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21.道場破り

『殿下に謝罪しろ!』『国家反逆者!』『死ね!フレア』『スラム通いの淫乱令嬢!』

マリガンも噂には聞いていたが、侯爵家の壁とはとても思えない落書きの数々に目を覆う。


衛兵が巡回している様子はある。しかし、身辺警護が優先され、その目を盗んで行われる悪戯までは防ぎ切れていないのだろう。

屋敷全体にも、訪問者の警戒する空気が感じられた。

門前払いも覚悟していたマリガンだが、あっさりと面会を許された。

門を通されると惨憺たる光景が広がっていた、投石や廃棄物の投げ込まれた痕跡が残る庭を抜けて応接室に案内される。


もちろん、フレア本人が姿を見せない可能性も考えていた。

だが、それならそれで構わなかった。

恐らく一連の仕掛け人思われるとフレアの父、エリック卿に、一言でもぶつけなければ気が済まなかったのだ。


応接室に通されてから、二時間ほど経っただろうか。

いつまで経っても現れない屋敷の主に、マリガンは次第に苛立ちを覚え始めていた。


応接室の扉が開く。

現れたのはフレアだった。

恭しく淑女の礼を取ると、彼女は柔らかな微笑みを浮かべながら口を開いた。

「ごきげんよう。大変お待たせいたしましたわ。こうしてお会いするのは、学園以来でしょうか?」


魔女と名乗り、世間を騒がせている女とは思えない。

気品ある立ち振る舞いに違和感を覚えながら、マリガンも礼を返した。

先日、この国の王子に椅子を振り回して滅多打ちにしていた女と、同一人物とは到底思えない。


「こちらこそ、急な訪問に対応して頂いて申し訳ありません」

例え気に食わない相手でも礼には礼を返す、マリガンは騎士見習いなのだ。


メイドが用意した紅茶を、フレアは当然のようにマリガンにも勧めてくる。

パーティーの際、横合いからマリガンに思い切り蹴りつけられたことなど忘れてしまったかのようだった。


優雅に紅茶を口元に運びながらフレアは、問いかけた。

「それではご用件をお伺いしましょうか?」


「殿下やアトキンス将軍をどう誑かしたのかは知らない。だが、私はお前のやっていることを認めない」

優雅な雰囲気に機先を制された形にはなったが、マリガンはお茶を飲みに来たわけではない。


「お前のやっていることは戦いへの侮辱だ。国を守るために真剣に戦おうとする者への侮辱だ。騎士を目指すものとして放ってはおけない!」

そう言いながらマリガンはフレアの表情を見る、相変わらず優美な微笑みを湛えたままフレアは口を開いた。


「わたくしどもは真面目にやっておりますわ、殿下にも国王様にも認めて頂いていますもの」

しれっと対戦相手と共謀していることを認めるフレア。


「それはフェイクだ! いずれ皆に分かるだろう、そうなれば王家の信用も品位もも失墜する。もうやめてくれ!」

それは友人として、チャールズにも何度か忠告してきたことだった。

しかしチャールズは笑うばかりで、まともに取り合おうとはしなかった。

その態度が、マリガンには気に食わなかった。


「ずいぶんなことを仰いますのね、でもわたくし決してやめることはありませんわ」

『フェイク』――紛い物。

それは、フレアにとって忌むべき言葉だ。

内心のイラつきを隠しながら、フレアは扇子を口元に当てて不敵に笑みを浮かべる。


「力ずくでも止めると言ったら?…どこでも誰の挑戦でも受けるのだろう?」

フレアのイラつきを肌で感じ取ったのか、マリガンは挑発するように声を荒げた。


「受けるわけないよな。化けの皮が剥がれると分かっていて――」


「いいわ。お受けいたしましょう」

フレアのまさかの返答にマリガンが呆気に取られた。


「ここでは家具が壊れてしまうわね。場所は道場でよろしいかしら?」

「決着はリングで…と言いたいところだけど、お客様には見せられないものにしかならないでしょうし…」

フレアは立ち上がり手にした扇子で庭の一角にある小さな小屋を差した。

もっとも、道場といってもフレアが個人的な練習に使っているだけで、誰かが通っているわけではないのだが――

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