第12話 電晶ノ体
その日の夜。
蓮はスマホを取り出した。
迷宮データベースを開く。
条件は。
・F級
・属性迷宮
・日帰り可能な範囲
検索をかけると。
三つの迷宮が表示された。
水属性迷宮──“水蟲湿原”。
火属性迷宮──“火鱗窟”。
光属性迷宮──“光蟲花園”。
「候補はこの三つか」
蓮は一つずつ詳細を開いていく。
“水蟲湿原”。
小規模な湖の近くに存在する。
湿原型の水属性迷宮。
“水”と“蟲”の特徴をもった魔物が生息する。
次に。
“火鱗窟”。
活動を終えた火山にある。
洞窟型の火属性迷宮。
“火”と“鱗”の特徴をもった魔物が生息する。
そして。
“光蟲花園”。
かつて小規模なパワースポットだった土地が迷宮化した。
少し特殊な光属性迷宮。
“光”と“蟲”の特徴をもった魔物が生息する。
「光はまだ早いか……」
光属性と闇属性。
この二つは、他の属性迷宮より危険だと学園でも教えられている。
なら。
実質的な候補は、水か火。
蓮の視線が水蟲湿原で止まった。
「やっぱり次は水か」
雷属性は水属性に対して有利。
もし。
昨日手に入れた≪電晶ノ体≫が、名前通り雷属性の力を持つ肉体なら。
水蟲湿原では、かなり有利に戦える可能性がある。
さらに。
今までの土の身体は、水との相性が悪かった。
水を吸えば柔らかくなり。
耐久力も落ちる。
「その弱点まで補えるなら……」
次に挑む迷宮として。
これ以上ない候補かもしれない。
だが。
蓮はすぐには決定しなかった。
まだ、≪電晶ノ体≫がどんな能力なのか。
何一つ確かめていない。
雷属性なのか。
どれほど硬いのか。
動きはどう変わるのか。
そして。
水に対して本当に有利なのか。
「……先にこっちだな」
蓮は迷宮データベースを閉じた。
第一候補は。
水属性迷宮──“水蟲湿原”。
ただし。
最終的に決めるのは。
≪電晶ノ体≫を確かめてからだ。
「明日、試してみるか」
まずは新しく手に入れた肉体──≪電晶ノ体≫。
その力を確かめる必要があった。
◇
翌日。
昼休み。
蓮は校舎裏のベンチで夏希と向かい合っていた。
隣にはゴロ。
夏希の肩では、小鳥形態のシェアが羽を休めている。
「それで?」
夏希が身を乗り出す。
「昨日の電獣洞、どうだった?」
「ああ。無事に攻略できた」
「ほんと!?」
ぱっと表情が明るくなる。
「よかった!」
「ピィ!」
シェアも嬉しそうに鳴いた。
ゴロも得意げに──どんっ。
と胸を叩く。
蓮は小さく笑いながら。
ステータスを開いた。
「それで。ちゃんと進んだ」
「進んだって……」
夏希が表示を覗き込む。
──────────────────────
【岩崎蓮】
ランクアップ条件:
✔ 召喚獣の存在階位をF-MAXにする
✔ F級雷属性迷宮を浄化する
・未達成条件 6件
──────────────────────
「……!」
夏希の目が大きく見開かれた。
「条件、達成したんだ!」
「ああ。一つだけだけどな」
「一つでもすごいよ!」
夏希は嬉しそうに笑う。
「やっぱり属性迷宮だったんだね!」
「まだ、そこまでは分からない」
蓮はすぐに首を振った。
「今回は雷属性迷宮で進んだ。それだけだ」
「あ……そっか」
「他の属性迷宮でも同じなのか。それを確かめないとな」
「蓮らしいね」
夏希がくすりと笑う。
「でも。少なくとも一歩前進でしょ?」
「ああ。それは間違いない」
蓮も頷いた。
そして。
「もう一つある」
「ん?」
「ゴロが新しいスキルを手に入れた」
「また!?」
夏希がゴロを見る。
「今度はどんなの?」
「これだ」
蓮はゴロのステータスへ切り替えた。
──────────────────────
【ゴロ】
存在階位:F-MAX
スキル:
・≪大地ノ拳≫
・≪大地ノ角撃≫
・≪大地ノ甲殻≫
肉体スキル:
