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才能EXの落ちこぼれ召喚士〜成長の鍵は地脈だった!?〜  作者: SN


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第19話 新たな手札


その夜。


蓮は端末を操作し、風属性迷宮を検索していた。


昨日手に入れた≪火岩ノ体≫。

火は風に強い。

さらに、風を受けることで僅かに蓄熱も進む。


次に挑む属性として、風は相性がいい。


候補はいくつか表示された。

だが、蓮は一つずつ場所を確認して眉を寄せる。


「……近くにはないな」


距離。

交通手段。

攻略に掛かる時間。


最も近い迷宮でも、日帰りは難しい。

朝一で出たとしても、移動だけでかなりの時間を取られる。

攻略まで考えれば、最低でも数日は必要になる。


「遠征か」


ゴロが端末を覗き込み、小さく首を傾げる。


蓮はそのまま候補を絞っていった。

できるだけ近い場所。

交通の便が悪すぎないこと。

攻略情報が十分にあること。


その条件で、いくつかまで候補を減らす。


だが、遠征となればもう一つ必要なものがある。


学園への遠征申請だ。


「……どうせ申請するなら」


蓮は地図へ表示を切り替えた。


数日掛けて遠くまで行く。

それなら一つだけ攻略して戻るより、その近くにある別の属性迷宮もまとめて攻略した方がいい。


風を除けば、残る属性は地、光、闇。


「次は……地か」


風は地に強い。

今回、風属性迷宮を攻略できれば、そこで得られる新しい肉体も地属性迷宮で有利に働く可能性が高い。


一方、光と闇は少し事情が違う。


互いに弱点を突き合う相剋属性。

それだけではない。

火、水、雷、地、風の五属性と比べても、光と闇の属性迷宮は攻略難度が一段高いことで知られている。


今の戦力で絶対に挑めないわけではない。

実際、日帰り圏内にはF級光属性迷宮も存在する。


だが。


「今、無理して光へ行く必要はないな」


こくり。

ゴロも頷く。


なら、今回の遠征で狙うのは風と地。


蓮は条件を追加し、候補をさらに絞り込んでいった。

比較的行きやすい風属性迷宮。

そして、その近くにF級地属性迷宮があること。


条件を満たさない候補を一つずつ外していく。


最後に残ったのは、F級風属性迷宮──“風鳥丘陵”。


「ここだな」


ゴロも画面を覗き込む。


“風鳥丘陵”の近くにはF級地属性迷宮もある。

一度の遠征で、二つの属性迷宮を攻略できる。


「まず風。その次に地だ」


こくり。

ゴロが力強く胸を叩く。


──どんっ。


次の目的地が決まった。


◇


翌日。

放課後。


蓮は担任の佐伯を訪ねていた。


机の上へ遠征申請書を置く。

佐伯はそれを受け取り、内容へ目を落とした。


「風属性迷宮か」

「はい」


さらに、その下には二つ目の攻略予定。

F級地属性迷宮。


佐伯の眉が僅かに上がる。


「二つ回るつもりなんだな」

「せっかく遠征するので」

「まあ、そう書いてあるな」


佐伯は申請書をめくる。


移動経路。

宿泊予定。

攻略日程。

緊急時の連絡先。


必要な項目は一通り埋めてある。


「準備はしてきたみたいだな」

「はい」


佐伯はしばらく書類へ目を落としていた。


そして。


「岩崎」

「はい」

「近場のF級や、前に潜ってたE級じゃ駄目なんだな?」


蓮は迷わず答える。


「はい」


佐伯が視線を上げた。


「そこまでして、ここへ行く理由は?」

「強くなるためです」


即答だった。


近場のF級。

以前、四階層まで攻略したE級迷宮。


どちらでも経験を積むことはできる。

魔物と戦い、素材を得て、召喚士としての力を伸ばすこともできる。


だが、今のゴロがさらに先へ進むためには、それだけでは足りない。


「今の俺たちが強くなるためには、風属性迷宮へ行く必要があります」


佐伯は何も言わず、蓮を見る。


数秒。

そして、小さく息を吐いた。


「……そうか」


再び申請書へ視線を戻す。


「分かった。許可は出す」

「ありがとうございます」

「ただし」


佐伯の声が少しだけ強くなる。


「無茶はするなよ」

「はい」

「前より戦えるようになってるのは、俺も分かってる」


