火は大丈夫……!」


だが、問題は別にあった。

身体の内側を流れる淡い光が、急激に弱まっていく。


「闇……!」


黒炎には熱だけでなく、闇属性の力が混ざっている。

さらに、ゴロが一歩踏み出そうとすると、その動きまで明らかに鈍っていた。

先ほど噛み付かれた時と同じ。


「黒炎にも呪いがあるのか!」


巨髑髏主が闇弾を放つ。

同時に、左右から二本の骨の手が迫った。


先ほどまでの闇弾と人魂に加え、骨の手と黒炎まで使うようになっている。

攻撃の種類も、手数も一気に増えた。


ゴロが腕を向ける。


──パシュッ!


水晶針。


だが、巨大な骨の手が割り込む。


──カキンッ!


弾かれた。


その直後。


──ドッ!


闇弾が胸へ直撃する。

内部の光がさらに弱まり、≪水晶ノ体≫の動きも明らかに落ちていく。


「まずいな」


移動。

攻撃。

防御。


すべてが下がっている。

このまま≪水晶ノ体≫で押し合えば、先にこちらが潰される。


蓮は迷わなかった。


「変えるぞ!」


ゴロが蓮を見る。


「まずは、あの手を壊すぞ! ≪火岩ノ体≫!」


白い光。

透明な水晶が消え、白い岩の身体へ変わる。

亀裂の奥から、赤い熱が揺らめいた。


骨の拳が再び振り下ろされる。


今度は避けない。

ゴロが腰を落とし、右腕を引いた。


「≪大地ノ拳≫!」


──ドゴォォン!!


赤熱した拳と巨大な骨の拳が真正面から激突する。

骨片が弾け飛んだ。


「やっぱり骨には打撃か!」


だが、もう一方の手が横から回り込む。


──ガシッ!


巨大な指がゴロの胴体を包み込んだ。

締め付ける。


──ギシギシッ!


それでも、火岩ノ体の重厚な身体は簡単には潰れない。


「その程度なら!」


ゴロが自由な方の腕を振り上げる。


「≪大地ノ拳≫!」


──ドンッ!!


自分を掴む骨の指へ、拳を叩き込む。

亀裂が走る。


さらに。


──バキッ!


一本が折れた。


「もう一発!」


その時、巨髑髏主の口から黒炎が放たれる。


──ゴォォォッ!!


炎がゴロの身体を包んだ。

黒い靄が火岩ノ体へまとわりつき、呪いが身体能力を直接落としていく。

腕を上げる動きも、踏み込む速度も鈍い。


だが、同時に。


白い岩の亀裂から漏れる赤い光が、一気に強くなった。


「……あ」


蓮が気付く。


黒炎の熱。

それが火岩ノ体へ蓄積されている。


「そうか」


呪いで身体能力は落ちている。

それでも、黒炎から得る熱による強化の方が大きい。

火岩ノ体の拳へ集まる熱が、先ほどより明らかに強くなっていた。


蓮の口元が上がる。


「これならいける」


ゴロも気付いたように、拳を強く握る。


「黒炎を利用するぞ!」


──どんっ!


胸を叩く。


「≪大地ノ拳≫!」


──ドゴォォン!!


先ほど以上の一撃。

巨大な骨の手へ亀裂が走る。


「もう一発!」


ゴロがもう一度、腕を振り下ろす。


──ドゴォン!!


亀裂が一気に広がった。


──ガシャァッ!


巨大な骨の手が、大量の骨片となって崩れ落ちる。


「よし!」


残る手は一つ。


巨髑髏主は闇弾、人魂、黒炎を次々と放つ。

骨の手も正面からゴロを押し潰そうと迫った。


だが、黒炎を受けるたび、火岩ノ体にはさらに熱が溜まっていく。


呪いで動きは鈍い。

それでも、一撃の威力は増していた。


ゴロは重い身体を一歩ずつ前へ運ぶ。

太い腕を振り上げる。


「行け! ≪大地ノ拳≫!」


──ドゴッ!


