14.選手入場
衛兵が通路とそして客席とリングを分けるフェンス前に並んだ。
整列が確認されると屋外であるにも関わらず、試合会場が突然、闇に包まれた。
会場がざわつく。
「マリガン様 これは?」
「慌てなくていい、これは魔法だ」
マリガンはそう答えながら状況を考える。
辺り一帯をわずかな時間、闇に包む魔法はそう珍しいものではない。
効果範囲が狭くあまり一般的では無いが、本来は戦場や演習で使われる魔法だ。
会場全体を覆っていることから結構な人数の術師を使っているのだろう。
周りから敵意は感じられない。
会場にけたたましい音楽が鳴り響き暗闇の中を一筋の光が流れる。
これもまた魔法の光だ、先ほどとは色の違う光がもう一筋、更に色の違う光が一筋、二筋と流れて一点を集中して指す。
幻想的な風景に思わず観客は静かにその一点をみつめた。
光が集中した先にしゅぼっと煙が上がったかと思うと魔女が姿を現した。
魔女は胸を張り、手の甲を口に当てる。
「おーっほっほっほっ! おーっほっほっほっ! おーっほっほっほっ!」
風の魔法を使っているのだろう流れる音楽すら凌駕して耳障りな笑い声が会場に響く。
光を引き連れてフレアがリングに向かって歩き出す。
呆気に取られていた観客が正気に戻ると口々にフレアを罵り始めた。
「バカヤロー」だの「クソ女!」だの「売国奴!」だのは可愛いもので文章にするのすら憚れるような内容の罵倒を浴びせられながら、フレアはリングに上る。
リングの中央で回りを見回すと激昂する観客をものともせず、更に煽るように両手を拡げて手招きをした。
会場はますますヒートアップしていく。
「リーガル王国 正統後継者チャールズ・リーガル殿下 入場!」
音楽が荘厳な音楽に切り替わったかと思うとチャールズの入場がアナウンスされた。
王族の入場に会場が一気に静まり返る。
フレアが入場した入口とは対面の入口から腰に腕を当てた男が現れる。
引き締まった肉体、甘いマスク。
「「キャアーアーアーアー!」」
壮言な雰囲気を吹き飛ばすように会場の女性が一斉に黄色い声を上げていた。
男性客の一部が不敬な態度を窘めようとしたが、チャールズは観客席に向かってウィンクをする。
「殿下が私にウィンクをー!」「もうダメ死んじゃう!」
収拾がつかない状況に宥めようとした男性客たちは諦めるしかなかった。
マリガンも自分の隣に座っていた女性の変貌に驚きを隠せなかった。
売店で買ったのだろう『チャールズ命!』と書かれた鉢巻を頭に締めたカリーナは、大きく印刷されたチャールズの写真が印刷された団扇を両手で振りながら、歓声を上げている。
会場を見渡してみると応援ハチマキを巻き団扇を振っている姿があちこちに見受けられた、入場料を考えればそれなりの貴族子女が何人もしている事になる…マリガンは口を開けたまま見守るしかなかった。
魔法ビジョンに流れる入場シーンを前に一人の男が満足げにしていた。
「ここまではうまくいったな・・・フレアは満足してくれたろうか?」
エリックの口元に、娘の要望に合わせた会場セッティング、入場演出を組み上げられたことに満足の笑みが浮かぶ。
根本的に何か間違っているのではないという思いに蓋をしたまま。




