9.疑惑
電撃決定!
リーガル次期王座決定戦 60分1本勝負
リーガル王家正統後継者 チャールズ・リーガル VS 鮮血の魔女 フレア・ブラッシー
魔法ビジョンの前で、理解の追いつかない二人が顔を見合わせていると、画面が切り替わり、アナウンサーが話し始めた。
「謝罪会見を襲撃した鮮血の魔女フレア・ブラッシー! 狡猾な魔女は偽の謝罪会見に慈悲深いチャールズ殿下をおびき寄せると、替え玉を使い、背後から襲撃!」
「意識朦朧となった殿下の手を取ると、無理やり魔女の契約書に殿下の血判を押しました!」
「そして、これが契約の内容です!」
試合契約書
主催者:フレア・ブラッシー
会場:リーガル王立学園 特設リング
レフリー:フラット・アトキンス
王者:チャールズ・リーガル
挑戦者:フレア・ブラッシー
ルール
失われし王国の伝統決闘方式に基づき、素手で行われる。
勝敗
ピンフォール:相手の両肩をマットにつけ、3秒間押さえつける
ノックアウト:相手をダウンさせ、10秒以内に起き上がれなかった場合
ギブアップ:相手に降参の意思を示させる
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初めて見るプロレスのルールに、この世界の人間である二人には、どんな戦いになるのか想像もつかない。
「ここでチャールズ殿下の会見が始まるそうです。果たしてお身体のほうは大丈夫なのでしょうか?」
頭に止血用のタオルを巻いたチャールズの姿が映し出される。
幸い、怪我は大したことがないようだ。
手に持った契約書の写しらしきものを一瞥すると、叩き捨てる。
「怪我? かすり傷ですよ、こんなもの! リーガル王家の人間がですね! これだけ舐められて黙っているわけにはいかないでしょう! やってやりますよ!」
「あの魔女をこの国にのさばらせておくなんて、リーガル王国の恥ですから! この手で叩き出してやります!」
ルールも分からないが、親友の普段からは想像できない言動に、マリガンは言葉も出ない。思わずカリーナに意見を求めるかのように顔を向けた。
カリーナはうつむき、顔を赤くしている。敬愛する王子へのフレアの仕打ちに、怒りがぶり返してきたのだろう。
だが、カリーナが次に発した言葉に、マリガンは耳を疑った。
「か、かっ……かっこいい! いつもの優しくてもの静かな殿下もよいのですが! 殿下にこんな一面があったなんて!!」
目にハートすら浮かべて、画面を食い入るように見ている。
「普段はジェントルマンな殿下のワイルドな一面が、とんでもない色気を醸し出して……たまりませんわ!」
マリガンは、心の底で少し惹かれかけていたカリーナの新たな一面を消化できないでいた。
(あれが……かっこいいのか?)
「幸い殿下の傷は軽いようです。普段は温厚な殿下ですが、あんな熱い一面もお持ちだったのですね」
画面が再びアナウンサーに切り替わる。カリーナは少し落ち着きを取り戻した。
「カリーナ……おかしいとは思わないか?」
まだ頬が赤く、熱が収まりきっていないカリーナに、マリガンは尋ねた。
「そうですね。おかしくなるくらい殿下は素敵でしたよ!」
「いや……そうではなく、謝罪会見の場で殿下が背後から襲撃されるなんて、何者かの手引きがあったとしか思えない!」
マリガンは今回の件をずっとおかしいと感じていた。
王族に暴行を振るい、極刑とすら噂されていたフレアが、学園の退学と婚約破棄、教会入りだけで済まされたこと。
フレアの父親、エリック侯爵が自主的な謹慎をしたものの、数日で王命により政務に復帰したこと。
公的に謝罪の場を与えられたこと。
その教会で変装を許され、チャールズの背後から襲えたこと。
挙句の果てに襲撃の罪さえ問われず、魔女の契約とやらで戦いによる決着が決まってしまったこと。
何者かが裏で手を引いているのは確かだ。
父親のエリック侯爵が疑わしいが、警戒は当然されているだろう。
それに、教会に対してすら資金的な締め付けを行ってきたエリック侯爵と教会の関係は芳しくなかったはずで、教会があのようなことに力を貸すとは考えづらい。
さらに、チャールズがみすみす襲撃を許すのも、あんな挑発に乗るのもらしくない。
そもそも、あのルール『失われし王国伝統の決闘方式』とは何なのか、聞いたこともない。
騎士見習いとはいえ、一介の学生には分からないことばかりだった。
――絶対に負けられない戦いがそこにある!
リーガル次期王座決定戦 60分1本勝負
リーガル王家正統後継者 チャールズ・リーガル VS 鮮血の魔女 フレア・ブラッシー
NOW ON SALE!
魔法ビジョンでは、あまりにも手際の良いチケット予約販売が始まっていた……。
マリガンは疑心暗鬼に陥りながら、どうにか友人の力になれないかと考え、カリーナは平民には厳しい金額をどう工面するか、それぞれ腐心し始めた。
様々な問題をはらみながら、勝負はひと月後に行われる。




