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才能EXの落ちこぼれ召喚士〜成長の鍵は地脈だった!?〜  作者: SN


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21/31

第21話 砂塵ノ体


翌日。

月曜日。


朝。


蓮とゴロは、“風鳥丘陵”近くの宿を出た。


次の目的地は、F級地属性迷宮──“土蟲窟”。


今日は攻略しない。

まずは“土蟲窟”の近くまで移動し、昨日手に入れた新たな肉体≪砂塵ノ体≫の能力を確かめておくつもりだ。


電車を乗り継ぎ、さらにバスへ乗る。


昼前。


二人は“土蟲窟”から最も近い街へ到着した。


先にホテルへ向かい、数日分の荷物を部屋へ置く。

必要な物だけを持って、再び外へ出た。


向かった先は召喚士ギルド。

その中にある訓練施設だった。


◇


受付を済ませ、蓮とゴロは広い訓練区画へ入る。


床には一定間隔で目印が並び、壁際には各種の魔導装置と魔導人形が設置されている。

十分な広さもある。


「ここなら問題なく試せそうだな」


こくり。

待機形態のゴロが蓮の肩から飛び降り、戦闘時の大きさへ戻る。


そして。


──どんっ。


胸を叩いた。

準備はできているらしい。


蓮はノートを開く。


「じゃあ、一つずつ調べるか」


こくり。


「ゴロ。≪砂塵ノ体≫!」


白い光。


土色だった身体が少しずつ崩れていく。

だが、その場へ落ちることはない。


細かな砂へ変わりながら、淡い黄土色の身体を作り上げていく。


上半身は人型を保っている。

頭部も、胸も、両腕も砂で形作られていた。


その表面では、細かな砂粒が絶えず流動している。


そして、腰から下には脚がない。

代わりに、砂塵の渦が回転しながら身体を支えていた。


「改めて見ると、本当に砂嵐みたいだな」


ゴロも自分の身体を見下ろす。

下半身に渦巻く砂塵を不思議そうに眺め、何度か身体を左右へ動かした。

そのまま前へ進もうとする。


次の瞬間。


──シュッ!!


「速っ!」


ゴロの身体が、思った以上の勢いで前へ滑った。


ゴロ自身も驚いたらしい。

慌てて止まろうとする。


だが。


──ザザザザッ!!


すぐには止まれない。

数メートル滑って、ようやく停止した。


しばらく沈黙。


ゴロがゆっくり振り返る。

そして、何事もなかったように。


──どんっ。


胸を叩いた。


「いや、今のは誤魔化せてないぞ」


蓮が苦笑する。

ゴロは僅かに顔を逸らした。


「まずは移動からだな」


◇


訓練区画の端。

一直線に並ぶ目印の前へ、ゴロが立つ。


「まずは直線移動」


こくり。


「行け!」


下半身の砂塵が強く渦巻き、ゴロが地面を滑るように走り出した。


──ザシュッ!!


「……速いな」


これまでのゴロとは、明らかに動きが違う。


一歩ずつ地面を踏むのではなく、下半身の砂塵で滑るように進む。

そのまま徐々に速度を上げていく。


やがて、離れた目印の前へ到達した。


土ノ体。

≪電晶ノ体≫。

≪泥ノ体≫。

≪火岩ノ体≫。


これまでのどの肉体よりも速い。


特に≪火岩ノ体≫とは比べものにならない。

重い身体を一歩ずつ動かす火岩に対し、≪砂塵ノ体≫は地面を滑るように進む。


「もう一度」


何度か直線移動を繰り返す。


加速も速い。

動き始めてから速度へ乗るまでの時間は短い。


とはいえ、最初から一気に最高速度へ達するわけではない。

下半身の砂塵を強く回転させながら、滑るように速度を上げていく。


「次は、あの目印で止まってみよう」


ゴロが頷く。


再び加速。


──ザシュッ!!


目印が近付くと、ゴロは下半身の渦を弱めて減速する。


だが。


──ズザァァッ!!


止まり切れない。

目印を通り過ぎ、さらに数メートル滑ってようやく停止した。


「急には止まれないか」


何度か試しても、結果は同じだった。

速度が出ているほど、停止までに距離が必要になる。


続いて方向転換。


右。

左。

斜め。


緩やかに曲がるなら問題はない。

砂塵の向きを変えながら、滑るように進路を変えられる。


だが、直角に曲がろうとすると大きく外側へ膨らんでしまう。


一度。


曲がり切れず、訓練用の壁へ向かってしまった。


「ゴロ!」


──ザザザッ!!


