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才能EXの落ちこぼれ召喚士〜成長の鍵は地脈だった!?〜  作者: SN


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26/31

第26話 水晶ノ体


翌日。

月曜日。


朝。


蓮とゴロは、“光蟲花園”から帰宅した翌朝、再び遠征用の荷物を持って家を出た。


次の目的地は、F級闇属性迷宮──“闇骨墓地”。


今日は攻略しない。

まずは“闇骨墓地”の近くまで移動し、昨日手に入れた新たな肉体≪水晶ノ体≫の能力を確かめておくつもりだ。


電車を乗り継ぎ、さらにバスへ乗る。


昼前。


二人は、“闇骨墓地”から最も近い街へ到着した。

先にホテルへ向かい、数日分の荷物を部屋へ置く。


今回の予定は四日間。


今日は移動。

明日の火曜日に“闇骨墓地”へ挑む。


万が一、一日で攻略できなかった場合に備えて水曜日を予備日とし、木曜日に戻る予定になっている。


必要な物だけを持って、蓮とゴロは再び外へ出た。


向かった先は召喚士ギルド。

その中にある訓練施設だった。


◇


受付を済ませ、蓮とゴロは広い訓練区画へ入る。


床には一定間隔で目印が並び、壁際には各種の魔導装置と魔導人形が設置されている。


≪砂塵ノ体≫を調べた時とは、当然別の施設だ。

だが、備えられている設備はほとんど変わらない。


「ここなら一通り試せそうだな」


こくり。

待機形態のゴロが蓮の肩から飛び降り、戦闘時の大きさへ戻る。


そして。


──どんっ。


胸を叩いた。


蓮もノートを開く。


「じゃあ、一つずつ調べるか」


こくり。


「ゴロ。≪水晶ノ体≫!」


白い光。

土色だった身体が、ゆっくりと透明な水晶へ変わっていく。


光が収まる。


「……改めて見ると、綺麗だな」


ゴロの全身は、透き通った水晶で形作られていた。


身体の内側では、淡い光がゆっくりと流れている。

両手の甲には、細く鋭い水晶の結晶。

照明を受けるたび、全身が宝石のように淡く輝いた。


ゴロも自分の腕を見る。


光へ透かすように何度か角度を変え、少し照れたように頭を掻いた。


「気に入ったみたいだな」


こくり。


「まずは移動からだ」


◇


訓練区画の端。


一直線に並ぶ目印の前へ、ゴロが立つ。


「まず直線」


こくり。


「行け!」


ゴロが床を蹴った。


──ダンッ!


透明な身体が一気に前へ出る。

水晶の足が床を蹴るたび、硬質な音が響いた。


「速いな」


蓮はタイムを確認する。


もう一度。

さらに数回。


結果はほとんど変わらない。


「電晶ノ体より速い」


ただし、≪砂塵ノ体≫ほどではない。


「あっちは別格か」


こくり。


続いて、加速と停止。


「次は、あの目印で止まってみよう」


ゴロが走る。


──ダンッ!


目印の直前。

足を強く踏み込む。


──ザッ!


僅かに滑ったものの、ほぼ狙った位置で停止した。


「停止は問題なし」


続いて方向転換。


右。

左。

斜め。


急な切り返しも試す。


こちらも大きな問題はない。


≪砂塵ノ体≫ほど最高速度は出ない。

その代わり、停止や方向転換は圧倒的に安定している。


「機動力は高めで、扱いやすいな」


蓮はノートへ書き込む。


『移動性能:やや高

 ・直線速度:電晶以上

 ・砂塵未満

 ・加速:良好

 ・急停止:問題なし

 ・方向転換:問題なし』


「次は攻撃だ」


◇


訓練用の魔導人形を起動する。


「まず普通に殴ってみよう」


こくり。

ゴロが魔導人形の前へ立ち、水晶の拳を握る。


そのまま。


──ドゴッ!