・≪電晶ノ体≫
特殊スキル:
・≪迷宮浄化≫
──────────────────────
「電晶ノ体……?」
夏希が首を傾げる。
「肉体スキル?」
夏希が表示を見つめる。
「大地ノ拳たちとは、分類が違うんだね」
「ああ」
蓮は頷く。
「浄化した直後。一瞬だけゴロの身体が結晶みたいなものに変わった」
「身体が?」
「ああ。中に電気が流れてて。背中にも大きな結晶ができてた」
夏希の目が輝く。
「なにそれ! すごく見たい!」
「俺もちゃんと見たいよ」
「まだ使ってないの?」
「ああ。まだだ」
蓮はゴロを見る。
ゴロも自分の身体を見下ろし、小さく首を傾げていた。
「浄化の時に変わっただけだからな。
どうやって使うのか。何ができるのか。まだ何も分からない」
「じゃあ……」
「ああ」
蓮は頷く。
「今日の放課後。訓練棟で試してみる」
「やっぱり」
夏希は楽しそうに笑った。
「次の迷宮は?」
「一応、候補は決めてる」
「どこ?」
「水属性迷宮の水蟲湿原」
「水か」
夏希は少し考え。
すぐに頷いた。
「電晶ノ体が雷属性なら、相性もいいもんね」
「ああ」
雷は水に強い。
もし≪電晶ノ体≫が名前通り雷属性の肉体なら。
次の攻略では、大きな武器になる可能性がある。
「ただ」
蓮は続ける。
「まだ決定じゃない」
「電晶ノ体を調べてから?」
「そういうこと」
夏希は納得したように頷いた。
「じゃあ、まずは検証だね」
「ああ」
その言葉に。
ゴロが力強く頷き──どんっ。
と胸を叩いた。
「ふふ。ゴロもやる気満々だね」
「ピィ!」
シェアも負けじと鳴く。
蓮はそんな二匹を見ながら。
小さく笑った。
放課後。
まずは≪電晶ノ体≫。
その力を確かめる。
◇
放課後。
召喚士学園の訓練棟。
蓮とゴロは、訓練用の一室へやって来ていた。
新しい能力を手に入れたなら。
まずは性能を確かめる。
何ができるのか。
何ができないのか。
それを知らないまま実戦へ持ち込むほど。
危険なことはない。
「じゃあ、始めるか」
ゴロが力強く頷く。
──どんっ。
と胸を叩いた。
「≪電晶ノ体≫」
ゴロの全身が白く輝く。
土だった身体が、ゆっくりと姿を変えていく。
腕。
胴体。
脚。
全身が青白い結晶へと変化していく。
結晶の内部では、細い電流が絶えず脈打ち。
背中には、大きな結晶がせり出すように形成された。
浄化の直後に見た姿。
電気を宿した。
結晶のゴーレムだ。
「やっぱり……」
蓮はゴロの周囲を歩きながら。
その身体を観察する。
「本当に身体が変わってる」
今度は一瞬ではない。
ゴロも自分の腕を持ち上げ。
不思議そうに眺めている。
拳を握る。
──バチッ。
小さな火花が散った。
蓮はゴロの魔力残量に意識を向ける。
やはり。
少しずつ。
確実に減っている。
「維持にも魔力を使うようだな」
土の身体とは違う。
変わっているだけで。
魔力を消費し続けるらしい。
「極端に重いわけではない。
でも……長時間使い続けるには向いてなさそうだな」
蓮はノートへ書き込む。
そして。
「じゃあ、一つずつ調べようか」
ゴロが真剣な表情で頷いた。
◇
最初は移動性能。
「普通に歩いてみてくれ」
ゴロが歩く。
数歩。
続いて。
軽く走る。
土の身体と比べて大きな違いはない。
ただ。
「少し重いか?」
一歩一歩が僅かに重い。
動きそのものは土の身体より少し鈍い。
だが、踏み込みは強い。
ゴロが足を止めた時も、身体がぶれることはなかった。
「速度は少し落ちる。その代わり、安定感がある感じか」
蓮はメモする。
ゴロも自分の脚を見下ろし。
何度かその場で踏み込んでみせる。
──ゴッ。
硬い音が床へ響いた。
「次は攻撃だ」
◇
訓練用魔導人形を起動する。
「まずは普通に殴ってみよう」
ゴロが頷く。
魔導人形へ近付き、拳を振るう。
──ドゴッ!!
