12.特訓
教会でチャールズを襲撃してから試合までのひと月、フレアはほとんどを屋敷の中で過ごした。
屋敷に軟禁された侯爵令嬢に、いったい何があったのか――。
エリックが午後のティータイムを過ごしている横で、娘が立ったり座ったりを繰り返している。
「フレア、何をしているんだい?」
「フン! フン! スクワットですわ!」
床には汗で水たまりができている。
エリックが書類仕事をしている横で、娘は身体を反らせ、床から腕を離し、頭と足だけで体を支えている。
「フレア、何をしているんだい?」
「首と柔軟性を鍛えるブリッジですわ!」
そう答えながら、腕を胸のあたりで組み、グラインドを始める。
エリックが庭の掃除をしている横で、娘は庭で一番大きな樹から垂らしたロープを、するすると登っては降りるのを繰り返している。
「フレア、何をしているんだい?」
「フン! フン! 引く力を鍛えるロープ登りですわ!」
華奢で小柄で、お姫様のようだった娘が、日に日に逞しくなっていく。エリックは、娘に力を貸したことが間違いだったのではないかと感じていた。
とはいえ、明日はついに約束の試合の日。娘の晴れ舞台のために、あれこれ準備をしてきた自分を、我ながら親バカだと思うのだった。
「30%ってところかしら? まだまだ鍛え足りないけれど、明日に備えて休養も必要ね」
人の形をした重そうな人形を放り投げながら、フレアはトレーニングを切り上げた。
チャールズも、学業と公務の合間を縫って技の研究をしていると聞いている。
ガンッ!
庭の外から投げ込まれた石が、板で目張りされた窓に当たった。対策がされていなければ、窓はあっさりと割られていただろう。
フレアが問題を起こしてから、こうした嫌がらせは珍しいことではなくなっていた。
「ごめんなさい、パパ。私のせいで……」
すっかり荒れ果ててしまった屋敷を見ながら、フレアは父に詫びた。
「この世界の人間は純朴で、残酷だ……フレア、お前も気をつけなさい」
期待と不安を胸に、フレアは運命の日を迎える。