胸部へ拳が当たる。

魔導人形が僅かに揺れた。


「……弱いな」


表示された数値を見る。


思った以上に低い。


電晶ノ体より低い。

土ノ体にも及ばない。


「近接火力は低めか」


蓮が人形へ近付く。


両手の甲から伸びた水晶結晶も、拳と一緒に人形へ触れている。

だが、結晶が小さいためか刺突による追加ダメージも僅かだった。


「速度はあるけど、殴り合う肉体ではなさそうだな」


ゴロが自分の拳を見る。

少し不満そうだ。


「まだ決めるのは早いって」


蓮が苦笑する。

すると、ゴロがぶんぶんと首を振った。


「ん?」


ゴロは自分の手の甲を指差す。

そして、少し離れた標的へその手を向けた。


「何かあるのか?」


こくり。


次の瞬間。


──パシュッ!


手の甲から、一本の細長い水晶針が射出された。


「なっ!?」


水晶針は一直線に飛ぶ。


──カッ!


離れた標的の中央へ、正確に突き刺さった。


「遠距離攻撃……!」


ゴロが得意げにもう一度腕を向ける。


──パシュッ!

──パシュッ!

──パシュッ!


次々と放たれる水晶針。


蓮は標的へ目を凝らす。


威力はそこまで高くない。

だが、速い。


そして、正確だ。


「かなり精度が高いな」


三本。

四本。


続けて撃っても、着弾位置が大きく散らない。


さらに、蓮はゴロの手の甲を見る。


射出した結晶が、すでに再生し始めている。


一秒ほど。

それだけで元の長さへ戻った。


「再生も速く、連射速度も悪くない」


蓮の口元が上がる。


「なるほど」


近接では目立った特徴がない。

だが、遠距離になると一気に個性が出た。


「水晶ノ体は遠距離型か」


こくり。

ゴロが得意げに胸を張る。


蓮はノートへ書き込んだ。


『攻撃性能

 ・近接:低め

 ・水晶針:中威力

 ・弾速:高

 ・命中精度:高

 ・再射出間隔:約一秒(片腕)』


「これは使いやすそうだな」


◇


「次は防御」


蓮は訓練用魔導人形を起動する。


最初は剣。


「出力は低めから」


こくり。


魔導人形が踏み込み、剣を振るう。


──ガキンッ!


刃が水晶の肩へ当たった。


だが、深く食い込まない。

つるりとした表面を滑り、横へ逸れていく。


「受け流した?」


もう一度。


結果は同じ。

僅かな傷は付くが、斬り込まれない。


続けて、槍。


──ガキッ!


先端が胸部へ触れ、そのまま表面を滑って横へ逸れた。


「斬撃と刺突には強い……っていうより」


蓮は水晶の表面を見る。


「滑らせてるのか」


こくり。


硬さそのもので正面から耐えているわけではない。

水晶の滑らかな表面が、刃を逸らしている。


「なら打撃は?」


武器を大型の槌へ変更する。


「腕で受け止めてくれ」


こくり。


魔導人形が槌を振り上げる。


そして。


──ドゴォッ!


水晶の腕へ真正面から叩き込んだ。


「っ!」


透明な身体へ一気に亀裂が走る。

さらに、表面の一部が砕け落ちた。


「やはりこれには弱いか」


斬撃や刺突とは違う。

衝撃そのものを受け流せない。


蓮はノートへ書く。


『防御性能

 ・斬撃:○

 ・刺突:○

 ・打撃:×』


「修復も見よう」


こくり。


蓮が魔力を送り込む。


水晶の亀裂が少しずつ塞がっていく。

砕けた部分も、新たな結晶で埋まっていった。


「火岩より少し速いくらいか」


泥ほどではない。

極端に遅くもない。


「修復は標準程度」


最後に心核。


「動かしてみてくれ」


こくり。

ゴロが胸部へ意識を向ける。


だが、心核は動かない。


「やはり固定か」


こくり。


≪砂塵ノ体≫や≪泥ノ体≫のように、内部を移動させることはできない。


「打撃に弱くて、心核も固定」


蓮が少し考える。


「近距離で殴り合うのは、向いてなさそうだな」


ゴロも納得したように頷いた。


◇


続いて、属性相性。


蓮は訓練用の属性魔導装置を起動する。


「まず地」


地属性の魔力を帯びた土塊が、高速で射出される。


──ドンッ!


