20.密室会談
リーガル王家次期王座決定戦 60分1本勝負 第二戦
リーガル王家正統後継者 鮮血の魔女
チャールズ・リーガル VS フレア・ブラッシー
リベンジ!というキャッチコピーで2週間後に行われた再戦は、前回同様、多くの観客を集めた。
それだけでなく魔法ビジョンの放映にスポンサーを募り、莫大な放映権料を集めていた。
試合自体はというと、再三のフレアの反則行為にぶち切れたチャールズが、ついにはフレアをフェンスを越えて客席の放り投げてしまいチャールズが反則負け。
結果として実質引き分けとなった。
「おーっほっほっ ここまでは上出来ですわね!」
ブラッシー侯爵家の一室にはフレアとエリック、アトキンス将軍が詰めていた。
チャールズは今回は欠席、王位継承者は何かと忙しいのである。
「暴動…迷子…スラム街を彷徨う…一晩音信不通…」
エリックはそう呟きながらフレアのこめかみに手を当てると一気に締め上げた。
「私がどれだけ心配したか!」
想像以上の利益に気が緩み、口を滑らせたフレアの必死にタップする。
エリックはそれを無視してさらに締め上げた。
「そうだぞ、嬢ちゃん! 今回だってすぐに衛兵が客席から戻さなけりゃお前、観客にリンチされていたからな」
フレアが懸命にタップを続けるものの、アトキンスはリング上のようにブレイクをかけてはくれなかった。
「それはそれとしてこのまま二人だけの対戦で引っ張るつもりか?」
もっともな指摘だった。
いつまでも決着がつかなければ、観客もフラストレーションが溜まるだけで面白くはない。
なによりワンパターンな展開では、いずれ飽きられてしまうだろう。
アトキンスがフレアに問いかけたことで、エリックは、ようやくフレアの頭から手を外した。
「そ、それに関しては前にお願いしたではございませんか?」
ようやく鉄の爪から解放されたフレアは、苦悶の表情を一転させ、アトキンスへ優雅な笑みを向ける。
「アレ、本気で言ってたのか?」
ジト目でアトキンスが問い返す。
「そんな……『鮮血の魔女に魅了されたアトキンス将軍が、殿下の勝利を目前で妨害!』『殿下とアトキンス将軍に遺恨勃発!』――いったい何が気に食わないとおっしゃるのですか?」
「そうだ、フレアはこんなに可愛いんだ、ついつい言う事を聞いてしまうのは当然だろう?」
どこが不満なのかと首を傾げるフレアに、エリックが全く別方向から同調した。
「全部だ! 何が悲しくて娘より若い子供に魅了されなきゃいかん! あと親バカは黙っていろ!」
鉄の宰相とまで呼ばれた男が、何故、娘絡みになるとここまで残念なことになるのか――。
「とはいえプロレスは金になる、定期的に行えれば王国の財政は更に潤うだろう、何か展開を考えないとな」
少し落ち着きを取り戻したのか、エリックが真面目な顔で提案する。
「アトキンス将軍。王国の繁栄のためなら力になると仰ってくださった、あのお言葉は嘘だったのですか……?」
フレアが真摯な眼差しで訴えかける。
「待て、だいたいワシまで戦ってしまったら誰がレフリーをやるんだ?」
たじろぎながらアトキンスは言った。
「そ、それもそうですわね……。今はまだ、その時ではないのかもしれませんわ」
仮にそんな事態になれば、妻や娘に何と説明したものか。
その時だけは絶対に来させてはならない――アトキンスは心の中で固く誓った。
三人が頭を突き合わせて今後の展開を考えていると、不意にドアがノックされた。
話を止め、エリックが使用人へ入室を促す。
「お嬢様の元同級生という方がお見えです。マリガン・カスタード様と名乗っておられますが、ご存じでしょうか……?」
一礼した使用人がそう告げる。
その名前を聞いた瞬間、三人は揃って悪魔的な笑みを浮かべた。
フレアの表情を見ながら、アトキンスは「魔女の微笑みとはこういうものか」と妙に納得する。
――もっとも、自分も同じような顔をしていることには気づいていなかった。




