↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
才能EXの落ちこぼれ召喚士〜成長の鍵は地脈だった!?〜  作者: SN


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/31

第13話 水蟲湿原


翌日の火曜日。

迷宮実戦日。


蓮とゴロは、F級水属性迷宮“水蟲湿原”へやって来ていた。


入口は小さな湖のすぐ近くにある。

周囲には湿った草木が生い茂り、足元の土も僅かに水気を含んでいた。


空気も電獣洞とはまた違う。

ひんやりとしてどこか湿っている。


その奥。


巨大な石造りの門が静かに佇んでいた。


門柱には、アメンボ・ムカデ・カマキリ。

水辺に棲む蟲たちの彫刻が刻まれ、その全身には水流を思わせる紋様が走っている。


門の中央では、淡い青色の光がゆらゆらと揺れていた。

その向こうには、ここではない異空間が広がっている。


「ここが水蟲湿原か……」


蓮は門の向こうを見つめる。


水属性。


土の身体のゴロにとっては、今までなら避けたい相手だった。

だが、今は違う。


蓮は隣のゴロを見る。


「昨日試した通りなら、今回は電晶ノ体が使えるはずだ」


ゴロは力強く頷く。


──どんっ。


と胸を叩いた。


「行こう」


二人は並んで。

迷宮へ足を踏み入れた。


◇


巨大な石造りの門をくぐった瞬間。

ひやりと湿った空気が全身を包み込んだ。


目の前に広がっていたのは、一面の湿地。


浅い水場が幾重にも続き、その合間にはぬかるんだ泥地が広がっている。

背の高い葦が風に揺れ、水草が水面を覆い隠していた。


空気そのものが重い。


濃密な水属性魔力が霧のように漂い。

足元からは湿った泥の匂いが立ち上っている。


「足場が悪いな」


蓮は慎重に周囲を見回した。

隣ではゴロも、ぬかるみに足を取られそうになりながら歩いている。


「ゴロ」


蓮は声を掛けた。


「水場はできるだけ避けるぞ。

 水に濡れると脚が脆くなる。

 そのまま歩けば身体を支えられなくなるからな」


ゴロは真剣な表情で頷いた。


──どんっ。


軽く胸を叩き、慎重に歩き始める。


その時だった。


──バサバサッ!


葦の奥から一匹の大型昆虫が飛び出した。


羽は半透明の青。

細長い口を持ち、腹部には水袋のような器官が膨らんでいる。


「最初の魔物か」


“水羽虫”。

水属性を持つ羽虫型魔物。


その口が大きく開いた。


──ボシュッ!!


圧縮された水弾が一直線に飛ぶ。


──バシャッ!!


ゴロの身体に直撃。

その土の身体へ水が叩きつけられる。


威力は大したことない。

だが。


「やっぱりか……」


ゴロは濡れた腕をじっと見つめる。

濡れた部分の土が黒く変色し、じわじわと表面が崩れ始めていた。


「土の身体とは相性が悪いな」


蓮は小さく呟く。

≪電晶ノ体≫なら、この程度の水は問題にならない。


だが。


「まだ使うわけにはいかない」


≪電晶ノ体≫は魔力を継続的に消耗する。

こんな序盤から使えば、肝心のボス戦で魔力が尽きてしまう。


「多少脆くなっても問題ない。

 そのまま行くぞ!」


ゴロは力強く頷いた。


再び水弾が飛ぶ。


──バシャッ!


身体の一部がさらに湿る。

それでも構わず前進。


一歩。

また一歩。


水弾を受けながらも。

確実に距離を詰めていく。


水羽虫は慌てて飛び退こうとした。


だが、もう遅い。


──ドゴッ!!


