#96 メルとリエルと四人のローグ。(2)
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レイアの心配は再出発してすぐに現実のものとなり、メルは速度を落としてベクール王都手前の村を目指した。
石畳の敷かれた路地を挟むように家屋や店を並べた村。革細工と木工品の生産に力を入れたこの村の名はアクン。王都から二十キロ程離れた場所に位置する王都最寄りの村である。
ベクール王都より北側の位置に属する村々に向かう際の分岐点にもなっており、アクン北側からはワプル方面、西側からはフスカ方面、南側からはベクール王都方面を繋ぐ道が伸びている。
ウラド山中での休憩後、リエルとアーマスを追い抜いたメルがこの村へ到着したのはワプルを出発してから僅か二時間弱の事であった。
ワプルからベクール王都までの距離が約四百キロとされている故に、その速さが如何に常識はずれなのかが窺える。
加えて言うなら、速度を抑えたうえでの到着時間であるから恐ろしい。まさにスピードモンスター!赤点切符は免れない!
幸い、この世界にはスピード違反の取り締まりというものが存在していないので問題は無いのだが。
降り立ったメルは、初めて訪れた村・アクンを物珍しそうに見回した後で、すぐ横の建物に掲げられた看板に“食堂・旅宿フタダ”と書かれている事に気がついた。
「途中にあった小さい村に比べると、立派な村ですね。レイアさんの言っていた食事の美味しい宿って、もしかしてここですか?」
「うん。だけどその前に降ろしてもらっていい?このままだと、その、パンツが……」
レイアの着ているワンピースは丈が短い為、お姫様抱っこをされた状態だとパンツが丸見えなのである!
「わぁっ!ごめんなさいっ!」
「いや、こっちこそなんかゴメン。本当はこの宿で一泊する予定だったのに、こんなに早く着けちゃうなんてね」
「ルアさんに貰った影のお陰です!」
「あの魔王サマ、やっぱりただの変態じゃないんだね」
「うん!ただの変態じゃないんです!」
もはや周りの人がルベルアに対して言う【変態】は悪口では無いのだろうと判断しているメル。そんなメルを連れ、レイアは近くにある露店などを見せて回った。
その際、アクンの人々から「炎姫様」と次々に声を掛けられたレイア。村人達に会釈をしながらその様子を隣で見ていたメルは、レイアの人望の厚さを知り、キラキラとした眼差しを向けずにはいられなかった。
村人からの会話の内容は「馬車、大丈夫でしたか?」など、主語が分からず意味不明なものもあったが、大半は“レコード・ルーラーの声を聞いたよ、乱心した黒き鳥ノ王を倒してくれてありがとう”という意味の言葉だった。
「ふぅ。あんまり奥まで行って囲まれると面倒だし、ここらで村の入口に戻ろっか」
「はい!あの、レイアさん!炎姫って呼ばれるの、格好いいです!」
「ええ?あたしは正直言って恥ずかしいけどね……ちなみにアーマスは鉄壁の守護者、ミナは博芸っていう二つ名が付けられているよ」
「じゃあ、あまり名前で呼ばれる事がないんですか?」
「そんな事は無いよ。あたしは二つ名で呼ばれる事が多いけど、アーマスはほとんど二つ名を呼ばれることが無いし、ミナは二つ名と合わせて博芸のミナって呼ばれたりしているの」
「わぁ!やっぱり格好いいです!」
「格好良くはないけど、二つ名が付けられているローグは【異名持ち】って呼ばれて、高額報酬の依頼が優先的に紹介されたりする利点があるの。報酬が高いと成功難度も高いんだけどね。ヤハス様のように二つ名で【神】と呼ばれるローグは、一国の王でさえ気を使わなければならないような存在だったりもするのよ」