必死に減速。


壁の少し手前で、どうにか停止した。


ゴロが壁を見る。

次に、蓮を見る。


「……」


こくり。


「速いけど、小回りは利かないな」


最後に、飛行できるかも確認してみる。


段差から飛び降りたり、下半身の渦を強めて上へ跳び上がろうとしたりと、何度か試してみる。


しかし、ゴロの身体が大きく浮き上がることはなかった。


僅かな段差なら、勢いを付けて滑るように越えられる。

だが、空中を自由に移動することはできない。


「浮いてるように見えるだけか」


蓮は下半身を見る。

砂塵の渦の最下部は、常に床へ触れている。


「飛行型じゃないな」


少し考え。


「地上高速移動型か」


こくり。


蓮はノートへ書き込む。


『移動性能:高

 ・直線速度:現状最速

 ・加速:速い

 ・急停止:苦手

 ・急方向転換:苦手

 ・飛行:不可』


「移動はこんなところだな」


ゴロも納得したように頷いた。


◇


続いて、攻撃性能。


蓮は訓練用の魔導人形を起動する。


「まずは普通に殴ってみよう」


こくり。

ゴロが魔導人形の前へ移動し、砂の拳を握ってそのまま振り抜いた。


──バシッ!


胸部へ拳が当たる。

魔導人形が僅かに揺れた。


それだけ。


「……軽いな」


土ノ体よりも軽い。

電晶や火岩とは比べるまでもない。


泥と比べても、単純な打撃力は低い。


「重さで殴る身体じゃないか」


蓮が人形へ近付く。

その時。


「……ん?」


拳が当たった場所。


装甲の表面に、細かな傷が何本も刻まれていた。


大きくへこんではいない。

だが、僅かに削れている。


「もう一度」


こくり。


──バシッ!


蓮は、拳が触れる瞬間をよく見る。


砂の拳。

その表面では、細かな砂粒が高速で流れていた。


──ザリザリッ。


接触。


装甲表面が削れる。


「なるほど」


蓮は目を細める。


「衝撃で壊すんじゃない。砂で削ってるのか」


拳そのものは軽い。

だが、触れた場所を砂塵がヤスリのように削り取っている。


蓮はノートへ書き込む。


『通常打撃:低

 ・接触時に砂塵で対象を削る』


「面白いな」


そこで、一つ試したいことが浮かんだ。


≪砂塵ノ体≫の最大の特徴は速度。

なら、その速度を攻撃へ乗せればどうなる。


「少し離れてくれ」


こくり。

ゴロが魔導人形から距離を取る。


「そのまま行け!」


──ザシュッ!!


ゴロが滑るように加速する。

速度を乗せながら距離を詰め、その勢いのまま拳を叩き込んだ。


──ドッ!!


魔導人形の胸部が揺れる。

先ほどよりも衝撃は大きい。


だが。


「……思ったほどじゃないな」


速度を乗せた割に、打撃そのものは大きく伸びていない。


「拳自体が軽いからか?」


蓮が攻撃跡を見る。


そして。


「……こっちは違う」


へこみは浅い。

だが、削れ方は先ほどより明らかに深く、広い。


「速度を乗せると、削る力が上がるのか」


もう一度。


──ドッ!!


さらに。


──ドッ!!


結果は同じだった。


打撃力はそれほど大きく変わらない。

その一方で、速度が上がるほど装甲へ刻まれる削り傷は深くなる。


「なるほど」


蓮はノートへ追記する。


『高速移動時

 ・打撃力:僅かに上昇

 ・削り性能:大きく上昇』


「砂塵ノ体は、速さを乗せて削る身体か」


こくり。


ゴロも自分の拳を見る。

表面を流れ続ける砂を眺め、何度か手を握って開き、満足そうに頷いた。


◇


「次は防御だな」


槍型の魔導人形を起動する。

出力は低め。


「まずは軽く」


──ガッ!


槍が砂塵ノ体の肩へ突き刺さる。

次の瞬間。


──バシュッ!!