ゴロの拳が真正面から炸裂した。

水羽虫はそのまま吹き飛び、光となって消えていく。


蓮は静かに息を吐いた。


「低階層なら土のままでも行けそうだな」


◇


湿地をさらに進み、階層を下っていく。


第二階層では、“水棒虫(ミズンボ)”。


湿地の上をスイスイ移動しながら。

触れると破裂する大きな水球を生み出す。


第三階層では、“水蟻”。


集団で動き、尻から水弾を連射してきた。


第四階層では、“水蜘蛛”。


水を纏った糸を飛ばし、拘束してくる。


どの魔物も水属性らしい戦い方だった。


湿地を利用する。

水を飛ばす。

水を纏う。


戦うほど。

この迷宮が水属性に特化していることを実感する。


◇


第五、第六階層も。

大きな苦戦なく突破していく。


そして。


第七階層。


蓮は足を止めた。


「……ここまでか」


ここまで来ると、水場の面積が一気に増えていた。


足首ほどの浅瀬が迷宮中へ広がっている。

普通なら歩きにくいだけで済む。


だが。


土の身体のゴロでは歩くだけでも危険だった。

脆くなった脚が崩れ、踏み込むたびに姿勢が乱れる。


「このままじゃ厳しいな」


蓮はゴロを見る。


「行くぞ。≪電晶ノ体≫」


ゴロの全身が白く輝いた。


土が青白い結晶へ変わる。

腕の中では電流が脈打ち、背には巨大な蓄電結晶が姿を現した。


そのまま浅瀬へ踏み出す。


──ザッ。


今度は姿勢が乱れない。

結晶の脚は水場など気にも留めず、力強く前へ進んでいく。


「よし!」


ちょうどその時。

この階層の魔物である“水百足”が現れた。


ゴロは迷わず突っ込み。

拳を振り下ろした。


──ドゴッ!!


ゴロの拳が水百足へ直撃する。

硬い甲殻へ亀裂が走った。


さらに。


──バチィィッ!!


拳から迸った電撃が、水百足の全身を駆け巡る。


「ギギッ!?」


身体が硬直する。


「今だ!」


──ドゴォッ!!


追撃。


今度こそ甲殻が砕け。

水百足が光へ変わっていった。


「やっぱり相性が良いな」


その直後。


──バチィィッ!!


残った電撃が足元の浅瀬へ広がった。

青白い光が水面を一気に走る。


そして。

少し離れた場所に潜んでいた別の水百足へ届いた。


「ギギッ!?」

「お!」


訓練施設でも確認していた。


だが。


この迷宮のように周囲一面が水場なら。

その効果はさらに大きい。


「これは……思っていた以上だな」


ゴロも嬉しそうに頷いた。


その後も戦いは優勢だった。


通常の拳。

追撃の電撃。

水場を伝う感電。


水蟲たちは次々と倒れていく。


そして。


二人はついに第十階層へ続くゲート前へ辿り着いた。


◇


「ここで一回戻すぞ」


ゴロが頷く。

白い光が消え、電晶の身体が土へ戻っていく。


≪電晶ノ体≫を解除すると、魔力の消耗も止まった。


蓮はその場へ腰を下ろす。


少し休憩。

ゴロの魔力もゆっくりと戻っていく。


「維持してるだけで、やっぱり結構減るな……」


長時間。

使い続ける肉体ではない。


蓮は最深部へのゲートを見る。


「ボス戦でも、使うタイミングは考えないとな」


今は少しでも魔力を戻しておきたい。

できれば、全快まで待ちたいところだ。


だが。


そこまで待つには時間がかかる。

ここはまだ迷宮の中。

安全に休み続けられる保証もない。


その時。


──チャプッ……


少し離れた水面が揺れた。


蓮の目が細くなる。


「……来たか」


このまま留まれば、余計な戦闘が増える。

蓮は立ち上がった。


「仕方ない。行こう」


ゴロも力強く頷いた。


──どんっ。


二人は、第十階層へのゲートを潜った。


◇


第十階層。


ゲートを抜けた先は、それまでとは比べものにならないほど広い湿地だった。

浅い水場が鏡のように広がり、その中央だけがぽっかりと空いている。


静寂。


風が葦を揺らす音だけが耳に届く。


「……いるな」


蓮が小さく呟く。


湿地の中央。

一体の巨大な魔物がゆっくりと前脚を擦り合わせていた。


──キィィ……


金属を研ぐような甲高い音が響く。


人間ほどの大きさを持つ巨大な蟷螂。

青く輝く二本の鎌。

腹部には大きな水袋が膨らみ、ゆっくりと脈打っている。


水蟲湿原の主──“水蟷螂主”。


「これがここの主か」


ゴロも表情を引き締める。

いつでも飛び出せるよう腰を落とした。


次の瞬間。


「キィィーーっ!」


水蟷螂主が金切り声を上げた。


──どくんっ!


