第26話 水晶ノ体
翌日。
月曜日。
朝。
蓮とゴロは、“光蟲花園”から帰宅した翌朝、再び遠征用の荷物を持って家を出た。
次の目的地は、F級闇属性迷宮──“闇骨墓地”。
今日は攻略しない。
まずは“闇骨墓地”の近くまで移動し、昨日手に入れた新たな肉体≪水晶ノ体≫の能力を確かめておくつもりだ。
電車を乗り継ぎ、さらにバスへ乗る。
昼前。
二人は、“闇骨墓地”から最も近い街へ到着した。
先にホテルへ向かい、数日分の荷物を部屋へ置く。
今回の予定は四日間。
今日は移動。
明日の火曜日に“闇骨墓地”へ挑む。
万が一、一日で攻略できなかった場合に備えて水曜日を予備日とし、木曜日に戻る予定になっている。
必要な物だけを持って、蓮とゴロは再び外へ出た。
向かった先は召喚士ギルド。
その中にある訓練施設だった。
◇
受付を済ませ、蓮とゴロは広い訓練区画へ入る。
床には一定間隔で目印が並び、壁際には各種の魔導装置と魔導人形が設置されている。
≪砂塵ノ体≫を調べた時とは、当然別の施設だ。
だが、備えられている設備はほとんど変わらない。
「ここなら一通り試せそうだな」
こくり。
待機形態のゴロが蓮の肩から飛び降り、戦闘時の大きさへ戻る。
そして。
──どんっ。
胸を叩いた。
蓮もノートを開く。
「じゃあ、一つずつ調べるか」
こくり。
「ゴロ。≪水晶ノ体≫!」
白い光。
土色だった身体が、ゆっくりと透明な水晶へ変わっていく。
光が収まる。
「……改めて見ると、綺麗だな」
ゴロの全身は、透き通った水晶で形作られていた。
身体の内側では、淡い光がゆっくりと流れている。
両手の甲には、細く鋭い水晶の結晶。
照明を受けるたび、全身が宝石のように淡く輝いた。
ゴロも自分の腕を見る。
光へ透かすように何度か角度を変え、少し照れたように頭を掻いた。
「気に入ったみたいだな」
こくり。
「まずは移動からだ」
◇
訓練区画の端。
一直線に並ぶ目印の前へ、ゴロが立つ。
「まず直線」
こくり。
「行け!」
ゴロが床を蹴った。
──ダンッ!
透明な身体が一気に前へ出る。
水晶の足が床を蹴るたび、硬質な音が響いた。
「速いな」
蓮はタイムを確認する。
もう一度。
さらに数回。
結果はほとんど変わらない。
「電晶ノ体より速い」
ただし、≪砂塵ノ体≫ほどではない。
「あっちは別格か」
こくり。
続いて、加速と停止。
「次は、あの目印で止まってみよう」
ゴロが走る。
──ダンッ!
目印の直前。
足を強く踏み込む。
──ザッ!
僅かに滑ったものの、ほぼ狙った位置で停止した。
「停止は問題なし」
続いて方向転換。
右。
左。
斜め。
急な切り返しも試す。
こちらも大きな問題はない。
≪砂塵ノ体≫ほど最高速度は出ない。
その代わり、停止や方向転換は圧倒的に安定している。
「機動力は高めで、扱いやすいな」
蓮はノートへ書き込む。
『移動性能:やや高
・直線速度:電晶以上
・砂塵未満
・加速:良好
・急停止:問題なし
・方向転換:問題なし』
「次は攻撃だ」
◇
訓練用の魔導人形を起動する。
「まず普通に殴ってみよう」
こくり。
ゴロが魔導人形の前へ立ち、水晶の拳を握る。
そのまま。
──ドゴッ!
胸部へ拳が当たる。
魔導人形が僅かに揺れた。
「……弱いな」
表示された数値を見る。
思った以上に低い。
電晶ノ体より低い。
土ノ体にも及ばない。
「近接火力は低めか」
蓮が人形へ近付く。
両手の甲から伸びた水晶結晶も、拳と一緒に人形へ触れている。
だが、結晶が小さいためか刺突による追加ダメージも僅かだった。
「速度はあるけど、殴り合う肉体ではなさそうだな」
ゴロが自分の拳を見る。
少し不満そうだ。
「まだ決めるのは早いって」
蓮が苦笑する。
すると、ゴロがぶんぶんと首を振った。
「ん?」
ゴロは自分の手の甲を指差す。
そして、少し離れた標的へその手を向けた。
「何かあるのか?」
こくり。
次の瞬間。
──パシュッ!
