表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テンプレ通りッッ!!  作者: ひよこ倖門


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/8

ヒーローside

 よく寝た。

 とはいえ、まだ夜明け前だが。

 アルフレッドからすれば、多くても三時間くらいしか寝てない日々が常で、五時間も寝られたら、もう寝坊でも良いほどだ。

 ぐっと伸びをして、窓を開ける。朝の涼しい風が流れ込んできて、残っていた眠気が散っていくのを感じた。

 ハピエンを目指すと決めたからには、【捨て婚】のストーリー通りに進まなければならないだろう。

 そうなると、まずは(やしき)の掃す除からだ。アルフレッドがそわそわしてるのも、普段も夜明け前から掃除や洗濯を始めてるのに始められてないからだろうし。

 夜明け前から動き出す使用人はおらず、掃除道具が収納されているところにはまだ誰もいなかった。

 何で初めてきた(やしき)の掃除道具の収納場所が解るかって? 大体使用人のエリアの構造は何処(どこ)(やしき)であれ似通ってるから、伯爵家の構造から推測してるにすぎない。

 上から順に(ほこり)を落とし、床を掃き、窓を磨く。個人的には窓を磨くのが一番楽しい。汚れが目立ちやすいからか、掃除したって気分になって、清々しかった。

 空が少しずつ明るくなってくると、良い匂いが(ただよ)ってきて、料理人たちが仕事を始めたなって気づく。伯爵家では掃除を終えて、料理も作ってたけど、まだ慣れない侯爵家では料理まで手を出せなくて、アルフレッドがまたそわそわし出して、何だか落ち着かなかった。

「何をしてらっしゃるんですか!?」

 慌てた足音と声に振り返れば、そこには昨日食堂や部屋に案内してくれた従者がいる。その(うし)ろには何人もメイドがいて、おれを見てからバタバタとあちこちに散り始めた。

「泊めていただいたお礼に掃除をと」

「お客さまがなさることではありませんっ」

 脚立から降りるように言われて、素直に降りる。おかしいな、ここはヒロインに怒られるところだったはずなんだが。

 いや、こんな早い時間から貴族令嬢は起きないか。義母もそうだったしな。怒られるシーンは何時(いつ)の設定だったのか。

「まぁ、ニース卿! すごいですわ!」

 つらつらと考えていれば、パタパタと走る音がして、見やればヒロインがこちらにやってくるところだった。

 しかも、窓を見上げて、驚いている。

「お嬢さま」

「あら、ウェル、だって、窓がいつもより光ってるのよ!」

「お嬢さま、窓ガラスが光っていることよりも、お客さまが掃除をなさっていることに注意していただきたいのですが」

「そうね、びっくりしちゃうものね。ニース卿、次からは家令にお尋ねくださいませ」

「違いますっ!」

 気安いやりとりに、はて【捨て婚】にウェルなんて従者出てきてたかなと、おれは記憶を(さぐ)った。これだけヒロインと気安いだから、モブじゃないだろうと判断したのだが、うーん、どうも思い出せない。

 それにヒロインの台詞(せりふ)も「これだけ綺麗に磨けるなんて、どうか我が家の使用人たちにも教えてあげてもらえないでしょうか」と最初の台詞(せりふ)(あと)に続くはずなのに、ウェルとのやりとりになっているのも、ストーリー通りではなかった。

「それよりも、ニース卿! 朝ごはんにしましょう!」

「朝ごはん?」

「そうです、わたくし、ニース卿の衣食住を支えると決めたのです。なので、まずはわたくしと朝ごはんですわ」

 内心で首を(かし)げていると、いつの間にか近寄ってきていたヒロインに、ぎゅっと手を握りこまれ、顔を下から覗かれている。

 上目遣い、可愛い。

 多分赤くなっている顔を片手で(おお)いながら、おれは頷いた。


 手を引っ張られるようにして、食堂に連れていかれると、そこには二人、先客がいた。

「おはようございます、お父さま、お母さま」

「おはよう、ベティ」

「おはよう」

 さっと礼をとったヒロインに合わせて、おれも礼をとる。

 というか、朝の挨拶にも淑女の礼(カーテシー)とは、貴族令嬢も大変だ。男はそこまで礼に対して言われないが、紳士の(ボウ・アンド・)(スクレープ)を習得する。

 いや、男の場合は言われないは正しくないか。

 ラノベとかでは淑女の礼(カーテシー)のほうが有名で、紳士の(ボウ・アンド・)(スクレープ)はあまり出てこないだけだ。

 ちらりと見ただけだが、母親はヒロインと似ていて、どちらかというと和風的な印象を受ける。けれど、別にドレスが似合っていないとかではなく、落ち着いた紺色のドレスも、夜会巻きのような結い上げた髪も、綺麗に整えられていた。