結晶の拳が。
魔導人形の頬へ直撃。
人形の身体が大きくよろめいた。
「土より重いな」
純粋な打撃威力。
それだけでも、土の身体より上。
さらに。
次の瞬間。
──バチィッ!!
青白い電撃が。
拳から魔導人形へ流れ込んだ。
人形の身体が。
──ビクッ。
と一瞬硬直する。
「電撃……!」
蓮の目が輝く。
「もう一回だ」
──ドゴッ!!
──バチィッ!!
同じ。
拳が当たった直後、電撃が流れ込む。
威力そのものはそこまで高くない。
だが、一瞬とはいえ相手の動きを止められる。
「これは強いな」
打撃。
そして。
電撃による追撃。
二段構え。
蓮はさらに試す。
一発目。
硬直。
二発目。
また硬直。
だが。
三発。
四発。
繰り返すほど。
魔導人形が止まる時間が短くなっていく。
「……耐性か?」
さらに続ける。
やがて。
電撃を浴びても。
ほとんど硬直しなくなった。
「ずっと止め続けるのは無理みたいだな」
蓮はノートへ書き込む。
電撃による硬直。
強力。
ただし。
連続して受ければ、効果は薄れていく。
「十分だな。最初の数回だけでも大きい」
ゴロも満足そうに。
──どんっ。
と胸を叩いた。
◇
次は、防御性能。
蓮は魔導人形の設定を変更する。
槍型。
一定の距離を取らせ。
「そのまま受けてみよう」
ゴロが腕を構える。
魔導人形が地面を蹴った。
一直線の突進。
──ゴギィンッ!!
槍の穂先と結晶の腕が激突する。
「……!」
ゴロは動かない。
一歩も後退していなかった。
腕を見る。
表面に小さな傷がついているだけ。
「硬い……」
土の身体なら、もっと深く抉られていた。
だが、電晶の身体はほとんど傷付いていない。
「防御力は明らかに上だな」
蓮は出力を上げる。
もう一度。
──ガギィンッ!!
今度は表面に細かな亀裂が走った。
それでも。
槍は内部まで届かない。
「かなり硬い」
ただし。
亀裂は勝手には塞がらない。
土の身体と同じ。
傷を直すなら、≪修復再生≫が必要になる。
蓮はすぐに発動する。
白い光が亀裂を包む。
結晶が徐々に元へ戻っていく。
その途中で。
蓮は僅かに眉を寄せた。
「……重いな」
土の身体を修復した時より。
明らかに魔力の消耗が大きい。
硬い結晶を作り直すには。
それだけ多くの魔力が必要になるらしい。
「硬い代わりに、修復の負担は大きいってことか」
蓮はノートへ書き加える。
『高硬度。≪修復再生≫の魔力消費:大』
◇
検証を続けていると。
異変が起きた。
──ドゴッ!!
ゴロの拳が魔導人形へ当たる。
だが。
「……あれ?」
電撃が出ない。
もう一度。
──ドゴッ!!
やはり。
電撃は出なかった。
「止め!」
蓮は魔導人形を停止させる。
「魔力切れか?」
ゴロを見る。
だが、ゴロは首を横に振った。
魔力はまだ残っている。
ならば、なぜ?