「そこまで詳しい事は知らなかったです。だから村の人達からの人気も高いんですね」
「んん、まぁ、あたしの場合はベクール近郊でしか活動をしていないから、その範囲内での知名度が少しあるだけだよ」
「私ももしローグになったら二つ名が欲しいです!」
「ふぅん?そうだねぇ、メルは力持ちだから【怪力女】とかかな?」
「えええ!!?それ、スッゴく嫌です!!」
話をしながらもメルの自己紹介や、ドラゴンの姿をした天使がやってくるから驚かないでと触れて回った二人。気付けば隣に民宿フタダの看板が。村の入口まで戻ってきていたようだ。
「そろそろ来るかな?休憩だけなら部屋を取る必要は無いし、天使族のドラゴンが来るよって話はあたしらが教えた人数以上に人伝で広まってるだろうから、そこら辺で寝てようか」
「えっ!?寝るんですか!?えっと、寝るのはちょっと……」
「だって、もう立ってたくないもん。じゃあ、せめてそこに座ろうよ」
言いながらレイアが腰掛けたのは食堂・旅宿フタダの前に設置された長椅子。皮を剥いた丸太に切り株で脚を付けただけ、という簡素な作りだが、それがなかなかお洒落である。
メルも隣に腰掛け、一息つくと、ふと思い付いたように口を開いた。
「もうすっかり慣れてましたけど、ドラゴンってこっちの世界でも珍しい存在なんですね」
「そりゃあね。ドラゴンもそうだけど、天使を見たことがある人もそうそう居ないだろうし」
「言われてみれば……確かに……」
「育った環境的に仕方がないけど、きっとメルの常識ってかなり傾いてるだろうから、学園に来たら苦労するかもね」
妙に楽しそうに、意地悪な笑みを見せるレイア。
「ううう。ちょっと不安、だけどルアさんも一緒だから大丈夫だと思います!」
「あはは、うん」
(アレも常識外のひとつなんだけどね)
――――メルとレイアがアクンに到着してから約二十分後、リエルドラゴンとアーマスがやって来た。レイアが事前に触れ込んでいた甲斐があり、野次馬として集まった村人は居れど、パニックになる村人は居なかった。
「おぉ、本当に竜だ!」
「姿を変えたぞ!あれが天使族……?見た目はそれほど人族と変わらないんだなぁ」
「怖くないのかしら?」
「可愛い!話し掛けたら怒られるかな?」
等々、そちらこちらから似たような声がヒソヒソと小さく上がったが、聴力的にそれが聞こえている筈の本人は全くのお構い無し、というよりも気配りをする余裕すら無いようだ。
「乗せてくれて助かったよ!ありがとう!鎧が重かっただろう」
「ゼヒィー!ゼヒィー!ぜ、全然大丈夫だし!」
「ほ、本当に大丈夫?かなり辛そうだけど……」
「先に飛び始めたのに追い越されたのがかなりショックだったみたいでな、抜かれてからのスピードの上げ方が凄くて、俺も振り落とされないよう必死だったよ!かなり無理をしたのだろう!」
「無理してないし!してないし!」
半べそをかきながら強がるリエルの顔色はいつも以上に蒼白であり、唇も紫色だ。やせ我慢をしているのは誰の目から見ても明らかである。
「う、うん!私は分かってるよ!リエルなら全然余裕だもんね!でも、なんか急かしちゃったみたいでゴメン!」
「急かされてないし!すぐにもう一回飛べるし!なんならヤハス様とミナ、二人とも私が連れてくるし!」
「おち、落ち着いてリエル……ね?」
「(意地になっちゃってるけど、こんなに疲れてるのに休憩無しでもう一度迎えに戻ってもらうってのはちょっと酷じゃない?)」
メルの背を指先で突き、レイアが耳元で囁く。その言葉に小さく頷いたメルは機転を利かせて言った。
「リエル、あのさ、お腹減ってない?」
「はがっ――――ッ!?シュシュシュ!!凄く減ってりゅぅぅうう!!」
「ヒィィッ!?怖い怖い怖い!ちょっと!やめてぇぇ!!」




