ヒーローside
「えぇ、そうよ。あたくしの使えない婚約者を、あたくしを認めてくれる婚約者と交代させるつもりでしたのに」
気怠そうな声にハッとする。
天使の輪が浮く金色の髪は綺麗に巻き流され、ボン・キュッ・ボンの身体の線が解るドレスは胸元も背中も大胆に開いた濃紺。
寄せた胸を押しつけいる腕の持ち主は義兄のユルフレッド。脂下がっているくせに、美形だからか、あまり下品に見えないのが残念なところか。まぁ、いやらしさは存分に伝わっているけども。
あぁ、ヨンナに遠回しに婚約破棄されたところだ。
これは【捨て婚】の冒頭部分だな。
ゆるっとした、婚約破棄とも言えない婚約破棄で、アルフレッドは断罪もなく、テキトーに捨てられるのだ。
おれとしては、婚約者がありながら、別の男と仲良くする女はお断りだけど、アルフレッドにとっては唯一の希望みたいなモノだったんだよな。
母親は蒸発し、父親は愛人を後妻にした上、自分より歳上の子供がいてお兄さんになるなんて言われて、納得できるガキなんていない。むしろ、ガキなら泣き喚いたりしても良いはずだ。
で、この後妻や義兄ってのが、まあ、ホント物語でよく見るクソな人間で、アルフレッドの尊厳やら何やら奪ってこき使ってて。父親もそれに気づいてても止めねぇっていうな。
そんな時にじいさんである前伯爵が王家との婚約なんて結んできたから、アルフレッドは王宮に行く間だけは休息で、最初の頃のヨンナは優しかったから、あっという間に惹かれていったんだっけか。
っていうか、断罪するなら、もっとしっかり断罪してほしいもんだ。何だよ、交代させるつもりとか、晴れ舞台とか、婚約破棄イベントなんて、一番盛り上がる冒頭部分か、メインイベントのはずだろ!?
多分ヨンナとかが色々話してるけど、おれは全くその言葉が入ってこない。なんたって、盛大に混乱中だからだ。
視覚的には、ヨンナがユルフレッドにしなだれかかっているのとか、めっちゃいちゃいちゃしてるのとか、見えてはいる。
見えてはいるけど、実際はそれどころじゃなかった。
何もこんな中途半端な記憶の戻りかた、ある!?
しかも、アルフレッドの記憶と混濁起こしてるから、アルフレッドなのか、おれなのか、あやふや。
「ここに神託を受けるだけでなく、精霊たちにも愛された聖女マリアンヌがいるんだ。その祝福をもらえばおまえの晴れ舞台にもなろう」
【捨て婚】には聖女はいたくらいしか書いてなかったけど、なんかがっつり絡んできてる。えと、たしか王子って言ってたな。
そうそう、この王子もさっき婚約破棄してて、おれのやつよりちゃんと見せ場のようや婚約破棄だった。
ん? 【捨て婚】の始まりの前ってそんなストーリーがあったのか? 覚えてないというか、記憶の混乱なのか、ちょっと解らん。
いや、【捨て婚】は婚約破棄後の拾われストーリーだからな。え、こんな状態から拾われるストーリーにもってくわけ!?
自分の身体を見下ろせば、骨が浮き出た手首と、全く身体に合ってないダブついたテールコート。
物語通りであれば、痩せこけた頬に、栄養が回ってないためにバサバサなシルバーグレイの髪のはずだ。
あぁ、もう、この時点で回れ右して、帰りたい。いや、帰ったところで、この身体は回復しないんだと知っているけども。
「マリアンヌは優しいから、キサマが露頭に迷わぬよう何も罪には問わないそうだ。良かったな?」
こっちの断罪劇より盛り上がっている王子のほうをよく見ようとしたのか、誰かがぶつかってくる。避けることもできず、鍛えられてすらいないこの身体はよろめくしかない。
せめて、倒れ込まないように少し踏ん張ってみれば、折れそうな手首を取られた。
「ありがとうございます、でしたらわたくし、この方をいただきますわ」
まさか隣の断罪劇が【捨て婚】のヒロインだったなんて、どういうこと!?