手の甲から、一本の細長い水晶針が射出された。
「なっ!?」
水晶針は一直線に飛ぶ。
──カッ!
離れた標的の中央へ、正確に突き刺さった。
「遠距離攻撃……!」
ゴロが得意げにもう一度腕を向ける。
──パシュッ!
──パシュッ!
──パシュッ!
次々と放たれる水晶針。
蓮は標的へ目を凝らす。
威力はそこまで高くない。
だが、速い。
そして、正確だ。
「かなり精度が高いな」
三本。
四本。
続けて撃っても、着弾位置が大きく散らない。
さらに、蓮はゴロの手の甲を見る。
射出した結晶が、すでに再生し始めている。
一秒ほど。
それだけで元の長さへ戻った。
「再生も速く、連射速度も悪くない」
蓮の口元が上がる。
「なるほど」
近接では目立った特徴がない。
だが、遠距離になると一気に個性が出た。
「水晶ノ体は遠距離型か」
こくり。
ゴロが得意げに胸を張る。
蓮はノートへ書き込んだ。
『攻撃性能
・近接:低め
・水晶針:中威力
・弾速:高
・命中精度:高
・再射出間隔:約一秒(片腕)』
「これは使いやすそうだな」
◇
「次は防御」
蓮は訓練用魔導人形を起動する。
最初は剣。
「出力は低めから」
こくり。
魔導人形が踏み込み、剣を振るう。
──ガキンッ!
刃が水晶の肩へ当たった。
だが、深く食い込まない。
つるりとした表面を滑り、横へ逸れていく。
「受け流した?」
もう一度。
結果は同じ。
僅かな傷は付くが、斬り込まれない。
続けて、槍。
──ガキッ!
先端が胸部へ触れ、そのまま表面を滑って横へ逸れた。
「斬撃と刺突には強い……っていうより」
蓮は水晶の表面を見る。
「滑らせてるのか」
こくり。
硬さそのもので正面から耐えているわけではない。
水晶の滑らかな表面が、刃を逸らしている。
「なら打撃は?」
武器を大型の槌へ変更する。
「腕で受け止めてくれ」
こくり。
魔導人形が槌を振り上げる。
そして。
──ドゴォッ!
水晶の腕へ真正面から叩き込んだ。
「っ!」
透明な身体へ一気に亀裂が走る。
さらに、表面の一部が砕け落ちた。
「やはりこれには弱いか」
斬撃や刺突とは違う。
衝撃そのものを受け流せない。
蓮はノートへ書く。
『防御性能
・斬撃:○
・刺突:○
・打撃:×』
「修復も見よう」
こくり。
蓮が魔力を送り込む。
水晶の亀裂が少しずつ塞がっていく。
砕けた部分も、新たな結晶で埋まっていった。
「火岩より少し速いくらいか」
泥ほどではない。
極端に遅くもない。
「修復は標準程度」
最後に心核。
「動かしてみてくれ」
こくり。
ゴロが胸部へ意識を向ける。
だが、心核は動かない。
「やはり固定か」
こくり。
≪砂塵ノ体≫や≪泥ノ体≫のように、内部を移動させることはできない。
「打撃に弱くて、心核も固定」
蓮が少し考える。
「近距離で殴り合うのは、向いてなさそうだな」
ゴロも納得したように頷いた。
◇
続いて、属性相性。
蓮は訓練用の属性魔導装置を起動する。
「まず地」
地属性の魔力を帯びた土塊が、高速で射出される。
──ドンッ!
ゴロの胸へ直撃。
透明な身体が揺れ、表面へ細かな亀裂が入った。
「……効いたな」
蓮は傷を確認する。
だが、地属性そのものに弱いというより、土塊の重さと硬さによる衝撃が大きい。
先ほど確認した、打撃への弱さが出たと考える方が自然だった。
「属性相性は普通。問題は打撃の方か」
蓮はノートへ書き込む。
『地:-
※土塊による打撃ダメージは大きい』
続いて、水。
──バシャッ!