ゴロの胸へ直撃。

透明な身体が揺れ、表面へ細かな亀裂が入った。


「……効いたな」


蓮は傷を確認する。


だが、地属性そのものに弱いというより、土塊の重さと硬さによる衝撃が大きい。

先ほど確認した、打撃への弱さが出たと考える方が自然だった。


「属性相性は普通。問題は打撃の方か」


蓮はノートへ書き込む。


『地:-

 ※土塊による打撃ダメージは大きい』


続いて、水。


──バシャッ!


水球が直撃。

だが、水晶の身体にはほとんど影響がない。


「水には耐性があるな」


さらに、火。


──ボッ!


炎が水晶の身体を包む。

だが、表面にも内部の光にもほとんど変化はない。


「火にも強い」


そして、雷。


──バチィッ!


青白い雷が全身を走る。

だが、身体にも心核にも異変はない。


「雷も問題なし」


蓮はまとめる。


『水:○

 火:○

 雷:○』


次は風。


──シュッ!


風刃。


水晶の表面へ薄い傷が走った。


地ほど悪くない。

だが、水や火ほど無傷でもない。


「風は普通か」


『風:-』


そして、光属性。


「いくぞ」


こくり。


光球が放たれる。


──パァンッ!


胸へ直撃。


その瞬間。


「おっ?」


身体の内側を流れていた淡い光が、一段強く輝いた。


ゴロ自身も驚いたように、自分の胸を見る。


「ちょっと動いてみよう」


こくり。

ゴロが走る。


先ほどより僅かに速い。


「攻撃も」


ゴロが標的へ手を向ける。


──パシュッ!


水晶針。


弾速が先ほどより上がっている。


着弾。

威力も僅かに高い。


「防御も見よう」


再び魔導人形を起動する。


今度は槌。

同じ出力で、水晶ノ体の肩へ振り下ろした。


──ドゴッ!


ゴロの身体が揺れる。


だが、先ほどほど大きな亀裂は入らない。


「硬くなってるな」


光を受けることで、水晶の硬度そのものも強化されているらしい。


打撃への弱さが消えたわけではない。

それでも、通常時よりは明らかに耐えられている。


「移動も。攻撃も。防御も」


蓮の口元が上がる。


「光を受けると、身体性能全体が上がるのか」


こくり。

ゴロが嬉しそうに胸を叩いた。


──どんっ。


「かなり相性がいいな」


蓮はノートへ書く。


『光:◎

 ・内部光が強化

 ・移動性能上昇

 ・攻撃性能上昇

 ・防御性能上昇』


最後は、闇属性。


蓮の表情が少しだけ引き締まる。


「明日のことを考えると、ここが一番重要だな」


こくり。


黒い魔力球が装置から放たれた。


──ドッ!


胸へ直撃。


次の瞬間。


「……ん?」


変化はすぐに現れた。


身体の内側を流れていた光が明らかに弱くなり、透き通っていた水晶も僅かに曇ったように見える。


「ゴロ。動いてみてくれ」


こくり。


走る。

遅い。


僅かだが、先ほどより明確に動きが鈍っている。


続けて、水晶針。


──パシュッ!


こちらも弾速と威力が少し落ちていた。


「防御も見よう」


再び魔導人形を起動する。

同じ出力で槌を振り下ろした。


──ドゴッ!