と迷宮から水蟷螂主へ魔素が注ぎ込まれていく。


姿が変わる。


身体が一回りほど大きくなる。

二本の鎌は、より大きく鋭い水色の刃へと姿を変えていた。


「やっぱり今回もか」


これまでと同じ。

特殊スキル≪迷宮浄化≫に反応し、迷宮そのものが主へ力を与える。

本来以上の力を持ったボスとして蓮たちの前に立ちはだかる。


蓮は静かに息を吐く。


「なるべく短く決めるぞ」


≪電晶ノ体≫は強力だ。

だが、その分だけ魔力を消耗する。

長引けば不利になるのは自分たちだった。


「行くぞ!≪電晶ノ体≫!」


ゴロの身体が電晶へ変化していく。


◇


「まずは距離を──」


──バサッ。


「っ!空へ!?」


接近のために≪大地ノ角撃≫を使おうとした。


だが、その瞬間。


水蟷螂主が羽を震わせた。

宙を羽ばたく。

思わぬ行動に出鼻を挫かれた。

これでは角撃が意味をなさない。


「ちっ!」


角撃を中断。


水蟷螂主は低空を滑るように飛び。

ゴロの側面へ回り込む。


そして。


──シュンッ。


鎌が閃く。


あまりにも速い。

振った動きすら見えなかった。

ゴロの肩から腹へニ本の切り傷が袈裟懸けに走る。


──ザッ!


「……っ!」


しかし。


傷は浅い。

表面を削った程度で済んでいた。


「浅い!」


蓮は即座に判断する。


「ゴロ!そのまま押し切れ!≪大地ノ拳≫!」


ゴロは怯まない。

そのまま拳を振り抜く。


──ドゴォッ!!


重い一撃が水蟷螂主の腹部へ炸裂した。


同時に。


──バチィィィッ!!


拳から激しい電撃が迸る。


「ギギィィッ!!」


水蟷螂主の全身が大きく震える。

身体が硬直した。


その隙を逃さない。


「もう一発!≪大地ノ拳≫!」


ゴロは逆の拳を振り抜いた。


──ドゴォン!!


再び強烈な一撃。


──バチィィィッ!!


追撃の電撃が水蟷螂主を襲う。

大きく体勢を崩し、泥の上を滑るように後退した。


蓮は思わず笑みを浮かべる。


「よし!」


≪大地ノ拳≫。

土の身体では威力を高めるだけだった。

だが≪電晶ノ体≫では違う。

拳を叩き込んだ瞬間、通常攻撃とは比較にならないほど強烈な電撃が追撃として発生する。


その代わり。


背中の蓄電結晶は目に見えて輝きを失っていた。

通常攻撃より遥かに多く電気を消費する。


「ゴロ!一気に行くぞ!≪大地ノ角撃≫!」


ゴロの額に角が生える。

身体を低く沈める。

角と四肢が青白い電撃を纏った。


「行け!」


──ドンッ!!


一直線の突進。

その速度は土の身体よりも明らかに速かった。

加速力そのものが一段階上がっていた。


その時だった。

体勢を立て直そうとしていた水蟷螂主が、大きく口を開く。

腹部の水袋が膨らむ。


──ボシュゥゥゥッ!!


高圧の水流が一直線に放たれた。


まるで一本の激流。

押し流すことに特化したような水流。

接近を拒むための攻撃らしい。


ゴロと激流が正面からぶつかり合う。


激流の圧は凄い。

さすがのゴロでも突進の勢いは削がれ、押し返されていた。


だが。


──バチィィィィッ!!


水流が電晶の肉体に触れたことで。

電撃が激流全体を駆け抜ける。

まるで一本の稲光となって、水を伝い、水蟷螂主へ一直線に到達した。


「ギィィッ!!」


激しく痺れる水蟷螂主。

高圧水流が途中で途切れる。


勢いを失った水流を押し破り。

ゴロが一直線に突き抜けた。


──ドゴォォォン!!