水球が直撃。
だが、水晶の身体にはほとんど影響がない。
「水には耐性があるな」
さらに、火。
──ボッ!
炎が水晶の身体を包む。
だが、表面にも内部の光にもほとんど変化はない。
「火にも強い」
そして、雷。
──バチィッ!
青白い雷が全身を走る。
だが、身体にも心核にも異変はない。
「雷も問題なし」
蓮はまとめる。
『水:○
火:○
雷:○』
次は風。
──シュッ!
風刃。
水晶の表面へ薄い傷が走った。
地ほど悪くない。
だが、水や火ほど無傷でもない。
「風は普通か」
『風:-』
そして、光属性。
「いくぞ」
こくり。
光球が放たれる。
──パァンッ!
胸へ直撃。
その瞬間。
「おっ?」
身体の内側を流れていた淡い光が、一段強く輝いた。
ゴロ自身も驚いたように、自分の胸を見る。
「ちょっと動いてみよう」
こくり。
ゴロが走る。
先ほどより僅かに速い。
「攻撃も」
ゴロが標的へ手を向ける。
──パシュッ!
水晶針。
弾速が先ほどより上がっている。
着弾。
威力も僅かに高い。
「防御も見よう」
再び魔導人形を起動する。
今度は槌。
同じ出力で、水晶ノ体の肩へ振り下ろした。
──ドゴッ!
ゴロの身体が揺れる。
だが、先ほどほど大きな亀裂は入らない。
「硬くなってるな」
光を受けることで、水晶の硬度そのものも強化されているらしい。
打撃への弱さが消えたわけではない。
それでも、通常時よりは明らかに耐えられている。
「移動も。攻撃も。防御も」
蓮の口元が上がる。
「光を受けると、身体性能全体が上がるのか」
こくり。
ゴロが嬉しそうに胸を叩いた。
──どんっ。
「かなり相性がいいな」
蓮はノートへ書く。
『光:◎
・内部光が強化
・移動性能上昇
・攻撃性能上昇
・防御性能上昇』
最後は、闇属性。
蓮の表情が少しだけ引き締まる。
「明日のことを考えると、ここが一番重要だな」
こくり。
黒い魔力球が装置から放たれた。
──ドッ!
胸へ直撃。
次の瞬間。
「……ん?」
変化はすぐに現れた。
身体の内側を流れていた光が明らかに弱くなり、透き通っていた水晶も僅かに曇ったように見える。
「ゴロ。動いてみてくれ」
こくり。
走る。
遅い。
僅かだが、先ほどより明確に動きが鈍っている。
続けて、水晶針。
──パシュッ!
こちらも弾速と威力が少し落ちていた。
「防御も見よう」
再び魔導人形を起動する。
同じ出力で槌を振り下ろした。
──ドゴッ!
