#93 俺と調査隊。(1)
『フゥ……全く、鬱陶しい。俺の眠りを妨げるのは何処のどいつだ?』
「――ゥッ!?待て!離れろお前達!何かが居るぞ!!」
『今更何を言う?俺はずっとここに居ただろうが』
「声は近いです!」
「まさか……これが喋ったのか!?」
今の俺はヒラヒラと揺らめかせた影の中心で、卵型というか、繭状に丸めた影で体全体を覆っている。
どこからどう見ても怪しく、彼らからすると仲間の騎士二人を捕らえた謎の物体だというのに、魔力を隠しているからなのか、これほど近い距離でも強い警戒をされていない。
『人族ごときが俺をこれ呼ばわりか?』
「どこだ!姿を見せろ!この黒いのも貴様の仕業だろう!!」
『俺を笑わせようとしているのか?鈍い奴め』
俺の全容を見せるのはまだ早い。が、未だに声の出所に確信を持てずにいる騎士の為、黄色くて可愛いクリクリのお目目とチャーミングなお口だけ露にしてやろう。
目と口以外は隠したままなので、ぶっちゃけ黒くてモヤモヤしたおはぎの化け物みたいな見た目だけどね。
滑稽に思うかもしれないが、少しでもビビってくれるとありがたい。
「なんだ貴様は!知能持ちのモンスターか!?死にたくなければ今すぐに二人を離せ!!」
『ほう、威勢がいいな』
あれ、スッゴく嘗められてる。やっぱり、おはぎモンスターじゃ怖くないか。調査隊と言っても戦闘に優れた騎士達だもんな。
「黙れ!間抜け面の化物め!!」
騎士さん、口悪いなオイ。
「(ルベルア様、この者だけは見せしめに殺しんしょう)」
怖いこと言わないで。ちょっぴり悪口言われただけだから。
『ずいぶんな物言いをするではないか。俺を黙らせたいと言うのであれば、相手になろう』
仕方がない、半分くらい魔力を解放してみるか。モルドーやエリスも俺の魔力量は常識外の大きさだと言っていたし、ちょっとは脅しのネタに使えるだろ。
「「「――――ッ!!?」」」
「くっ……!なんという……魔力ッ……!!」
ふむ。さすがは魔力が当たり前に有る世界、魔力を隠している時とは全然反応が違う。
とはいえ、言葉を失い、数歩後退ったものの、震える腕で剣の柄に手をかけたのだから大した者達だ。
俺が逆の立場だったら、デカいおはぎが現れた時点で小便を漏らして一目散に逃げ出してるけどね。馬も冷静だし、よく訓練されていのだろう。
さてと、ビビってくれている間に脅し文句のひとつでも言っておこうか。
『俺を眠りから呼び覚ましたからには死ぬ覚悟が出来ているのだろうな?』
なんつって!もちろん殺さないけどね☆
「あ……当たり前だ!わわ、我らは誇り高き騎士!貴様なんぞにやられるものか!」
うん、殺らないから安心して。
『クッハハハ!勇ましくて何よりだが、震えているぞ?』
「くっ、おのれ!馬鹿にするなっ!」
「まっ……!お待ち頂きたい!我らは貴方様と争う気はありません!」
「ッ!!隊長!?」
「お前達は黙ってろ!!無知故に貴方様の眠りを妨げたのは心より謝罪します!どうか、お許し頂きたい!!」
お?なるほど、このリーダー格っぽいデカイ奴、コイツだけは俺に対して何も言ってこないと思っていたが、なかなか頭が柔らかいみたいだな。俺の潜在魔力が高いと予想して咄嗟に頭を切り替えたらしい。
本音なのか時間稼ぎなのか、はたまた話し掛ける事で俺の隙を作ろうとしているのかもしれない。が、とりあえず、有無を言わさずに剣を振りかざしてくるような奴では無いみたいだ。
まぁ、時間稼ぎだとするなら俺にとっても都合が良いし、加減しながら戦うよりは楽だろう。
今回の作戦に向けて脳内でやってきた悪魔ロールプレイングの成果も今のところは上々、異世界本場の騎士相手にどこまで通用するか確かめさせてもらおう。
『ほぅ?だから何事もなく帰せ、と?』
「我らの持つ金品、食料は全て置いて行きます」
『貴様は俺が金に困っている様に見えると?』
「い、いえ!まさか!我らの持ち物の中には魔石もあります!貴方様ほどの魔力の持ち主には微々たる物かもしれませんが、高純度の珍しい魔石もありますので、是非お納めください!」
コイツ……俺が捕らえている二人を救おうとした時に希少な魔石は持ってきてないって言ってなかったか?いや、絶対に言ってただろ。
俺が聞いていなかったとでも思ってるのか?しれっとした顔で嘘をつきやがって。罰として少し脅かしてやろう。
『この俺を騙そうとは面白い。それが俺を楽しませる為の余興だと言うのならば、俺も余興で応えようではないか』
「――ッ!騙す気など――ッ!」
影で捕らえたまま宙吊りにしてある騎士二人を軽く圧迫してみる。やる気になれば恥辱プレイも出来るんだが、屈強な男二人が恥辱に悶える姿……さすがに誰も得をしないよな?
「くぁああっ!」「あっ……ぐぅぅ!」
「なっ!?イム!?ラグ!!す、すまない!!いえ、誤解を生んだのならお許しを!!どうか二人をお助けください!」
「ぐぁぁぁあああっ!!」「ふぐぅぅうっ!!どう……か、俺達に構わず……逃げてください……!」
ミキ……ミキ……と静かに軋み音を立てる黒金の鎧。とはいえ、本当に軽くしか圧迫していない。だから圧迫感はあれど大きな痛みは無いはずだ。
だというのに、このイムとラグとかって呼ばれてる騎士二人、大げさすぎない?ちょっと演技入ってない?
まぁ、これ以上力を入れると本当に怪我をさせるかもしれないし、隊長とか言われてる奴の言葉に乗ってやるけどさ。
『誤解?貴様らがロクな魔石を持っていない事くらい分かっているつもりなのだが……俺が間違っていると、そう言いたいのか?』
「そ、それは、先程も言いましたが、とてつもない魔力をお持ちの貴方様からすればあまりにもちっぽけな品です。そして、確かに我々が有事の際に使用を許される物の中にはもっと高純度の魔石もあります」
えっ?何なのこの人。それを言っちゃうと、俺を騙したと認める事になるんじゃないの?
『……ふん』
「ですが!いま手持ちにある魔石でも一般に普及している物よりはずっと高純度の物なのです!」
そうなの?正直言って魔石の良し悪しなんて俺には分からん。実は本当にレアな物だったりして。
「これだけでは足りないと言うのであれば!最上級の品物を用意して来ることも可能です!品数もいまの倍、いえ、三倍は用意しましょう!」
マジか!なんというお得感!いま手持ちにある分の三倍の量だと!?その上で最上級の物まで持ってきてくれるというのか!!?
コイツ、最高に良い奴じゃん!!