一撃。

骨に亀裂。


もう一度。


──バキッ!


さらに広がる。


そして。


「≪大地ノ拳≫!」


──ドゴォォン!!


赤熱した拳が中央へ突き刺さった。


次の瞬間。


──ガシャァァン!!


二本目の骨の手も粉々に砕け散る。


「両方壊した!」


こくり。


その直後。


「カタァァァァァッ!!」


巨髑髏主が大きく顎を開き、怒りに満ちた咆哮を上げた。

眼窩の紫黒い炎が激しく揺らめく。


「……降りては来ないか」


巨髑髏主はなおも空中を飛び回っている。

火岩ノ体の重い身体では追い切れない。


なら。


「もう一度だ。≪水晶ノ体≫!」


白い光。

白岩の身体が消え、再び透明な水晶へ変わる。


「ここから削り切る!」


こくり。


ゴロが両腕を持ち上げる。


──パシュッ!

──パシュッ!


二本の水晶針が頭蓋へ突き刺さる。


続けて。


「≪大地ノ砲拳≫!」


右腕が砲身へ変形。


──ドォンッ!!


大型の水晶弾が撃ち出される。


──ドゴォォン!!


頭蓋が激しく揺れた。

砕けた部分へ黒い魔力が集まり、再び傷を塞いでいく。


だが、水晶針と砲拳。


対する巨髑髏主も闇弾を撃ち返す。

攻防を繰り返すほど、巨髑髏主の修復速度は目に見えて落ちていった。


──パキッ。


頭蓋に一本の亀裂。


さらに。


──パキッ。

──パキパキッ。


増えていく。


「再生が遅くなってる!」


光属性の攻撃で闇の力そのものを削られ、壊れた身体を戻すために魔力も消耗している。


もう限界は近い。


「押してるぞ!」


こくり。


「あと少しだ!」


その瞬間。


「カタタタタタタッ!!」


巨髑髏主が大きく口を開いた。

そこから青白い人魂が次々と溢れ出す。


一つ。

二つ。


それだけではない。


五。

六。

七。


さらに増える。


八。

九。


──十。


霊廟を埋めるように、十もの人魂が浮かび上がった。


「十……!?」


昨日の情報にも、これまでの戦いにもなかった数。

さらに、巨髑髏主の口の奥へ大量の黒炎が集まり始める。


圧縮。

さらに圧縮。


──ゴォォォォォ……。


霊廟全体が震えた。


「最後の一撃か」


十の人魂が、一斉にゴロへ向く。


今の≪水晶ノ体≫なら距離を取ることはできる。

だが、追尾する十体すべてを避け続けながら、あの黒炎まで止めるのは難しい。

水晶針で迎撃していても間に合わない。


「なら、先に止める!」


蓮が巨髑髏主を指差す。


「本体を狙うぞ!」


こくり。


「≪大地ノ砲拳≫!」


ゴロの右腕が砲身へ変わる。


──ドォンッ!!


大型の水晶弾が一直線に飛ぶ。

狙いは、黒炎を溜める口。


だが。


僅かに逸れた。


──ドゴォン!!


左の眼窩へ直撃。


紫黒い炎が弾け飛ぶ。


「外した……!」


口に集まる黒炎は消えない。

そして、十の人魂が迫る。


一つ。


──ボゥッ。


二つ。

三つ。


次々とゴロへ触れる。


恐怖が重なる。

水晶の身体が固まる。


さらに。


四つ。

五つ。


「ゴロ!」


短い脚から力が抜ける。


──ガクッ。


身体が傾き、片膝が床へ落ちた。

それでも、ゴロは腕を使って身体を支えながら、顔だけは巨髑髏主へ向けている。


黒炎はもう完成寸前。


蓮が叫ぶ。


「≪大地ノ甲殻≫!」


水晶の身体表面そのものが変化する。

透明だった表面が、より厚く硬質な結晶へ変わった。


直後。


巨髑髏主が黒炎を放つ。


──ゴォォォォォォッ!!