水晶の腕へ、先ほどより大きな亀裂が走る。
「硬度も落ちてるな」
蓮は水晶の内側を見る。
身体自体が直接壊されたわけではない。
弱まっているのは、内部を流れる光。
その影響で、移動、攻撃、防御。
≪水晶ノ体≫の身体性能そのものが落ちているようだった。
「闇属性で、身体の中の光が抑えられたようだな」
少し待つ。
すると、弱まっていた光がゆっくりと戻り始めた。
動きも、水晶針の性能も、水晶の硬さも少しずつ元へ戻っていく。
「ただ、永続ではないと」
蓮はノートへ書き込む。
『闇:×
・内部光弱体
・移動性能低下
・攻撃性能低下
・防御性能低下
・時間経過で回復』
「受ける側では、闇と相性が悪い」
こくり。
明日挑むのは、その闇属性迷宮。
蓮は少し考える。
「でも」
ゴロが蓮を見る。
「逆はまだ分からない」
光と闇。
互いに相剋する属性。
なら、水晶ノ体の攻撃が闇属性へ有効な可能性もある。
ただし、この訓練施設ではそれを確かめられない。
備え付けられているのは、属性攻撃を受けるための装置だけ。
「明日、実戦で試すしかないな」
こくり。
蓮は結果をまとめる。
──────────────────────
≪水晶ノ体≫ 属性耐性
地:- ※土塊による打撃ダメージは大きい
水:○
火:○
風:-
雷:○
光:◎
闇:×
──────────────────────
「明日は闇か」
蓮が小さく呟く。
ゴロも真剣な顔で頷いた。
◇
「最後はスキルだな」
蓮は魔導人形を再び起動する。
「まずは大地ノ拳だな」
こくり。
ゴロが拳を構える。
「ゴロ。≪大地ノ拳≫!」
……。
何も起こらない。
ゴロが自分の拳を見る。
蓮も首を傾げた。
「……あれ?」
もう一度。
「≪大地ノ拳≫!」
だが、結果は同じだった。
拳へ魔力は集まらず、スキルそのものが発動しない。
「発動しない……?」
蓮が眉を寄せる。
「じゃあ、≪大地ノ角撃≫!」
ゴロが構える。
しかし、こちらも不発。
額に角は形成されなかった。
「こっちも駄目か」
二つ続けて不発。
蓮は少し首を傾げた。
「水晶ノ体だと、スキル自体が使えないのか?」
こくり、とも。
首を横へ振るともなく。
ゴロも分からないように、自分の身体を見る。
「なら……」
蓮は別のスキルを試す。
「≪大地ノ甲殻≫!」
次の瞬間。
透明な水晶の表面が、結晶質の甲殻へと変わった。
「……使えた」
ゴロも少し驚いたように腕を見る。
「全部駄目ってわけじゃないのか」
なら、何が違う。
蓮はノートを開いたまま、残るスキルも順番に試していく。
まず。
「≪大地ノ衝撃≫!」
ゴロが地面へ拳を振り下ろす。
だが、何も起こらない。
衝撃波は発生しなかった。
「これも不発」
ここまで。
≪大地ノ拳≫。
≪大地ノ角撃≫。
≪大地ノ衝撃≫。
攻撃系は三つとも発動していない。
だが、まだ残っている。
「次は……≪大地ノ砲拳≫!」
ゴロの右腕が大きく変化した。
透明な水晶が組み替わり、拳全体が砲身のような形へ変わっていく。
「お!」
砲口の奥へ淡い光が集まる。
水晶が圧縮され。
──ドォンッ!!
大きな水晶弾が一直線に射出された。
──ドォォンッ!!
訓練用標的へ直撃。
中央が大きく抉れ、標的そのものが後方へ弾き飛ばされた。
「強い……!」
蓮は端末の表示を見る。
他の肉体で使った時より、明らかに威力が高い。
「発動するだけじゃなく、強くなってるのか」
ここまでの三つとは明らかに違う。
蓮は少し考える。
「近接系は使えない。遠距離系なら使えて、しかも強化される……?」
それなら、もう一つ試せば分かる。
「≪大地ノ棘≫!」
ゴロが地面を踏み込む。
次の瞬間。
──ガガガッ!
