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27.謎の大男

試合前、ベスたちは孤児を代表して、フレアの控室を訪ねていた。

孤児たちは、招待席を用意してくれたのが誰か気づいていたのだ。


試合前に訪ねるのはどうかという話もあったが、控室を守る衛兵に話すと、あっさり通された。


「よく来たわね、みんな」

試合前のメイクを中断して迎えてくれたのだろう、試合中ですら解けない縦ロールがまだ結ばれていなかった。

「フレア様ー!」

コリンはフレアに駆け寄り抱き着く。

「本日はご招待頂きありがとうございます」

使い慣れない言葉でアリスとベスがお礼を口にする。


「招待? わたくしは知らないわ、招待は主宰する王国が決めたことよ」

フレアはそう言いながら二人にも笑いかける。

「そうなの…」

ベスは残念そうな顔をしたが、アリスには王国には働きかけたのが誰なのか気づいていた。


「そういえば、朝からロシモフが見当たらないの? フレア様知ってる?」

アリスがフレアに尋ねる。


「ロシモフ様には大事なお仕事を頼んでいるの、みんなも応援してあげてね」


(応援?)

よく分からない返答に、アリスとベスが顔を見合わせた。


「ねぇ、フレア様。フレア様は悪い人なの? みんな、フレア様は悪い人って言ってるの!」

コリンはフレアに抱き着いたままフレアに問いかけた。


「違うわ…そう試合開始のゴングが鳴るまではね!」

ウィンクをしながらフレアはそう答えた。



けたたましい音楽が鳴り響く、暗闇に光が走り、人影が映し出される。

いつものようにフレア照らし出されると思った観客たちに、動揺が広がった。


「もう一人いるぞ!」

「誰だあいつは? でかくないか!」


フレアの背後には、真っ赤な顔の鼻が異様に長い仮面を被った謎の大男が歩いている。

2mは優に超えるその長身は、比較的小柄なフレアが前にいることでより大きく見えた。

悠々と入場するフレアの後ろを、仮面の大男は周囲を威嚇しながらついていく。


観客の中からフレアに向けて何かが投げつけられた。

実のところ、フレアの入退場の際に物を投げつけられることが少なくない。

入場前のチェツクで危険な物は、没収されるが、すり抜けて持ち込まれることもあり、危険な目に遭うこともしばしばあった。


仮面の大男は、難なく投げつけられたものをキャッチすると、寸分違えず投げつけた相手に投げ返した。

物騒なボディガードもいたものである。


縦ロールを振りかざしながらフレアがリングインをすると、大男はセコンドについた。


荘厳なクラシックが流れる、マリガンの入場が始まる。

暗闇を光が切り裂くと、こちらももう一つの人影があった、マリガンの後ろに立っていたのはチャールズだった。

思わぬゲストに会場が盛り上がる、チャールズファンクラブに至っては何やら祈りを捧げている。


マリガンもリングインする。謎の大男同様、チャールズもセコンドにつくかと思われたが、解説席へ向かった。

セコンド、解説者ーー足りなかったピースが埋まっていくのを見て、フレアは感慨にふけってしまう。

そんなフレアを正気に戻したのは、やや調子はずれの歌だった。


解説席でチャールズが、国歌を歌い始めていた。

(殿下、相変わらず歌が上手くないな)

フレアは内心苦笑する。


国歌が終わり、両者に花束が贈呈される。

マリガンは受け取った花束をリング下の係員に渡す。

その隙を突いて、フレアが背後から花束を振り回して殴り掛かった。


試合開始のーーゴング前にである。


「フレア様のウソツキ……」

招待席のコリンは、ぽつりと呟いた。

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