水晶の腕へ、先ほどより大きな亀裂が走る。


「硬度も落ちてるな」


蓮は水晶の内側を見る。


身体自体が直接壊されたわけではない。

弱まっているのは、内部を流れる光。


その影響で、移動、攻撃、防御。

≪水晶ノ体≫の身体性能そのものが落ちているようだった。


「闇属性で、身体の中の光が抑えられたようだな」


少し待つ。


すると、弱まっていた光がゆっくりと戻り始めた。

動きも、水晶針の性能も、水晶の硬さも少しずつ元へ戻っていく。


「ただ、永続ではないと」


蓮はノートへ書き込む。


『闇:×

 ・内部光弱体

 ・移動性能低下

 ・攻撃性能低下

 ・防御性能低下

 ・時間経過で回復』


「受ける側では、闇と相性が悪い」


こくり。


明日挑むのは、その闇属性迷宮。

蓮は少し考える。


「でも」


ゴロが蓮を見る。


「逆はまだ分からない」


光と闇。

互いに相剋する属性。


なら、水晶ノ体の攻撃が闇属性へ有効な可能性もある。


ただし、この訓練施設ではそれを確かめられない。

備え付けられているのは、属性攻撃を受けるための装置だけ。


「明日、実戦で試すしかないな」


こくり。


蓮は結果をまとめる。


──────────────────────


≪水晶ノ体≫ 属性耐性


 地:- ※土塊による打撃ダメージは大きい

 水:○

 火:○

 風:-

 雷:○

 光:◎

 闇:×


──────────────────────


「明日は闇か」


蓮が小さく呟く。


ゴロも真剣な顔で頷いた。


◇


「最後はスキルだな」


蓮は魔導人形を再び起動する。


「まずは大地ノ拳だな」


こくり。

ゴロが拳を構える。


「ゴロ。≪大地ノ拳≫!」


……。


何も起こらない。


ゴロが自分の拳を見る。

蓮も首を傾げた。


「……あれ?」


もう一度。


「≪大地ノ拳≫!」


だが、結果は同じだった。

拳へ魔力は集まらず、スキルそのものが発動しない。


「発動しない……?」


蓮が眉を寄せる。


「じゃあ、≪大地ノ角撃≫!」


ゴロが構える。


しかし、こちらも不発。

額に角は形成されなかった。


「こっちも駄目か」


二つ続けて不発。

蓮は少し首を傾げた。


「水晶ノ体だと、スキル自体が使えないのか?」


こくり、とも。

首を横へ振るともなく。


ゴロも分からないように、自分の身体を見る。


「なら……」


蓮は別のスキルを試す。


「≪大地ノ甲殻≫!」


次の瞬間。

透明な水晶の表面が、結晶質の甲殻へと変わった。


「……使えた」


ゴロも少し驚いたように腕を見る。


「全部駄目ってわけじゃないのか」


なら、何が違う。


蓮はノートを開いたまま、残るスキルも順番に試していく。


まず。


「≪大地ノ衝撃≫!」


ゴロが地面へ拳を振り下ろす。


だが、何も起こらない。

衝撃波は発生しなかった。


「これも不発」


ここまで。


≪大地ノ拳≫。

≪大地ノ角撃≫。

≪大地ノ衝撃≫。


攻撃系は三つとも発動していない。


だが、まだ残っている。


「次は……≪大地ノ砲拳≫!」


ゴロの右腕が大きく変化した。

透明な水晶が組み替わり、拳全体が砲身のような形へ変わっていく。


「お!」


砲口の奥へ淡い光が集まる。


水晶が圧縮され。


──ドォンッ!!


大きな水晶弾が一直線に射出された。


──ドォォンッ!!


訓練用標的へ直撃。

中央が大きく抉れ、標的そのものが後方へ弾き飛ばされた。


「強い……!」


蓮は端末の表示を見る。

他の肉体で使った時より、明らかに威力が高い。


「発動するだけじゃなく、強くなってるのか」


ここまでの三つとは明らかに違う。

蓮は少し考える。


「近接系は使えない。遠距離系なら使えて、しかも強化される……?」


それなら、もう一つ試せば分かる。


「≪大地ノ棘≫!」


ゴロが地面を踏み込む。


次の瞬間。


──ガガガッ!