離れた場所の床から、透明な水晶の棘が勢いよく突き出した。
「出た」
蓮はすぐに端末へ目を向ける。
だが、表示された数値を見て僅かに眉を寄せた。
「……普通だな」
威力は他の肉体で使った時と、大きく変わらない。
形こそ透明な水晶へ変わっている。
だが、≪大地ノ砲拳≫のような明確な強化は見られなかった。
「じゃあ、遠距離だから強くなるわけじゃないのか」
蓮は結果を並べていく。
≪大地ノ拳≫。
不発。
≪大地ノ角撃≫。
不発。
≪大地ノ衝撃≫。
不発。
≪大地ノ甲殻≫。
発動。
≪大地ノ棘≫。
発動。
威力変化なし。
≪大地ノ砲拳≫。
発動。
威力上昇。
「……何が違う?」
近接攻撃系は不発。
防御系は使える。
遠距離攻撃系も使える。
だが、遠距離なら何でも強くなるわけではない。
強化されたのは、≪大地ノ砲拳≫。
蓮の視線が、ゴロの右腕へ向く。
砲身へ変わった腕から、水晶弾を撃ち出すスキル。
そして、≪水晶ノ体≫が元々持っている攻撃も、腕から作り出した水晶針を相手へ向けて射出するものだった。
「……射出か?」
ゴロが蓮を見る。
「水晶ノ体は遠距離攻撃を使える。その中でも、何かを撃ち出す攻撃とは特に相性がいいのかもしれない」
水晶針。
≪大地ノ砲拳≫。
どちらも、生成したものを相手へ向けて射出する。
一方、≪大地ノ棘≫は違う。
離れた場所を攻撃できるが、何かを飛ばしているわけではない。
地面から直接、棘を生み出している。
「なるほど」
蓮は頷く。
「単純に遠距離なら強くなるんじゃない。射出する攻撃が強くなるのか」
こくり。
ゴロも頷いた。
蓮は結果をまとめる。
『水晶ノ体 スキル適性
・≪大地ノ拳≫:×
・≪大地ノ角撃≫:×
・≪大地ノ衝撃≫:×
・≪大地ノ甲殻≫:○
・≪大地ノ棘≫:○
遠距離攻撃のため使用可能。追加強化なし
・≪大地ノ砲拳≫:◎
射出系との高い適性により威力上昇』
「かなり分かりやすくなったな」
こくり。
ゴロが誇らしげに胸を張った。
◇
すべての検証を終え、蓮はベンチへ腰掛けた。
ノートを開く。
≪水晶ノ体≫。
移動性能は高め。
≪電晶ノ体≫より速く、≪砂塵ノ体≫より遅い。
停止や方向転換も安定している。
近接攻撃力は低い。
その代わり、水晶針による高精度の遠距離攻撃が可能。
射出した結晶は一秒ほどで再生し、連射速度も悪くない。
防御面では、斬撃や刺突を水晶の表面で受け流しやすい。
だが、打撃には弱く、強い衝撃を受ければ亀裂が入る。
心核も動かせない。
属性相性。
地と風は普通。
水、火、雷には耐性がある。
光とは非常に相性が良い。
受けることで内部の光が強まり、移動、攻撃、防御のすべてが上昇する。
そして、闇には弱い。
闇属性を受けると内部の光が抑えられ、移動、攻撃、防御性能が低下する。
ただし、時間が経てば内部の光と一緒に性能も元へ戻る。
スキル適性も、かなりはっきりしていた。
≪大地ノ拳≫。
≪大地ノ角撃≫。
≪大地ノ衝撃≫。
近接系の攻撃スキルは発動しない。
一方で、≪大地ノ甲殻≫は問題なく使用可能。
≪大地ノ棘≫のような遠距離攻撃も発動する。
そして、≪大地ノ砲拳≫。
相手へ攻撃を撃ち出すスキルは、通常より高い威力を発揮した。
「射出系と相性がいいんだな」
蓮は水晶針へ目を向ける。
元々備わっている水晶針も、結晶を作り、それを相手へ撃ち出す攻撃だ。
それを考えれば、この適性にも納得できる。
「今までで一番、遠距離向きなのは変わらないな」
こくり。
ゴロが嬉しそうに胸を叩く。
──どんっ。
「近付かせない」
蓮はノートを見る。
「水晶針で正確に削る。棘で動きを制限して、火力が欲しい時は砲拳」
速度もある。
距離も取れる。
遠距離戦を維持するための性能は、かなり揃っている。
その反面、近付かれれば近接火力の低さが一気に響く。
打撃にも弱い。
「得意な距離が、かなり分かりやすい身体だな」
こくり。
蓮は小さく笑った。
◇
夜。
ホテル。
夕食と風呂を済ませ、蓮はベッドへ腰掛けていた。
隣では、待機形態のゴロが端末を覗き込んでいる。
画面に表示されているのは、明日挑む迷宮。
