32.友情パワー
マリガンは憂鬱だった。
演出とはいえ、フレアに誑かされチャールズの敵に回った自分のことを、純粋なカリーナがどう思っているのか、考えるだけでゾッとした。
だが騎士を目指す男がそんなことで学校をサボるわけにはいかない。意を決して学園に向かう。
学園に向かい歩いているうちに、少し冷静になって考えることが出来た。
(いくら純粋なカリーナでも、魔女の口づけで魅了だの洗脳されるだの、そんな与太話を信じるわけないんじゃないか?)
そんなマリガンの心に見えた一筋の希望は、先日の軽い足取りとは違う、怒りを孕んだ足音によって打ち消された。
足音の主――カリーナは、走って来た勢いのままマリガンの前へ回り込んだ。
「マリガン様、見損ないました!」
「殿下との友情の絆はどこに言ったのです! よりにもよってフレアなんかに誑かされるなんて!」
聞く耳を持たない様子で、一方的に罵られる。
マリガンは、ピュアな彼女にいっそのこと全てをぶちまけてしおうかと考える。
だがそれはサンタを信じる子供の前で、本当のことを話してしまうかのようのな心地悪さを感じて口を噤む。
「マリガン様、何か言うことは無いんですか……ティナが可哀想です! ティナは今でもマリガン様を信じて応援しているんですよ!」
カリーナは目元を押さえながら走り去ってしまった。
(……ティナって誰だよ?)
マリガンは、呆然と彼女の背中を見送るしかなかった。
その後もマリガンは、災難続きだった。
女子生徒に取り囲まれて罵られたり、見知らぬ女子に抱きしめられて『私の口づけで目を覚まして!』とキスをされそうになったり。
身を隠していれば、髪を立て、顔を真っ白に塗り隈取りをした男に『お前もフレア様の素晴らしさに目覚めたようだな! 私と一緒にフレア様を称える歌を歌おう!』と誘われたりと散々だった。
放課後、マリガンはチャールズに学園長室呼び出された。
学園長室は、一般の生徒には縁遠い場所だ。
学園長代理を務めるチャールズと密会するならば、ここしかないという思われた。
「いいのか、学園で俺と会ったりして。表面的とはいえ、俺たちは対立しているんだろ?」
心のささくれが、そのままか言葉に出てしまうのをマリガンは抑えられなかった。
「…お前はフレアのことをどう思っている」
「フレア? あいつ、いつも湿布臭いよな」
大して考えることもなくフレアが聞いていたら真っ赤になって怒りそうなことを言う。
「……そうだな。……いや、そういうことではなく、フレアのことを……」
いつもは即断即決の男が口ごもる。
フレアのカリーナへのいじめが発覚した際も、自分の婚約者であるにも関わらず一切の容赦をなく処分を進めたのはチャールズだった。
鈍感なマリガンでも流石に、質問の意図に気づく。
チャールズが煮え切らないのは、フレアを学園から追放し、婚約も破棄した自分が今更……ということだろう。
(お前もピュアかよ!)
マリガンは心の中で悪態をついた。
「そんなことより次の試合は俺とのタイトルマッチだろ、俺は負けないからな!」
マリガンは、冗談とも本気ともつかない不敵な笑みを浮かべながら言う。
「つまり勝ったほうがフレアに……」
「いらねーよ!」
吐き捨てるとマリガンは、理事長室から飛び出した。
リーガル王座決定戦 60分1本勝負
リーガル王国正統継承者 ダークナイト
チャールズ・リーガル VS マリガン・カスタード
フレアはマリガンを従えて入場する。自分の魅了に絶対の自信をみせつけるかのごとく、ロシモフは連れてきていなかった。
おもむろにマリガンが解説席に向かうと、マイクのような魔道具を奪ってアピールを始める。
「俺はチャールズの引き立て役じゃない!」
マリガンはチャールズに魔道具を渡して返答を促した。
「マリガン、俺はお前との友情を信じている!」
チャールズの返答に試合前から客席は大いに盛り上がる。
その年のベストバウトとまで言われた試合が始まった。
それまでの体格差のあるフレアやロシモフとの戦いとは違い、同程度の体格であるマリガンが相手ということもあり、試合は噛み合った。
手に汗握る一進一退の攻防の末、チャールズはマリガンをダウンさせるとコーナーポストの上に立った。
「目を覚ませ! 俺のジャスティス・ドロップで!」
チャールズがそう叫ぶとリング中央で倒れるマリガンに向けて跳んだ!
大迫力のフライングヘッドバットがマリガンの頭に落下した。
チャールズは、そのまま体固めで3カウントを奪った。
3カウントには間に合わなかったものの、乱入したフレアがチャールズの背中を踏みつけた。
さらに起き上がりざまに背中にサッカーボールキックを連打する。
体固めから抜けたマリガンが立ち上がった。
フレアはマリガンにもチャールズを攻撃するように指示を出すがーー。
マリガンはフレアの頬を張った。
何が起こったのか分からないという表情のフレアに二発、三発と張り手を見舞っていく。
フレアは尻もちをつき、後ろににじり下がる。
チャールズは起き上がり、マリガンに手を差し出すとマリガンは、笑顔で手を取り握手した。
会場が黄色い声で包まれた。
フレアは跪き、顔の前で手を組み、許しを請うようなポーズを取る。
チャールズとマリガンは、一瞬、見つめ合うと握手したまま、繋いだ手でフレアの顔をクロスラインで一閃した。
リング下に転げ落ちたフレアは、一目散で控室に退散していった。
「俺たちは仲間だ!」
「俺たちは親友だ!」
口々に叫びながら、チャールズとマリガンはリング中央で抱き合った。
復活した友情に客席のカリーナは、いつまでも涙が止まらなかった。
試合経過を詳細に書いてもあまり面白くならなさそうなのでダイジェストです。