蓮が考えていると。
ゴロが背中へ手を伸ばした。
大きな結晶。
先ほどまで。
青白く輝いていたそれが。
今は、かなり暗くなっている。
「……まさか」
ゴロはその場へしゃがみ。
両手を地面につけた。
すると。
──ジジジジジ……。
床を伝うように。
微かな電光が走る。
それが。
腕を通り。
背中の結晶へ集まっていく。
暗くなっていた結晶が。
少しずつ輝きを取り戻した。
「充電……?」
蓮は目を丸くする。
しばらく待つ。
腕の内部にも。
再び青白い電流が走り始めた。
「もう一回」
ゴロが立ち上がる。
拳を振るう。
──ドゴッ!!
──バチィッ!!
電撃が戻った。
「やっぱりそうか」
何度か試す。
結果。
電撃を使うたびに。
背中の結晶へ蓄えられた電気が減っていく。
使い切れば。
電撃は出なくなる。
そして。
再び電撃を使うには。
蓄電結晶へ電気を溜める必要がある。
「満タンじゃなくても使えるな」
途中まで充電。
拳。
──バチッ!
電撃は出る。
だが、使える回数は少ない。
「残量も分かりやすい」
背中の結晶を見る。
電気が多いほど、強く輝き。
減るほど、光も弱くなる。
問題は──充電中。
ゴロは地面へ手をつき。
ほとんど動けない。
「戦闘中にやるには隙が大きいな」
いつ使うか。
いつ温存するか。
いつ充電するか。
「電気の管理も必要ってことか」
≪電晶ノ体≫。
ただ硬く電撃を発するだけの肉体ではない。
蓄えた電気まで。
戦い方に関わってくる。
◇
「次は属性だな」
訓練施設には。
各属性の攻撃を再現する、魔導装置が設置されている。
蓮はまず、水属性を選んだ。
昨夜から一番気になっていたもの。
「ゴロ。そのまま受けてみよう」
装置を起動する。
──バシャァッ!!
大量の水がゴロの全身へ降り注ぐ。
一瞬で水浸しになる。
蓮は注意深く観察する。
土の身体なら。
水を吸い、柔らかくなり。
表面から崩れ始める。
だが。
「……変わらない」
結晶の身体。
硬さに変化はない。
腕を動かす。
脚を動かす。
問題なし。
「少なくとも、土の身体みたいな弱点はないな」
蓮は頷く。
水を受けても。
特別強くなるわけではない。
だが。
身体性能が落ちることもない。
これだけでも。
大きな違いだった。
しかし。
まだ終わりではない。
濡れた状態のまま。
魔導人形を起動する。
「ゴロ。殴ってみてくれ」
ゴロが拳を振るう。
──ドゴッ!!
そして。
──バチィィッ!!
「おっ!」
電撃が。
いつもより広く。
魔導人形の表面を走った。
水を伝い。
濡れた場所全体へ。
電流が広がっていく。
魔導人形の身体が大きく硬直した。
「やはり水を伝うのか」
もう一度。
今度は床へ水を撒く。
魔導人形とゴロの間。
そこへ細い水溜まりを作る。
ゴロが拳を水へ触れさせる。
──バチバチバチッ!!
青白い電流が水の上を走った。
離れた魔導人形へ届く。
「これは……」
蓮の目が輝いた。
水。
それ自体が。
電撃の通り道になる。
「水場なら、電撃を広げられる」
相手が濡れているほど。
周囲に水が多いほど。
≪電晶ノ体≫の電撃は、活かしやすくなる。
蓮はすぐにノートへ書き込んだ。
『水属性:○
身体への悪影響なし。
水を介して電撃が伝わる』
「受ける分には普通。
でも攻めるなら、かなり相性がいいな」
昨夜第一候補にした。
≪水蟲湿原≫。
その選択は。
さらに有力になった。
◇
続いて、雷属性。
魔導装置から。
青白い雷撃が放たれる。
──バチィィィッ!!
