#90 それぞれの。(1)
こうして俺はメル達と別れ、フスカを目指したのである。肩に一羽の小鳥を乗せて。
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ルベルアがユクスと共にフスカ村へと立った後、ワプル西の森に集まっていた人々も、各々が自分達に与えられた役目を全うすべく動き出していた。
「我が主、私達もそろそろ行きましょう」
既に竜騎士となった戦士達を前方に待機させ、自らもまた白い竜となってミハエルの騎乗を待つテスタント。
その言葉に頷いたミハエルは、ワプル村の長であるワソットと力強く握手を交わすと、巨体をまるで苦にすることなくテスタントドラゴンの背へと飛び乗った。
「では村長!余は予定通り浮遊城を動かす為、一度戻る!いまさら知らぬ者は居ぬと思うが、住人らが混乱せぬよう周知活動は徹底しておいてくれ!」
「承知しております!ミハエル様も無理をなさらないでくだされ!」
(なんという握力じゃ!骨が粉々になるかと思ったわい!!)
「うむ!大事ない!メル!そしてローグの皆よ!リエルが面倒を掛けると思うが宜しく頼むぞ!」
「ミハエル様!それ、違う!」
不意にからかわれたリエルが瞬時に異を唱えたが、そんな事はお構い無しといった様子でテスタントへ“行け”の指示を出したミハエル。
なのでリエルはふんすと怒って頬を膨らまし、腰に手を当て、そっぽを向いたままであるが、他の者達は頭を下げた後、手をあげ天使達を見送った。
「ミハエル様ぁ!ワプル村を!皆を宜しくお願いします!」
「ガッハハハ!当たり前よ!ではな!!」
ワプル常駐組やハイオーク襲撃時に応援部隊としてやってきた戦士達を含め、全体で十二組ものドラゴンナイトが編隊を成して飛んで行く様は迫力と優雅さを兼ね備えていた。
その光景に、天使族のドラゴンナイトにはすっかり眼の慣れたワプルの村人達でさて感嘆の声を洩らさずにはいられなかった。
「行っちゃったね」
「本っっ当にミハエル様はろくでもないんだから!」
「えへへ。冗談だもん、だれも本気にしてないよ?私達を心配してくれてるのは本当だと思うけど」
「むぅーっ!分かってるけどさ!」
「からかわれた本人は面白くないかもしれないけどね。でも、自分は気さくな王様っていうのを見たことがないから、羨ましいよ」
「しかも天使王は携えている秘剣の力で白竜になったらしいではないか!伝説中の伝説の存在である白竜に!そんな凄い王様に仕える事が出来たなら、俺は幸せだと思うぞ!」
「また出た。アーマスの基準は当てにならないのよ。あたしはテスタント様の方が王様に向いてると思うけど」
「金払いの悪い王様なんかに仕えたくないニャ」
「はは、ワシらは有り余る程の助力を頂いておりますからの、感謝しかありませぬよ。豪快なお方ですが、頭も切れますし人情にも厚い、良いお人ですじゃ」
ヤハス以外からまともな褒め言葉が出なかった事で、村長は苦笑いを強いられたが、多く受けている恩へのせめてもの礼儀として、謝辞をもってミハエルを持ち上げた。
「うん!初めて会った時は怖かったけど、とっても素敵な人なんだよ!」
「みみ皆が失礼な事を言ってすすすみません」
「俺は言ってませんよ!?」
「えっと、私が言うのもアレですけど、ミハエル様は小さな事を気にしないから大丈夫です。メルなんかミハエル様と初めて会った時に大暴れしたのに今の関係ですから」
「ちょっ!?リエル!?あれは……その……っ!」
(ううう!否定したいのに!否定するとミハエル様かルアさんが悪いみたいに聞こえちゃうかも!?)
「へへ。ごめんごめん。冗談!」
「……っ!もうっ!リエルもミハエル様の事を言えないよ!」
「メル、そこら辺にしておきなさい」
「あ……はい……ごめんなさい」
村長が突然出した真剣だと分かる声色。思いがけず叱られたメルの眼は右へ左へと行き場を探し、結果として下向きに落ち着いた。
「私もごめんなさい……」
メルが叱られた事に罪悪感を持ったリエルも、鼻の頭を打ったかの様にギュッと瞳に涙を溜め、鼻水をすすった。
少し叱られただけで、と思うかもしれないが、この二人は幼い頃から村長に叱られると反射的に涙を浮かべるのだ。
「そこまで悄気なくても良いがの。それとローグの皆様、今回の作戦にはワシら田舎者には分からぬ様な困難もあるのでしょうが、どうぞメルの助けとなってやって下さいませ!」
「メル様はしっかり者に見えますから心配は要らないと思いますけど、自分達も出来る限りの協力はするつもりですよ」
「ありがたい限りですじゃ!リエルも頼んだよ」
「ずびび!安心じて待っでて!」
「ほほ!頼もしいのぅ!しかし、先に鼻水をどうにかせんとな」
「ほら、これ使いなよ。えっと、リエル……で良い?」
「あびがどう、レイア"!ずびぃーっ!……はい」
「ちょっ!返されても困るんだけど」
これっぽっちも緊張感の無いやりとり。しかし、そんな様子を見て、村長はどこかホッとした表情を浮かべた。が、その表情をすぐさま引き締め直し、体の向きを変え、口に両手を添えた。
「さて皆の衆、ワシらもやることが多い!分担は先に頼んであった通りじゃ!すでに作業へ取りかかっている者達と合流するとしようかの!」
「「「おうっ!!」」」
掛け声と共に歩き出した村長の後に続き、見送り組として集まっていた人々も居住区の拡張や食料確保などの作業へ向かい始める。
が、その流れに逆らってメルの元へと歩み寄って来たのはモルドーとエリス、そして――。
「ミルザさん!それにお父さんとお母さんも、どうしたの?」