一本の巨大な熱線。

真正面から、ゴロを飲み込んだ。


──轟音。


霊廟が揺れる。

視界が黒と紫に染まった。


「ゴロ!!」


やがて、黒炎が途切れる。


煙の向こう。


巨髑髏主の眼窩に灯っていた炎も、目に見えて弱くなっていた。


「カタ……カタタタッ……!」


弱々しい。


それでも、勝利を確信したように笑っている。

蓮は煙の向こうを睨む。


「ゴロ……!」


煙がゆっくりと薄れる。

そこに、ゴロはいた。


「……!」


全身の透明感はほとんど失われ、水晶は黒くくすんでいる。


胴体には幾つもの亀裂。

両腕にも欠けが走り、内部の光も消えかけていた。


それでも、倒れていない。


短い脚を踏ん張り、身体をどうにか支えている。

≪大地ノ甲殻≫で、ぎりぎり耐え切った。


ゴロが僅かに顔を上げる。


「……よく耐えた」


蓮が小さく息を吐く。

だが、まだ終わっていない。


巨髑髏主が口を開く。


最後の闇弾。

黒い光が集まり、弱々しく放たれた。


──シュッ。


「まずい……!」


今のゴロには、まともに避ける力が残っていない。

だが、闇弾は途中で勢いを失う。


そして。


──フッ。


ゴロへ届く前に消えた。


「……!」


蓮が巨髑髏主を見る。


眼窩の炎。

身体を包む黒い魔力。


どちらもほとんど残っていない。


「向こうも限界か」


先ほどの大技で、残っていた魔力を使い切ったようだ。


その時。


黒くくすんでいたゴロの水晶の奥へ、ほんの僅かに淡い光が戻った。


「……戻ってる」


闇属性による弱体化は永続ではない。

昨日確認した通り、時間が経てば内部の光は戻る。


まだ僅か。

それでも、少しなら動ける。


だが、巨髑髏主もそれに気付いた。


「カタッ!」


闇弾が駄目なら、直接。

空中から一直線に加速し、大きな牙を開いてゴロへ迫る。


「待ってはくれないか……!」


今のゴロに、走って逃げる余力はない。

短い脚はほとんど動かず、その場から退くこともできない。


ゴロは右腕をゆっくりと持ち上げる。


「……?」


蓮がその腕を見る。

ゴロはその拳を、迫る巨髑髏主へ向けていた。


「……あ」


意図が分かった。

蓮の口元が僅かに上がる。


「……さすが俺の相棒だな」


巨髑髏主が迫る。


十メートル。

五メートル。


三。


牙が大きく開いた。


ゴロは短い脚を踏ん張り、その場へ身体を固定する。


「ゴロ」


こくり。


「≪大地ノ砲拳≫!」


水晶の砲口へ、戻り始めた僅かな光が集まる。


──ドォォンッ!!


大型の水晶弾が放たれた。


真正面。

巨髑髏主の眉間へ。


──ズドォォンッ!!


突き刺さる。

そして──貫いた。


「……カ……タ……」


巨髑髏主の動きが止まった。


──パキッ。


眉間から一本の亀裂。


さらに。


──パキパキッ!


頭蓋全体へ広がっていく。


静寂。


そして。


──ガシャァァァン!!


巨大な頭蓋骨が粉々に砕け散った。

黒い霧となり、空中へ溶けていく。


蓮はしばらく動かなかった。

消えていく黒い霧を見つめる。


完全に消えた。


そこでようやく、大きく息を吐いた。


「……勝った」


ゴロもその場へ腰を落とす。

短い脚を投げ出し、両腕をだらりと垂らした。

肩も、疲れ切ったように落ちている。


蓮は駆け寄った。


「ギリギリだったな」


こくり。


「最後、よくあそこで逃なかったな」


ゴロが少しだけ胸を張る。

そして、弱々しく。


──どんっ。


蓮が笑う。


「本当に、さすがだよ」


手を差し出す。

ゴロの深緑の瞳が輝いた。


腕を持ち上げ、自分の手を重ねる。


──パシンッ!