そこで一度、言葉を切る。


「だからこそだ。行けると思った時が、一番危ない」


蓮は僅かに表情を引き締めた。


「分かってます」

「ならいい」


佐伯は申請書へ目を戻す。


「ただ、すぐには行けないぞ」

「やっぱりですか」

「ああ」


複数日に渡り、遠方の迷宮を二つ攻略する計画だ。

学園側でも、いくつか確認が必要になる。


佐伯は予定を確認する。


「最短で攻略できるのは、再来週の日曜だな」

「再来週……」


約二週間。

すぐに攻略へ向かえるわけではない。


だが、蓮はすぐに頷いた。


「分かりました」


二週間。

何もできないわけではない。

むしろ、その間にできることはいくらでもある。


佐伯は、そんな蓮の表情を見て僅かに眉を寄せた。


「……お前、今もう別の迷宮のこと考えてるだろ」

「え?」

「顔に出てるぞ」


蓮は一瞬黙る。

そして、小さく笑った。


「遠征には行きませんよ」

「遠征には、な」

「近場なら問題ないですよね?」

「……やっぱりか」


佐伯が額へ手を当てる。


「時間は無駄にしたくないので」

「ほんと、お前はそういう奴だな」


呆れたような声。

それでも、止めはしなかった。


「近場でも無茶はするなよ」

「はい」


佐伯は申請書へ承認の印を付ける。


これで、担任としての承認は下りた。


再来週の日曜日。

風属性迷宮──“風鳥丘陵”。

そこから近隣の地属性迷宮へ。


二つの属性迷宮を巡る遠征まで、あと二週間。


蓮にはまだ、やるべきことが残されていた。


◇


遠征までの二週間。


蓮とゴロは、近隣の無属性迷宮を攻略していった。


火曜日。


最初に挑んだのは、F級廃村型迷宮──“衝猿ノ廃村”。


崩れかけた家屋が並ぶ廃村には、肥大化した両腕を持つ猿型魔物──“衝猿”。

同じく巨大化した両腕を持つオランウータン型魔物──“衝猩”。

大きく発達した両腕を持つマントヒヒ型魔物──“衝狒々”。


“衝撃”と“猿”の因子を持つ魔物たちが生息していた。


どの魔物も戦い方は分かりやすい。

近付き、殴る。

叩き付ける。


力任せの攻撃。


だからこそ、≪火岩ノ体≫とは相性が良かった。


攻撃を受けるたび、白い岩肌の隙間から漏れる赤い光が強くなる。

受けて熱を溜め、近付いたところへ重い拳を返す。


道中は大きく苦戦することなく進んだ。


最深部。


待ち受けていたのは、巨大なゴリラ型魔物──“衝大猩主”。


肥大化した両腕。

拳を地面へ叩き付けるたび、石畳を衝撃波が走る。


真正面からの殴り合い。

受けるほど、ゴロの蓄熱は増していった。


そして最後は。


「ゴロ。≪大地ノ拳≫!」


──ドゴォォッ!!


赤熱した拳が“衝大猩主”の巨体へ突き刺さる。


その一撃を最後に、勝負は決した。


迷宮浄化。


新たに得たスキルは──≪大地ノ衝撃≫。


拳を地面へ叩き付けることで、周囲へ衝撃を走らせる新たな攻撃スキルだった。


◇


日曜日。


続いて挑んだのは、F級平原型迷宮──“棘殻平原”。


そこに生息していたのは、甲殻へ無数の棘を持つダンゴムシ型魔物──“棘団子虫”。

棘付きの甲羅を持つ亀型魔物──“棘亀”。

巨大な鋏にまで棘を纏った蟹型魔物──“棘蟹”。


“棘”と“甲殻”の因子を持つ魔物たちだ。


どれも硬い甲殻と、近付く者を傷つける棘を持っていた。


道中では、新しく手に入れた≪大地ノ衝撃≫も試す。


地面を走る衝撃で、多少は体勢を崩せる。

だが、硬い甲殻を持つ相手には思ったほど効果は大きくなかった。


「何にでも効くわけじゃないか」


当然だ。

新しいスキルを手に入れたからといって、どんな相手にも通用するわけではない。


なら、相手に合わせるだけ。


蓮が選んだのは≪火岩ノ体≫。


硬い。

重い。

そして、多少の棘ならそのまま受けられる。


最深部で待ち受けていたのは、巨大な蠍型魔物──“棘蠍主”。


全身を無数の棘が生えた硬い甲殻で覆っている。

巨大な鋏。

長い尾。

さらに、尾の先からは毒棘まで撃ち出してきた。


だが、生物へ作用する毒はゴロには通じない。


厄介なのは、その硬い甲殻と無数の棘。


≪火岩ノ体≫で棘ごと攻撃を受け、蓄熱しながら少しずつ甲殻を削っていく。


そして最後は。


「ゴロ。≪大地ノ拳≫!」


──ドゴォォッ!!