F級闇属性迷宮──“闇骨墓地”。
「最後に、もう一回確認しておこう」
こくり。
蓮が端末を操作する。
内部は石造りの地下墓地。
出現する魔物は、“骸骨人”といった骸骨型が中心だった。
「骨だから、打撃がかなり有効らしい」
攻略情報でも、骨系魔物は打撃に弱いとされている。
「なら、土ノ体でも十分いけそうだな」
蓮の表情が少し緩む。
最初は≪水晶ノ体≫の実戦確認をするつもりだが、骨系に打撃が有効なら、その後まで別の肉体を維持する必要はない。
土ノ体でも十分に倒せる。
それなら、余計な魔力を使わずに済む。
「魔力を温存できるなら、その方がありがたい」
こくり。
ボス戦まで余計な消耗を抑えられる。
それだけでも、かなり楽になる。
問題は最深部。
蓮が画面をスクロールする。
表示された名前。
髑髏型魔物──“巨髑髏主”。
巨大な頭蓋骨だけで構成された、飛行型の主。
「空中を飛び回るタイプか」
こくり。
基本攻撃は闇弾。
空中から距離を取り、複数の闇属性弾を放つ。
さらに、闇弾には衰弱効果があると記録されていた。
「衰弱……」
蓮が少し考える。
身体機能を弱らせる、闇属性特有の状態異常。
ただし、ゴロはゴーレムだ。
生物と同じように効くとは限らない。
攻略情報でも、ゴーレム系召喚獣には効きにくいとされている。
「でも、受けるまでは分からない。油断はしないようにしておこう」
こくり。
次。
青白い人魂。
弾速は遅い。
その代わり標的を追尾し、触れた相手へ恐怖を与えて、一時的に身体を硬直させる。
「こっちは精神系か」
攻略情報では、こちらもゴーレム系には効きにくいとされていた。
だが、蓮はすぐに頷かなかった。
ゴロを見る。
意思がある。
感情がある。
喜ぶ。
驚く。
悔しがる。
普通のゴーレムと同じとは言い切れない。
「効かない前提では考えない方がいいな」
こくり。
「避けられるなら避ける。無理なら撃ち落とす」
ゴロが頷く。
そして、最大の問題。
巨髑髏主は基本的に空中から降りてこない。
「近接だけだと厳しい」
蓮は今日のノートへ目を落とす。
≪水晶ノ体≫。
高精度の水晶針。
さらに、≪大地ノ棘≫と高威力の≪大地ノ砲拳≫。
「……噛み合ってるな」
空中の相手。
遠距離戦。
≪水晶ノ体≫が得意とする距離だ。
ただし。
「相手は闇属性」
こくり。
≪水晶ノ体≫は、闇属性を受けると内部の光が弱まり、移動、攻撃、防御性能が低下する。
長時間、闇弾を受け続ければ、どんどん不利になる可能性がある。
蓮は少し考える。
「ボス戦も、最初は土ノ体で様子を見る」
こくり。
「闇弾と人魂が、ゴロにどこまで効くか確認する」
近接へ持ち込めるなら、そのまま戦ってもいい。
だが、空中から降りてこない。
追えない。
その時は。
「水晶に切り替える」
こくり。
「水晶針で削る。火力が欲しい時は砲拳」
そして、今日確認できなかったこと。
≪水晶ノ体≫からの攻撃が、闇属性へどこまで通るか。
「光と闇が相剋なら、攻撃側では有利な可能性もある」
ただし、これは明日実際に試すしかない。
「通るなら一気に攻める」
こくり。
「通らないなら、別の身体へ変える」
新しい肉体だから。
闇相手に使えそうだから。
そんな理由で拘るつもりはない。
相手を見る。
試す。
駄目なら変える。
これまでと同じ。
ただし、蓮は端末を見る。
そこに表示されているのは、通常時の攻略情報。
迷宮強化が起きれば、弾数、速度、威力。
それ以外にも、何が変わるか分からない。
「作戦を決めすぎても意味はないな」
こくり。
「基本だけ決めて。あとは中で見る」
ゴロが力強く頷く。
そして。
──どんっ。
小さな胸を叩いた。
蓮も笑う。
「よし」
端末を閉じる。
明日。
最後の属性。
F級闇属性迷宮──“闇骨墓地”。
そこを越えれば、七属性すべてが揃う可能性が高い。
そして、初めてのE級へのランクアップ。
蓮はベッドへ身体を預ける。
「あと一つだな」
こくり。
ゴロも静かに頷いた。
長かった。
それでも、ついにここまで来た。
蓮は目を閉じる。
明日の戦いを思い描きながら、静かに夜を迎えた。




