ヒロインside
「婚約を破棄するッッ!」
目の前で叫ぶ婚約者の声でわたくし――わたしは前世を思い出した。
え。
あのご尊顔は推しのカルナートさまでは!?
カルナートさまが腰を抱いてるのは、聖女マリアンヌでは!?
と、いうことは。
あれ、わたし、ベルガモット?
やだ、【せれ愛】の世界に、異世界転生!?
眉を吊り上げてても格好良さは減らないのね。カルナートさま、素敵。
はぁ、ホント絵師さま素敵すぎるキャラデザありがとう。語彙なんて失くなるどころか、存在しないレベルで、素敵格好良いしか言えないわたしをどうかどうか許してほしい。むしろそれ以外の褒め言葉って何かな。ガタイが良いとか筋肉の描き方が良いとかお尻の形が良いとかかな。金色の瞳と髪が輝いてて印象深かったとかか? 解かんないけど。
腰を抱かれている聖女マリアンヌの可憐さもホント言い表せないよね。もう。こう。つるんとした肌とか、ボン・キュッ・ボンで羨ましい身体とか、銀色のキューティクルも表現されていた髪質とか、ちょっと垂れ目気味なところが愛嬌もあって尚良しとか。
兎にも角にも、今目の前にいらっしゃるお二人はそういう外見である。
対して、わたしはそこそこ胸はあるものの、吊り目気味で前世よりも真っ黒な髪で、ふわふわした印象というよりはスラッとした印象、もしくは堅苦しい印象与えているはずだ。それなのに名前だけベルガモットと何か高貴っぽい。
どう考えても日本名のほうがしっくりきそうな外見だ。
いや、そんなどうでもいい情報はおいといて、今、婚約破棄って言われてたよね、わたし。
ちょっと何で婚約破棄のタイミングで前世思い出すのよ。でも高熱出たり大怪我したりして思い出すよりマシ? いやいやいや、もっとマシに前世は思い出したいでしょ、ホント空気読んで、前世。
だって、ベルガモットはこの後色々あって、最終的に国外追放か死刑なのよ!? 因みにハピエンが国外追放で、バドエンが死刑。誰のハピエンとバドエンて、目の前にいるお二人の以外にないでしょう。
取り敢えずこの場を上手いこと切り抜けて、ちゃんと【せれ愛】について整理したい。今ここで整理して対処する時間なんてないわ。
「キサマはおれの婚約者である立場を利用して、おれの周りから人を奪い、さらには聖女であるマリアンヌを虐め、暴漢に襲わせようとした! その罪は重いッッ! よって、おれは聖女であるマリアンヌを保護するためにも、キサマとの婚約を破棄し、彼女を婚約者とするッッ!!」
すぐにベルガモットの記憶を思い出せないけど、婚約者の立場を利用して周りから人を奪ったって、何のことかな。あれか、綺麗事だけしか言わない人たちばっかりだったのを注意したやつかな。どれかな。
虐めたっていうけど、確か子爵令嬢だから、高位貴族へ馴れ馴れしくしてはいけないという貴族のルールを話したやつかな。暴漢についてはよく解かんないな。準備してたんだっけ? あ、【せれ愛】上ではしてたな。じゃあ準備してた、してた。
あーもーこれ後手後手なやつじゃない。だから、ホント空気読んで、前世。
とにかく、この場から上手く言い逃れないと。周りも好奇心旺盛で見てるし、【せれ愛】上ではどうなるんだっけ?
内心でものすごくパニックを起こしていると、艶やかと言っても過言ではない声が「あら、お兄さま、あたくしの晴れ舞台を取らないでくださる?」と割り込んできた。
えっと、ヨンナ王女だったかな。
【せれ愛】では王女がいるくらいの設定しかなかったはずだけど、全てが【せれ愛】通りじゃないのね。ルートの問題かしら? でもカルナートさまが聖女マリアンヌの腰を抱いてるんだから、カルナートルートのはず。あれ、王女出てこないな、確か。
「晴れ舞台ぃ?」
「えぇ、そうよ。あたくしの使えない婚約者を、あたくしを認めてくれる婚約者と交代させるつもりでしたのに」
んん〜!? 王女は婚約者交代って、いや、王女も婚約破棄だよね、それ。
え!? えぇ!? どういうこと!?
一方的に色々言われてるけど、答える暇すらない。なんたって、王族二人が会話してるから、いくら高位貴族だって割り込むことは無礼にあたる。
ちょ、その王女の腰抱いてる人、誰よ。ベルガモットの記憶でも見たこともないんだけど。いや、王女の婚約者のことはベルガモットも知らないかもしれない。王子妃教育中に婚約者は決まってるって聞いたくらいかも。
「ここに神託を受けるだけでなく、精霊たちにも愛された聖女マリアンヌがいるんだ。その祝福をもらえばおまえの晴れ舞台にもなろう」
そうそう聖女マリアンヌは精霊どころか、大精霊の加護をもっていて、数十年振りの聖女で、すごく努力家で。
あぁ、ダメダメ、もう、頭働いてない。
国王さまとか、教皇さまは、このタイミングでは出て来ない。ベルガモットの両親だってそうだ。
教皇さま主催の夜会だというのに、矛盾した設定だ、今考えると。
よろりと誰かが横でよろけていた。
「マリアンヌは優しいから、キサマが露頭に迷わぬよう何も罪には問わないそうだ。良かったな?」
にやりと嗤うカルナートさまの言葉と同時にわたしは横でよろけた人の手を取った。
「ありがとうございます、でしたらわたくし、この方をいただきますわ」