肩の砂が大きく吹き飛んだ。


「……脆いな」


槍はほとんど抵抗を受けず、そのまま身体を貫いている。

硬い岩や結晶とは、まるで違う。


「受け止める力はかなり低い」


吹き飛んだ砂が床へ落ちる。

だが、その直前。


下半身の砂塵へ引き寄せられるように戻り始めた。


──ザザザッ。


散った砂が身体へ集まり、肩が元の形へ戻る。


「速い」


今度は、少し出力を上げる。


──ガァンッ!!


右腕が大きく吹き飛んだ。

砂が周囲へ散る。


だが、すぐに渦へ巻き込まれるように戻り始めた。


──ザザザザッ。


右腕が再形成される。


「戻る速度だけなら、泥より速いかもしれないな」


蓮は慎重に様子を見る。


≪泥ノ体≫は柔らかく、変形して攻撃を受け、多少の衝撃なら逃がすこともできる。


それに対して、≪砂塵ノ体≫は攻撃を受ければ簡単に崩れる。

その代わり、散った砂が戻る速度は速い。


「泥は受ける身体」


少し考え。


「砂塵は、崩れて戻る身体か」


こくり。


似ている。

だが、役割は違う。


蓮はノートへ記録する。


『防御性能:低

 ・被弾すると簡単に崩れる

 ・散った砂は高速で再集合』


「次は心核だな」


ゴロが頷く。


「動かしてみてくれ」


こくり。

ゴロが胸にある心核へ意識を向ける。


直後。


心核が砂の身体の中を滑るように動き始めた。


胸から右肩。

右肩から上腕。


さらに腹部。

腰。


「動くな」


≪泥ノ体≫と同じ。

硬い肉体では動かなかった心核が、≪砂塵ノ体≫では問題なく移動できる。


「泥と同じで、砂塵でも心核は動かせるのか」


防御力は低い。

だが、崩れても戻る。


さらに、狙われる場所が分かっていれば、心核そのものを逃がせる。


「これなら脆さもある程度は補えるな」


蓮はノートへ一行加える。


『心核:身体内部を移動可能』


こくり。

ゴロも真剣に頷いた。


◇


続いて、属性相性。


蓮は訓練用魔導装置を起動する。

まずは地属性。


「いくぞ」


こくり。

複数の土塊が、ゴロへ向かって放たれた。


──ドドドッ!!


ゴロは避けない。

土塊が砂塵ノ体へ直撃する。


その瞬間。


──ザザザザッ!!


身体表面を流れる砂が、土塊の表面を削っていく。

勢いを失った土塊は、そのまま細かく崩れた。


「やっぱり地には強いな」


風は地に強い。

≪砂塵ノ体≫にも、その相性がしっかり現れている。


とはいえ、完全に無効化できるわけではない。


蓮はノートへ書き込む。


『地:◎

 地属性攻撃を削り、威力を軽減』


「実戦でどこまで通じるかは、明日だな」


続いて水属性。

大きな水球が放たれる。


──バシャァッ!!


直撃。


その瞬間。


「……重くなった?」


砂が水を含む。

下半身の渦は、目に見えて勢いを失った。


ゴロが前へ進む。


──ザ……ザザッ。


遅い。

先ほどまでの滑るような速度が出ない。


さらに、右腕に攻撃を受ける。


──バシュッ!!


砂が崩れる。

散った砂は戻ろうとするが、水を含んで重くなったことで、集まる速度も明らかに落ちていた。


「移動だけじゃない。戻る速度まで落ちるのか」


水属性。

これは明確な弱点だった。


『水:△

 移動速度低下+再集合速度低下』


次は火属性。

火球が放たれる。


──ボォッ!!


炎が砂塵ノ体を包む。

その瞬間、下半身の渦が大きく乱れた。


ゴロが前へ進む。


──ザシュッ。

──ザザッ。


加速が安定しない。

さらに砂塵に煽られ、炎そのものも勢いを増していく。


──ボォォッ!!


「やっぱり相性は悪いな」


風属性は火に弱い。

そのうえ、砂塵の風が相手の火勢まで強めてしまう。


「これは厄介だ」


蓮はノートへ書き込む。


『火:△

 渦の乱れによる移動低下+火勢を増幅』


続いて風属性。

強い風が、正面から砂塵ノ体へ吹き付ける。


──ゴォォッ!!


だが、身体表面の砂が風に合わせて流れ、風圧を逃がしていく。


ゴロの身体が僅かに揺れる。

それだけだった。


「風はかなり受け流せるみたいだな」


もう一度。


──ゴォォッ!!


