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24.孤児院『虎の穴』

戦争が終わり、行き場をなくしていたロシモフは、闇の賭け試合でその日暮らしをしていた。

伝説の戦士である彼は一対一の勝負では成立しないので、複数人相手に試合を組まれることが多く怪我が絶えなかった。

怪我でなかば行き倒れていた彼を救ったのは孤児院の子供たちと園長だった。

女だてらに孤児院を切り盛りする園長に拾われた彼は、日雇いの仕事をしながら孤児院の手伝いをしていた。


だが老齢の園長が倒れてしまった。

医者に診せる金も足りず、孤児院の生活は厳しくなっていった。

暴徒に追われるフレアを助けたのはそんなときだった。


ロシモフは必ず恩を返すといった言葉をあまり信じてはいなかったが、それから幾日もしないうちに礼金が届けられた。

次の月にはさらにとんでもない金額をフレア自身が持って礼にを言いに来た。

いくら侯爵令嬢とはいえ大きすぎる金額だったが、なんでもプロレスの収益の一部らしい。

お陰で園長も医者に診せることが出来て快方に向かっている。


次の月にはフレアが訪問前に使いを出して、予約を取ってから来た。

孤児院の前に止まった馬車から降りてきた男を見てアシモフは目を見張った。


「ロシモフ、久しぶりだな! 思ったより元気そうではないか」

降りてきたのは、かってのアシモフの上司だったフラット・アトキンス。この国の将軍である。


ロシモフは戦争後、世話をして貰った仕事に、平和に馴染めず問題を起こしてしまい二度と顔を合わせることが出来ないと思っていた相手の登場に驚きを隠せない。


アトキンスは後から馬車を降りてきたフレアのエスコートをしている。

降りるフレアが少しよろめいていたのは気のせいだろうか?


「ごきげんよう ロシモフ様」

レディをいつまでも外に立たせておくわけにはいかない、ロシモフは食堂に二人を案内した。


「ベス、元気していた」

栄養状態も良くなり元気いっぱいのベスは、フレアにそう声をかけられると抱きついた。

フレアの表情が少し歪む。


「それでアトキンスの旦那…いや将軍 今日はどういった用件で」

気まずそうに問うロシモフが問う。

「昔の通り、旦那で構わんよ。 こうしてまたお前に会えるとは思わなかった」

そう言いながらアトキンスはフレアに視線を向けた。


フレアは持ってきた鞄をテーブルに置かせると開けた。

「うわーお金いっぱい!」

ベスが無邪気に覗き込むとそう言った。


「フレア様、この間の礼はもう頂いた。これ以上は受け取れねぇ!」

前回以上の大金にロシモフは首を振りながら答える。


「わたくしも以前のようにお嬢ちゃんで構いませんわ。ロシモフ様…これは契約金ですわ」

「ワシがここに来た理由だったな…スカウトだ」

フレアとアトキンスの言葉にロシモフはまた驚かされた。


ロシモフは、目の前にある金は欲しい。まだ孤児院は借金があるし、スラムを出て子供たちにももっと良い環境を用意したい。

だが過去に不義理を働いた件が二の足を踏ませていた。例えアトキンスが許しているとしてもロシモフは自分が許せないのである。


「フレア様 なんか臭いー」

フレアに抱き着いていたベスが鼻をひくひくさせながら失礼なことを言う。


ベスに謝らせようとしたロシモフだったがハッと何かに気づく。

「フレア様…まさか」


「流石に鋭いな フレアのお嬢ちゃんの身体はボロボロで湿布まみれだ」

アトキンスがロシモフの察しを肯定する。


プロレスは相手の技を受けないと成立しない。

フレアは、女性としてもやや小柄な身体で男の技を受け止めたり持ち上げたりしているのだ。

前世のような頻度の試合ではないが、前世のように年月をかけて鍛えた身体でもない。

急ごしらえの身体は、限界に来ていた。


「どうだ 彼女の為に再び戦ってくれんか?」

臭いと言われて落ち込んでいるフレアの代わりにアトキンスがロシモフに問う。


「ロシモフ、フレア様を手伝ってあげなさい」

声に振り返ると寝たきりになっていた筈の園長が、アリスに支えられながら起きだしていた。


ロシモフにはもう断る理由は無くなっていた。

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