#92 フスカの異変。
◇◆◇ワプル西部の空◇◆◇
『本当にいい天気だなぁ。あ!ほら!あそこにも小さい池がある!』
「はい」
『ああ!ほら!あそこにもあった!!』
「はい」
ヤベェ。池探しだけじゃそろそろ限界か!世の中のイケメン共はどうして女性相手にすいすいと言葉が出てくるんだ!
わざとゆっくり飛んで色々話そうと思ってたのに、これじゃあユクスの俺に対する印象が悪くなるだけじゃん!
“はぁ。ルベルア様はつまらぬ御仁でありんしたか”って言われちゃうよ!
せめて、せめて大きな湖でもあれば!もっと話に花が咲くのに!
それかモンスターでも探すとするか?もっと低い位置を飛べばモンスターくらい居るだろうし。
『あっ!あれも池じゃないか!?』
「はい。ですが、ルベルア様。こんなにゆっくりしていて大丈夫でありんしょうか?」
『お?大丈夫大丈夫。どうせ急いだって、メル達がベクールに着かない事には始まらないんだから』
「ですが、調査隊という者達が先にフスカへ到着すると、作戦の為の話に矛盾が生まれてしまいんす」
う……む。調査隊がどうこう言ってたのを忘れてた!ユクスさん、クッソ正論でございます!!
『偉いな、ユクスはきちんと作戦の事を考えてくれてるのか』
「それは……この状況を生んだのは妾で――」
『ああ。それは言いっこ無しだってば。よし、少し急ごうか』
◇◆◇フスカ村南東部◇◆◇
◇
ベクールとフスカの間に設けられた道。その道を、同じ歩幅で淡々と、歩みを進めている二十一頭の馬の背には鈍重に光る鎧を身に纏った兵士が跨がっている。
しっかりと隊列も組まれており、先頭を山の形に三騎が走り、中間にも三騎、二騎が一際大きな体つきの騎士を挟む形で横一文字に並んでいる。
さらに五騎三列に並んだ計十五の騎士が後から先頭集団を追従していた。
野営地から出発してからというもの、時々現れる下位のモンスターを蹴散らしながら黙々と走り続けていた騎士達だが、中間を走る騎士の一人が、ふと思いついた様に隣を走る大きな騎士、隊長であるマークに尋ねた。
「隊長、お聞きしても良いですか?」
「言ってみろ」
「もうフスカ村までそれほど遠い距離ではありません。それなのにローグ達が来ないのは何故でしょう。とうに帰路に着いていても良いと思うのですが」
「それを俺に聞かれてもな」
「そうですね、失礼しました!我々が着く頃には先見に向かった二人が調べをつけていてくれると信じます!」
「まぁ、幾つか可能性を上げるならば、フスカで戦闘の疲れを癒している。天使族により黒ノ王は倒されたがローグは全滅した。生きてはいるが雲海の谷から出られぬ状況。ってところか」
「なるほど。そうなると、我々にとっては一つめの可能性以外は面倒な状況となりますね」
「天使族探しと雲海の谷の確認が必要になるからな」
「双方共倒れという線は?」
「天使族がどれほど戦闘に優れ、どのような技や魔法を使う種族なのか知らんが確率は低いだろう。自己を犠牲にして相手を倒すような魔法を使うのなら話は別だがな」
「戦闘に間に合わなかったローグ達が陛下からのお叱りを恐れて逃亡した。なんて話だったらどうしましょうね」
「いや、レコード・ルーラーは【人族の精鋭】とも言っていたじゃないか。きっとフスカで療養しているに違いないよ」
「そうだと良いがな。真相がどうあれ、もうじきフスカだ。状況確認が出来次第すぐに戻るぞ」
「情報を手土産に、ですね」
「ああ。あれからレコード・ルーラーの声は無い。陛下は事の詳細を首を長くして待っている筈だ」
「はい。先に戻った二人がもう城に着いていると良いのですが」
「良いな?お前達。不透明な部分を埋めるだけの情報を見つけられなければ、職と家を失うと思え。失敗は許されんぞ」
「ハッ!」
――ドッドッ、ドッドッ、ドッドッ。――ッ!!