結果は同じ。


外部の風を取り込んで速度が上がるような変化はない。

その代わり、風属性の影響そのものをかなり抑えられるようだった。


『風:○

 風圧を受け流し、影響を軽減』


「強化まではされないか」


≪火岩ノ体≫とは違う。


あちらは風を受けることで蓄熱が進んだ。

≪砂塵ノ体≫は、風そのものを流して受ける。


同じ属性への強さでも、身体によって性質は違うらしい。


その後。


雷。

光。

闇。


順番に確認していく。

いずれも目立った変化は見られなかった。


蓮はノートへ結果をまとめる。


──────────────────────


≪砂塵ノ体≫ 属性耐性

 地:◎

 水:△

 火:△

 風:○ ※風の影響低減

 雷:ー

 光:ー

 闇:ー


──────────────────────


「ふむふむ」


地属性には有利。

水と火には不利。


風属性は、受け流すことで影響をかなり抑えられる。


その他は大きな変化なし。


「次の土蟲窟では、かなり使えそうだな」


こくり。


◇


「最後はスキルだ」


蓮は魔導人形を再び起動する。


「まずは大地ノ拳」


ゴロが拳を構える。


「ゴロ。≪大地ノ拳≫!」


右拳へ魔力が集まる。

拳の表面を流れる砂が、先ほど以上の速度で回転を始めた。


──ザザザザザッ!!


「そのまま行け!」


──ザシュッ!!


ゴロが加速する。

一気に間合いへ入り、拳を叩き込んだ。


──ドゴッ!!


衝撃。


そして。


──ギャリギャリッ!!


高速で回転する砂塵が装甲を一気に削る。


ゴロが離れる。

胸部には、通常の拳より深い削り跡。


「やっぱり削る力が増してるな」


≪大地ノ拳≫による打撃強化。

そして、≪砂塵ノ体≫では拳周辺を流れる砂までさらに激しくなる。


蓮はノートへ書き込む。


『≪大地ノ拳≫

 打撃強化+拳周辺の削り性能上昇』


「削りの強化がこの肉体の特徴だな」


こくり。


その後、他のスキルも一通り試した。


≪大地ノ角撃≫。

元々高い直線速度がさらに上昇する。

その代わり、停止と方向転換はより難しくなった。


≪大地ノ甲殻≫。

身体表面の砂が圧縮され、普段より崩れにくくなる。


≪大地ノ衝撃≫。

衝撃波とともに細かな砂塵を周囲へ撒き散らす。


≪大地ノ棘≫。

地面から圧縮された砂の棘が突き出す。

さらに、棘の表面では細かな砂が高速で流れ、触れた相手を削る。


そして。


≪大地ノ砲拳≫。


拳が砲身へ変わり、圧縮された砂塵弾を撃ち出す。


──ドンッ!!


速い。

≪火岩ノ体≫で放った岩弾よりも、明らかに弾速が高い。


魔導人形へ命中。


──バシュッ!!


