7.アイアンクロー
屋敷についたエリック侯爵は、着替えることもなく娘の部屋に向かった。
狂ったかのような凶行に走ったとはいえ可愛い一人娘。
娘を正しく育てる事も、守る為の弁解もまるで出来なかった無力さを振り払い部屋に向かう。
おかしな行為をくり返したと聞いていたので泣き叫んでいたりしないかと思っていたがフレアは意外と落ち着いていた。
エリックはカリーナをいじめていたことを事実かと問い詰める。
答えは沈黙、普段のフレアであれば誤魔化したり他人のせいにしたりするところだが認めたようなものだ。
何か思うところでもあったのだろうか?
気のせいか何か言いたいが言えない感じに見える。
今さら遅くとも反省してくれれば良いのだが…謝罪を意図する言葉が出ないのは残念に思う。
『フレアは悪役らしくない行動は取れません』
フレアの脳内にエラーメッセージが響いていた。
相変わらず謝ったりとかはできないようだ。
自分でやったことではないとはいえ謝意を表すことすら出来ないのは心苦しい。
もどかしい気分でいるとエリックはフレアの隣に座った。
「フレア、パパは本当のことを…お前が何を考えて何をしたのか知りたいだけなんだちゃんとお前の口から聞かせて欲しい」
頭を撫でながら優しく尋ねてくる。
「例えそれがどんな事でもパパはお前の味方だ、信じるし受け止めてみせる」
フレアは…いやアスカは悪役ではあるが悪人ではない、自分に親身になってくれる人に嘘をつき続けるのは耐えられなかった。
元の世界で父親というもの知らない彼女は父親に憧れていた。
フレアの記憶の中にはやさしかった父の記憶があり、その父親が頭を撫でながら自分の味方と言ってくれている。
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フレアは全てを打ち明けることにした。
エリックにはフレアの話すことは信じられなかった。
だがフレアがエリックに信じて貰えないかもしれないけれど前置きしながら話してくれた内容は突飛ではあったが辻褄が合っているように感じた。
エリックには自分含めて創作の登場人物というのはどこまで正しいのかは分からなかったがそれを話す娘の知見は自分たちの世界で得られるとは思えない内容で娘の口から語られた事は認識違いはあるかもしれないが本当のことを話しているように感じた。
フレアは父親が自分の話を聞いて理解していることに驚きを隠せなかった。
時々、この世界の常識や技術、社会制度から逸脱した内容に関しては聞き返してくる。
その度に説明をしたこともあり理解を突拍子のない内容を消化してくれたのが分かった。
現代世界の情報を理解出来るのは帝国の智謀、鉄の宰相と呼ばれるだけのことはある。
「成る程、不可思議な現象ではあるが空想にしては一人の人間が考えられる事とは思えない、別の人格が入っているというのは事実なのかもしれないな」
そう言いながら優しくフレアの頭撫でてくれているエリックの手が止まった。
手に力が籠もってきているのは気のせいだろうか…キリッキリッと頭蓋骨が悲鳴をあげる。
「娘から出ていけこの悪霊がーっ!」
撫でていた手が知らぬ間にこめかみを締め上げていた。
痛い!痛い!痛い!抜けようにも抜けられない馬鹿握力で一気に締め上げられる。
フレアは思わずタップしてしまったが通じるわけもなくさらに締め上げられる。
後にフレアは、鉄の宰相は爪先まで鉄で出来ていると語ったとか…
気絶する寸前に『パパたすけて…』と無意識に呟かなければそのままスイカのようにカチ割られていたかもしれない。
フレアが目を覚ました時にはエリック侯爵は少し落ち着いているようだった。
悪霊と呼ばれたのはショックだったのか思わず感情を吐き出す。
「わたくしだって…わたくしだって…望んでこの身体に転生したわけではありませんのよ!」
パパには気の毒とは思うが私だって被害者だ。
「一人称はわたくしになってるし言葉遣いは令嬢のようにしか話せませんし何より気がついたら覚えのないイジメの断罪をされていたのですから!」
お嬢様みたいな話し方しか出来ないのはこの身体の影響だろう。
覚えがないというのは自分がやったという記憶は無いがこの身体に過去に行った記憶が残っているという感じだ。
転生する前に創作ではこのような話を読んだことはあるが流石に断罪が始まっていて誰も助けてくれないというのはほぼ無かったような気がする…あんまりな転生だ。
なんか涙が出てきた…こんなに涙脆かった覚えはないのだがこれもこの身体のせいだろうか。
ハンカチを出しながらよよと泣いていると(仕草までお嬢様っぽくなってる…)
お父様に狼狽の色が見えた。私の頭を締めつけていた指は外されており力なく宙を彷徨っていた。
(フレアだ!私の娘だ…例え何者かの記憶が残っていようが何者かに乗っ取られていようがこの声、仕草は幼い頃と変わっていない。この身体に生きている残っている。)
推察するに私の娘に突然、前世の記憶が蘇ったのか悪魔が取り憑いたのかは分からないが娘は消えてしまったわけでは無さそうだ。
あるいは公の場で殿下に糾弾されたショックで心の奥底に引っ込んでしまっているような状態かもしれない。
落ち着いて話の続きを聞いてくれたパパは私の中に以前のフレアの記憶が残っているか確認をした
淀みなく過去の記憶の話をすると暴力に訴えたことを謝罪すらしてくれた。
物分かり良い。流石は鉄の宰相、洞察力や理解力がずば抜けている。
逆に自分の中では意識が混濁しているのか侯爵のことを心の中でいつの間にかパパと呼んでいたりする。
「成る程、状況は理解した。ただ一つ分からない事がある…どうして殿下に凶行に及んだのだ?手を掛ければ処刑もあり得るだろう?」
「ヒールとしての意地ですわ!あのままじゃ終わり切れなませんもの!」
「この悪魔がぁぁっ! 娘から出ていけ!」
鉄の爪が再び頭に食い込む。
落ち着いて今後の話が出来たのは私がもう一度気を取り戻してからだった。
パパと私の今後について話し合った。殿下にあれだけの事をやらかしたのだ今更普通に謝罪しただけでは良くて追放、悪ければ処刑されかねないというのは共通した認識だった。
それであればどうするか? パパから思いもつかないような提案がされた。
・・・王国の智謀 鉄の宰相恐るべし。