雷が、電晶の身体を走る。
だが。
ゴロに変化はない。
それどころか。
「……ん?」
背中の蓄電結晶。
その輝きが、僅かに強くなった。
「まさか……」
もう一度。
──バチィィィッ!!
雷撃を受ける。
再び、蓄電結晶が明るくなる。
「雷を受けても充電できるのか」
これは大きい。
本来なら。
敵から受けるはずの雷撃。
それすら。
電気として。
蓄えることができる。
「雷相手だと、かなり有利だな」
ただし。
どれほど強い雷まで。
安全に受けられるのか。
そこまでは分からない。
「限界はありそうだな」
蓮は慎重に記録する。
『雷属性:◎
高い耐性。
受けた電気を蓄電可能。
限界は未確認』
◇
次は火属性。
小さな火球。
──ゴォッ。
炎がゴロの腕を包む。
結晶に大きな変化はない。
「この程度なら問題なしか」
出力を上げる。
──ゴォォォッ!!
高温の炎。
しばらく受け続けると。
結晶の表面が僅かに熱を持ち始めた。
だが、亀裂が入るような変化はない。
「火には特別強くも弱くもないか」
蓮はノートへ書き込む。
◇
続いて風属性。
魔導装置を起動する。
──ゴォォォッ!!
激しい突風がゴロの全身へ叩きつけられる。
重い電晶の身体。
簡単には吹き飛ばされない。
表面にも目立った傷はなかった。
「……これだけなら問題なさそうだけど」
蓮は装置を止めず。
そのまま風属性の魔力を浴びせ続ける。
すると。
ゴロが自分の腕を見下ろした。
「どうした?」
拳を握る。
──ミシッ。
僅かに結晶が軋んだ。
「……ん?」
蓮は装置を止める。
そして、防御検証で使った魔導人形を起動した。
同じ出力。
同じ槍による突進。
──ガギィンッ!!
「っ!」
先ほどは、僅かな傷しか付かなかった一撃。
だが、今度は結晶の腕へ亀裂が走った。
「硬さが落ちてる……?」
もう一度、風属性の魔力を浴びせる。
その後、同じ攻撃を受ける。
──ガギィンッ!!
亀裂はさらに深くなった。
「やっぱりだ」
蓮は目を細める。
地属性の特徴の一つ。
それは魔力によって肉体を硬くすること。
だが。
地属性は風属性に弱い。
風属性の魔力を受けることで、その硬化の力が弱められているらしい。
「だから、電晶そのものが柔らかくなったんじゃない」
本来の硬さを維持できなくなっている。
その結果、普段なら耐えられる攻撃まで通りやすくなる。
蓮はノートへ書き込んだ。
『風属性:△
地属性による硬化が弱まる。
防御力低下』
「これは明確に相性が悪いな」
◇
次は地属性。
魔導装置から岩弾が放たれる。
──ゴンッ!!
電晶の胸へ直撃。
だが。
「ダメージは普通か?」
結晶そのものに大きな変化はない。
だが、ゴロが小さく首を傾げた。
「どうした?」
ゴロは背中へ手を伸ばす。
蓮も蓄電結晶へ目を向けた。
「……光が弱くなってる?」
先ほどより。
僅かに輝きが落ちている。
蓮はもう一度。
地属性攻撃を受けさせる。
──ドゴッ!!
やはり。
蓄電結晶の光がさらに弱くなった。
「電気が減ってるのか」
確認のため。
ゴロに魔導人形を殴らせる。
──ドゴッ!!
──バチッ!
