43.カリーナの不安
「これは思わぬ展開! マリガン決死の道連れリングアウトでロシモフまさかの失格!」
「アトキンス将軍、これはフレアにとっても予想外の展開なのではないでしょうか?」
会場の熱気冷めやらぬ中、アナウンサーはアトキンスに問いかけた。
「そうですね、シングルマッチでは無敵のロシモフですがマリガンの頭脳プレイが光りました、エリミネーションマッチならではの戦い方でした」
「これでイーブン、両軍とも残るは副将と主将のみです。まだリーガル王国正規軍が有利とは言い切れませんが勝利には近づいてきたと思いますよ」
両軍の副将が入場した。
リーガル王国正規軍は、東方出身者には珍しい長身に長いストレートの黒髪のケンドー・ブシドー。
フレア軍はやや小柄で頭髪も薄くなり始めた冴えない風貌のダニー・コピィロフ。
「アトキンス将軍、ケンドーという選手はどのような選手なのですか?」
「殿下がフレアとの今回の対抗戦の為に騎士団だけでなく広く戦力になる人材を募集したのですが、普段から鍛えている騎士団に匹敵するような人材は、なかなか見つからなかった聞いています」
「ほぼ騎士団出身者だけでメンバーが固まりかけた頃、彼がふらりと現れたそうです」
「見た感じ東方の出身者のように見えるのですが、実力のほうは、どうなんでしょうか?」
リーガル王国でも黒髪は珍しくないが、ストレートの黒髪に黒目は、東方出身者の特徴だった。
「東方の剣術使いと聞いています。ただ素手の戦いも心得ているようで、既に決まっていた騎士団の面子を押しのけて副将に収まったその実力は本物でしょう」
「なるほど、それは期待が出来そうですね、ダニー選手の方はご存じですか?」
この場に沿わない、寂れた酒場にでもいそうな冴えない風体のバーテンダー姿のダニーに困惑しながらアナウンサーは尋ねる。
「彼はロシモフの古い戦友ですね。当時の軍では調整役のようなことをしていたと聞いています」
「それなりに戦えるのは間違いないと思います。……何となく雰囲気がありますね」
「そ、そうでしょうか?」
アナウンサーには、チャールズやマリガンと同程度のサイズのケンドーと比べると、ダニーはひとまわ小柄だ。
ロシモフの後に出てきたこともあり、かなり頼りなく見える。戸惑いながらそう答えた。
「ともあれ、試合開始のゴングが鳴りま! 、始まれば全てが分かります!」
ゴングが鳴り、試合が始まった。
ダニーは内股で身を屈め、両手を小さく前に出したポーズをとるやや小柄な身体が更に小さく見えて頼りなく感じる。
ケンドーが踏み込んでローキックを放つと嫌がるようにへっぴり腰で後ずさりをする。
「アトキンス将軍……打撃に対応出来ていないように見えるのですが?」
「いや、ああやって油断を……」
ケンドーがさらに踏み込んで強めのローキックを放つ。
あっさり両足を浚われたダニーが尻もちをついた。
アトキンスが気まずそうに咳払いをする。
「ケンドー、鋭い蹴りです。 あ、倒れたダニーが立ち上がるの待っています、これが噂に聞く、武士道というものなのでしょうか?」
「う、うむ」
気を取り直して実況と解説が続けられる。
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「ダニー ダウン! これで5度目のダウンです、試合は一方的な内容になってきました」
アナウンサーは、終始、および腰のダニーのせいで盛り上がりに欠ける戦いをどうにか盛り上げようとするも、会場は冷え切っていた。
ケンドーは痺れを切らしたのか、立ち上がったダニーにハイキックを見舞う!
ダニーは、ついに背中を向けて逃げ出した。
リングの中を逃げ回るダニーを追うケンドー。
思わぬ塩試合に、会場はブーイングに包まれた。
いつの間にかセコンドに座っていた筈のフレアが、リングのエプロンサイトまで登ってきていた。
ダニーに気を取られるケンドーにスワンダイブ式のドロップキックを見舞った。
フレアの乱入によりダニーの反則負けかと思われたが、フレアの登場に冷静になれなかったのかチャールズもリングに上がってしまう。
レフリーが試合を中断させ、審判部による協議を宣言した。
このままでは両者反則で試合は終了だ、観客は不安そうに見守る。
解説席から審判部長も兼任しているアトキンスがリングに上がり、レフリーと共にフレアとチャールズ、双方に話を聞く。
「審判部長のアトキンスです! 協議の結果を発表します」
観客は息を飲み、次の言葉を待った。
「チャールズ選手、フレア選手の乱入により、本来であれば両者反則負けとなるところですがーー両陣営の話し合いにより、最終戦は副将・主将のタッグマッチで決着をつけることになりました!」
思わぬ展開に会場から歓声が上がった。
ダニーの戦いぶりを見る限り、どうみてもフレアに不利な裁定だ。
リーガル王国正規軍の勝利は近づいているように見えた。
(殿下の勝利は目前の筈……なのにこの不安な感じは何? フレア、貴方は何を企んでいるの?)
客席のカリーナは、胸の奥から湧き上がる言い知れぬ不安を拭えなかった。




