13.開場
カリーナは値段もさることながら人気が爆発し高倍率の抽選販売となった試合チケットなどとても手に入れらないと感じていた。
だからこそ、お詫びという一文とともにプラチナチケットが差出人不明で送られてきたことに驚いた。
(誰が送ってくれたかは分からないけれど…殿下だったら嬉しいな)
チャールズは試合まで忙しいらしく会えないがそう思うのだった。
当日、カリーナは開場時間が午後からにも関わらず朝一番に試合会場に向かった。
チャールズ殿下公式応援グッズの販売があるからだった。
売店には一番に並べるかと思っていたがすでに結構な行列が出来ていた、学園にもファンクラブがあったのだからこれは予想しておくべきだったのかもしれない。
「あら? カリーナじゃない」
声をかけてきたのは学園のチャールズ殿下ファンクラブのメンバーだった。
フレアが学園に通っていた頃は、そのファンクラブにも平民のくせにチャールズにつきまとっていると誤解をされ目をつけられていた。
だがフレアが学園から追放された・・・いやチャールズに暴行を振るってからは憎悪の対象はフレアに向かい、一緒にチャールズを応援する仲間になっていた。
ファンクラブの話によると先頭の方は前夜から並んでいたらしい。仲良くチャールズの魅力や、チャールズに無礼を働いた憎きフレアの悪口を語り合いながらグッズの販売を待った。
楽しいひとときはあっという間に過ぎ、チケット代が浮いたこともありグッズは揃えることが出来た。
試合会場の周辺はお祭りのようでその一つの屋台で昼食を摂りながら試合のチケットが取れなかった人のために設置された大型魔法ビジョンを眺める。
会場外に設営された大型魔法ビジョンでは何度となく流された両者のインタビューがまた流れていた。
残念ながら今流れているのはチャールズのワイルドな魅力溢れたインタビューではなく憎いフレアのインタビューだった。
「もし今回の殿下に負けることがあれば、どうなされるのです? 追放ですら許されないのではありませんか?」
インタビュアーは、仮にも侯爵令嬢であるフレアに対し相応の礼節を持って質問をしているように見えた。
だがフレアはそのインタビュアーの横面を思い切り叩いた。
「愚かね! 戦う前から負けることを考えるお馬鹿さんがいらっしゃるのかしら?」
叩かれたインタビュアーは呆然としていた。フレアがまだ学園にいた頃を思い出して嫌な気分になる。
彼女はどうしてあんなひどいことが出来るのだろう。
魔法ビジョンから目を外し、今日の試合の看板を見る。
殿下は上半身裸ですっきりとした黒のロングタイツを着ている。
なんでも古代から王家に伝わるこの戦いの為の衣装らしい。
このようのな露出をされる方では無かったが筋肉美が眩しい。
かたやフレアの衣装は酷く、思わず眉を顰めてしまう。
赤と黒の下品なフリルつきのドレス。ドレスと言って良いものか、袖は肩の下辺りまでしかなく、胸元も開いている、丈は短く太ももが露出してしまっている。
この世界の常識ではありえない姿で破廉恥としか言いようがない。
メイクも酷い、過剰なまでのアイラインはただでさえキツイ印象の目つきをさらに吊り上がって見えるようにしている。口紅は血のように赤い。
自らを鮮血の魔女という呼称するにふさわしい悍ましい姿だ。
学園にいた頃の凛とした気品に溢れた姿を思い出す、ひと月程度しか経っていないとは信じられない。
入場が始まり、カリーナが案内された席はリング真横の関係者席だった。
(やはり殿下が招待してくれたのでは…)
VIP席に座りながらその席にふさわしくない貧相な椅子に気づいた。
(妙な椅子ね、これ折りたためるのかしら? それに軽そう)
ただ椅子に下に空間があり、買い込んだものを置けるのは有難かった。
「おっ、カリーナじゃないかお前も招待されていたのか?」
そういって声をかけてきたのは後から入場してきたであろうマリガンだった。
「ごきげんようマリガン様」、
気さくな人柄ではあるが、カリーナと違いマリガンは貴族だ。礼儀にのっとり挨拶をした。
思いがけずVIP席に座ることになり緊張をしていたが幸いに隣の席は見知った顔で安堵する。
「マリガン様は殿下に招待されて見えたのですか?」
もしかしたら手紙の差出人の相手が分かるかもしれないとカリーナは尋ねた。
「いや、それがな差出人不明の手紙が俺の家に届いてな…」
「わ、私もです!」
(殿下…じゃないのかな)
「チャールズのやつかもな、あいつ真面目なくせにたまに変な茶目っ気を出すからな」
少し沈んだ表情を見せたカリーナに気づいたのかマリガンはフォローを入れる。
カリーナの表情にサッと光が差すのを複雑な気持ちでマリガンは眺めていた。
会場の客席が埋まってきた。場内に設置された魔法ビジョンでは街中に設置された魔法ビジョンに黒山の人だかりが出来ていると報道されている。
試合と言っても多くの観衆が求めているのは、王族に不敬を働いた自称魔女の断罪だ。
カリーナの知る学園でのフレアは、意地悪ではあったが普通の女子だった。
きっと軍で鍛えている殿下とは勝負にならないだろう、フレアは墓穴を掘ったのだ。
公開処刑のようなものでカリーナも悪趣味とは思う。
それでもチャールズを応援したいという気持ちが勝っていた。
試合会場を流れている音楽が止まった。
「会場の皆様、大変お待たせしました。只今より選手入場を行います!」
流れたアナウンスに会場のボルテージが一気に上がる。
カリーナは、ハッとした表情をすると椅子の下を探り始めた。