一定の感覚を乱すことなく、馬の足音を響かせていたベクールの騎士で構成された調査隊。
その先頭を駆けていた三人が唐突に馬を停止させた。
「これは…………ッ!本当にここがフスカ村なのか!?」
「大変だ……!隊長に合図を!」
「ちょっと待て!あそこを!」
「なんだ……!?あれは……!何かが燃えているのか!?」
三人が見たのはそこかしこに散らばる、瓦礫と化した家屋や生活用品。しかも、異様な事にその瓦礫は村の中央に近づくにつれ少なくなっている。が、代わりに村の中央部には謎の黒い煙が立ち込めていた。
予想外の光景に固まってしまい、結局合図を出し損ねた三人の元へ調査隊・隊長のマークが追い付いたのは数秒後の事である。
「なんっ……だと……!?チィッ!先見の二人は無事なのか!?」
「――ッ!ッ隊長!」
「くっ!後続部隊!散開してついてこい!全方位に注意せよ!」
「ハッ!」
村の異変を目の当たりにしたマークも一瞬取り乱したが、すぐに懐から風の魔石を利用した拡声器を取り出し、未だ何も知らぬ後続隊へと指示を出した。
「先頭は前方に集中し、ゆっくりフスカ中央を目指せ!左右、後方の警戒は俺達が引き受ける!」
「ハッ!」
◇
ゆっくり、ゆっくりとフスカ村の中央へと歩みを進める二十一騎の騎士達。
その姿を見つけたのだろう、先にフスカ村へと足を踏み入れていた騎士が慌てて声を上げた。
「ああっ!隊長!!この黒い塊に近づいてはいけません!!」
「ッ!?イム!ラグ!無事か!?この黒いの、遠目には煙に見えたが、違ったらしいな。これはなんだ!?捕まっているのか!?何がどうなっている!!」
「分かりません!村は始めからこの有り様でした!この黒い塊を調べようと近づいたところ、植物系魔物の蔦のように煙が伸びてきて、この有り様です!」
「しっかり押さえられていて、動けません!馬にも逃げられてしまいました!」
「本当になんなのだこれは……黒ノ王と関係があるのか?ローグや天使は一体何処に……」
「これに近づく前、周囲も調べたのですが、他に怪しいモノや人影はありませんでした!」
「我らも動きを封じられて暫く経ちましたが、今のところ痛みなどはありません」
「ううむ……微弱な魔力しか感じられないが、人を二人軽々押さえ込む力を……。とにかく今助けるぞ!後続はそのまま周囲を警戒せよ!俺達は二人の救出だ!」
「ハッ!」
「得体の知れぬモノだ、間違っても剣以外で触れるなよ!」
「ハッ!」
――キキンッ!カキッ!ギッ!カキッン!
六人の騎士が何度も剣を振り上げては、乾いた音を鳴らす。
剣をもつ手がジンと痺れる感覚を何度も味わっただろう。
何度も、何度も。
「ゼェ、ゼェ。どうなっているんだ。このままではこの塊を傷つける前に、剣の方が駄目になるぞ」
「ハァ、ハァ。隊長、魔石を試してみても宜しいでしょうか?」
「ああ、物理に強くても魔法に弱い可能性もある。試してみよう。どのみち高価なモノは用意していないからな、気兼ねなく使うといい」
魔石か。許容力を超えて大きさが倍に膨らむくらい魔力を注入されると時間経過で爆発するんだっけか?天然の時限爆弾ってやつだ。
高価な物は用意してない、って言っても、魔石自体が高価な物だった筈だけど。さすが富裕層と言われる騎士様方は、俺達一般人とは価値観が違いますな。
そろそろ良いだろ。勿体無い事をされる前に、ね。
「始めは効果の有無を確認するだけでいい!イムとラグからは十分に離せ!」
「ハッ!」
『フゥ……全く、鬱陶しい。俺の眠りを妨げるのは何処のどいつだ?』
「――ゥッ!?待て!離れろお前達!何かが居るぞ!!」
『今更何を言う?俺はずっとここに居ただろうが』




