47.病院にて
試合後、フレアが昏睡したとの知らせが入り、リーガル王国王立病院には秘密裏に五人の男たちが集まっていた。
チャールズ、アトキンス、マリガン、ロシモフは、病院の待合室で眠れぬ夜を過ごした。
「酷いもんだな、フレア様がお前らに何をしたって言うんだ……」
ロシモフが暇つぶしに読んでいた新聞をテーブルに放り投げた。
そこには、他にも何社かの新聞が置いてあった。
どの新聞にも一面には大きく昨日の対抗戦に関する見出しが載っていた。
『フレア醜態! 素人に失神KO!』
『フレア惨敗! 国外追放決定か!?』
『聖女爆誕! フレアを病院送り!』
タブロイド紙寄りとはいえ、酷い見出しが並ぶ。
「自身が望んでやっていた事とはいえ、こうなると気の毒ではあるな……」
アトキンスの言葉に皆が力なく頷いた。
「しかし、カリーナのあの力は何だったんだ? 聖女って何だよ?」
マリガンは超人的な腕力を見せられても、尚、カリーナが気になるようだった。
「聖女伝説は、本当にこの国に伝わる伝説だろ! この国が憎悪に包まれた強大な敵に狙われたときに助けに現れるって……聞いたことくらいはあるだろう?」
チャールズが、フレアの意思を読み取って聖女と呼んだことで定着してしまった。
カリーナが本当に聖女かどうかは分からないが、不思議な力を持っていることは確かだった。
本来は、強大な敵に立ち向かうべき聖女の力が、誤ってフレアに向けられたのであれば病院送りなったのも仕方がない事だ。
「え、みんな集まっているの? パパったら大げさに騒いだんじゃない?」
思ったより元気そうな声を響かせながら、エリックに車椅子を押されたフレアが、待合室に現れた。
「昏睡していたと聞いたが、大丈夫なのか?」
チャールズはいち早くフレアに駆け寄り、その手を取って尋ねた。
「ええ、痛み止めが聞いて眠ってしまっただけですわ、父が大騒ぎしてしまったようで、申し訳ありません」
心配してくれた事には感謝するが、妙に距離が近いチャールズに驚きながらフレアは答えた。
「骨は何本か折れてるから暫くはリングにも立てないけれど……追放だから関係ないですね」
フレアは、寂しげに呟いた。
「な、なにを言ってるんだフレア?」
「それは試合を盛り上げるためのギミックだろう?」
エリックとアトキンスは、フレアの思わぬ言葉に声を上げた。
「いいえ、負けたら追放。これはわたくしが受け入れなければいけないことなのです」
フレアは、真面目な顔で言い切った。
「……どうして? 君は何も悪いことはしていないじゃないか! それに私が追放と言った件なら、学園は既に辞めているじゃないか!」
チャールズは思わず掴んでいた手を強く握りしめる。
傷が痛んだのか少し顔を顰めたフレアに気づくとチャールズは手を離した。
「違うの! そういう事じゃないの、わたくしはカリーナを……」
「言わなくていい! 私が間違っていた! 君を追放なんかしない!」
チャールズは、フレアの言葉を遮り抱き寄せる。
感情が昂り、フレアを抱きしめたチャールズの頭を何かが覆った。
「殿下、少し落ち着いてください」
エリックはチャールズの頭を掴み、フレアから引き剥がした。
顔には笑みを浮かべていたが――頭を掴む手に何か恐ろしいものを感じたのは気のせいだろうか?
「殿下、娘と二人で少しだけ話をさせて頂いて宜しいですか?」
フレアに以前、前世の話などを聞かされていたエリックは、フレアの様子に何かを察していた。
チャールズ達の了解を得て、フレアとエリックは病室に戻っていく。
エリックに車椅子を押されながら、フレアは振り返り、マリガンに声をかけた。
「マリガン、カリーナのところに行ってあげて! 彼女は事情を聞かされたのでしょう、優しい子だからきっと酷く困惑している筈……」
その言葉に思い当たったのか、マリガンは一礼をすると病院を出て行った。
病室に戻ったフレアとエリックは秘密の話し合いを始めた。
「フレア、カリーナ嬢を前にした途端、おかしなことを始めたとは思ったが、あれは前世の記憶やこの世界のシステムに絡むことだったのかい?」
「気づいていらっしゃったの? 確かに彼女を目の前にしたとき理解できないくらい憎悪の感情に包まれて自分をコントロールできなくなっていましたわ」
「リングに上がって来た素人を痛めつけるために試合を組むなんて絶対に許されません、でもあの時はまるで自分の感情を抑えられなかった……」
「その罰を受ける……というわけではないのだろう?」
自分の父親ながら僅かな情報で心の底まで覗いてくるような推理力は、流石は鉄の宰相と呼ばれるだけはあると舌を巻く。
「いえ、カリーナを痛めつけようとしたことは許されないことと認識していますわ、でも彼女に惨敗して目が覚めたとき、情けなさのあまり彼女と約束した追放を受け入れようと思った」
「すると不思議なことに彼女への憎悪が幻のように消えていくのを感じたの。これは、わたくしのカリーナに対する役割を終えたってことなんじゃないかしら? 不思議なくらい今では、落ち着いているわ」
胸に手を当てて柔和な笑みを浮かべるフレア。
「つまり追放という形を取らなきゃいけない訳だな……殿下たちをどう説得したものか」
鉄の宰相は、頭を掻きながら灰色の脳細胞をフル回転し始めた。