角撃が真正面から炸裂する。


水蟷螂主の身体が大きく吹き飛ぶ。

泥を跳ね上げながら何度も転がった。


「よし!」


蓮はグッと拳を握った。


そして。


背中の蓄電結晶へ視線を向ける。

残量は三分の一近くまで減っている。


「ゴロ! 今のうちにチャージだ!」


ゴロは即座に両手を泥へついた。


──ジジジ……。


背中の蓄電結晶へ。

青白い光が戻っていく。


「よし。これだけ戻れば十分だ」


ゴロが両手を泥から離し、ゆっくりと立ち上がる。


追撃はしない。

今は、次に備えて電気を戻した。


その時。


泥の中から水蟷螂主がゆっくりと起き上がった。

その複眼には、怒りが宿っている。


「ギィィィィィッ!!」


水蟷螂主が湿地へ口を突っ込む。


──ゴボゴボゴボ……。


大量の水を吸い上げ始めた。

腹部の水袋が急激に膨らんでいく。


「……何をする?」


蓮は目を細める。


あの大量の水を一気に吐き出す。

そんな攻撃が真っ先に頭へ浮かんだ。


「ゴロ。まだ動くな」


何が来ても対処できるよう。

蓮は水蟷螂主の動きをじっと見つめる。


ゴロも構えたまま。

次の指示を待つ。


だが。


慎重すぎた。


水蟷螂主が準備していたのは。

攻撃ではなかった。


「なっ!?」


巨大化していた水袋が急速に萎んでいく。


それと同時に。


背中の羽へ青い水脈が浮かび上がった。

二本の鎌も水を纏った透明な刃へと姿を変えていく。


攻撃ではない。

強化。

第二形態への移行だった。


「しまった……!」


蓮は歯噛みする。

攻める機会を自分から逃してしまった。


だが。


後悔している暇はない。


「ゴロ。来るぞ」


蓮はすぐに意識を切り替える。

ゴロも静かに腰を落とし、拳を握った。


第二ラウンドの始まりだ。


◇


「行くぞ!≪大地ノ角撃≫!」


水蟷螂主へと一直線に突進。

当たる直前、水蟷螂主の羽が大きく震えた。


──バシュッ!!


羽から高圧の水が噴射される。

その反動で、水蟷螂主の身体が横へと一気に加速した。


「なっ……!避けた!?」


空を切るゴロの突進。


その隙を狙うように。

無防備な背へと水蟷螂主が間合いの外から二本の鎌を振るった。


──シュンッ!!


「飛ぶ斬撃だと…!?」


二つの水刃が無防備な背に迫る。


──バシュッ!!


ゴロの身体を切り裂く。


ゴロが水蟷螂主へと振り向く。

だが、その瞬間にまたしても羽から水を噴射。

急加速し、その場から移動した。


そしてまたしても。

ゴロの間合い外から水刃を飛ばす。


水刃が次々とゴロへ降り注ぐ。


肩。

腕。

脚。


次々と切り裂かれていく。


右へ。

左へ。


高速で位置を変えながら。

水蟷螂主がゴロを翻弄する。


ゴロは目で追うだけで精一杯。

捉えきれない。


だが。


「浅い……!」


蓮はすぐに気付いた。


傷は増える。

しかし深くはない。

≪電晶ノ体≫の防御力が勝っている。


「ゴロ!お前のほうが硬い!」


水蟷螂主もそれを理解したのだろう。


「ギィィッ!」


苛立つような鳴き声。

羽から再び水を噴射する。


──バシュッ!!

──バシュッ!!


右へ左へと高速で位置を変えながらゴロを翻弄。

そして背後へと回り込むと。


「ギィィッ!!」


前へと一気に踏み込み。

二つの鎌で切りかかった。


あの鎌を直接受ければ。

遠距離の水刃のような浅傷では済まない。


だが。


蓮はこれを待っていた。


「≪大地ノ甲殻≫!!」


──ガギィィン!!


青白い結晶の甲殻が瞬時に肩や胸に形成される。

鎌は肩の甲殻へ激突した。


その瞬間。


──バチィィィィッ!!


