16.健闘
リング中央で、フレアとチャールズの腕四つでの力比べが始まった。
一回り、いや二回りは違う体格差の通り、フレアは一気に差し込まれる。
覆いかぶさるかのように組み伏せるチャールズ、一気に勝負が決まってしまうのではと、会場がどよめいた。
フレアは身体を反らし肩をマットにつけると、前のめりになったチャールズの腹を両足で蹴り上げた。
押しこむ勢いのままチャールズが、ポーンと投げ飛ばされ宙に舞う。
意表を突く素早い動きと、大の男を投げ飛ばした技に観客は目を奪われた。
ジャッジをしながらアトキンスは目を見張る。
(男女の体力差は大きい、正直見るに値しないものにならないか心配していたが思った以上に鍛えている…なにより体格差を補いつつ魅せるこの技術は一朝一夕で身につくようなものとは思えない)
綺麗に投げ飛ばされたこともありダメージを事もなく立ち上がったチャールズの胸元にフレアがエルボーを見舞う。
踏みとどまりなんともないとばかりに胸を張り受ける、二発、三発と続ける。
その度にさらに胸を張って受け止めた。
効かないと見たフレアが自らロープに飛び反動をつけながら肩を向けて突っ込むーーショルダータックル。
チャールズは少しよろめいたもののそれすらも弾き返した。
対照的にフレアは無様に尻もちをついた。
タフネスを見せつけたチャールズが、観客にヘラクレスのようなポーズを取りアピールをすると、観客は歓声を上げ、大いに盛り上がる。
倒れたフレアの髪を掴み、無理やり立たせようとするチャールズ。
一見すると残酷な風景ではあるが悪い魔女の断罪となれば話は別でだった。
チャールズはロープにフレアを投げつけると戻ってきたところを肩に乗せて跳ね上げるーー風車投げ。
今度はフレアの身体が宙に舞う、軽い身体は高く飛びマットに叩きつけられた。
フレアは腰を打ちつけたのか転がって苦しむ。
客席のどこからともなく拍手が聞こえた。
苦しみ転がり回るフレアを捕まえようとしたチャールズの腕に足が巻き付く。
フレアがチャールズの身体を引き寄せながらそのまま身体を回転させる。
チャールズは腕を引き絞られ、足で身体を抑えられていたーー腕ひしぎ十字固め。
「ぐわあぁっ!」
チャールズの悲鳴が館内に響き渡る。一転してピンチに陥ったことで楽観的なムードが吹き飛ぶ。
悲鳴が続き、女性客の一部が泣き出してすらいた。
「ギブアップ!?」
アトキンスが尋ねるがチャールズは口をつぐみ首を横に振る。
「チャールズ……!」
場内から漏れた声。
王族のファーストネームを呼び捨てにするなど、本来なら不敬としか取られない。
だが、そのつぶやきに呼応するように、技をかけられたままのチャールズが動き出す。
「チャールズ!」「チャールズ!」「チャールズ!」
同調するように、観客たちが口々に声援を送り始めた。
苦悶の声を上げながらロープへにじり寄るチャールズの姿を、観客はハラハラと見守る。
ようやくロープに辿り着いた瞬間、場内に拍手が巻き起こった。
アトキンスがロープブレイクを告げ、フレアに技を解かせる。
(フレア嬢の今の動き…実戦でも使えるレベルじゃないか? 本気で決める気があれば、肘靱帯を一瞬で破壊できたのでは…)
フレア、そしてチャールズの魅せる動きにアトキンスは、舌を巻く。
そして場内の観客の熱狂に驚いていた。
『私は真剣にやっています』
フレアの言葉を思い返す。
そのうえで、ふと、かつて自分と共に戦場を駆けた兵士たちのことが脳裏に浮かんだ。
彼らは、過酷な訓練を積み、戦いに耐えうる肉体と技を鍛え、勇気を持って戦場へ赴いた英雄だった。
だが戦争が終わると、鍛えた肉体と技は行き場を失い、平和な世界に馴染めず、身を持ち崩した者も多かった。
中には、元兵士同士で殺し合いに近い勝負をして、わずかな日銭を稼いでいた者もいたと聞く。
鍛えた肉体と技を、相手を壊すためだけでなく、観客を魅せるためにも使える。
そんな舞台を彼らに用意できていたら……。
今さら考えても仕方のないことを、アトキンスは思ってしまった。
観客の中にも変化が生じていた。
女性としてみてもやや小柄なフレアが体格の良いチャールズに一歩も退かずにフェアに立ち向かっている。
観客は憎悪の中にも、僅かにフレアを見直す気持ちを抱き始めていた。
だが、フレアはその気持ちには応えない。
チャールズの痛めた腕を持ち上げると背中を向けて自分の肩にチャールズの腕を叩きつけたーーアームブリーカー!
苦しむチャールズを逃がさず何度も腕を肩に叩きつける、反則ではないが痛めたところを狙って痛めつける行為は騎士道精神の残るこの世界では受け入れ難い。
女性客は悲鳴を上げ、男性客は怒号を上げた。
十分に腕を痛めつけたと油断して近づいたフレアを、チャールズは痛めた腕で捕まえた。
痛めた腕で反撃に転じた姿に、客席から感嘆の声が上がる。
身じろぎするフレアを逃さず、その身体をくるりと回しながら高々と持ち上げると背中から叩きつけた――ボディスラム!
ビターンと大きな音が立てながらマットに叩きつけられたフレアの動きが止まる。
いや、ゴキブリのように手足を痙攣させている。
チャールズの怒りの反撃に、鬱憤を晴らされた観客たちが声を上げ、会場が揺れる。
元の世界であれば珍しくもない技だが、この世界では実戦ではまずお目にかかれない豪快な一撃だ。
その一発逆転に、観客は大興奮していた。
起き上がる気配すらみせないフレアの髪を掴み無理やり立たせるともう一発、ボディスラム。
チャールズは、勝利を確信したかのように腕を天に突きあげるとフレアを抑え込んだ。
アトキンスがすかさずカウントに入る。
「ワン!」「ツー!」「スリ――」
カウント2.8ほどで、フレアが足で反動をつけて肩を上げる。
どうにか3カウントを免れたものの、そこから試合展開は一方的になった。
何度か反撃しようとするものの、思うようにはいかず、フレアは何度も3カウント寸前まで追い込まれていた。
ふらふらのフレアをチャールズが立たせる。
誰の目にも、あと一発で沈むように見えた。
チャールズがボディスラムを仕掛けた瞬間、フレアの拳がチャールズの下腹部を叩く――ローブロー。
まごうことなき反則である。だが5カウント以内の反則なのでペナルティはない。
動きが止まったチャールズの隙をつき、フレアはリング下に逃げた。
プロレス描写難しい…