着弾と同時に砂が弾け、装甲表面を削っていく。


「威力より、速さと削りか」


蓮はノートへ書き込む。


『≪大地ノ砲拳≫

 高速砂塵弾

 火岩弾より弾速が高い

 着弾時に砂塵で対象を削る』


蓮はノートへ結果をまとめる。


『≪砂塵ノ体≫ スキル変化

 ・大地ノ拳:打撃強化+削り強化

 ・大地ノ角撃:直線加速強化

 ・大地ノ甲殻:砂を圧縮し崩れにくくする

 ・大地ノ衝撃:衝撃波+砂塵

 ・大地ノ棘:圧縮した砂の棘+接触削り

 ・大地ノ砲拳:高速砂塵弾+着弾時に削る』


「やっぱり、速さと削りだな」


こくり。

ゴロも嬉しそうに頷いた。


◇


すべての検証を終え、蓮はノートを見返した。


≪砂塵ノ体≫。


直線速度は、これまでの肉体で最速。

加速も速い。


その代わり、急停止と急な方向転換は苦手で、飛行もできない。


拳は軽く、単純な打撃力は低い。

だが、身体を流れる砂塵で触れたものを削ることができる。


速度を乗せれば、その削る力はさらに増す。


防御性能は低い。

攻撃を受ければ簡単に崩れる。


その代わり、散った砂が戻る速度は速い。

心核も移動可能。


地属性には有利。

水と火には不利。


風属性は、身体の砂を流すことで受け流せる。


さらに、各スキルにも≪砂塵ノ体≫らしい変化が現れる。


「速さを武器にする身体だな」


蓮は小さく笑う。


これまでのゴロは、基本的に相手の攻撃を受けながら距離を詰める戦いが多かった。


耐える。

受ける。

そして、近付いて殴る。


だが、≪砂塵ノ体≫は違う。


先に動く。

距離を取る。

一気に詰めて削る。


「かなり戦い方が変わりそうだな」


こくり。

ゴロが下半身の砂塵を強く回転させる。


──ザシュッ!!


滑るように加速し、訓練区画の端へ向かう。


そして、減速。


──ザザッ。


目印を少しだけ越えた。


「まだ止まれてないぞ」


ゴロが黙って、ゆっくり振り返る。


蓮は思わず笑った。


◇


夜。

ホテル。


蓮はベッドへ腰掛け、携帯を耳へ当てていた。


『もしもし、蓮?』


夏希だ。


「おう」

『今日はどうだった?』

「砂塵ノ体の検証してた」

『どうだった?』

「速い」


少し間を置く。


「ゴロとしては、かなり」

『へえ』


夏希の声が弾む。


『ゴロが速いの、なんか想像つかない』

「俺もそう思う」


蓮は苦笑する。


これまで、ゴロの大きな弱点は機動力だった。

だからこそ、≪砂塵ノ体≫の速さは大きい。


少し近況を話し、やがて話題は明日の迷宮へ移った。


『次は地属性なんだよね?』

「ああ」


F級地属性迷宮──“土蟲窟”。


『今度はどんな身体になるんだろうね』

「さあな」


蓮は小さく笑う。


水では泥。

雷では電晶。

火では火岩。

風では砂塵。


どれも、単純な予想通りにはいかなかった。


『普通に考えたら、石とか?』

「地なら、それが一番ありそうだけどな」

『でも、また全然違ったりして』

「ありそうだな」


二人で小さく笑う。


その時、蓮はふと思った。


「なあ」

『ん?』

「同じ属性の別の迷宮を浄化したら、どうなるんだろうな」

『別の?』

「ああ」


例えば、別のF級火属性迷宮。


そこを浄化した場合、何も起きないのか。

別の火属性の肉体になるのか。

それとも、今ある≪火岩ノ体≫に何か変化が起こるのか。


『……分からないね』

「だよな」

『でも、気になる』

「俺も」


答えは出ない。


だからこそ、確かめてみたい。


「いつか試すか」

『うん』


短くそう言って、二人は笑った。


◇


通話を終える。


蓮は端末を机へ置いた。


窓の外には、見知らぬ街の夜景。

その先にある、明日の目的地。


F級地属性迷宮──“土蟲窟”。


「次は地属性か」


隣では、待機形態のゴロがこくりと頷く。


蓮は改めて、調べておいた攻略情報を開いた。


道中に出るのは、土甲虫や土蜘蛛を始めとした蟲型魔物。


そして、最深部のボス。

蚯蚓型魔物──“土蚯蚓主”。


「こいつが少し面白いな」


ゴロが蓮を見る。


「地面を伝わる振動で、獲物を探すらしい」


こくり。


普通に歩けば、足音や振動が地面へ伝わる。

だが、今日検証したばかりの身体なら。


「砂塵ノ体が使えるかもしれない」


地面を踏み締めず、砂塵で滑るように移動する身体。


振動を完全になくせるわけではない。

それでも、土ノ体よりはかなり小さくできるはずだ。


「ただ、本当にどこまで誤魔化せるかは分からない」


迷宮強化されれば、探知能力そのものが変わる可能性もある。


だから。


「最初に確かめよう」


こくり。


「通用するなら、砂塵ノ体で戦う。ただし、道中から使い続けるのはなしだ」


≪砂塵ノ体≫は、維持するだけでも魔力を消費する。

ボスまでに消耗しすぎれば、肝心な時に使えない。


「道中で一度試したら、あとは土ノ体で温存する」


こくり。


そして。


──どんっ。


ゴロが小さな胸を叩いた。


蓮も笑う。


「よし。明日はそれで行こう」


明日。


遠征二つ目の属性迷宮攻略。


蓮は静かに、次の戦いを思い描いた。


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