甲殻全体から激しい電撃が迸る。


「ギィッ!?」


水蟷螂主の身体が大きく震えた。

痺れによる硬直。


蓮は拳を握る。


「よし!」


≪大地ノ甲殻≫。


土の身体では、ただ防御力を高めるだけだった。

だが、≪電晶ノ体≫では違う。


攻撃を受けた瞬間。

甲殻へ蓄えられた電気が接触した相手へ流れ込む。


防御と同時に反撃まで行える。


「今だゴロ!≪大地ノ拳≫!」


硬直した水蟷螂主へ振り向きながら拳を握る。

間合い外からチクチクされ、殴ることもできなかった鬱憤を晴らすように拳を突き出した。


──ドゴォォッ!!


拳が腹部へ突き刺さる。


──バチィィィッ!!


強烈な電撃が全身を駆け抜ける。


「ギィィィッ!!」


水蟷螂主の呻き声が響く。


「ここで決めるぞ!≪大地ノ拳≫!」


ここで逃せば、もう直接切りかかって来ないかもしれない。

そうなると持久戦だ。

持久戦はこちらの分が悪い。


なら、今しかない。


蓮は一気に攻勢を仕掛ける。


「ギィィィィッ!!」


体勢を崩した水蟷螂主の顔面へ。

ゴロは拳を叩き込む。


そして。


追撃の電撃が迸る。


「トドメ!≪大地ノ角撃≫!!」


ゴロが身体を低く沈める。

だが、水蟷螂主の硬直が解ける。


「なっ!?」


何度も電撃を浴びたことで。

水蟷螂主にも耐性がつき始めていた。


硬直時間が、明らかに短くなっている。


一方で。


≪大地ノ角撃≫には、駆け出すまでに僅かな溜めがある。

その僅かな差が今回は大きかった。


──バシュッ!!


羽から水を噴射。

水蟷螂主が横へ急加速する。


直後。


──ドンッ!!


ゴロが一直線に飛び出した。


だが。


その先に水蟷螂主はいない。

渾身の角撃は空を切った。


「……くそっ! まずい」


蓮の頬に冷や汗が垂れる。


魔力の残りも少ない。

このまま距離を取られれば、こちらから捕まえる手段がない。


もう一度。

向こうから攻めてきてくれることを祈るしかない。


そう思った瞬間。

突如、水蟷螂主が動きを止めた。


「……?」


鎌を大きく広げる。

腹部の水袋がさらに萎む。


それに比例するように。

鎌を覆う水が膨れ上がっていく。


「ここで大技か……!」


蓮は息を呑んだ。


だが、チャンスでもある。

大技の後は疲弊し、大きな隙を晒す可能性が高い。


「ゴロ!」


ゴロも理解していた。

こくりと頷く。


≪大地ノ甲殻≫で耐える。


いや。


ここは≪大地ノ角撃≫だ。


耐えきれてもこの距離では。

距離を詰めるまでに回復されるかもしれない。


ならば。


大技を打ち破って討ち倒す。

それしかない。


「≪大地ノ角撃≫!」


全身を低く沈める。

角へ雷が集まる。

背中の蓄電結晶も最後の輝きを放った。


「行けぇぇぇ!!」


──ドォォォン!!


一直線の突進。

ほぼ同時。

水蟷螂主が鎌を振り抜いた。


──ズガァァァッ!!


巨大な水刃が迫る。


角と水刃は。

真正面から激突した。


轟音。

水飛沫。

雷光。


湿地全体が揺れる。

一瞬、視界が真っ白になった。


──バチィィィッ!!


角から迸る電撃が。

巨大な水刃へ流れ込む。


「っ……!」


水刃が揺らぐ。

激しく波打ち、その形が崩れていく。


「押し切れ!」


次の瞬間。


──バシャァァァン!!


巨大な水刃が。

大量の飛沫となって弾け飛んだ。


雷を纏った角撃は止まらない。

一直線に突き進む。


「ギィィッ!?」


水蟷螂主が逃げようと羽を震わせる。

しかし、もう遅い。


「決めろ!ゴロ!」


──ドゴォォォォン!!


