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38.極悪同盟 結成!

 霧の立ち込める森の奥深く、誰も知らない秘密の館。

 9人の男女が館の前にやってきていた。

 先頭に立つ男は、とても大きな男で顔には大きな傷があった。


 大男がドアをノックすると、鍵の外される音がした。

 辺りを伺いながら全員が館の中へ入っていく。


「ようこそ、我がブラッシー家の別荘へ。歓迎いたしますわ」

 玄関ホールまでフレアが来客を迎えに来ていた。


「すごい場所にある別荘だな、まるで秘密基地だ。 危うく辿り着けないかと思ったぜ、何に使っていたんだ?」

 先頭の大男、ロシモフが軽口を叩く。

「? 少し辺鄙なところにありますが、本当に只の別荘ですわ、もう人目のあるところでは私たちはもうくつろぐことも出来ない身ですから」

 笑顔で悲しいことを言うフレア。


「ここは、遠かったでしょう、面接は1時間後を始めますので今からご案内する部屋でくつろいでいてください」

 リング上とは全然違う落ち着いた振る舞いにロシモフの連れが呆気に取られている。

 なにより侯爵令嬢が平民を出迎えたうえに、待合室まで案内してくれるとは思わなかった。


「それではお茶をお持ちしますのでこの部屋でしばらくお待ちください、時間になりましたら3名ずつお呼びいたします」

 そう言って一礼をするとフレアは引き下がっていった。


「……本当にあれがフレアなのか?」

 少し年配の男がロシモフに尋ねる。


「ダニー、お前だって魔法ビジョンで見たことくらいはあるだろう、間違いなくフレア様だよ」


「イメージと違い過ぎない? どこかのまともなご令嬢かと思ったわよ」

 ダニーと呼ばれた男の隣にいた赤髪の少しスレたような女、ミランダが口を挟む。


「まぁ まともだからな」

(リングに上がらなければ……)とロシモフは心の中でつけ加える。


「そんなことより面接だ! これに受かれば俺たちもリングに上がれるんだろ? お貴族様が仕事を回してくれるってんだこんなチャンスは逃せないぜ」

 この国では珍しい褐色の肌をした男、ランドが言うと皆が頷いた。



 このメンバーはロシモフがスカウトを受けた直後、フレアにプロレスが出来るような知り合いを紹介して欲しいと言われて集めた、元戦友やその家族だった。

 もちろんロシモフが信用が出来る思うメンバーに絞りこんでいた。

 彼らも戦後苦しんだ仲間だ。ロシモフは彼らとまた同じ舞台に立てることを内心喜んでおり。全員が合格することを願っていた。


 面接が始まった。

 面接官はフレアとその父親エリック、空いたもう一席にはロシモフが座った。

 ロシモフが自己紹介をするように促す。


「俺のダニー……酒場で用心棒をしている」

 用心棒。裏稼業だ。

 好きでしているわけではない、貴族の令嬢相手ということもあり少し言い澱んでしまった。


「用心棒……何だか危険な香りがするわね! 素晴らしいわ!」

 貴族ならではの皮肉で馬鹿にされたか思い、フレアを睨もうとしたダニーだが、心底そう言っていると分かる表情に毒気を抜かれる。


「私はミランダ……流しの踊り子をしてるわ」

 踊ることは好きだが劇団に属していないミランダは酒の場などで踊ることも多く、煽情的な踊りをしなくてはならない……少し恥じるように答えた。


「踊り子! リズム感に優れてて身体も柔軟なのよね! 素晴らしいわ!」

 ミランダもまさか褒められるとは思わなかった。


「俺はランド。 今は港湾労働者をしているが……前の戦争ではロシモフとともに戦ったボボ族の戦士だ!」


「いい身体をしているわね! その褐色の肌、キャラクターも生きてる! 素晴らしいわ!」

 この国では珍しい肌の色をしている事もあり、差別をされることも少なくなかったランド。

 貴族から褒められることがあるとは思わなかった。


「私はケンドー! 私も前の戦争でロシモフと共に戦った。今は東方の剣術の師範をしている」

 師範とはいっても、この国では東方の剣術は理解されていない、門弟もいない。用心棒のようなことをして食い繋ぐ身だ。


「ミステリアス! オリエンタルマジック! 素晴らしいわ!」

 その後もサーカス出身者や手品師や私立探偵やらに『素晴らしいわ!』を連発するフレア。

 隣に座るエリックはその言葉を聞くたびに、嫌な予感で胃が痛くなるのを感じていた。





「次はプロレスラーになる上で何かアピール出来るところを一人ずつ見せて欲しい」

 ロシモフがアピールタイムを設定する。

 かっての仲間のためのせめてもの援護射撃だった。


 ダニーが進み出ると硬貨を取り出す。

 それを親指と人差し指でつまみながらフレアに見えるように突き出すと、ぐっと力を入れて硬貨を曲げた。


 見ていたフレアは、何故か頭を締めつけられるような痛みを感じてエリックの顔を見てしまう。

(パパの握力とどっちが上かしら……)


 そんなフレアの心に気づかず急に愛娘に見つめられたので、ニコッと笑みを返すエリック。

 ダニーは、トリックと疑われたと思い、硬貨をエリックに手渡す。


「全く国家の発行した大事な硬貨にこんなことをしおって」

 ボヤキながらエリックは曲がったコインをつまむと元の形に戻した。


 常識外れの指先の力にダニーは絶句し、フレアは、エリックから椅子ごと動いて少し距離を置いた……。


 ミランダは、立ったままブリッジをして体の柔軟性を見せつけた。

 ランドは、ロシモフの巨体を持ち上げた。

 ケンドーは、傘を回してその上で皿やボールを回した。

 サーカス出身者は口から火を吹き、手品師は身体を宙に浮かせて、私立探偵は、上に乗った花瓶やグラスを倒すことなくテーブルクロスを引き抜いた。



「……フレア、途中から路線が変わってきていないか?」

「……奇遇ね、わたくしもそう思っていたわ、パパ」

 かくし芸大会みたいになってしまったアピールの場にロシモフは頭を抱えていた。



「もういいわ! 全員今からわたくしのやることを真似しなさい!」


 フレアはそう言うとテーブルの前に進み出た。

 手を前に出すとお尻を突き出しそのまま引くように腰を落とす。

 ゆっくりと腰をあげて同じ動作を繰り返す。

 トレーニングの基本『スクワット』。


 皆、見よう見真似で同じ動きを始める。

 おかしな姿勢でしているものにはフレアやロシモフが指摘して直させる。

「…998…999…1000!」

 慣れないスクワットに根性で100回くらいまではついてきていた受験者だが次々と脱落して、フレアが1000回のスクワットを終える頃には、皆、息を切らしてダウンしていた。


「ハァ、ハァ、ハァ ロシモフ あれは…何の魔法なんだ?」

 500回くらいまでついてきたダニーが床に転がったまま、ロシモフに尋ねた。


「根性と、あとは……執念かな」

 トレーニング効果を考えれば1000回もスクワットをやる意味は薄い。

 だがそれでもやるのがフレアなのだ。


「100回まではついてきていたわね、全員合格よ! 明日からデビューまでこの合宿所で練習をして頂くわ!」


 後に地獄だったと語られる合宿を経て、そのチームは結成された。

 そう、これは極悪同盟『フレアと森のゆかいな仲間たち』の結成秘話である。

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