赤熱した拳が、棘ごと甲殻を叩き砕く。


その一撃を最後に、“棘蠍主”は倒れた。


迷宮浄化。


新たに得たスキルは──≪大地ノ棘≫。


地面から、現在の肉体に適した棘を生み出す。

新たな攻撃手段だった。


◇


その二日後。

火曜日。


三つ目の迷宮は、F級森林型迷宮──“砲鼠ノ森”。


そこに生息していたのは、木製の砲を抱えた鼠型魔物──“砲鼠”。

同じく砲を扱う栗鼠型魔物──“砲栗鼠”。

大型の砲を携えたビーバー型魔物──“砲海狸”。


“砲”と“鼠”の因子を持つ魔物たちは、木々の間を走り回りながら遠距離から弾を撃ち込んでくる。


近付こうとすれば逃げる。

止まれば、遠くから撃つ。


ゴロにとって相性のいい相手ではなかった。

道中も、何度か追い回されることになる。


最深部。


待ち受けていたのは、二足歩行の巨大なヤマアラシ型魔物──“砲山荒主”。


抱えているのは、他の魔物よりもさらに大型の木製砲。

石のように硬い木の実。

鋭い針で覆われた木の実。


それらを次々と装填し、弾丸のように撃ち出してくる。


さらに、木々の間を駆け回る高い機動力。

近付くことさえ容易ではない。


「逃げ回る相手は厄介だな」


蓮は苦笑する。


だが、今は新しい手札がある。


「ゴロ。≪電晶ノ体≫!」


白い光がゴロを包む。

その身体が、青白い結晶へ変わる。


“砲山荒主”が距離を取り、砲口を向けた。


──ドンッ!!


砲弾が放たれる。


その瞬間。


「ゴロ。≪大地ノ棘≫!」


──ズガガガッ!!


地面から、青白い結晶の棘が突き出す。


砲弾はゴロへ。

棘は“砲山荒主”へ。


互いの攻撃が同時に突き刺さった。


それでも、“砲山荒主”は止まらない。

すぐに距離を取り、再び砲を構える。


砲撃。

≪大地ノ棘≫。


何度も、互いの攻撃が交差する。


ゴロの結晶体には少しずつ傷が増えていく。

その一方で、“砲山荒主”の脚にも棘による傷が重なっていった。


一度。

二度。

三度。


やがて、その動きが目に見えて鈍る。


「……来た」


先ほどまで木々の間を縦横無尽に駆けていた速度は、もうない。

傷付いた脚が、逃げるための一歩を遅らせる。


なら。


ここからはゴロの距離だ。


「ゴロ!」


こくり。


「≪大地ノ角撃≫!」


ゴロが地面を蹴る。


一直線。


逃げ切れなくなった“砲山荒主”へ、一気に距離を詰める。


──ドゴォォッ!!


青白い結晶の身体が巨体へ突き刺さった。


さらに。


──バチィッ!!


強烈な電撃。


その一撃を最後に、“砲山荒主”は倒れた。


迷宮浄化。


三つ目の新スキルは──≪大地ノ砲拳≫。


拳を砲身へ変え、肉体ごとに異なる弾を撃ち出す。

ゴロにとって、初めての本格的な遠距離攻撃スキルだった。


「これで、離れた相手にも手が届くな」


こくり。

ゴロも嬉しそうに頷いた。


◇


遠征までの二週間。


進んだのは、迷宮攻略だけではない。

その間、週次ランキング戦も二度行われた。


結果は二戦二勝。


一月末に発表されたランキングは二百四十九位だった。

そこからさらに二勝。

確実に順位も上がっていることだろう。


迷宮では、≪大地ノ衝撃≫、≪大地ノ棘≫、≪大地ノ砲拳≫。

三つの新しいスキルを手に入れた。


ランキング戦では二つ勝利を上げた。

そして、遠征の準備もすべて整った。


◇


土曜日。

風属性迷宮“風鳥丘陵”の攻略前日。


早朝。


蓮は玄関の前に立っていた。


背中には、数日分の荷物を詰めた大きな鞄。

肩には、待機形態のゴロ。


端末を開き、最後の確認をする。


着替え。

充電器。

迷宮攻略用の装備。

身分証。

遠征許可。

宿泊先。


すべて問題なし。


「……よし」


蓮は玄関の扉を開ける。


朝の空気が頬を撫でた。


肩の上では、ゴロが少し身を乗り出している。

どこか、いつもより楽しそうに見えた。


「初めての遠征だな」


こくり。


今回の目的地は二つ。


F級風属性迷宮──“風鳥丘陵”。

そして、その近隣にあるF級地属性迷宮。


まず向かうのは。


「最初は風属性迷宮──“風鳥丘陵”だ」


こくり。


ゴロが力強く胸を叩く。


──どんっ。


蓮は家を出た。


次なる属性迷宮攻略へ向けた遠征が、いよいよ始まった。


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