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44.宣戦布告

 アトキンスは審判団としての務めを果たして解説席に戻っていった。

 解説席のアナウンサーは、アトキンスが隣に座るのを待って、実況を再開した。


「大変なことになってまいりました、あわや副将戦は両者反則負けとなるところでした。しかし、両軍と審判団が協議の末、急遽、主将と副将によるタッグマッチに変更! 審判委員長として協議に加わったアトキンス将軍に詳しく伺ってみたいと思います」

「タッグマッチはアトキンス将軍の発案でしょうか? フレアに非常に不利になるように感じるのですが、よくフレアが受けましたね」


「私もフレアがあっさり受けたのは意外でした。それどころか控室を外から施錠し、すでに敗退した両軍の選手が乱入できないようにしようと提案してきました。恐らくなのですがフレアとしても対抗戦にちゃんとした形で決着をつけたいのだと思います」

アトキンスの言葉を肯定するかのように、魔法ビジョンには、勝負の行方を見守る両軍控室の様子が映し出される。


 改めて選手の入場が行われる。

 ブーイングを浴びながら先にフレア&ダニー組が入場する。

 次にケンドー&チャールズ組が入場する。ケンドーは竹刀を腰に携えながら入場すると、居合一閃のデモンストレーションを行う。目にも止まらない高速の太刀筋に観客席から驚嘆の声が上がる。

 

 ケンドーは、そのままフレアの喉元に剣先を突き付けた。

 フレアがレフリーにクレームを入れると、レフリーは、ケンドーに竹刀を渡すように要求した。

 ケンドーは渋ったもののチャールズが竹刀を取り上げ、レフリーに渡すと解説席のアトキンスに預けられた。


 試合開始のゴングが鳴った。

 フレア&ダニー組はフレアが先発。その姿を見るや、チャールズが飛び出した。

 予想外に両軍の主将が先に出てきたことで、会場は、スタートから盛り上がりを見せた。


「これは……フレアはもしかしたらダニーの事を信用していないかもしれません」

 アトキンスが首を傾げながら推測する。


「先ほどの不甲斐ない戦いぶり、フレアが先発してきたのはそういうことでしたか!」

 アトキンスの言葉にアナウンサーは頷いた。


 フレアとチャールズが組み合うかに見えた瞬間、フレアが反転する高速ローリングソバット!

 しかし、チャールズはバックステップをしてかわすと無防備な背中にタックルをして倒し、すかさず、足を取り、ボストンクラブーー片エビ固めを決めた。

 

「アトキンス将軍! 殿下がフレアの動きに対応してきましたよ!」

 

「前回の対戦の中でも少しずつフレアの動きに対応していましたからね、一気に片エビ固めまで持っていった動きも見事でした」


 だが、一気にギブアップ狙いで決めにいくチャールズの背後から、いつの間にかカットに飛び出していたダニーがパンチを見舞った。

 後頭部に打撃を食らったチャールズは、前のめりに倒れた。

 フレアは背中を踏みつけるとお返しとばかりにボストンクラブを決めた。


 「形勢逆転! 今度は一気に殿下がピンチ! おや? ケンドーが動きませんよ!」

 チャールズが自軍サイドに向けて助けを求めているが、ケンドーがそっぽを向いて素知らぬ顔をしていた。


 「聞いたことがあります。 東方の武術家は忠義に厚いのですが、一対一の勝負を重視していて、手助けをなどしない、と!」

 

 「それではケンドーは、殿下がピンチでも助けに行かないのですか?」


 ケンドーの助けが見込めないと見たチャールズは必死でロープブレイクした。

 フレアに技を解かせるレフリーの目を盗んでダニーがチャールズにストンピングを加えた。

 

 フレアは起き上がるタイミングを逃したチャールズを、今度はキャメルクラッチに捕らえた。

 チャールズに乗っかり、舌を出して、観客を煽るのも忘れない。

 

 チャールズは、必死に自軍コーナーに這い寄り、ケンドーにタッチを求めた。


「アトキンス将軍、ケンドーが今度は、タッチ拒否ですよ!」

 場内の9割を超えるリーガル王国正規軍のファンの憤りを代弁するようにアナウンサーが声を上げた。


「きっとケンドーは殿下を信頼しているのです、この程度の苦境であれば一人で乗り切れる……と。)

 

