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41.色欲

 対抗戦の初戦はチャールズ王国正規軍の先勝と、幸先の良いスタートとなった。

 強張った表情で観客席から試合を見守っていたカリーナも、少し安心したのか頬を緩める。

 フレアの仲間というわりには、卑怯な真似もせず好勝負を繰り広げた相手だったことで、カリーナも試合自体を楽しめていた。


 だが、次鋒で登場したミランダの服装を見て、カリーナは、思わず眉を顰める。

 何故か、連れだって出てきたフレアの衣装もこの世界の常識で考えれば露出が多い品のない恰好ではあった。


 だが、ミランダの衣装は更に酷かった。

 色欲と退廃の香りすら漂ってきそうな装いだった。

 黒い革のテカテカと光る衣装は胸と股間だけ僅かに覆うだけで、その切れ込みは鋭い。

 中央に髑髏の徽章を付けた同じ黒革の帽子を被り、手には鞭を携えていた。


 二人は、残酷さを漂わせる笑みを見せると、あろうことか、まだリングに転がるランドを捕らえ、暴行を始める。

 敗北者への制裁だった。


 正々堂々と戦い敗れた仲間に対する酷い仕打ちに会場からブーイングが上がる。

 更にフレアは解説席からマイクを奪い、会場に断言した。


「ランドを倒したくらいでいい気になって貰っては困るわ! こいつは我々、極悪同盟『フレアと森のゆかいな仲間たち』の中でも一番の小者よ!」


(負けたとはいえ立派に戦った仲間に……どうしてそんなひどいことが言えるの!)

 カリーナは、やはりフレアは許されない悪だと再認識させられた。

 当然、観客席のブーイングは更に激しさを増す。


 見かねたオリバーが、フレアとミランダにタックルしてリング外に叩き出すと敵であるランドをリンチから救い出した。

 オリバーは、握手を誘うようにランドの手を差し伸べる。


 だが、余計なお世話とばかりにランドはオリバーの手を払い、控室に戻るフレアを追いかけていってしまった。

 

 その背後から一度はリングから叩き出されミランダが椅子を片手に忍び寄るとーー。

 無防備なオリバーの後頭部に、椅子で一撃を叩き込んだ。


 不意をつかれたのかオリバーは、前のめりに倒れた。

 ミランダは、倒れたオリバーを跨ぐように立つと、頭の後ろに両手を回して腰をグラインドさせる。

 カリーナのような初心な若い女性には、何をしているのか分からなかったが、何やら淫靡で侮辱的な雰囲気を感じとれた。

 

 何をしているのか理解できる観客たちも、この世界の住人である以上は純朴だった。

 思わず顔を赤らめる者も少なくない。


 起き上がれないオリバーに腰を下ろすと、ミランダはキャメルクラッチで残酷に締め上げた。

 だが頭の上で卑猥なポーズを取られたオリバーは、その屈辱に晴らすべく、チャンスを伺っていた。

 ミランダの足が前がかりになっているのを見逃さず両足を掴み引っ張る。

 バランスを崩されたミランダは、つんのめりに倒れた。


 遅まきながらここでようやく試合開始のゴングが鳴った。

 オリバーは立ち上がると、ミランダを捕まえてボディスラムで投げた。

 体重差もあるので一発、二発と軽々と連続で叩きつける。


 ミランダが、腰を押さえて手を前に出して振る。

『もう許して』と言わんばかりの仕草に騎士団出身のオリバーは戸惑いを見せる。

 

 ミランダがさらに両手を胸に前に組み、祈るようなポーズで許しを乞う。

 騎士道精神を叩き込まれた者にとっては、どうにも攻撃しづらい。


「オリバー、騙されないで!」

 観客席から声が上がった。

 弱ったふりや謝るふりをして隙を突くのはフレアの常套手段だ。


 観客席からの声援にオリバーは我に返り、改めてファイトポーズを構えてミランダを見据えた。


 これでは隙をつけないと判断したミランダは、作戦を変更する。


 自らのリングコスチュームの胸の辺りを引っ張ると誘惑するようなポーズを取った。

 騎士団は堅物が多い事でも知られる。

 想定外の事態にオリバーは思わず目を反らしてしまった。


(チャーンス!)

 とばかりにミランダが笑う。

 そして禁断の金的攻撃がオリバーの股間を襲った。


 反射的に背中を向け、股間を押さえてうずくまるオリバー。

 勝負所と見たミランダが飛ぶ、背後からオリバーの頭を抑えるとそのままマットに叩きつけたーーフェイスクラッシャー!

 ミランダはオリバーの身体を反転させて抑え込み3カウントを狙う。


 カウント2.5!

 オリバーが凌いだ。

 ミランダはまだカウントが取れないとみると腕を取りキーロックで締め上げ始めた。


「「オ、オオーッ!!」」

 観客席が驚きの歓声で包まれた。

 オリバーは、腕を絞められたままミランダの身体を捕まえるとコンパクトに畳み持ち上げたのだ。


 そのまま、ミランダの身体をコーナーポストにちょこんと置く。

 馬鹿にされたと感じたミランダが殴りかかる勢いを利用して持ち上げると、デッドリードライブでマットに叩きつけた。

 あまりの勢いにミランダの身体がゴムまりのように跳ねる。


 ミランダは腰を抑える……。

 手を前に組み許しを乞う……。

 コスチュームに手をかけて身をくねらせる……。

 

 もはやオリバーにはどれも通用しなかった。


 やけになったのか、自らロープに飛びフライングボディアタックを見舞う。

 だが、がっしりとそれを受け止めたオリバーは、勢いのまま反転してマットに叩きつけたーーパワースラム。


 強烈な衝撃がミランダの背中を突き抜ける。

 オリバーはそのまま3カウントを奪った!


 リーガル王国軍の二人抜きに会場が、楽観的にムードに包まれた。


 だがーー。

 あの男の入場しただけで、楽観ムードを吹き飛んだ。

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