角が腹部を貫いた。


そして。


水蟷螂主の身体を後方へ大きく吹き飛ばす。

宙を舞うその身体が光へと変わっていく。


やがて。


跡形もなく消えていった。

しばらく静寂が続く。


蓮はゆっくりと息を吐いた。


「……勝った」


ギリギリだ。

ゴロの身体も魔力切れで土の身体へ戻った。


蓮は倒れ込むようにその場へ座る。


水属性と雷属性。

それ自体の相性は非常に良かった。

ここまでとは思わないほどに。


水流は電撃を伝える。

湿地では感電範囲まで広がる。


さらに。


水蟷螂主は手数で攻める魔物だった。

一撃一撃は鋭い。


だが、≪電晶ノ体≫の防御は貫けない。

ゴロとの相性も非常に良かった。


そして。


≪大地ノ甲殻≫の反撃のきっかけも掴めた。

≪電晶ノ体≫の性能を知るには、これ以上ない相手だった。


「でも……考えが甘かったな」


蓮はゴロを見る。


≪電晶ノ体≫は強い。

水属性との相性も想像以上だった。


だからこそ。


その強さを前提にしすぎた。


「魔力が切れた後のことを、ほとんど考えてなかった」


≪電晶ノ体≫を維持できなくなれば。

ゴロは土の身体へ戻る。


そして。


土の身体は水に弱い。


あと少し。

水蟷螂主が接近してくるのが遅ければ。


あるいは。

あのまま遠距離から水刃を浴びせ続けられていたら。


≪電晶ノ体≫は先に限界を迎えていた。


その後。

土の身体で戦うことになれば、一気に不利になる。


「肉体スキルは強い。

 でも、それだけに頼っちゃ駄目だな」


魔力が切れた時。

元の身体へ戻った時。


そこまで含めて。

戦い方を考える必要がある。


「……次からは、そこまで考えよう」


蓮は静かに息を吐いた。


◇


しばらく休み。


ゴロの魔力が僅かに戻ったところで。

最深部に現れた黒水晶の前へ立つ。


「≪迷宮浄化≫」


──ドゴォン!!


白く染まった黒水晶が、無数の光となって砕け散る。

その一部がゴロの身体へ流れ込んだ。


「来たか」


蓮は静かに見守る。


ゴロの全身が白い光に包まれていく。

そして、土の身体がゆっくりと姿を変え始めた。


全身が濃い泥色へ染まる。


表面は水を含んだように湿り。

硬かった土の身体が柔らかな泥へと変わっていた。


「……泥?」


見た目だけなら。

泥で形作られたゴーレムそのものだ。


数秒後。


白い光が消える。


泥の身体も元へ戻り。

いつものゴロがそこに立っていた。


蓮はすぐにステータスを開く。


──────────────────────


【ゴロ】

存在階位:F-MAX

スキル:

 ・≪大地ノ拳≫

 ・≪大地ノ角撃≫

 ・≪大地ノ甲殻≫

肉体スキル:

 ・≪電晶ノ体≫

 ・≪泥ノ体≫ NEW!

特殊スキル:

 ・≪迷宮浄化≫


──────────────────────


「泥ノ体……」


雷では電晶。

そして、水では泥。


≪電晶ノ体≫とは、見るからに性質が違う。


だが。


どんな能力を持っているのか。

今はまだ分からない。


「これも使って確かめるしかないな」


続いて。

蓮は自分のランクアップ条件を確認する。


──────────────────────


【岩崎蓮】


ランクアップ条件:


 ✔ 召喚獣の存在階位をF-MAXにする

 ✔ F級雷属性迷宮を浄化する

 ✔ F級水属性迷宮を浄化する NEW!


 ・未達成条件 6件 → 5件


──────────────────────


「よし……!」


蓮は思わず拳を握った。


雷に続いて。

水でも条件が進んだ。


「これでほぼ間違いない」


ランクアップの鍵は、属性迷宮の浄化。

残る条件も、他の属性迷宮に関係している可能性が高い。


ゴロも嬉しそうに頷き。


──どんっ。


と胸を叩いた。


「あと五つだな」


道のりはまだ長い。


それでも。


一つずつ。

確実に前へ進んでいる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。