 アトキンスの指摘も空しく、自軍コーナー近くまで必死に這いよったチャールズの足をフレアは引っ張り、自軍コーナーまで引きずって行く。

 コーナーポストに登ったダニーが、チャールズの背中にダイビングニードロップを落とす。


「ダニー選手、シングルではパッとしませんでしたが、タッグではいい動きをしますね」

 

「非常にクレバー、いえ狡猾というべきでしょうか、ただ殿下は一人で戦っているようなものです。堪りませんよ!」


 堪らないのは、チャールズだけでなく観客もだった。

 シングルではいい所のなかったダニーだったが、チャールズの反撃の目を悉く潰す姿は、観客のヘイトを十分過ぎるほど、集めていた。


 皆がリング上の攻防に目を奪われている隙に、いつの間にかケンドーは解説席の前まで来ていた。

 一部の観客が気づき、騒ぎになるーー。

 

ケンドーは、没収され解説席に置かれていた竹刀を奪うとリングに上がっていった。


「ケンドーが竹刀を奪い! ついに殿下に助太刀に入る!」

 溜まったストレスを解放するかのようにアナウンサーが絶叫した。


 竹刀を手にリングに上がってくるケンドーを見たフレア達が、蜘蛛の子を散らすように、チャールズから手を離して距離を取った。

 

 ようやく解放されたチャールズだが、ケンドーが竹刀を持っていることに気づくと竹刀を手放すようにジェスチャーを交えて説得にかかる。

 その隙を見逃すフレアではない、背中にキックを入れる。思わず向きなおるチャールズ。


 ーー次の瞬間、観客たちは目を疑った! 

 チャールズの首に、背後から竹刀が掛けられていた。ケンドーが竹刀を使い、チャールズを羽交い絞めにしていた。

 会場に困惑が拡がっていく。


 「アトキンス将軍! これはーッ!?」

 

 「裏切りです! ケンドーが殿下を、リーガル王国を、裏切りました! 何が忠義に厚いだ!」

 アトキンスが憤りの声を上げた。


 羽交い絞めにされたチャールズの顔をフレアが馬鹿にするかのように平手で叩く。

 悔しそうに見悶えするが、振り解けない。

 今度はダニーが反則まがいのナックルパートを見舞っていく。

 

 身をよじりどうにか、ケンドーから逃れたチャールズの前にダニーが立ち塞がる。

 シングルでは強さを見せなかったダニーならば、どうにか出来ると踏んだのかチャールズは無造作に手を延ばした。

 その瞬間、チャールズの腕が脇固めに捕らえられてた。


「やはり、ダニーという選手、強いですよ。弱そうに見えたのは擬態だったのでしょう」

 アトキンスはそう解説した。


 リング上では脇固めに捕らえられたチャールズに顔にフレアが足を押しつけていた。

 困惑が収まり、会場はブーイングに包まれていた。

 

 三人で入れ替わり立ち替わり攻撃を加えられたチャールズは、反撃もならずグロッキーになっていく。

 控室には鍵が掛けられてマリガンたちも助けに来られない。


 ダニーとケンドーがツープラトンのブレーンバスターを見舞う。

 フレアが跳んだ、必殺のギロチンドロップがチャールズの喉元に刺さる。


 「殿下が動けない。 このまま試合は決まってしまうのか!」

 レフリーがカウントに入る。

 

 ーーチャールズは、無常の3カウントを奪われた。


 フレアは、解説席からマイク(のような魔道具)を奪い、再びリングに上がる。


「裏切者とは穏やかじゃないわね! ケンドーの名誉のために教えてあげるわ、彼は元からわたくしの部下よ!」

 フレアのマイクアピールで明かされた、驚愕の事実に会場が騒然とする。

 その言葉を補完するかのようにケンドーがフレアに傅き、手の平にキスをした。


「埋伏の計……」

 解説席でアトキンスがポツリと呟いた。


「オーッホッホッホッ! 間抜けな王子、間抜けな観客! 全ては最初からわたくしの掌の中だったというのに!!」

 愉悦とばかりに高笑いを上げて観客を煽るフレア。

 しかもその背後ではダニーとマリガンによるチャールズへのリンチが続いている。


 もはや限界だったーー。

 観客席から小さな影が飛び出す、気づいた衛兵が止めようとしたが跳ねのけて一気にリングに上がった。


「フレア! あなただけは許せない! 私の命に代えてもあなただけは追放して見せる!」

 チャールズのレプリカジャージを身に纏った少女、カリーナ・サンマルチノは、リングに上がるやそう宣言した。

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