離れた場所の床から、透明な水晶の棘が勢いよく突き出した。


「出た」


蓮はすぐに端末へ目を向ける。

だが、表示された数値を見て僅かに眉を寄せた。


「……普通だな」


威力は他の肉体で使った時と、大きく変わらない。


形こそ透明な水晶へ変わっている。

だが、≪大地ノ砲拳≫のような明確な強化は見られなかった。


「じゃあ、遠距離だから強くなるわけじゃないのか」


蓮は結果を並べていく。


≪大地ノ拳≫。

不発。


≪大地ノ角撃≫。

不発。


≪大地ノ衝撃≫。

不発。


≪大地ノ甲殻≫。

発動。


≪大地ノ棘≫。

発動。

威力変化なし。


≪大地ノ砲拳≫。

発動。

威力上昇。


「……何が違う?」


近接攻撃系は不発。


防御系は使える。

遠距離攻撃系も使える。


だが、遠距離なら何でも強くなるわけではない。


強化されたのは、≪大地ノ砲拳≫。


蓮の視線が、ゴロの右腕へ向く。


砲身へ変わった腕から、水晶弾を撃ち出すスキル。

そして、≪水晶ノ体≫が元々持っている攻撃も、腕から作り出した水晶針を相手へ向けて射出するものだった。


「……射出か?」


ゴロが蓮を見る。


「水晶ノ体は遠距離攻撃を使える。その中でも、何かを撃ち出す攻撃とは特に相性がいいのかもしれない」


水晶針。

≪大地ノ砲拳≫。


どちらも、生成したものを相手へ向けて射出する。


一方、≪大地ノ棘≫は違う。


離れた場所を攻撃できるが、何かを飛ばしているわけではない。

地面から直接、棘を生み出している。


「なるほど」


蓮は頷く。


「単純に遠距離なら強くなるんじゃない。射出する攻撃が強くなるのか」


こくり。

ゴロも頷いた。


蓮は結果をまとめる。


『水晶ノ体 スキル適性

 ・≪大地ノ拳≫:×

 ・≪大地ノ角撃≫:×

 ・≪大地ノ衝撃≫:×

 ・≪大地ノ甲殻≫:○

 ・≪大地ノ棘≫:○

  遠距離攻撃のため使用可能。追加強化なし

 ・≪大地ノ砲拳≫:◎

  射出系との高い適性により威力上昇』


「かなり分かりやすくなったな」


こくり。

ゴロが誇らしげに胸を張った。


◇


すべての検証を終え、蓮はベンチへ腰掛けた。


ノートを開く。


≪水晶ノ体≫。


移動性能は高め。

≪電晶ノ体≫より速く、≪砂塵ノ体≫より遅い。


停止や方向転換も安定している。


近接攻撃力は低い。

その代わり、水晶針による高精度の遠距離攻撃が可能。


射出した結晶は一秒ほどで再生し、連射速度も悪くない。


防御面では、斬撃や刺突を水晶の表面で受け流しやすい。

だが、打撃には弱く、強い衝撃を受ければ亀裂が入る。

心核も動かせない。


属性相性。


地と風は普通。

水、火、雷には耐性がある。


光とは非常に相性が良い。


受けることで内部の光が強まり、移動、攻撃、防御のすべてが上昇する。


そして、闇には弱い。


闇属性を受けると内部の光が抑えられ、移動、攻撃、防御性能が低下する。

ただし、時間が経てば内部の光と一緒に性能も元へ戻る。


スキル適性も、かなりはっきりしていた。


≪大地ノ拳≫。

≪大地ノ角撃≫。

≪大地ノ衝撃≫。


近接系の攻撃スキルは発動しない。


一方で、≪大地ノ甲殻≫は問題なく使用可能。

≪大地ノ棘≫のような遠距離攻撃も発動する。


そして、≪大地ノ砲拳≫。


相手へ攻撃を撃ち出すスキルは、通常より高い威力を発揮した。


「射出系と相性がいいんだな」


蓮は水晶針へ目を向ける。

元々備わっている水晶針も、結晶を作り、それを相手へ撃ち出す攻撃だ。

それを考えれば、この適性にも納得できる。


「今までで一番、遠距離向きなのは変わらないな」


こくり。

ゴロが嬉しそうに胸を叩く。


──どんっ。


「近付かせない」


蓮はノートを見る。


「水晶針で正確に削る。棘で動きを制限して、火力が欲しい時は砲拳」


速度もある。

距離も取れる。


遠距離戦を維持するための性能は、かなり揃っている。

その反面、近付かれれば近接火力の低さが一気に響く。


打撃にも弱い。


「得意な距離が、かなり分かりやすい身体だな」


こくり。


蓮は小さく笑った。


◇


夜。


ホテル。


夕食と風呂を済ませ、蓮はベッドへ腰掛けていた。

隣では、待機形態のゴロが端末を覗き込んでいる。


画面に表示されているのは、明日挑む迷宮。


F級闇属性迷宮──“闇骨墓地”。


「最後に、もう一回確認しておこう」