 対して父親は、細身だというのに鍛えているのがしっかり解る。けれど、中性的な印象の顔立ちをしていて、アンバランスなのだが、不思議としっくりくるような全体的なバランスが絶妙だ。

 何言ってるのか解らないかもしれないが、本当にこの絶妙さは筆舌に尽くしがたい。

「ベルガモット、彼が?」

「えぇ、お父さま、ニース伯爵家のアルフレッドさまですわ」

 侯爵が(うなが)したことで、ヒロインから紹介される流れになったので一度顔を上げる。

 先程はちらりとしか見れなかった二人に視線を合わせ「ご紹介に預かりました、ニース伯爵家のアルフレッドと申します」と再度紳士の(ボウ・アンド・)(スクレープ)をとった。

 身体(からだ)が覚えるほど練習したアルフレッド、マジですごい。おかげで意識しなくても綺麗に礼がとれる。

「ベルガモットの父で、侯爵を継いでいる、ドリュウズだ」

「ベルガモットの母、ミランナよ」

 座りなさいという侯爵の声に従って、席についた。

 何も言わずとも使用人たちが動き出し、食事が運ばれてくる。これは話をしながら朝食を摂る流れで、家長は必ず朝か夜に、(やしき)の采配をするため家族間での情報共有をする決まりだ。

 決まりと言っても法律等で決められたことではなく、貴族特有の暗黙の規律(ルール)と言ったところだろうか。実際、伯爵家ではアルフレッドだけ(のぞ)かれていたし。

昨日(さくじつ)の件は聞いていた。だが、国外追放がなくなったのは、どういうことだ」

「やはり、お父さまや陛下がいらっしゃらなかったのは王子殿下にあの場を任せていたからなのですね」

 気づかなかったが、言われてみれば、確かに王子や王女が場を取り仕切っていた。昨日の夜会は教皇が聖女をお披露目する夜会だったはずなのに。

 成程、整えられた婚約破棄だったわけだ。

「国外追放にならなかったのは、わたくしがニース卿と婚約すると宣言したことで、聖女さまが祝福を贈ってくださったからでしょう」

「王女殿下とアルフレッドどのとの、婚約破棄については聞かされていないのだが」

「あれを婚約破棄と言ってしまってよろしいのかは解りかねますけれど、王女殿下はアルフレッドさまではない殿方とご一緒されていて、婚約者を替えたいとおっしゃっておられましたわ」

「聖女さまからの祝福を(いただ)いたとなれば、早急な対応が必要だ。ベルガモットの婚約破棄の手続きなどは済んでいるが、アルフレッドどのはまだだろう」

「恐れながら、侯爵閣下。伯爵が手続きを終えているかと思います」

 二人の会話を(さえぎ)る形になるが、おれは(だい)()なことだと口を(はさ)む。

 普段、伯爵家の仕事を(にな)ってきたのは、伯爵ではなくアルフレッドだが、義母や義兄が絡むような事柄に関してだけは伯爵が決済していた。

 もちろん、最終的な収支等は見ないので、結局全てアルフレッドが決済しているようなものだが、婚約破棄となり義兄が王女と縁づくとなれば、伯爵が動かないはずはない。

 本来であれば下の爵位の者が割り込むなど礼儀知らずだと叱責されるものだが、侯爵は「では、こちらでその辺りも含め、調査しよう」と答えただけだった。

「きみは伯爵家を継ぐ者なはずだが、このままでは婿入りしかないがかまわないのか」

「婿入り…? 侯爵家には後継ぎがいらっしゃると聞いていますが」

 そう、【捨て婚】ではアルフレッドは侯爵家に住まわせてもらうものの、侯爵家に婿入りはしない。アルフレッド自身が潰した伯爵家を、陛下から(しゃく)するからだ。

 さらには侯爵家には後継ぎであり、ヒロインの兄でもある、ダグリュースがいる。彼が死んだという情報はアルフレッドにはないんだが、どういうことだろうか。

 しかも、おれの投げかけた疑問に、侯爵だけでなく、侯爵夫人もヒロインも、果ては使用人たちまでが固まっていた。

「………お兄さまは、辺境伯閣下になってしまいましたので」

 言いづらそうに口を開いたヒロインがすごく申し訳ない顔をしている。眉が本当に八の字に()がっていて、そんな顔も可愛……じゃなくて。

 嫡男が辺境伯閣下になったって、どういうことだ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