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23.友情

瞬殺。一見、楽勝のようで薄氷を踏むかのような勝利に、フレアは内心胸を撫でおろしていた。

前世の、まだ佐藤アスカだった頃に同期のめぐみと共にもし道場破りに遭ったときの為に練習していた技術が役に立つとは思わなかった。

幸いにも前世では使う機会が無かったし、格闘技の素人相手ならまだしも総合格闘技経験者に通用したかは怪しいところだ。


「しかし面白い技だな どこで身に着けたんだ」

アトキンスがフレアに尋ねる。

「美女は謎が多いものよ、直接聞くなんて無粋ですわ」

フレアはウィンクをしながら流した。


転生前の記憶に関しては、エリックから危険なので口外しないように釘を刺されていた。

フレアは、協力者であるアトキンスやチャールズには、話しても良いとは思うのだが智謀の宰相である父親が危険だというのであれば従うべきだと考える。


「油断が原因だろうが、負けは負けだな」

フレアとアトキンスのやり取りを見ながら、吹っ切れたかのようにマリガンが呟いた。

根はサバサバしているマリガンは敗北を受け入れる度量がある。


「マリガン、お前はワシらのやっていることが気に食わないようだが、ワシはプロレスのことが気に入っているんだ」

アトキンスが緩んだ口元を引き締めると話を始めた。

「貴方ほどの人がどうして?」

マリガンは問い返す。


「お前は、先ほど真剣勝負で負けた。戦争であれば負けたものは、囚われていた、あるいは傷つき死ぬかもしれない。」

「お前が学園や騎士団で鍛錬を続けていたことは知っているし、将来に期待もしていた。それが一瞬の油断で失われるのが戦争だ。私は、平和な世の中になり、それが失われなかったことが嬉しい」

「半面、戦争が無い現在、お前のような若者が鍛錬を怠らず有事に備えて鍛えた肉体や技術を披露する場が無いのは残念なことだと思っていた」


一介の騎士見習いに過ぎない自分をまさか将軍が気にかけてくれているとは思わなかった。

マリガンは、少し感動しながらアトキンスの話を聞いていた。


「祭りなどで模擬戦闘を見せるというのは考えたことはあったのだが、高度な真剣勝負の駆け引きというのは素人には理解されなくてな」

それはマリガンにもわかる話だ、真剣勝負ならば相手の良さを消す、さらに言えば何もさせずに終わらせることが望ましい。

「そんな時にフレアのお嬢ちゃんにプロレスを見せられた。確かにフェイクなのかもしれない。だが鍛えた身体、研ぎ澄まされたセンスに裏打ちされた優しいフェイクの世界の華やかさと面白さに目を洗われた気分になった」


「しかし将軍、観客を騙している事には変わりがない。その嘘にいつかは気づいたときに関わった王家も信頼を失うのでは?」

マリガンは当然の疑問を指摘する。


「見るものが見れば理解かる、お前のような学生ですら気づいているのだ。実のところ、半ば気づいている大人は多い、だが分かった上で皆、楽しんでいるのだろう」

アトキンスの言葉にマリガンは、首を縦には振り切れなかった。暴動寸前にまでヒートアップした観客を見たのはつい先日のことである。


「それにな…プロレスは儲かる! この2試合での儲けは…」

聞かされたマリガンは思わず目を丸くした。思っても見なかった金額が動いておりそのほとんどが国庫に収まったという。

思わずフレアの父親 エリック・ブラッシーを見る。鉄の宰相は伊達じゃない。


「フレア、敗者はおとなしく引き下がるとするよ、騒がせて済まなかったな」

頭を掻きながら詫びるマリガン。

「あら? 敗者は勝者のいう事に従う…でしたわよね?」

フレアが悪魔的な笑みを浮かべている。マリガンは猛烈に悪い予感がしてきた。



第三戦 チャールズ・リーガルVSフレアブラッシー


終始優勢に試合を進めてきたリーガルだったが、フレアの大反則、金的攻撃からの試合は一変。

フレアはどこからともなく取り出した、食器のフォークをリーガルの頭に突き立てた。


額から出血をしたチャールズは、血が目に入り思うように反撃が出来ない。

観客席で見守るカリーナたちチャールズ親衛隊が悲鳴を上げる。


アトキンスが、反則カウントを取るが5カウント手前でフレアはフォークを放り捨てた。

投げ出されたフォークをアトキンスが拾ってリング外に投げ捨てる隙をついて、今度はスプーンを取り出す。

フレアは執拗にスプーンでチャールズの頭を抉る。


(誰か、殿下を助けて!)

あまりの惨状にカリーナは頭の前に手を組んで祈る。


そのとき、リングまでの花道を何者かが疾走する。

静止に入った衛兵を馬跳びの要領で乗り越えた、その男は一気にリングまで駆け上がるとフレアの顔面に蹴りを見舞った。


不意打ちの蹴りを食らったフレアが顔を抑えてごろごろとリングを転がった。

謎の男はフレアを捕まえるとリング外に叩き出し、心配そうにチャールズに駆け寄った。


ゴングが打ち鳴らされ、アトキンスはマイクのような魔道具でチャールズの反則負けをコールした。

リング上で謎の男には注目を一身に浴びながら魔道具をアトキンスから奪い取った。


「俺はマリガン・カスタード! 殿下の親友だ! これ以上黙ってみていられるか!」

マリガンは魔道具を口に当ててそう言うと、今度はリング下のフレアを指さし見下ろす。


「フレア、今度は俺が相手だ! お前を倒すのに5秒はいらないテンミニッツだ!」

テンミニッツでは10秒だ…。マリガンは初めてのリングで緊張してたのかおかしなことを口走ってしまった。

だが観客は大盛り上がりだ。

またしても不透明決着になるのは、内心不安だったマリガンだが好意的に受け止められていた。


「マリガン!」「マリガン!」「マリガン!」

マリガンコールが場内に響く、特に黄色い声が凄い。


観客席でマリガンコールを上げながらカリーナは感動していた。

パーティの事件からチャールズを追いかけてきた彼女のような強火のファンには溜まらない光景だった。

学園にいた一部の人間しか見ていない伝説のパーティでの事件。

あのとき凶行を始めたフレアを蹴りつけ凶行を止めたのもマリガンだった、そのマリガンがまた殿下の窮地に駆けつけたのだ。


「ふざけないで誰が相手でも関係ないわ! この鮮血の魔女が血祭りにあげて差し上げますわ!」

いつの間に奪い取ったのか、マイクのような魔道具を手にリング下からフレアが吠える。


「ふざけてるのはお前だ! よくもそのデカい尻を殿下の顔に落としてくれたな! お前なんか鮮血の魔女じゃないデカケツの魔女だ!」

負けずとマリガンはアドリブでトラッシュトークをかました。


「デカケツ!」「デカケツ!」「デカケツ!」

観客が呼応するかのようにデカケツコールを始めた。


この日以来、デカケツイメージが定着したのはフレアには想定外の痛恨事だった…。

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