こくり。


蓮が端末を操作する。


内部は石造りの地下墓地。

出現する魔物は、“骸骨人”といった骸骨型が中心だった。


「骨だから、打撃がかなり有効らしい」


攻略情報でも、骨系魔物は打撃に弱いとされている。


「なら、土ノ体でも十分いけそうだな」


蓮の表情が少し緩む。


最初は≪水晶ノ体≫の実戦確認をするつもりだが、骨系に打撃が有効なら、その後まで別の肉体を維持する必要はない。


土ノ体でも十分に倒せる。

それなら、余計な魔力を使わずに済む。


「魔力を温存できるなら、その方がありがたい」


こくり。


ボス戦まで余計な消耗を抑えられる。

それだけでも、かなり楽になる。


問題は最深部。


蓮が画面をスクロールする。


表示された名前。


髑髏型魔物──“巨髑髏主”。


巨大な頭蓋骨だけで構成された、飛行型の主。


「空中を飛び回るタイプか」


こくり。


基本攻撃は闇弾。

空中から距離を取り、複数の闇属性弾を放つ。

さらに、闇弾には衰弱効果があると記録されていた。


「衰弱……」


蓮が少し考える。


身体機能を弱らせる、闇属性特有の状態異常。

ただし、ゴロはゴーレムだ。

生物と同じように効くとは限らない。

攻略情報でも、ゴーレム系召喚獣には効きにくいとされている。


「でも、受けるまでは分からない。油断はしないようにしておこう」


こくり。


次。


青白い人魂。


弾速は遅い。

その代わり標的を追尾し、触れた相手へ恐怖を与えて、一時的に身体を硬直させる。


「こっちは精神系か」


攻略情報では、こちらもゴーレム系には効きにくいとされていた。

だが、蓮はすぐに頷かなかった。


ゴロを見る。


意思がある。

感情がある。


喜ぶ。

驚く。

悔しがる。


普通のゴーレムと同じとは言い切れない。


「効かない前提では考えない方がいいな」


こくり。


「避けられるなら避ける。無理なら撃ち落とす」


ゴロが頷く。


そして、最大の問題。


巨髑髏主は基本的に空中から降りてこない。


「近接だけだと厳しい」


蓮は今日のノートへ目を落とす。


≪水晶ノ体≫。


高精度の水晶針。

さらに、≪大地ノ棘≫と高威力の≪大地ノ砲拳≫。


「……噛み合ってるな」


空中の相手。

遠距離戦。


≪水晶ノ体≫が得意とする距離だ。


ただし。


「相手は闇属性」


こくり。


≪水晶ノ体≫は、闇属性を受けると内部の光が弱まり、移動、攻撃、防御性能が低下する。


長時間、闇弾を受け続ければ、どんどん不利になる可能性がある。


蓮は少し考える。


「ボス戦も、最初は土ノ体で様子を見る」


こくり。


「闇弾と人魂が、ゴロにどこまで効くか確認する」


近接へ持ち込めるなら、そのまま戦ってもいい。


だが、空中から降りてこない。

追えない。


その時は。


「水晶に切り替える」


こくり。


「水晶針で削る。火力が欲しい時は砲拳」


そして、今日確認できなかったこと。

≪水晶ノ体≫からの攻撃が、闇属性へどこまで通るか。


「光と闇が相剋なら、攻撃側では有利な可能性もある」


ただし、これは明日実際に試すしかない。


「通るなら一気に攻める」


こくり。


「通らないなら、別の身体へ変える」


新しい肉体だから。

闇相手に使えそうだから。


そんな理由で拘るつもりはない。


相手を見る。

試す。

駄目なら変える。


これまでと同じ。


ただし、蓮は端末を見る。

そこに表示されているのは、通常時の攻略情報。


迷宮強化が起きれば、弾数、速度、威力。

それ以外にも、何が変わるか分からない。


「作戦を決めすぎても意味はないな」


こくり。


「基本だけ決めて。あとは中で見る」


ゴロが力強く頷く。

そして。


──どんっ。


小さな胸を叩いた。


蓮も笑う。


「よし」


端末を閉じる。


明日。


最後の属性。

F級闇属性迷宮──“闇骨墓地”。


そこを越えれば、七属性すべてが揃う可能性が高い。

そして、初めてのE級へのランクアップ。


蓮はベッドへ身体を預ける。


「あと一つだな」


こくり。

ゴロも静かに頷いた。


長かった。

それでも、ついにここまで来た。


蓮は目を閉じる。


明日の戦いを思い描きながら、静かに夜を迎えた。


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