静まり返った霊廟へ、小気味良い音が響いた。


◇


しばらく休み、ゴロの身体から闇属性による弱体化が抜けるのを待った。

やがて内部の光も戻り、ゴロは土ノ体へ戻る。


二人が向かったのは、霊廟の奥。

そこには、巨大な黒水晶が浮かんでいた。


迷宮核。


「行こう」


こくり。

ゴロが黒水晶の前へ立ち、拳を構える。


「≪迷宮浄化≫」


白い光が黒水晶を包み込む。


黒から灰へ。

そして、純白へ。


次の瞬間。


──パリンッ!!


澄んだ音とともに、水晶が砕け散った。

その欠片の一部が光となり、ゴロへ流れ込む。


「……!」


いつものように、ゴロの肉体が変わる。


土色の身体がゆっくりと黒く染まっていく。

表面は硬質化し、艶のある漆黒へと変わった。


「これは……」


まるで、磨き上げられた黒曜石。


さらに、両腕も変化する。

小指側から肘へかけて鋭く伸び、刃のような形へ変わっていく。

霊廟の淡い光を、黒い刃が鈍く反射した。


蓮が目を見開く。


「黒い石……?」


ゴロも自分の腕を見る。

右、左と交互に持ち上げ、刃へ変わった部分を驚いたように見つめた。


だが、変化は数秒。


漆黒の身体が白い光に包まれ、再び見慣れた土ノ体へ戻った。


蓮はステータスを開く。


──────────────────────


【ゴロ】

肉体スキル:

 ・≪黒曜ノ体≫ NEW!


──────────────────────


蓮はその文字をじっと見つめる。


「≪黒曜ノ体≫……」


新しい肉体。


闇属性。


そして、あの腕の刃。


どんな能力を持つのか。

何が得意で、何が苦手なのか。


考えるだけで、自然と口元が緩む。


「これも調べないとな」


こくり。

ゴロも嬉しそうに頷き、胸を叩いた。


──どんっ。


そして、もう一つ。

最後まで残っていた条件。


蓮は自身のステータスを開く。


──────────────────────


【岩崎蓮】

ランクアップ条件:

 ✔ 召喚獣の存在階位をF-MAXにする

 ✔ F級雷属性迷宮を浄化する

 ✔ F級水属性迷宮を浄化する

 ✔ F級火属性迷宮を浄化する

 ✔ F級風属性迷宮を浄化する

 ✔ F級地属性迷宮を浄化する

 ✔ F級光属性迷宮を浄化する

 ✔ F級闇属性迷宮を浄化する NEW!


《全条件達成》

 ランクアップ 解放!


──────────────────────


「……やっぱり」


蓮は表示された文字を見つめた。


予想していた。


闇が最後だと。


それでも、実際に全てが埋まった画面を見ると、胸の奥からじわりと熱いものが込み上げてくる。


地。

水。

雷。

火。

風。

光。


そして、闇。


七属性すべて。


ゴロと一緒に、一つずつ見つけてきた。


「ようやく……」


蓮が小さく息を吐く。


「ランクアップできるな」


こくり。こくり。

ゴロが何度も頷く。


嬉しそうに、何度も。


蓮も笑った。


今すぐ試したい。

そんな気持ちは、二人とも同じだった。


だが、ここは迷宮の最深部。


何が起きるか分からない場所で、初めてのランクアップを試すのは危険だ。


「ホテルに帰ってからだな」


ゴロが一瞬だけ残念そうな顔をする。


蓮は苦笑した。


「分かってる。俺も今すぐやりたい」


こくり。


「でも、ここまで来たんだ。あと少しだ」


急ぐ必要はない。

蓮はもう一度、ランクアップの文字を見る。


ずっと成長しないと思われていたゴロ。


そのゴロと、ここまで来た。


蓮は拳を握る。


「帰ったら、一緒に次へ行こう」


こくり。


ゴロが笑うように目を細め、胸を叩いた。


──どんっ。


長く探してきた、ゴロの成長条件。


その先にある初めてのランクアップ。


ようやく、その扉が開いた。


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