電撃は出た。
だが、先ほどまでより明らかに弱い。
「出力まで落ちてる……」
地属性は雷属性に強い。
その影響なのか。
地属性の魔力を受けることで。
蓄えた雷の力が削られているらしい。
身体そのものへの攻撃が特別効くわけではない。
だが。
≪電晶ノ体≫の強みである、蓄電と電撃。
そこを抑えられる。
「これは厄介だな」
蓮はノートへ書き込む。
『地属性:△
身体へのダメージは通常。
蓄電量が減少。
電撃出力も一時的に低下』
◇
最後に、光属性と闇属性。
二つも順番に試していく。
光属性の攻撃を受けても、特別な変化はない。
闇属性も同じ。
もちろん。
それぞれの属性が持つ特性まで。
無効になるわけではない。
だが。
≪電晶ノ体≫だからといって。
特別に強くも、弱くもなかった。
「この二つは普通だな」
蓮は最後の結果を書き込む。
──────────────────────
≪電晶ノ体≫ 属性耐性
地:△
水:○
火:-
風:△
雷:◎
光:-
闇:-
──────────────────────
「属性相性はこんなところか」
これは攻撃を受ける側としての相性。
ただし。
水だけは、攻撃する側では話が変わる。
水を介せば、電撃は広がる。
「水相手なら、攻撃面ではかなり有利だな」
蓮はノートを見ながら。
小さく笑った。
水蟲湿原。
次の迷宮として。
ますます悪くない選択に思えてきた。
◇
「最後はスキルだ」
蓮は訓練用魔導人形をもう一度起動する。
まずは≪大地ノ拳≫。
「ゴロ。やってみよう」
ゴロが拳を握る。
「≪大地ノ拳≫!」
魔力が結晶の拳へ集まっていく。
その瞬間。
──バチバチバチッ!!
通常時よりも。
明らかに強い電撃が拳を包んだ。
「おお……!」
ゴロが踏み込み。
拳を振り抜く。
──ドゴォン!!
魔導人形へ直撃。
続けて。
──バヂィィッ!!
強い電撃が全身へ駆け抜けた。
魔導人形の動きが大きく止まる。
「通常攻撃より、電撃も強くなるのか」
打撃も。
電撃も。
どちらも強化されている。
蓮はノートへ書き込む。
続いて。
≪大地ノ角撃≫。
さらに。
≪大地ノ甲殻≫。
二つも順番に試していく。
どちらも。
土の身体で使った時とは明らかに変化していた。
「やっぱりそうか」
蓮は結果をノートへ書き込む。
≪電晶ノ体≫になることで。
既存のスキルも、この身体に合わせた性質へ変化するらしい。
詳しい使い勝手は。
実戦で確かめる必要がありそうだ。
◇
一通りの検証を終え。
蓮はノートを見下ろした。
≪電晶ノ体≫。
土の身体より僅かに動きは重い。
その代わり。
攻撃力。
防御力。
どちらも高い。
通常攻撃には。
電撃による追撃。
背中の結晶には。
蓄電機能。
水を介せば。
電撃を広げられる。
雷を受ければ。
蓄電まで可能。
その一方で。
風を受ければ。
地属性による硬化が弱まり、防御力が落ちる。
地を受ければ。
蓄えた電気が削られ、電撃の出力も落ちる。
そして。
既存のスキルも。
電晶の身体に合わせて変化する。
ただし。
≪電晶ノ体≫そのものの維持。
電撃の残量。
充電するための隙。
修復に必要な魔力。
考えることは多い。
「強いけど……雑に使える肉体じゃないな」
蓮は小さく笑う。
高い性能を持つ代わりに、使いどころを選ぶ。
「切り札って感じか」
ゴロも満足そうに。
──どんっ。
と胸を叩いた。
蓮はノートを閉じる。
そして、昨夜調べた迷宮を思い浮かべた。
水属性迷宮“水蟲湿原”。
土の身体が苦手としていた水。
だが。
≪電晶ノ体≫なら、その弱点はない。
それどころか。
水そのものを電撃の通り道として利用できる。
「……決まりだな」
ゴロが蓮を見る。
「次は≪水蟲湿原≫だ」
ゴロは力強く頷く。
そして。
──どんっ。
もう一度。
胸を叩いた。




